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252 辺境の都市 2

「お前達が、依頼を受けたハンター達か……」

 2日後、例の依頼を受けた『赤き誓い』は、集合場所である領軍の駐屯地にやってきた。そしてまずは、指揮官である小隊長への挨拶であった。

 今回の参加兵力は、領軍が1個小隊40名、ハンターが3パーティ15名で、合計55名。そう、『赤き誓い』の他にも、ふたつのパーティが参加している。

 実は、受付嬢がこっそり教えてくれたところによると、本当は受注する気はなかったそのふたつのパーティは、他国から来た若い女性ばかりのパーティが全滅したり、兵士達に乱暴されたりするのを危惧して、わざわざ危険を承知で参加してくれたらしい。

『だから、何かあったら、彼らを頼りなさい。どちらも、信頼の置けるパーティですから』

 受付嬢にそう言われ、他のパーティに迷惑をかけたらしいこと、そしてそれが原因で死なれたり大怪我をされたりしたら大変なので、少し気分が引き締まった『赤き誓い』の面々であった。


「今回は多くの者が参加してくれたので、助かる。色々と嫌な思いをするかも知れんが、農民達のため、そしてその農民達が汗水垂らして作ってくれた農作物や家畜の恩恵にあずかる多くの領民達のためだ、そこをこらえて、よろしく頼む!」

 意外にも、討伐隊の指揮官は、話の分かる人物のようであった。

 やはり、ヤクザも軍人も、上の方の人は常識を弁えた者が多いのであろうか……。


「ティルス王国から、修行の旅で来ました、『赤き誓い』です。よろしくお願いします!」

 指揮官との顔合わせが終わった後、他のパーティに挨拶する『赤き誓い』の面々。

 受付嬢の話によると、どうやらいい人達らしいし、ここはきちんと礼を尽くしておくべきであろう。そして何と、レーナまでが、猫を被ってしおらしく挨拶をしていた。しかも、にっこりと笑顔付き。どうやら、レーナも少しは『サービス』というものを覚えたようである。

「笑顔とリップサービスは無料タダですからね」

 しかし、ぽつりと呟かれたポーリンの余計なひと言で、台無しであった……。


「『邪神の理想郷』のリーダー、ウォルフだ。あっちは、『炎の友情』、リーダーはベガス」

 ウォルフの紹介に、もうひとりの男性が軽く右手を挙げて挨拶した。レーナ達も、軽く頭を下げてそれに応える。

「俺達はハンター、魔物相手の専門家だ。だから、領軍の奴らに後れを取るわけにはいかん。なので、奴らの2~3倍の働きはせねば、ハンター全体の名を落とすことになる。俺達『邪神の理想郷』と『炎の友情』が奴らの3倍の働きをするから、お前達は2倍くらいを目指して頑張ってくれ。

 なに、奴らは対人戦ではないこんな任務では怪我をしたくないと思って消極的だから、Cランクハンターが普通にやってりゃそれくらいは楽勝だ、心配するな!」


 ふたつのパーティは、共に30代前半から40歳前後の壮年の男達であり、若い女性をどうこう、というような年齢ではなかった。多分、『赤き誓い』は自分達の娘くらいの年齢に当たるのであろう。それも、彼らがわざわざこの依頼を受けた理由のひとつなのかも知れなかった。

 護るべき家族がいるであろうに、わざわざ親しくもない他人のために割の合わない依頼を受ける。

 ……馬鹿であった。

 しかし、『赤き誓い』は、馬鹿さ加減では人のことは言えなかったし、そういう馬鹿は嫌いではなかった。ただ、自分達のせいで怪我人を出さないようにせねば、と思うばかりである。


(『炎の友情』……。何か、ひとりくらい魔物に殴り殺されそうな名前だなぁ。気を付けよう……)

 そしてマイルは、いつものように、よく分からないことを考えていた。

(それにしても、『邪神の理想郷』の命名理由が気になるなぁ……)




 そして、顔合わせの翌日。『魔物押し戻し』の決行日である。

 実は、隣国が嫌がらせの魔物追い払いをやる日は分かっている。

 隣国も増援のハンターを雇うため、そちらから情報が廻ってくるのである。ハンターギルド支部同士で情報が流れるし、ここの領主も馬鹿ではない。むこうのハンターギルド支部に所属している者を雇って、情報を流して貰っているそうである。

 なので、向こうが追い払いを始めた2日後に、こちらが出発する。それで、向こうが追い込んできた魔物が森から出てくる前に押し戻せるそうなのであるが……。


「向こうと同時に始めたら、国境で押し戻せるんじゃないですか?」

 そう聞いたマイルに、今回の指揮官である小隊長が答えてくれた。

「以前、それをやったことがある。その結果、前方を隣国から来た魔物とそれを追う兵士に塞がれた魔物が反転して、我が軍の兵士にかなりの被害を出したのだ……。それは向こうも同じで、あちらもかなりの被害を出したらしい。それ以来、同時開始はやっていない」

