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292 エルフの護衛 9

 ポーリンが、ふたりのエルフへの追及を続けた。

「大方、マイルちゃんの馬鹿容量の収納魔法を利用しようとか、不思議魔法の秘密を喋らせようとか、色々と企んでいるのでしょうが、そういうのは間に合っています。

 大体、お金や名誉が欲しいなら、マイルちゃんならいくらでもようはありますよね。それにも関わらず、こうして私達とハンターをやっている。そこから、察して下さい。

 それに、今までそういう誘いがなかったとでもお思いですか?」

「「うう……」」

 納得したか、とポーリンが思った時。


「し、しかし、あなた達、あのクーレレイアと知り合いなんでしょう! あいつが、こんな美味しい研究対象を見逃すはずがないわ! 絶対に食らい付くに決まってる! あんな奴に取られるくらいなら、私達が研究した方が、絶対にいい成果が……」

「そうです! 自分が楽しく遊び暮らすために研究者の皮を被っているあんな外道の手に渡すくらいなら、いっそこの手で……」

「「「「「「おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!」」」」」」

 あまりにも危険な発言に、『赤き誓い』だけでなく、『青い流星』からも突っ込みがはいった。

「い、いえ、この手で研究を、という意味ですよ、勿論……」

「「「「「「…………」」」」」」


「と、とにかく、マイルちゃんはそういうのには興味がありませんから!」

 ポーリンがそう言って突っぱねるが、ふたりはなおも食い下がった。

「私達は、あなたにではなく、マイルちゃんに聞いているのです! さ、マイルちゃん、私達と一緒に暮らしましょう! 何なら、エルフの魔法を少しお教えしてもいいですよ? 人間達には知られていない、エルフ特有の魔法です。マイルちゃんが色々と教えてくれるなら、少しくらいであれば長老様もお許し下さるはずですわ……。

 そうそう、特別友好者として、エルフの里に御招待することも可能ですわよ!」

「うっ……」

 それは、マイルにとってあまりにも美味しいお誘いであった。

 エルフの魔法はともかく、『エルフの里に御招待』というのが。

「う。うう。ううううう……」


 行ける!

 そう思ってエートゥルーとシャラリルがほくそ笑んだ時、マイルがやっとの思いで言葉を絞り出した。

「……マ、マネージャーを通して下さい!」

「「「「「「マネージャー?」」」」」」

 意味が全く分からず、ぽかんとする一同であった……。


「その話は、夕食の時でよくはないか? 明るいうちは調査に専念した方がいいんじゃないかと思うんだがよ。オークとの戦いで、かなり時間を喰っちまったし……」

「「「「「「あ……」」」」」」

 グラフの言葉に、確かに、と納得する『赤き誓い』とエートゥルー達。

「グラフさん、いつもそういう調子だと、女性にモテるかも知れないのに……」

「うるさいわ! 余計なお世話だよ!」

 思わず突っ込んだマイルに、そう怒鳴り返すグラフ。

 この様子では、やはり奥さんや彼女はいそうになかった。


     *     *


うめぇ!」

 夕食は、今回の調査行で最後の『ちゃんとした食事』なので、マイルが気合いを入れて作った。

明日の朝食は簡単なもので済ますし、昼食も、森の外で迎えの馬車を待つ間に簡単に済ませる予定である。それに、明日の夕食は街で食べられるのだから、昼は簡単で構わない。

 そして、今回の食事に特に力を入れたのは、マイルとしての、身体を張ってメーヴィスを護ってくれた『青い流星』のみんなへのお礼のつもりであった。


 確かに、死にさえしなければ、マイルの治癒魔法であれば大抵の怪我は治せる。

 しかし、複数のオークから滅多打ちにされる恐怖と痛みは、メーヴィスの身体と心の奥底に深く刻み込まれたであろうし、それが原因でハンターとしては使い物にならなくなった可能性もある。

