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319 死亡遊戯

「どういうことよ!」

 ガルガルとやえばを剥きながらベレデテスに食って掛かるレーナ。

『……実は、里の指導者が替わったのだ……』

 ベレデテスが言うには、古竜の里の指導者は、つい先日までは族長であったらしい。最もよわいを重ねているのは長老であるが、長老は一族の知恵袋にしてアドバイザーであり、指導者とはまた違うらしい。

 それが、まだ若い古竜に替わったらしいのである。


「どうしてそんな若造が、急に指導者になるのよ! 古竜も、人間みたいに支配者は血筋での世襲制なの?」

『そういうわけではない。年配で、実力と実績、そして竜望のある者が選ばれる。普通であれば、族長がその任に就く……』

「竜望?」

「……多分、『人望』の竜版ですよ」

 困惑しているレーナに、マイルがそっと耳打ちしてやった。

「あ……、ああ。で、『普通であれば』って? 普通じゃない時があるのかしら?」

『時たま、古竜の中に「魔法の精霊と言葉を交わせる者」、つまり「選ばれし者」が現れるのだ。その場合、ある程度成長した段階で、その者が指導者の地位に就く。年齢的なことや、その他色々な問題があるため、族長や長老はそのまま変わらず、普通であれば族長が務める「指導者」、つまり部族の意思決定者としての地位のみを受ける。

 年を経ると、その後、次期族長となり、後には長老へと地位が加わっていくがな……』

 おそらく、巫女や神官のような立場になるのであろう。なので、部族を率いる実務面は族長に、知識は長老に任せるが、部族の運命を決める決断はその者に任せる、と……。


(それって……。ナノちゃん?)

【はい、レベル3の個体のことですね。古竜は人間を含む他の生物とは異なり、最初から権限レベル2ですから、稀に生まれた時から、もしくは後天的にレベル3となる個体が現れることがあります。そして我々と意思の疎通ができることに気付いた場合、我々のことを『魔法の精霊』だと思い込む場合が多いのです。

 我々は、質問されれば、それが禁則事項でない場合は答えを返しますが、聞かれてもいないことをこちらから説明することはありませんので……】

(つまり、科学的な知識のない古竜には適切な質問ができず、ナノマシンという概念が分からないから、『魔法の精霊』としか認識できないわけか……)

 しかし、それでも、他の者達に較べ魔法の行使においては圧倒的に優位なはずである。何しろ、口頭で具体的に指示できるのであるから。


(でも、ナノちゃん、私には結構自分から話し掛けてこない?)

【マイル様は、『権限レベル5』ですから……】

(あ、なる程……)

 簡単に納得したマイルであるが、明らかに贔屓ひいきが入っている。

 まぁ、自分達の造物主と会って話し、その時のことを聞かせてくれたのである。人間で例えると、何十年も会っていない田舎の親の様子を教えてくれた、というようなものなので、マイルには少しサービスしてくれているのだろう。


『そして、今回もひとりの若者が精霊との会話を行えることが分かったのであるが……、何と、これまでの「選ばれし者」と違い、魔法の威力が桁違いであり、更に、精霊との親和性が非常に強いのだ』

(あ~……)

 マイルには、何となく、その理由が分かったような気がした。

 そして多分、ナノちゃんに聞いても教えてはくれないのだろう。以前、他の勢力の情報を提供することはない、と言っていたから。先程のは、あくまでも一般論だから教えてくれただけなのであろう。

 そう考え、ナノマシンに尋ねることは最初から放棄したマイル。

 もし教える気であれば、自分から話し掛けたはずである。あれだけいつも、自分に聞け、自分に頼れとうるさいナノマシンなのであるから……。


『なので、年寄り連中に担ぎ上げられて、若くして部族の指導者の座に就いた。大変愚かなことに……』

「で、暴走したわけですね。『古竜の力は世界一イィ!』とか、『我らが愚かな下等生物共を導いてやらねば!』とか言い出して……」

『なぜ分かるのだ!!』

 横から口を出したマイルに、驚きに眼を見開いて叫ぶベレデテス。

「そりゃ、分かりますよ。『若さ故のあやまち』というやつですよね?」

『う、うむ……。普通は、そのような人間的な考え方は幼児期で卒業するのであるが、なぜか未だにその手の考えに凝り固まっておるようでな……。

 しかし、部族の指導者には従わねばならぬのが、我らの掟。……それに、我はまだ若造であるからな。大人達が従っているのに、我が文句を言うことはできぬのだ。済まぬな……』


 ベレデテスは、ちゃんと物事が分かっているらしかった。

 ……というか、元々、古竜は人間より知能が優れているらしいのであるから、当然であろう。自分で『若造』と言っているベレデテスも、あくまでも古竜の中では、ということであり、人間と較べれば高齢もいいところであろう。

