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327 高級宿屋

 古竜の一件が終わった後、まだそれから狩りや採取を行う時間は充分あったが、マイル達はそのまま王都へ戻ってきた。

「疲れました……」

 肉体的にはあまり疲れることのないマイルであるが、精神的には疲れる。徹夜をすると、そう眠くはなくても、何だか疲れてベッドに横になりたくなるのと同じである。

 ……そこで横になってしまうと、そのまま寝てしまうのであるが。

 とにかく、『対古竜戦Mk-Ⅱ』は、疲れた。報酬も功績ポイントもない、完全なタダ働きであったことも、徒労感として疲れに拍車を掛けていた。


「疲れたわね……」

「疲れたよね……」

「疲れましたよね……」

 レーナ、メーヴィス、ポーリンの3人も、かなり疲れている様子。

「ああ、ゆっくりとお風呂に浸かりたい……」

 そう言うマイルであるが、『レニーちゃんのお宿』と違い、Cランクハンターが泊まるような宿屋に、お風呂などあるはずがない。中庭で井戸水を被るか、部屋で洗面器の水かお湯を使ってタオルで身体を拭くくらいである。……普通は。


 『赤き誓い』の面々は清浄魔法で身体や衣服の汗や汚れを分解消去できるので、汚れや臭いを落とす、という意味においては入浴の必要はないけれど、ゆっくりお湯に浸かるというのは精神的にリラックスできて身体が休まるし、美容的にも良さそうな気がする。毛穴が開いたり、老廃物や角栓が取れたり……。

 どうも、『汚れの除去』というイメージだけでは、ナノマシンが角栓や角質は『身体の一部』と認識するらしく、レーナ達の清浄魔法ではそれらは除去されていない。

 マイルはそこも意識してイメージするため、鼻の角栓も肘やかかとの角質も綺麗に除去されているが、自分以外の者はそれが除去されていないことに気付いていないため、アドバイスしていないのである。

 とにかく、今日は疲れたため、お風呂にはいりたい気分の4人であった。


「……宿を替えましょうか? 今夜は、お風呂のある宿屋に……」

「い、いいのか?」

 ポーリンの言葉に、メーヴィスが、信じられない、という顔をした。ポーリンが贅沢をすることを提案するのは、とても珍しい。ポーリンも、余程疲れていたのか……。

「決定! 今夜は、お風呂のある宿屋に泊まるわよ!」

 ポーリンの気が変わらないうちにと、レーナが急いで宿替え決定を宣言した。

 長期滞在するわけでもなく、依頼によっては泊まり込みとなるため、宿泊料金は1泊ごとに支払っており、また、マイルの収納魔法アイテムボックスがある『赤き誓い』は、荷物を宿に置く必要がないため、今は毎回チェックアウトしている。なので、宿替えと言っても、ただ単に昨夜と違う宿に泊まるだけであり、何の問題もない。

「やった~!」

 マイルが飛び跳ねて喜び、皆は早速、宿の選定を開始した。

 仕事を取りやめて戻ってきたため、日はまだ高く……、というか、まだ昼前である。事件が起きたのは、『赤き誓い』が森にはいってすぐ、つまり仕事をする場所に着いて早々だったのだから……。


     *     *


「ここなんか、どうかしら?」

 そう言ってレーナが立ち止まったのは、大通りに面した、割と高級そうな宿屋である。

 勿論、王侯貴族が泊まるような宿ではない。そういうところは、宿の格というか、雰囲気や客層、そして宿泊客の安全や御機嫌等も重視するため、いくらお金を払おうが、一部の金持ち連中を除く平民やハンターなどを泊めてくれることは、まずない。

 そう看板に書いてあるわけではないが、対象外の客が来た場合、どんなに部屋が空いていようと、『満室でございます』と言われ、慇懃いんぎん無礼ぶれいな態度で追い払われるのである。

 現代日本でも、そういう高級ホテルや旅館はいくつかあり、どこの世界でも、ごく普通のことである。


 そこまで超高級ではなく、しかし風呂がある程度には高級。

 ハンターならば、AランクかSランクの者ならば泊まるかも、といった感じである。

「お風呂があると書いてありますね。じゃあ、ここにしましょうか」

 宿を探す途中で食事を摂ったため、既に時刻は昼下がり。少し早いが、今日の宿泊客の受け入れは始まっている時間帯である。


「4人部屋、空いていますか?」

 メーヴィスがフロントでそう尋ねると、大丈夫とのことであり、無事チェックインできた。新米ハンターに見えても、別に追い返されたり、嫌な顔をされることもなく、従業員教育はしっかりしているようであった。

