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289 エルフの護衛 6

 朝食は、堅パンと干し肉で簡単に済ませた。スープは、不味い『スープの素』ではなく、ちゃんと野菜と肉片を刻んだものを入れて作っている。

 これだけで、ハンターの野外での朝食としては贅沢な部類である。普通は、出発準備で慌ただしい朝にのんびりお湯を沸かしてスープを作る暇などないが、『赤き誓い』には湯沸かし魔法の使い手が3人もいるからこそできる贅沢であった。


 その後、素早く寝床を撤収して、調査開始。昨日と同じく、依頼主が様々な記録を取り、見つけた調査対象物を調べ、ある物は採取し、ある物はそのままにして立ち去る。そしてそろそろ昼時かと思われた頃。


「停止! 皆さん、急いで集合して下さい!」

 マイルが、少し慌てたような、しかし小さな声で皆に指示した。

 それを聞いて、『赤き誓い』の3人はもとより、依頼主のふたりと『青い流星』の面々も、急いでマイルの下へと駆け寄った。勿論、マイルが慌てながらも小声で指示したということから、皆も察して、声も音も立てないように注意している。


「オーク17頭、急速接近中! 既にこちらに気付いています。すみません、探索魔法を採取用にしていたため、索敵距離(レンジ)が短くて、探知が遅れました!」

 マイルがそう言って謝るが、事前に発見して奇襲を防げただけでも大手柄であった。……世間の常識では。


「まずい、数が多過ぎる! こちらからの奇襲でないなら、一度に相手できるのが、うちがせいぜい4~5頭だ。敵を散らせて各個撃破できれば問題ないんだが、一斉に来られるとそっちへの援護や雇い主の直衛にまで手が回らん!

 レーナとポーリンは雇い主に張り付いて固定砲台、前衛ふたりは魔術師と雇い主を護れ! 魔法攻撃は敵の分断を主目的とし、走り回る俺達が一度に戦う相手が4~5頭以下になるようにぶちかませ! 一発の威力より、手数優先だ! 余裕があれば、範囲攻撃で敵の弱体化。更に余裕があれば、単体攻撃で数を減らせ!」

 初めて組んだパーティが、いきなり共同戦線など張れるはずがない。役割分担で各個に戦うのが最適である。そして、第一優先は雇い主の安全確保、第二優先が魔術師の保護とその有効活用である。その両方を1カ所に纏めるのは、護る側としてはやりやすい。

 中には自分達の安全を最優先にするハンターもいる中、グラフの指示は依頼任務優先であり、誠実なものであった。


 パーティの人数、Cランクになってからの経験等から、今回の総合指揮官は当然ながら『青い流星』のリーダーであるグラフが務めている。事前擦り合わせの時の様子から、グラフの戦闘指揮には特に問題がないと判断してそれを受け入れた『赤き誓い』であるが、今までの様子からは想像できない程のグラフの有能さに、目が点のレーナ達。

「機動防御……」

 そして、何やら感心している様子のマイルである。


「ま、オークくらい大したことないわね。私達が突っ込んで、ちょちょいと……」

「いや、ここは護衛指揮官の指示に従うべきだろう」

 レーナの暢気な言葉を、メーヴィスが遮った。

「今回は2パーティの共同受注であり、護衛指揮官はグラフ殿だ。そして普段の言動にそぐわず、グラフ殿の指揮はしっかりしている。ここで私達が勝手な行動を取って混乱を招くのは得策ではないだろう。それに、私達は『他の者に指図された通りに動く』ということも学ぶべきなのではないか?」

「う……」


 正論であった。さすがにレーナも、『赤き誓い』で最もハンター歴が長い者として、それを否定することはできなかった。

 ……但し、そうは言っても、ふたりとも『言われたことを馬鹿正直に守り、「青い流星」が危機に陥っても持ち場を離れない』などというつもりは更々なかった。勿論、マイルとポーリンも。

