表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/699

301 終 了

 蒼白になり、ぶるぶると震えている国王。ガクガク、でないというのは、最後の矜持なのであろうか……。

 既に、用件は終わった。

 警告の内容は、改めて伝えるまでもない。明日の朝一番にでもあの指揮官が牢から出されて、再度詳しく伝えるであろうから。

 国王が、マイルのことを何者だと思おうが、関係ない。ただ、『いつでも自分を簡単に殺せる存在。……ほんの僅かな不満や苛立ちがあっただけで』ということが分かっていれば、それで十分であった。


「では、今日はこれで帰ります。……あ、ちょっと寄り道をしてから、ですけど。それじゃ、もう二度とお会いせずに済みますよう……。ま、少なくとも、三度目は絶対にありませんけどね」

 それを聞き、言葉が出せない国王。

 三度目は絶対にない。それはつまり、二度目で自分の命が終わる、という意味以外にあり得なかったからである。


「それでは、おやすみなさい……」

「え?」

 ひと言漏らしただけで、国王は椅子に座ったまま意識を失った。

 マイルは睡眠魔法のつもりであるが、ナノマシンがどのような方法を使っているのかは分からない。睡眠ガスを発生させているのか、神経をアレしているのか、脳に直接働きかけているのか……。

 マイルは、そういう小さいことは気にしていなかった。


 国王を眠らせたのは、勿論、マイルが姿を消すと同時に騒がれると困るからである。騒ぎになると、いくら姿を消していても脱出しにくくなるし、マイルには、まだやることがあるのだから……。

「あ、このままだと、全てが夢だった、とか思われちゃう可能性が……。ええと、どうしようかな……」

 少し考えた後、マイルは国王を抱えてベッドに運んだ。

 そして、アイテムボックスから、以前盗賊から接収した安物の剣を取り出して……。


 どすっ!


 その、顔の側に突き立てた。

「これで、夢だったとは思わないでしょう! さて、光学迷彩魔法を掛けて、と……」

 マイルはその後、王宮内に住んでいる王族や高位の者達の枕元に剣を突き立てて回った。自前の剣を使うのは勿体ないと気付いたので、国王以外の者には、室内にあった本人の剣とかを使用して。

 そして王宮をひと廻りした後は、王宮を囲むように建っている上級貴族……その多くが、大臣や軍の上級指揮官等の職に就いている……の邸を廻った。


「あれ?」

 1軒の上級貴族の寝室で、マイルはベッドサイドのテーブルの上に載った1冊の本を見つけた。

「私の本だ……。こんなところにも、読者さんが。ありがたいなぁ……。ちょっと剣を突き立てる位置を離してあげようかな……、って、あれ?」

 何だかその本に少し違和感があり、マイルが手に取ってよく見てみると……。

「オルフェス出版、作者、ニヤマ・サットデル? パチモンですかああああぁっっ!!」

 光学迷彩魔法だけでなく、防音魔法も掛けていて、幸運であった。

 そしてマイルがページを開き、少し読んでみると……。

「ストーリィはほぼそのまま、余計な濡れ場を挿入して、挿絵はエッチなものを追加。

 くっ、これでは、こっちの方が売れそうですよっっ!」


 そしてマイルがその部屋を去った後には、12本の剣が刺さったベッドと、ビリビリに破り捨てられた1冊の『元、本であったものの残骸』が残されていた。

 マイル、かなりのご立腹のようであった。




「戻りました~、って、あれ……」

 マイルが宿に戻ると、部屋は既に寝静まっていた。

「以前、『あんたが帰ってきた時、私達が寝ていたら寂しいでしょ?』って言ってたのは、何なのですかああああぁ! 感動したのに! 感動したのにいいぃ!!」

「「「マイル、うるさい!」」」

「ぐぬぬぬぬ……」

 前回は、夜2の鐘(午後9時頃)を少し過ぎただけであったが、今回は、完全な深夜である。なので、皆が寝ていても仕方ない。そうは思っても、やはり納得できないマイルであった……。