 それを聞いて、呆れたような声を出すポーリン。

「それなら、嫌がらせ自体をやめればいいのに……」

 小隊長が、肩を竦めた。それは向こうに言ってくれ、という意味であろう。確かに、こちら側に言われても仕方ない。

 そして小隊長から全員に対して注意事項が示達され、いよいよ出発である。


 示達された注意事項は、3つあった。

 ひとつ、第一優先は自分達の無事である。魔物の討伐や追い返しより、自分と仲間達の安全を優先せよ。

 ふたつ、猟師の獲物となる動物や魔物には、なるべく手を出さないこと。追い返すのは、オーガやゴブリン等を中心とする。

 みっつ、国境線は絶対に越えるな!

 以上であった。

 ハンターであれば、魔獣相手の依頼で国境を越えても問題はないが、領軍の兵士が任務行動で他領や他国に侵入するのはマズいらしかった。……それはそうであろう。いくら相手側からの挑発行為があったとしても、それはマズい。さすがのマイル達にも、それくらいは分かる。


 そしてチーム編成は、4つに分けられた。

 小隊の4つの分隊が、それぞれ第1分隊から第4分隊までそのままで、第1分隊に『邪神の理想郷』、第2分隊に『赤き誓い』、そして第4分隊に『炎の友情』をくっつけて、第3分隊には小隊長と副官、それと2名の上級下士官を加えて、指揮機能を持たせたものである。

 各分隊は9名の兵士から成るので、総兵力としては、第1分隊から順に、14、13、13、15であり、合計55名である。

 友軍兵士であれば誰と組んでもスムーズな連携を取って戦えるよう訓練している兵士とは違い、ハンターパーティを分割するのは愚の骨頂である。また、兵士の被害を減らすために雇ったハンター達を独立行動させては意味がない。そして、前後をベテランハンターに護らせ、中央に指揮機能を持つ分隊を配置する。……誰が見ても納得できる編成であった。


 戦闘時は横に展開して戦うが、移動時は2列縦隊で進む。1列だと前後に長く伸び過ぎて奇襲を受けた際に危険であるし、臨機応変な隊形変更ができなくなる。

 移動中は、『赤き誓い』は前を一緒に組んだ第2分隊の兵士達、後ろを第3分隊と一緒になった小隊長以下指揮チームに挟まれる形となっていた。


「……チッ、大金を払って雇ったのが小娘かよ。これじゃ、盾にもなりゃしねぇ……」

 『赤き誓い』の前を歩く男が、吐き捨てるようにそう呟いた。

 『赤き誓い』の前、つまり分隊兵士の最後尾にいるのは、当然、『赤き誓い』が割り振られた第2分隊の分隊長を務める下士官である。地球の軍隊でいうならば、軍曹あたりであろうか……。

 戦闘時には、基本的にはハンター達はそれぞれのパーティリーダーの指揮で戦うが、もし領軍兵士から指示があった場合には、小隊長、副官、上級下士官、そして自分が割り振られている分隊の分隊長、という優先順位で、その指示に従うこととなっている。


 勿論、あまりにも理不尽な指示、つまり『時間を稼ぐために、死ぬまでここで敵を食い止めろ』などという命令は契約外として無効であるが、『右側の敵を叩け』とか、『偵察に行け』等の指示であれば、依頼主からの業務指示として受けざるを得ない。

 ……つまり、分隊長がそのつもりであれば、ハンターを『死ぬ危険性が高い方向に誘導する』ということが可能なのであった。

 勿論、ハンターが死んだからといって、報酬金の支払いをせずに済むわけではない。既に報酬金はギルドに供託されており、それは生き残ったパーティメンバーか遺族に支払われる。もし受取人がいない場合には、報酬金はギルドのものとなり、ハンター全体のために使われることとなる。

 だから、分隊長に敵視されたからといって、おかしな真似をされることはあまり考えられないのであるが、それでも、『邪神の理想郷』と『炎の友情』の2パーティが心配して一緒にこの依頼を受けてくれる程度の危険性はある、ということなのであろう。

 そう思い、再度気を引き締める『赤き誓い』の面々であったが……。


「くそ、反対に俺達が護ってやらなきゃならないとは、とんだお荷物だぜ……」

 どうやら、心配して、護ってくれるつもりらしかった。

「「「「たはは……」」」」

 がっくりとして、苦笑いを浮かべるしかない『赤き誓い』の面々であった……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] それにしても、『邪神の理想郷』の命名理由が気になるなぁ……。 マイルもそう思う?読者もそう思ってる。その歳で厨二病拗らせてるのは何故か?
[良い点] このすべフェリシアとあまり変わらない計らいだが、赤基地も成長したかな。
[一言]  思いの外良い人達の集まりw
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