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282 報 告 3

「よし、大体集まったな……」

 ゴラセンが、周りを見回して言った。

 もう、ギルドマスターは全てを諦めたらしく、隅の方でいじけている。


「これが、ついさっき届けられた、新種のオークとオーガだ。見ての通り、外見は普通種のくせに、オークはオーガ並み、オーガはオーガキング並みの身体をしてやがる。戦った者達の話によると、事実、その通りだったらしい。……そう、一見普通種っぽく見えるこいつら、全部がだ!」

 周りのざわつきが大きくなった。

 当たり前である。それは、その魔物達に出会ったハンターの死を意味するのだから。それが、こんなにたくさん並んでいる。ざわつかないはずがなかった。


「……安心しろ。ここに、これだけ多くの死体がある、ということは、だ……」

 ようやく、ゴラセンが言っている意味が分かり、安心するハンター達。

「そうだ。つまり、これだけの数が狩られたということであり、もう残っちゃいねぇ、ってことだ! 『邪神の理想郷』と『炎の友情』、そしてもうひとつは、ええと……、そうそう、『赤き誓い』だったな、その連中に感謝しとけよ!」

「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」


 他のパーティが命懸けの大活躍をして、自分達の危険を排除してくれた。それも、信用のある堅実なベテランハンターである『邪神の理想郷』と『炎の友情』が、である。

 功名心にはやった若造達ならばともかく、安全第一の堅実な彼らが大きな危険を冒してまで皆のために頑張ってくれたということは、感謝と称賛に値した。先日の、新米パーティを守っての魔物の群れの押し返し、そして今回のボランティア的要素の強い護衛依頼の引き受け等、この街、そしてこの街のハンター達のことを考えての行動が多い両パーティに、多くの称賛の眼が向けられた。

((((((やめろ! やめてくれええええぇ~~!!))))))

 そして、心の中で悶え苦しむ『邪神の理想郷』と『炎の友情』の面々であった……。


「おい、お前ら、そこのオーガを斬ってみろ」

「え……」

 ゴラセンの指示に、戸惑ったような声を漏らすハンター。

「いつか出会うかも知れねぇんだ、その時の役に立つ!」

 そう言われて、幾人かが剣を抜いた。それを見て、周囲の者は、少し下がってスペースを空けてやった。

「ていっ!」

 ひとりめが思い切り剣を振った。いくらオーガが床に置かれている状態であっても、振った剣を床に当てるような未熟者はいない。

 そしてオーガの胴に当たった剣は、少し食い込んだだけで止まった。


「……くっ、固い!」

 対象が床に寝かされた状態では剣を振る体勢が悪く、普段の威力は出せない。しかし、それにしても、明らかに自分が思っていたような結果を出せなかったらしいハンターは、悔しそうな表情であった。しかし、意地になって再挑戦することなく、次の者に順番を譲るあたり、結構冷静なようである。


「ぬおっ!」

「くそ、まさかこれ程とは……」

 次々に試すハンター達は、最初の男の様子を見ていただけあって、真剣に、全力で剣を振った。しかし、いずれも結果は不本意なものとなったようである。槍士も試し突きをしていたが、やはり思った程深く突き入れることができず、唸り声を上げていた。


「……しかし、こいつらは一撃で倒されてるじゃねぇか! ほれ、そこのも、そっちのも、胴体をスッパリと綺麗に切断されてやがる。

 おい、ウォルフ、これはお前達の仕業か? いったいどんな斬り方したんだよ。ちょっとやってみせてくれよ!」

 皆、昔からの顔見知りである。一緒に仕事をしたことがある者も多く、『邪神の理想郷』や『炎の友情』のメンバー達が天才剣士だというわけでも、魔剣や神剣を持っているわけでもないことくらいはよく知っている。前回の魔物押し返しの件といい、急に大活躍を始めた2パーティの腕を再度確認したいと思うのは当然であろう。


