310 命の輝き 4
「そおおぅですかぁ……」
にっこりと微笑んでいるのに、眼が全く笑っていないマイル。
「そうなんだぁ……」
眼も顔も笑っていないレーナ。
「そうなんですか……」
そして、眼も顔も笑っているのに、なぜか背筋が冷たくなってしまう、ポーリンのオーラ。
「なっ……、隠蔽魔法の類いか! しかし、せっかく隠れていたのならば、不用意に姿を現さず、そのまま奇襲すれば良いものを……。所詮は、低ランクハンターか……」
「え? ああ、別に、奇襲しなければならない程の相手じゃないから、そんな必要がなかっただけですよ?」
「なっ!」
敵の指揮官、アイリメイン男爵は、ポーリンの、何気ない風の返しに眼を剥いた。
「ふん、大言を吐きおって……。メーヴィス殿程の使い手が3人も現れたのであればともかく、メーヴィス殿頼りの凡百のハンターが何人か現れた程度では、この状況は変わらぬわ! おとなしく引っ込んでおいて、後でメーヴィス殿を弔ってやるがよい……」
余程メーヴィスを高く評価しているのか、敵味方でありながら『殿』呼びをする指揮官。そして、無駄に無関係の者の死者を増やすことを避け、メーヴィスの遺体を街道脇で朽ちさせることなく仲間の手に託せるようにという、心遣いであろう。
……しかし。
「くっ!」
「く、くく、くくくくく……」
「あ~っはっはっは、あはははははは!」
メーヴィスの哄笑が響いた。
そして目尻の笑い涙を指で拭いながら、メーヴィスが叫んだ。
「私は、『赤き誓い』の中で『最弱』の名をほしいままにしている。そう、我ら四天王の中で、最弱なのだ! そもそも、私の剣の師匠であり、数々の必殺技を私に伝授してくれたのは、そこにいるマイルだぞ?」
「「「「「「え……」」」」」」
愕然とする、敵の兵士達。
「ま、まさか……、こんな化け物が、あと3人も……」
呆然とする敵をスルーして、メーヴィスはマイルに頼んだ。
「マイル、治癒魔法を頼む」
治癒は、普通はポーリンの担当であるが、かなり手酷くやられ、腱や関節、そして内臓もヤバい状態である今は、マイルに頼んだ方が安心である。ポーリンもそれは分かっているので、別に気を悪くしたりはしない。
「あ、外見は治さず、このままにしておいてくれ」
治癒に関して注文をつけるメーヴィス。
「その方が……」
「「カッコいいから!!」」
そして声がハモる、メーヴィスとマイル。
「内臓、骨格、筋肉、血管、神経、その他諸々、細胞増殖して結合、修復! 時間がかかる部分は、とりあえずセラミックプレートやら合成素材で応急処置。合成血液を作成して、補充。但し、皮膚表面の再生補修はなし。外見そのまま。ギガ・ヒール!!」
マイルの謎の治癒呪文により、完調には程遠いものの、ある程度は動けるようになったメーヴィス。そして……。
「あ~、レーナとポーリンは、お嬢様達の護衛を頼めるかな? 申し訳ないけど、ここは、私とマイルのふたりで、魔法抜き、剣だけで勝負を付けたいんだ」
本当はひと暴れしたかったであろうが、黙ってこくりと頷き、護衛達の方へと歩いていく、レーナとポーリン。それを見て、蒼白になる敵の兵士達。
「ハ、ハッタリでは……、ない、のか……」
魔術師がふたりもいるなら、攻撃魔法を乱打すればいい。それだけで、敵に混乱と負傷を与えられ、かなりの優位に立てる。しかし、そんな必要すらなく、その手段を簡単に放棄する。……ただ、ちょっとした意地だけのために。
それは、自分達の勝利を欠片も疑っていない者にのみ許される我が儘……。
「総員、突撃いいいいぃ~~!!」
危機察知の本能が、最大音量で警報音を鳴らしまくっていた。指揮官、アイリメイン男爵は一発勝負に懸けたが、しかし、それでどうこうなるものではなかった。
既に、会話の合間にポケットからミクロスの最後の1本を取り出したメーヴィスは、それを呷っていた。それを見たマイルが、一瞬ピクリと眉を動かしたが、何も言うことはなかった。
