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287 エルフの護衛 4

 森の中を進む、ふたりのエルフと護衛ハンター達。

「このあたりは、既に人間が立ち入ることのない区域です」

 雇い主であるエートゥルーの言葉に、黙って頷く護衛達。


 人間が立ち入らない、といっても、別に、人跡未踏の地だとか凶暴な魔物が出るだとかいうわけではない。ただ単に、『割が合わないから、人間が来ない』。それだけのことである。

 わざわざ奥地まで来ても、外縁部と較べて特に稼ぎになるような獲物がいるわけでも、高価で珍しい採取物が採れるわけでもない。そして狩った魔物や動物を森の外まで人力で運ぶのは、とんでもない労力と時間を必要とする。……それならば、たとえ狩りそのものの効率が半分以下であろうとも、外縁部で狩った方がずっと総合的な効率がいい。なので、こんなところに稼ぎにくる猟師やハンターなどいるはずがなかった。


 今回のエートゥルー達の目的は、『学術的に価値のある植物の研究や鉱物の分布調査、魔物の繁殖状況の確認』等なので、その採取物も、学者にとっては貴重であっても、市場価値、つまり換金物としての価値はあまりなかった。

 だから、『青い流星』が採取の手伝いは『赤き誓い』に押し付けて、自分達は肉や角、牙、爪等が素材としていい値段で売れる狩猟を行おうとしていたのである。……勿論、依頼主の安全は確保した上で、であるが。さすがに、そこまで腐ってはいない。

 しかしそれも、マイルの収納魔法が自分達にも自由に利用できる、ということを前提とした画餅に過ぎなかった。


「じゃあ、そろそろ調査協力を始めて貰いましょう」

 エートゥルーにそう言われ、2列縦隊でずんずんと進むだけだった歩き方をやめ、横に広がって地面の植物や石、岩等を観察しながらゆっくりと進む一行。腰を曲げたりはせず、背筋は伸ばしたままである。これで腰を曲げたりしていては、すぐに身体が悲鳴を上げてしまう。

 目的の植物や鉱石については事前に絵を見せての説明を受けているし、動物や魔物に関しては自然に出会ったものだけを記録し、こちらから探し回るようなことはしない。


 先程までは、さすがに『青い流星』が先頭を引き受けてくれていたが、いまは横隊となっているため皆が自分で前方の草や木の枝を払って進まねばならず、その作業と地面に眼を走らせることの両立はなかなか難しく、進行速度はガタ落ちである。

 しかし、人間が立ち入らないところに道があるわけもなく、また、今回は調査が目的であり移動距離を稼ぐ必要はないため、ゆっくりのんびり、見落としがないよう進めば問題はない。


「レーナさん、1時、2メートル!」

「……あ、あったわ。エートゥルーさん、ここ!」

 見つけたものは、勝手に採取しない。生えている場所、日当たり具合、一緒に生えている他の植物等、全てを記録しなければ意味がないし、採取するかそのままにするかの判断も必要である。それらは勿論、雇い主の担当であった。


「ポーリンさん、1時半、1.5メートル!」

「見つけました。シャラリルさん、ここです!」


「メーヴィスさん、12時、2.3メートル!」

「発見! 3号目標だね」

 マイルが皆と決めた『自分から見た方向を12に分けて呼称する方法』と距離で指示することにより、次々と目当ての植物を見つける『赤き誓い』の面々。


「……凄いわねぇ。普通は半分以上見落とすものなんだけど、その様子だと、殆ど見落としなしかしら……。これじゃあ、見落とし分の計算補正値を変えなきゃならないわね」

 エートゥルーの言葉に、うんうんと頷くシャラリル。そしてそれを聞いた『青い流星』のグラフが叫んだ。

「そこじゃないだろ! おかしいだろうが! そいつらがそれぞれ自分で見つけたならまだ分かる、眼がいいんだな、とか、素材採取に慣れているんだな、とかでな。しかし、どうしてマイルが離れたところの分まで全部見つけて指示できるんだよ! 視力うんぬんもあるが、それ以前に、草や木が邪魔で、見えるはずがないだろうが!」

 しかし、雇い主であるふたりのエルフは、グラフを完全に無視した。勿論、『赤き誓い』の面々も。


「何とか言えよ!」

 自分達が全然見つけられないのに『赤き誓い』が次々と発見するのが面白くないのか、グラフが『赤き誓い』に対して怒鳴るが、『赤き誓い』が反応する前にエートゥルーが答えた。

「……ハンターは、互いの特技や能力を詮索しない、という決まりがあるんじゃなかったの?」

「う……」

 明文化されたものではないが、この暗黙の了解を破るハンターはいない。もし破るなら、それは『お前を利用して、俺が甘い汁を吸う』と宣言したも同然であり、相手に剣を抜かれても仕方のない行為であった。なので、そう言われては、さすがに『青い流星』もそれ以上は何も言えなかった。

 そしてそれを聞いていたマイル達は、ただ、軽く肩を竦めるのみであった……。




(……あれ?)