     *     *


「「「「「ぎゃあああああ!!」」」」」

 翌朝、王宮や、多くの上級貴族家の寝室で、悲鳴が響き渡った。




「先日指示した、森を経由しての隣国への侵攻計画であるが……、あれは、保留することとした。今はまだ、我が国には十分な準備ができていないと判断してのことである」

 国王が、何かに怯えたような、何とも言えない微妙な表情でそう告げた時、なぜか会議に列席していた大臣、軍の上級指揮官等はそれに反対することなく、黙って頷いた。


 先日の、国王のあまりにも唐突な隣国への侵攻宣言には、最初から反対する者も少しはいたが、軍人を始め、多くの者が利権や褒賞目当てで賛成していたはずである。なのに、なぜ誰もその中止に反対しないのか。まるで、事前に根回しがしてあり、皆が合意していたかの如く……。

 一部の列席者達は不思議に思ったが、国王を始め、主要な上級貴族達の大半が中止に賛成とあらば、いくら反対してもどうにもならない。そして、国王や上級貴族達に『自分達に逆らう、敵対者』と認識されるだけであった。この状況で、中止に異を唱える者などいるはずがなかった。


 こうして、森を経由しての隣国への侵攻計画は中止され、農民の召集も、傭兵やハンター、ごろつき達の雇用も取りやめられた。

 農民達は大喜びであったが、傭兵ギルドを通した契約であったため違約金が貰えた傭兵達はともかく、ハンターギルドを通さない自由契約であった数人のハンターや、ごろつき達は銅貨1枚貰えるわけでもなく、一方的に契約を破棄された。そして、それを見て「だから、あんな依頼は受けるなと言ったのに……」と、他の連中から笑われるのであった。


 これで、この国の上層部は、あのルートで隣国マーレイン王国へ侵攻する気はなくなったであろう。……少なくとも、当分の間は。

 しかし、マイルがあの指揮官に言った言葉は、『そのほう達、なぜ故意に森を荒らそうとする?』であった。そう、『めがみエル』お方がお怒りになったのは、森を荒らす行為であって、別に隣国を侵略するという、人間同士の争いに対してではない。なので、あの森を通らない、別のルートによる侵攻であれば、問題はない。

 マイル達は、あの街、マファンの人達に迷惑を掛けたくないだけであって、マーレイン王国そのものに対しては、母国でもなく世話になったわけでもなく、何の義理もない。それに、『一切の、他国への侵攻を禁止』などというあまりにも大きな制約だと、そのうち破られる可能性が高くなる。

 しかし、『ここだけは、駄目』という程度ならば、ずっと守られる可能性が高くなる。わざわざそこを通らなくても、他のルートから侵攻すればいいだけの話なのだから。




 マイルが暗躍した翌朝、少し機嫌の悪いマイルから説明を聞いたレーナ達は、さっさと宿を引き払って、他の街へと移動することにした。

 面倒事は解決したらしいものの、王宮や貴族達が色々とざわついているらしいし、王都全体が、あまりいい雰囲気ではない。儲け損なった大規模商会や、おこぼれにあずかる筈であった中小の商会、傭兵団やごろつき達が、不満もあらわに様々なロビー活動を行ったり、立場が弱い者を不満のけ口として理不尽な行いをしたり……。


 そして、何よりの問題として、いくら髪と眼の色を変えていたとはいえ、国王に対してまともに顔を晒したマイルが王都で活動するのも心配であった。

 平民のCランクハンターが国王と出会う確率など、殆どゼロに近いものではあるが、世の中、何があるか分からない。国王も王宮から出てどこかへ行くこともあるであろうし、馬車の窓から外を見ることもあるかも知れない。

 元々、他のハンター達から、今回はさっさと移動した方がいい、と勧められていたこともあり、今回は碌な依頼も受けぬまま短期間で出発したとしても、何の問題もない。


 そして、かなり遅めに宿を引き払い、少し早めの昼食を摂った『赤き誓い』一行は、ギルド支部に寄って、王宮からのハンター募集の貼り紙が剥がされて、代わりに募集中止の告知に変えられていること、そして情報通のハンターから『農民に出されていた召集命令が取り消されたらしい』という話を聞き、ギルド職員と居合わせたハンター達に挨拶した後、安心して王都を後にするのであった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 女神の天罰として、王の部屋から上を吹っ飛ばして欲しかったなー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