 ……いや、もしかすると、『赤き誓い』が身綺麗な少女ばかりであったためであり、これが薄汚れた少年達のパーティだったり、むさい中年のおっさんパーティとかであれば、『申し訳ございません、満室でございます』だったかも知れないが……。


 王都の高級宿だけあって、さすがに家族経営の小さな宿屋のように、10歳未満の幼女がカウンターに立っていたりはしなかった。カウンター係は20歳前後の青年であり、……マイルが小さく『チッ!』と舌打ちをしていた。




「少し、横になっていましょうか……」

 さすがに、入浴するにはまだ早い。浴室が使えるのは、夕方前からである。

 なので、部屋にはいった後、皆はレーナの言葉に頷いて、それぞれベッドで横になった。寝着に着替えているわけでもないので、毛布に潜り込んだりはせず、ただそのまま上に横たわっただけである。

 それでも、疲れのせいか、皆、すぐに寝入ってしまった。


     *     *


「……なさい、マイル……」

「ん……」

 マイルが目覚めると、レーナが自分の肩を掴んで揺すっていた。

「食事の時間よ。そろそろ食堂へ行かないと、夕食を食いっぱぐれるわよ」

「ええっ!!」

 それは一大事である。出力の大きさに比例して燃費の悪いマイルは、食事を抜くことは許容できない。……小柄であまり体力のない、魔術師のレーナがマイルと同じくらい燃費が悪い理由は、不明である。成長期というわけでもないはずであるが。

「……待ちなさい!」

 急いで部屋を出ようとしたマイルがレーナに引き留められ、寝癖のついた髪を直された。

 ちょっぴり前世での妹のことを思い出し、少し微笑むマイルであった。




 食事は、いつもより少し高く、そしていつもより少し美味しかった。

「う~ん、少しランクの高い素材を使っていますね。香辛料も使っているようですし……」

 食事をしながら、うむうむ、と頷くマイル。

 貴族専用の超高級宿というわけではないので、そうとんでもない値段というわけではない。まぁ、こんなものであろう。料理ならば、マイルが野営の時に作る料理の方が、ずっと贅沢で美味しい。なので、『赤き誓い』の皆は、宿屋や食堂で料理に過度の期待を抱くことはない。


「75点」

「72点」

「78点」

 マイル以外の3人が、小声で評価点数を囁いた。

 別に、宿や料理人を馬鹿にしたり侮辱したりするつもりはないので、仲間内にしか聞こえないよう、小声で囁いただけである。点数が辛いのがポーリン、甘いのがメーヴィスであるが、概ね、皆の評価点数は近かった。

 ……ちなみに、マイル自身は、料理を点数で評価するようなことはしない。それは、何か違うと思うのである。料理とか芸術とかは受け取る人によって好悪や感動が異なるものであり、点数という絶対的な尺度で表してはいけないという考えによるものであるが、それを仲間達にも強要するようなことはしなかった。


「ははは、お嬢ちゃん達、若いのに舌が肥え過ぎだぜ!」

「「「「え?」」」」

 マイル達が声の方へ振り向くと、そこには、隣のテーブルで食事をしているハンターパーティらしき5人連れの姿があり、その中の髭面ひげづらの男が、こちらを向いて笑っていた。



本日(12日 金曜日)1800、webコミック誌「コミック アース・スター」におきまして、『平均値』コミカライズ第17話、更新予定!(^^)/

長らくお待たせ致しました!


そして今日は、『ろうきん』コミック版の更新日です。

無料webコミック誌『水曜日のシリウス』連載中のコミック版、今日から、更新日が第2・第4金曜にお引っ越し。本日、1100更新です。

よろしくお願いします。

『ろうきんようび』で覚えてね!(^^)/

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[気になる点] 「隣のテーブルで食事をしているハンターパーティらしき5人連れと、こちらを向いて笑っている、ひとりの髭面ひげづらの男の姿があった。」 「5人とひとり」で合計6人いるみたいに読めてしまいま…
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