「EX・真・神速剣! ……そして、友たちのために編み出した、我が新たなる力、メーヴィス流気功術最高奥義、メーヴィス・円環結界! 我が、命の輝きを見よ!!」
「マイル・神驚剣!」
メーヴィスの名乗りがあまりにもカッコいいため、慌てて、即興で技名を考えたマイル。神もが驚く剣術、というわけであるが、どこか、パクリ臭かった。
「邀撃戦です!」
「了解だ!」
邀撃とは、こちらから敵のところへ行くのではなく、こちらが望む所に敵を来させて、迎え撃つことである。
本来、軽戦士であり魔術師達を護る立場であるメーヴィスやマイルは、素早く駆け回って敵を攪乱し、味方の脅威となる敵を優先して倒すべきであるが、今回はレーナとポーリン、そしてそれに加えて3人の護衛剣士が、大木を背にして護りを固めている。味方の心配をする必要はなかった。
そして、メーヴィスの身体は、まだ本調子ではない。激しい瞬発を繰り返す強引な機動は、メーヴィスには負担が大きいであろう。なので選んだ、邀撃戦である。
どうせ、敵はマイルとメーヴィスを無視して護衛達の方へ向かうことはできない。それは、最悪の敵に背中を晒すことになるし、戦力を分けることなど、どうぞ各個撃破して下さい、と言わんばかりの愚行であった。
そして、マイル達が素早く駆け回る攪乱戦法ではなく、邀撃戦を選んだ最大の理由。それは……。
『心を、へし折る!』
もう、残存戦力を纏めて再度追跡しようなどという考えも起こらない程に、叩き潰し、心を折る。
敵の心を乱すように、一度宣言したことは翻さないように、ゆっくりと潰すのが、ここでのたしなみ。もちろん、壊滅ギリギリで走り去るなどといった、はしたない兵士など存在していようはずもない。
「きえええええぇ~~!!」
脳天唐竹割り。
身長が低いマイルの頭上から、全力で振り下ろされた剣。
身長差を利用した、一方的な斬撃。体勢的に、剣で受けても、力負けしてそのまま押し負ける。
ぱきぃん!
「え……」
決して折れない剣が、微動だにしなければ。
力が分散されることがなく、それは、大岩に剣を叩き付けたに等しかった。
折れる。それ以外の結果があるとすれば、それは、剣士が愛剣を取り落とすことぐらいであった。
ばっ、と反射的に飛び退ったその兵士に、重傷を受けて地面に転がっていた兵士のひとりが必死の形相で自らの剣を差し出し、そして、すまぬ、とひと言言ってその剣を受け取る兵士。
そして、連続して、あるいは同時に振り下ろされ、突き出される剣は、全て受けられ、払われ、受け流された。
「やはり、貴様も化け物か……」
まだ幼い少女の外見で、筋肉が付いているようにも見えぬ身体、武術に秀でているとはとても思えぬ、素人丸出しの身のこなし。……しかし、その剣は速く、重い。
「だが、退くわけには行かぬ! たとえ相手側に悪魔が憑こうが女神が味方しようが、退くわけには行かぬのだ!!」
変身して、『女神? ……それは、こぉんな顔かい?』というネタをやりたい誘惑と必死で戦うマイルであったが、さすがに、そこまで空気が読めないということはなかった……。
29日(日)、台風12号パンチを、「ふっ……」と躱し、ワンダーフェスティバル2018【夏】、無事、終了!
そして、こみの工房様出品の、我が『マイルフィギュア』ですが……。
「開始20分で完売と瞬殺でした」
とのこと!(^^)/
皆さん、ありがとうございました!
これで、次回、ワンダーフェスティバル2019【冬】において、マイルの再販に加えて、カオルかミツハが登場するかも?
どちらが登場するか?
謎が謎を呼ぶぞ!!(^^)/
そして、こみの工房様のブログにて、今回の結果報告と(えっ、TV局の取材?)、次回のマイル量産型についての予定とか……。
冬フェスのマイルフィギュア「多分、私は16体目だと思うから」