283 報 告 4
「「「「「「…………」」」」」」
数分後。
マイルの説明に、半信半疑のハンター達。
無理もない。今まで聞いたこともない魔法の使い方を聞かされて、はいそうですか、とはいかないだろう。しかもその内容は、できれば自分達もパクり、使いこなしたいと切望するものである。
「で、そ、その呪文は……」
「それは、お家の秘伝なので秘密です」
メーヴィスが無詠唱で使っていても、勿論頭の中では高速で呪文を念じていた、ということになっている。
「メーヴィスさんはパーティメンバーであり、特別にうちの名誉家族としての立場を与えられていますので。その他の方は駄目です」
「「「「「「…………」」」」」」
そう言われては、個人の秘密を尊重するハンターとしては何も言えない。しかも、『お家の秘伝』と言われては、マイルの実家がただの平民だと考える者はいるまい。
「……諦めろ。新人から秘伝をパクろうなどという浅ましい考えをする奴が強くなれるとでも思っとるのか! ……いや、強くなれるのだろうがな……」
「馬鹿野郎、説得力皆無じゃろうが!」
ギルドマスターのあまりにも正直な台詞に、どやしつけるゴラセン。
「もう、お前は黙っとれ! ほれ、自分で試したい者は、並んで、順番に斬りつけてみろ。そこの奴だけだぞ、他のものには傷を付けるんじゃねぇぞ」
再びゴラセンが仕切り、マイル達は、すごすごとギルド支部の本館へと戻るギルドマスターと一緒に、解体場を後にした。
再びギルドマスターの部屋へと戻った一同。
「で、お前達のうち、ひとつのパーティに王都への荷馬車に同行して貰いたい。護衛兼、説明役としてだ。当事者がいた方が、説明が楽だからな。
報告者としては俺が行くから、あくまでも向こうからの質問に備えて、念の為、ということで、護衛としてのみ契約を交わす。勿論、報酬は少し色を付けるぞ」
『邪神の理想郷』と『炎の友情』のみんなの視線が、一斉に『赤き誓い』に注がれた。
特異種と戦闘したのは『赤き誓い』だけであるし、先程の話にあった『腕のいい魔術師を付けて、魔法で冷やしながら』ということからも、凄腕の魔術師がいる『赤き誓い』が同行するのが当たり前、というか、それ以外の選択肢は思い付かない。
「嫌よ」
「我々は、お断りします」
「遠慮します」
「パス!」
即答であった。
「ど、どうして……」
あまりにも速い、そして打ち合わせをしていたわけでもないであろうに息の合った4人の拒絶に、思わずそう呟いたウォルフ。
「だって私達、王都から来たのよ。修行の旅の途中なのに、わざわざ引き返すルートを選ぶ必要はないでしょう? 時間の無駄よ」
「選ぶ道は、未知の道。それが、修行の旅のハンターでしょう?」
レーナとメーヴィスの言葉に、自身も若い時に修行の旅をしたことのある両パーティの者達は反論できなかった。勿論、ギルドマスターも修行の旅は経験がある。そのため、皆が『赤き誓い』が適任だとは思っていても、それを強制することは憚られた。
そして『赤き誓い』が王都へ行きたがらないのは、確かに来た道を引き返して無駄な時間を使いたくないこと、懐疑的な態度のお偉いさんにわざわざ必死で説明するなどという役割は御免だということもあったが、最大の理由は、アレであった。
((((あのフィギュアと、誇張された卒業検定の話が広まっているところになんか、誰が戻るかッッッ!!))))
『赤き誓い』がこの依頼を受ける可能性は、皆無であった。
* *
「では、これで失礼します」
結局、『赤き誓い』は王都行きを辞退した。そして、『邪神の理想郷』と『炎の友情』も。
彼ら2パーティは特異種との戦いには参加しておらず、それを自分達がやったかのように他者に説明できるほどの恥知らずではなかった。それに、答えきれない質問をされたら困る。
そして、別に、ギルドマスターはどうしても同行者が必要だったわけではない。マイル達から詳細説明を聞いておけば、あとは現物を見せれば大丈夫であろう。
どうやらギルドマスターは『赤き誓い』を同行させて、道中で色々と聞き出すつもりであったらしく、『赤き誓い』が同行をきっぱりと断った後は、残りの2パーティが辞退するのは特に気にした様子もなかった。
1階の受付でそれぞれ護衛の依頼料を貰い、引き渡したオークやオーガの代金は詳細査定をしたあと後日渡されるということなので、それは3等分して各パーティに渡すよう頼んでおいた。
3等分、ということに、『邪神の理想郷』と『炎の友情』は「自分達がそんなに受け取るわけにはいかない」と言って辞退しようとしたが、『赤き誓い』は、あのポーリンでさえもが3等分を主張して引かず、結局はそれを押し切ることとなった。
引き渡した獲物には、特異種だけでなく、勿論往路で仕留めた7頭の普通のオーガも含まれている。
「すまんな……。毎回、手柄と獲物を譲って貰うことになって……」
2つのパーティを代表してそう言うウォルフに、軽く手を振って『気にすんな』という身振りをする『赤き誓い』の4人。
そして皆が別れようとした時。
「あ……」
マイルが声を上げた。
「何よ?」
怪訝そうなレーナをスルーして、マイルはウォルフに向かって聞いた。
「あの~、前から気になって気になって仕方がなかったんですけど、ひとつ聞いてもいいですか?」
「ん? ああ、構わんぞ。何でも聞いてくれ」
そう言ってくれたウォルフに、マイルは意を決して尋ねた。
「あの、みなさんのパーティ名の『邪神の理想郷』って、どういう理由でその名になったんですか?」
それを聞いて、あちゃ~、という顔の『炎の友情』の面々と、なんだそんなことか、と動じた素振りもない『邪神の理想郷』の面々。
そしてウォルフは、その名の由来を教えてくれた。
「実は、俺達はハンター稼業で金を貯めたら、それを元手にして孤児院を作りたいと思っているんだよ……」
「「「「え?」」」」
ウォルフの思わぬ言葉に意表を衝かれ、固まる『赤き誓い』の4人。
まさか、そんな立派な目的を持っていたとは思いもしなかったことと、それがなぜ『邪神』という言葉に繋がるのかが理解できなかったためである。
「それで、俺達がパーティを作る時、申請書を受け取った受付嬢が俺達に聞いたんだよ、『女神の理想郷』ってパーティ名にした由来は何か、って。いや、申請の受付に必要だったわけじゃなくて、ただの世間話だったんだけどな。そして俺達は、正直に答えた。『金を貯めて、みんなで孤児院を作るんだ。文字通りの、女神の理想郷をな』って……」
マイル達は、あれ、という顔をした。……パーティ名が違う。
「そして、詳しく説明した。『集める孤児は、女の子だけ。できれば、エルフとかケモミミ幼女とかを中心に集めたい』って……。そうしたら、受付嬢の顔が歪んだように見えた。
で、後で確認したら、登録パーティ名が『邪神の理想郷』になってた……」
「「「「…………」」」」
コイツら……。
感心して、損した……。
死んだらええねん……。
警吏さん、コイツらです!
ゴミを見るような4人の冷たい視線に、何となく居心地の悪さを感じたウォルフは、急いでここから離脱すべく『炎の友情』のリーダーに声を掛けた。
「行くぞ、ベガス!」
(て、テックセッター!)
そして、相変わらずわけの分からないことを考えているマイルであった……。