 しばらくして、マイルがあることに気付いた。

「あの~、エートゥルーさん。2号目標のリイレン草なんですけど、ちょっと気付いたことがあるんですが……」


 勿論マイルは、探索魔法を使って指定採取物をサーチしている。そしてその探索魔法は、初めて探索魔法を使った時に較べ、大きく進歩していた。

 まず最初の第一世代は、音声誘導式の、『カーナビかっ!』方式。そして僅か数十秒で終わった第一世代に代わり、第二世代はPPIスコープ(Plan Position Indicator scope)方式。戦争映画やアニメでよく見る、光の棒が360度くるくる回る、レーダー画面に使われているやつ。あれだ。


 そして今マイルが使っている第三世代型探索魔法は、画面の中央部から全周に向けて魔力が発振され、目標物を探知する。そう、アクティブ・ソナー方式であった。更に探知したものは分析情報が矢印や円、三角形などの図形で表示され、分析データが文字で示される。それが網膜投影により通常の視界に重ねて表示されるのであった。

 勿論、今回の依頼用に調整してあり、普段の表示パターンと併せて、指定目標は赤色の点滅で強調表示されるようになっている。植物も、生物も、鉱物も……。


「あら、何かしら?」

 特殊な魔法薬に使われるリイレン草は、人間が栽培しようとしてもなかなかうまくいかない。枯れるか、何とか育っても薬効の低い小振りなものにしかならないのである。

 ポーションの原料に使われるような、大量に必要とされるものではないためあまり真剣に研究されることもなく、たまに必要とされる場合には、常に品薄状態のため手に入らないか高価になるという、研究者泣かせの薬草であった。今回それがマイルにより既に5本も発見されており、エートゥルーとシャラリルはウハウハでそれらを採取している。


 しかし、一応は多くの研究者が栽培しようと試みた薬草である。薬草学には素人の少女が数本のリイレン草を見つけたからといって、そこから何かを発見できるとは思えない。

 そうは思っても、せっかくハンターの少女が積極的に協力しようとしてくれているのである、モチベーションを上げるためにも、ここは馬鹿にせずきちんと意見を聞いてやるのが良き雇用主というものである。エートゥルーは、そう考えたのであった。


「リイレン草が生えている場所の側には、いつもタフィナの木が生えていて……」

 それくらいのことは、少し調べたことがある者ならば皆知っている。しかし、ほんの短時間のうちに数例だけからそれに気が付いたというのは、なかなか見所がある。そう思ったエートゥルーとシャラリルが笑みをこぼすと。

「……ヨツメ草が近くに生えていて、銅を含んだ鉱石がありますよね?」

「「え……」」


 ぽかんとする、エートゥルーとシャラリル。

 今まで、リイレン草を栽培するために様々なことが試みられた。勿論、タフィナの木の周囲に植えることから、様々な土や肥料、薬品や強化魔法のたぐいに至るまで。そうやって、リイレン草を人間の手で栽培することに挑戦してきたのであるが……。

 その中に、タフィナの木以外の植物を一緒に植えて、更に特定金属を含む鉱石を側に置く、などという組み合わせを試した者はいるのか?

 ……いや、ふたりとも、そのような話は聞いたことがなかった。

 もしかすると、他の植物と一緒に、とか、鉱物を砕いたものを土に混ぜて、とかいうものを試した者はいたのかも知れないが、少なくともそれらを組み合わせたとか、それによって何らかの成果を得たとかいう話は聞いた事がない。


「……ど、どうしてそう思ったのかな?」

 少し動揺しながら、マイルにそう尋ねるエートゥルー。

 タフィナの木とヨツメ草はともかく、銅を含んだ鉱石など、土中に埋まっているものは勿論のこと、露出しているものであっても、土やこけに覆われ、草に隠れており、そうそう視認できる状態ではない。そしてもし鉱石を視認したとしても、それが銅を含む鉱石であるかどうかなど、素人の娘に判るとは思えない。

 一般的な銅鉱石は黄銅鉱であり、その含有率は200分の1程度。素人がちらりと見て『あ、銅の鉱石だ』などと思えるような外見ではない。


 しかし、マイルはエートゥルーの問いにあっけらかんと答えた。

「え? いえ、探索魔法にそう表示されていましたから……」

「「えええええええええ!!」」

 皆が立ち止まったため、何事かと近寄ってきていた『青い流星』の5人も、口を開けて立ち尽くしていた。

 皆が知っている『探索魔法』とは、決してそういうものではなかった。

 そう、『赤き誓い』以外の者達にとっては……。



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