 そして古竜の大人達も、参ったな、と思いながらも、そのうちその古竜が成長して、それまでの黒歴史に悶え苦しんでまともになるであろうとでも考えて、しばらく茶番に付き合ってやっているのであろう。

 古竜にとって数十年や数百年はあっという間であろうし、人間や他の生物が多少迷惑を受けたり死んだりしても、古竜達にとっては何の問題もないであろうから……。


「「「「そんな理由で殺されて、『済まぬな』で済まされてたまるかああああぁ~~っっっ!!」」」」

『あ、やはり?』

 ベレデテスも、簡単に受け入れて貰えると思っていたわけではないらしかった。

 ……当たり前である。


「そもそも、指導者がガキんちょに交代したからって、どうして私達が死ななきゃなんないのよ! 私達は古竜とは関係ないでしょうが!」

 そう言って、再びやえばを剥くレーナであるが……。

『それなのだが……。実は、前回の詳細は当然ながら上層部には報告してあり、記録も残してある。どうやら、指導者となって、それを読んだらしいのだ。そして、「人間如きが古竜に刃向かうとは何事か! しかも、人間に後れを取っただと! 許せぬ! 古竜の力は絶対であり、その伝説に傷を付けるわけには行かぬ!!」と……』

「あ~、もういいわ。全部分かったから……」

『済まぬ……』

 本当に、済まなそうな顔をしているベレデテス。トカゲ顔なのに人間にはっきりと感情が分かるのだから、相当済まなそうなのであろう……。


「……でも、黙って殺されるわけにはいかないわよ。何、あんたを返り討ちにすればいいの?」

『違う! 断じて、違う!!』

 何だか、必死になって否定するベレデテス。

 ……考えてみれば、前回、マイルひとりに手も足も出なかったのだ。それで、再び殺し合いをやりたがるとは思えない。


『それは、全力で回避した! 一度敗れて見逃して貰った相手に再度挑むのは義理を欠く、と言い張って、人間に負けた若造、ビビりの腰抜け、と皆に馬鹿にされるのを必死に耐えてな……』

「……悪かったわよ……」

 それは相当な屈辱だったらしく、ぶるぶると身体を震わせ少し涙目のベレデテスを見て、悪いことを言ったと思い素直に謝るレーナ。


「……じゃあ、どうなるんですか?」

 横からマイルがそう尋ねると、ベレデテスは再び済まなそうな顔で告げた。

『戦いに秀でた者達が3頭、一緒に来ておる。

 我はあくまでも案内をしただけであり、この件とは直接の関係はない。……ということにして貰った。でないと案内に協力しない、と言い張ってな。

 取り次ぎ無しで古竜がいきなり人間に襲い掛かり、それがおおやけになればどうなるとお思いか、と強く主張したところ、我の言い分が全て通ったのだ。なので、遠慮なくやって貰って構わぬ。我とは全く関係ないからな。

 こっちが殺すつもりなのであるから、当然、3頭共殺して貰って構わぬ。それは自業自得なので、それでお前達が不利になったり、人間の政府に訴えたりはせぬ。……というか、「古竜が3頭で人間を襲い、返り討ちに遭いました。奴らをこらしめてやって下さい」と、古竜が人間のところに顔を出して、そんなことを言えるとでも思うか?』

「「「「うん、無いわ~」」」」

 4人の声が揃った。いつもの通り……。


『……と、ここまでは、お前達が遠慮なく本気で戦えるようにとこういう言い方をしたが……。実のところ、我はお前達が勝てるとは思っておらぬ』

「え? でも、あんたはマイルの実力を知って……」

 レーナの言葉に、ベレデテスは首を横に振った。

『我らが敗れたのは確かであるが、そんなことは問題にならぬ。あの時の我らは、連絡係の若造、見習いの坊主、物見遊山についてきただけの少女、という面々だ。人間に例えるならば、16歳の新米連絡員、13歳の見習い、10歳の貴族の娘、というところであろうか。皆、戦いを得意とする者達ではない。

 そして今回来ているのは、人間で言うならば25~26歳くらいの熟練兵士に相当する者達、と言えば、その違いが分かろうか……』

「「「「え……」」」」

 ベレデテスの説明に、顔色を変える『赤き誓い』の4人。


『そろそろ時間切れのようである。さ、お前達はここから全力で遠ざかり、そのまま村へ帰れ。急がぬと戦いに巻き込まれて死ぬぞ』

 ベレデテスが獣人達に向かってそう言うと、ふたりはぺこりと頭を下げ、全力で走り去った。

『……来たようであるな』

 そして、森の木々すれすれに飛行して、3頭の古竜が現れた。

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