「「「「「「…………」」」」」」

 しかし、本人達は困り果てていた。

 当たり前である。自分達にも、皆と同じ程度にしか斬ることができないのだから。

 その窮状を見かねて、メーヴィスが横から申し出た。

「それは、私がお見せ致しましょう」


 別に、それくらいは構わない。

 『赤き誓い』があまり人前で見せたくないのは、あまりにも世間の一般常識から隔絶した技や、権力者や大商人、他のハンターや犯罪者等が近寄ってきたり、悪用されたりする心配がある魔法とかであって、ひとりの剣士がBランクやAランク並みの剣技を見せたところで、大した問題ではない。

 そもそも、修行の旅の目的からして、自分達の修行ということの他に、『パーティの名を売る』ということがあるのである。自分達の強さをアピールしないのでは、後者の目的が果たせない。

 なので、便利さと稼ぐ効率を優先して隠さないことにしたマイルの収納魔法に加えて、メーヴィスの剣技も、秘薬『ミクロス』の存在以外は、別に隠す必要はない。

 ……ポーリンのホット魔法の存在だけは、なるべく隠したいとは思っているが……。


 メーヴィスが1頭のオーガの側へ歩み寄り、レーナ達は逆に少し下がって、メーヴィスが剣を振る邪魔にならないように充分なスペースを空けた。


(頼むぞ、我が愛剣よ……)

距離を取った見物人達には聞こえないような小さな声で、そう呟くメーヴィス。

 メーヴィスは、剣速は速いが、その筋力は、いくら鍛えたとはいえ、所詮は貴族のお嬢様である。ゴリラのような肉体になるまで鍛えたわけではなく、お嬢様体型のままであるメーヴィスの筋力は、『真・神速剣』を使って、ようやく普通の男性Cランクハンターを少し越える程度に過ぎない。

 そこに剣速の速さと戦闘センスが加わって、強さとしてはもう一段階上がるのであるが、据え物斬りである今回は、その部分があまり活かせない。なので、オーガ戦の時のような剣の切れ味に期待するしかない。

 まぁ、もし失敗したとしても、恥を掻くのは自分だけである。他の2パーティに迷惑をかけることはあるまい、と考えて名乗り出たのであるが、出来得るならば大勢のハンター達の前で笑いものになることは避けたかった。なので、剣に小声でささやきかけたのであるが……。


(キタ! キタキタ!)

 メーヴィスの剣専属になったナノマシン達は思った。やはり、この役目は退屈せずに済む、と。募集がかかった時、近くにいたのは僥倖であった。天文学的な倍率を突破できたことも。

 そして空気を読んで、今回は見栄え重視のエフェクトは無し。人間達には気付かれないように、そっと『切れ味を落とすためのコーティング』を解除した。外見は変わらないようにして……。


「真・神速剣!」

 すっぱり。

 それ以外の表現がない程鮮やかに、すっぱりと上下に切断されたオーガの身体。

 勿論、床には傷ひとつない。

 オーガの自重じじゅうで床に押し付けられた状態で、床面に毛筋程の傷も付けずにその身体を両断する。それは、いくら優れた筋力と名剣を持っていようと、どうにもならないはずの技であった。

「「「「「「…………」」」」」」

 静まり返る、解体作業場。

 皆、ようやく理解したようである。

 この3パーティの、連続しての大手柄の理由に。


「……と、まぁ、こんな感じで……」

 メーヴィスがそう言いながら振り返ると……。

「ひっ!」

 ハンター達に取り囲まれていた。


「い、今のは、どういう技だ!」

「『神速剣』とは何だ? 魔法か? それとも、剣技を極めた奥義なのか?」

「その剣は、普通の剣ではないのか?」

 敵ではない大勢の者達に取り囲まれての詰問。

 ……メーヴィスが苦手とする状況であった。

 固まったまま、何も喋れないメーヴィス。

「あ~、私が御説明します……」

 そしてマイルが、説明役を買って出た。そう、前回の、ドワーフ達への説明を繰り返すために。

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