 グラフの指揮下で皆の力を最大限発揮するよう努め、もしそれで雇い主や護衛仲間が危険な状態になるようであれば、即座に独断専行モードに移行するつもりであった。


「来ます!」

 マイルの警告の直後、木々の間からオークの群れが現れた。

 あまり知能が発達しているわけではないため、皆が揃って一斉に、という考えがないのか、それとも過半数が『雌』であるひ弱な人間如きにはそんな配慮も必要ないと考えたのか、駆けてきた速度の差によって前後にばらけた状態のまま突っ込んでくるオーク達。『青い流星』にとっては大助かりである。


「アース・ニードル!」

「アイス・ニードル!」

 既に脳内で詠唱を終えていたレーナとポーリンが、ニードル系の魔法を発動させた。

 名前は似ているが、前者は土を固めたもの、後者は氷によるものであり、魔法の属性からして全く異なる。森の中では得意の火魔法が使えないレーナは、土魔法を使わざるを得なかったのである。

 それらの範囲魔法は先頭のオーク数頭を山なりに越えて、その後ろのオーク達に降り注いだ。

 ニードル系の攻撃魔法は、一撃必殺、とかの威力とは程遠いが、降り注ぐ魔法攻撃から顔面を護ろうとしたオーク達は足を止め、先頭との間が空く。『青い流星』からのリクエスト通りである。


「アース・ネイル!」

 魔術師のマレイウェンは、土魔法の『土の釘(アース・ネイル)』を放った。

 弾数や攻撃範囲はニードル系に劣るが、敵に与えるダメージは勝る。とは言ってもオークを倒す程の威力がないのはニードル系と同じであるが、敵の勢いを止めて、更に敵の戦闘力をいでくれるのは前衛にとって大助かりである。


 10の能力を持った前衛が相手をするのに、9の能力を持った敵2頭より、7の能力の敵3頭の方が安全に倒せる。なのでここはアース・ジャベリンとかの単体攻撃魔法ではなく、威力は弱くとも広範囲魔法で敵の小集団全体の戦闘力を低下させるのが正解であり、前衛の3人が確実に敵をき止め、後衛である自分のところまで通しはしないという信頼により、自分が直接敵の数を減らせないということには何の不安もない。


 そして中衛のケスバートは素早く弓矢を撃ち込んだ後、短剣を抜いて前衛陣に加わった。弓は背に付けており、『女神のしもべ』の弓士のように、そのあたりに放り投げたりはしていない。

 ……おそらく、この状況では踏み潰される可能性が非常に高いとでも思ったのであろう。


 自分達が戦う前に既に傷付いており、戦闘力が低下しているオークの第一陣である3頭を危なげなく攻撃する『青い流星』の前衛陣であるが、オークの第二陣が思ったよりも早く襲い掛かってきたため、まだ第一陣を倒しきっていない『青い流星』が危ないか、と思われたその時。


「アース・ジャベリン!」

「アイシクル・ランス!!」

 ふたつの攻撃魔法が放たれ、2頭のオークに突き刺さった。

 魔法攻撃者の距離が離れており、既に『青い流星』とオークの位置が近かったために誤射を恐れて範囲魔法は使わなかったのであろう。そしてその攻撃魔法を放ったのは、レーナとポーリンではなかった。

 ……そう、エルフは人間に較べ魔法の能力に優れた者が多いし、別に雇い主が戦闘に参加してはいけないという理由もなかった。


「マイル、ここは頼めるか?」

 突然、メーヴィスがマイルに向かってそう頼んできた。

 ここは、レーナとポーリン、そしてエルフの攻撃魔法使いがふたりに、魔法と剣が使えて強固なバリアが張れるマイルが直衛に付いている。これで、依頼主とレーナ達に危険があるとは思えない。なので、メーヴィスは自分も『青い流星』の手伝いに行こうと考えたのである。