 それに、そもそもそれだけの一斉攻撃を受ければ、メーヴィスが即死した可能性も充分にあった。

 いくら強くても、所詮、メーヴィスは華奢な骨格と筋肉しか持っていない女性なのである。そして防具も機動性重視の革製、しかも重要箇所を部分的に防護するようにしかなっておらず、頭部は剥き出しなのである。助かると考える方に無理があった。

 ……つまり、『青い流星』は、文字通り、メーヴィスにとっては命の恩人なのであった。そしてそれは即ち、『赤き誓い』にとっての恩人である。なので、初日にした意地悪の謝罪の意味も込めての、マイルの渾身こんしんの大盤振る舞いであった。


「何だ、これ! ホクホクしていて、噛むと旨味が……」

「岩トカゲの唐揚げです。熱した植物油で揚げています」


「この煮込み、ピリッとした味が……」

「えへへ、ちょっと高い香辛料を贅沢に使った、普通の庶民向けのお店では材料費的な問題で出せないであろう料理です。私もあまり作れないんですよ、ポーリンさんがうるさいから……」


「この、見慣れない料理は……」

「『トマトチキンライスの玉子包み』です。私の故郷の料理で、自信作です!」


「このスープ、旨ぇ……」

「スープの定番、具沢山のミネストローネです」


「「…………」」


 旨い旨いと繰り返しながらお代わりを続ける『青い流星』の5人と、黙々と食べ続けるふたりの雇い主。そして……。

「マイルちゃん、あなた、うちで家政婦やるつもり、ない?」

「誰がやるかああああぁ~~!!」




「……しかし、本当ならば昨日もこういうメシが食えたはずだったのか……。惜しいことをしたなぁ……」

「いやいや、今日はお礼の意味も込めての特別サービスですよ! 普通なら、そうですねぇ、オーク肉のステーキと野菜スープ、とか、猪肉の生姜焼きとキノコスープ、とかですよ。あと、野菜料理を1品、とか……。こんなに品数を作るのは、何かのお祝いとか、新作料理の試食会とかの日だけですよ」

 そう言って、ラトルの言葉を否定するマイル。


「あ、そう言えば……」

 ふと、マイルが思いついたことを口にした。

「メーヴィスさんが使った薬について、皆さん、何も聞かないんですね。色々と聞かれるかと思っていたんですけど……」

 それを聞いて、苦笑する『青い流星』の面々。

「ハンターの特技は詮索禁止、ってのも勿論あるが、あれはどこかの秘薬なんだろ? あんなのが世間に出回っていないということは、秘匿されているに決まってらぁ。

 それに、ありゃあ、凄腕の治癒魔術師とセットでないと使えないんだろ? 昼間のメーヴィスの様子や、大神官様より腕のいい治癒魔術師をふたりも用意していることから考えて、普通のハンターが使えるような代物じゃねぇってことくらいは分かるさ。

 多分、俺達が使えば初回で自滅して死んじまうんだろう? そんなのに手を出す程の馬鹿じゃねぇさ」


 剣士のカラックの答えに、うんうんと頷くマイル。

「さすが、ベテランハンターですね。全てお見通しでしたか……」

 マイルは『青い流星』がミクロスに興味を持つのではないかと心配し、諦めさせるための説明の仕方を考えていたのであるが、何と、マイルが説明するまでもなく、ほぼマイルが考えていた通りの内容を『青い流星』側から口にしてくれた。

(ホント、思っていたよりもきちんと物事を考える人達でした。なのに、なぜあんなに残念な言動を……。勿体ないなぁ。結構いい人達なのに、あれじゃあ、絶対に女性にモテないです……)

 そのあたりが、どうにも歯痒く感じるマイルであった。


「で、マイルちゃんの再就職についてだけど……」

「それは、もういいですから!!」

 なかなか諦めてくれないエートゥルーとシャラリルに、さすがにそろそろ疲れを感じ始めてきたマイルであった。

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[一言] >ホント、思っていたよりもきちんと物事を考える人達でした。なのに、なぜあんなに残念な言動を……。勿体ないなぁ。結構いい人達なのに、あれじゃあ、絶対に女性にモテないです……) そのあたりが、ど…
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