 このままでは、自分はぼうっと突っ立っているだけで終わってしまう、と思うと、メーヴィスの性格としては我慢できなかったのであろう。それに、『青い流星』は決して弱いわけではないが、オークの数が多過ぎるため、混戦となり離れた位置からの魔法支援がしづらくなると、少し危なく思えたのである。


「はい、いざとなればバリアを張りますから、大丈夫です!」

 今はこちらから攻撃魔法が撃てるようバリアは張っていないが、マイルであればバリアを張るのは一瞬で済む。なので、メーヴィスと同じく『青い流星』を心配していたマイルはふたつ返事でメーヴィスの頼みを了承した。




「お手伝いします!」

「おぅ、助かる!」

 メーヴィスの参加はグラフの采配を無視する形であったが、戦闘は水物、向こうは残りの陣容で大丈夫だと判断したのであろうし、正直言って、このままでは持ち堪えられそうになかった。そしてここでのメーヴィスの参加は、あの、ギルドの解体場でのデモンストレーションを見ていた『青い流星』の5人には、傾きかけた天秤を反対側へと戻すに充分な戦力だと思われた。

 そして、メーヴィスはその期待を裏切らなかった。


 攻撃魔法と『青い流星』の頑張りで、かなり数を減らしてきたオーク。

 オーガではなく、オーガよりずっと格下のオーク。

 数頭のオークが依頼主やレーナ達の方へと向かうが、マイルがいるので何の心配もない。おそらくはレーナか誰かが攻撃魔法を撃ち込むであろうから、マイルの出番さえないだろう。マイルとポーリンはともかく、レーナは出番がないと後で機嫌が悪くなるから、丁度いい。

 オーク数頭程度、『ミクロス』を使うまでもない。気の力を練るだけの『真・神速剣』で充分。

 敵味方が入り交じった状態では攻撃魔法による支援は難しいだろうが、そのようなものは、この程度の敵には必要ない。『青い流星』の者達が怪我をしないよう、サポートしてあげよう……。

 そう思って、久々の活躍の場に、少々調子に乗った様子のメーヴィス。

 そしてマイル達も、メーヴィスがオーク如きに後れを取るとは思ってもおらず、自分達に向かってくる数頭のオークに注意を向けていた。そして……。


「ぐあっ!」

 メーヴィスが、オークの一撃を受けて動きを止めた。

 油断していたのか、死角からの不意打ちだったのか、後方からの右脇腹への一撃は、確実にメーヴィスの肋骨をへし折ったと思われた。

 折れた肋骨が内臓に突き刺さっているかどうかは分からないが、それはメーヴィスの動きを止め、そして混戦の戦場で動きを止めるということは、確実な『死』を意味していた。

 弱い者から潰す。それが戦いの鉄則であり、知能の低いオークも、それくらいは理解していた。

 そして、マイル達が異変に気付かぬうちに、数頭のオークの攻撃がメーヴィスに集中した。



5月9日(水)、『ポーション頼みで生き延びます!』と『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』のコミックス第2巻が同時発売されました。

よろしくお願い致します!(^^)/


そしてそして、コミックス2巻の発売日である9日から今月いっぱいまで、秋葉原駅に『ポーション』と『ろうきん』の看板が立ったみたいですよ!

これは、見に行かねば、ねば……。(^^)/

「秋葉原駅、山手線のホーム(2番ホーム。上野・池袋方面)の中央付近から見える」という情報を貰ったのだけど……。(^^ゞ

あ、ホーム以外からは見えません。(^^)/


そして、すみませんが、来週は更新をお休みとさせて戴きます。

来週、5月14日は、私の小説家デビュー2周年になります。

なので、ちょっと、ちょっとだけ休ませて下さい……。

GWに休まなかったので、その代わりに……。(^^ゞ


……まぁ、更新は休んでも、その間に書籍化作業をやるんですけどね。(^^ゞ

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