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238 アスカム子爵領 7

「ど、どどど、どうすんのよ……」

「ど、どどど、どうしましょうか……」

「お、おおお、落ち着け、みんな……」

「おかしいですねぇ……」

 レーナ、マイル、メーヴィスが焦りまくる中、ひとり平然としているポーリン。


「確かに、領都までの敵の進軍経路上の村からは村人と物資を撤収、最終決戦は領都で、と書いたのですが……。

 領都とはいっても、所詮はただの田舎町です。ここは別に城郭じょうかく都市としというわけではなく、領主邸もただのお屋敷であって、城や砦というわけではないのですから、籠城戦などあり得ませんし……。

 あの時の様子からは、マイルちゃんからの書簡を無視するとは思えませんし、今までのところ、全て指示通りにしてくれていましたのに……」

「「「…………」」」

 ポーリンの言う通りである。送った書簡の文面は、全員で何度も確認した。なので、間違いはない。皆は、領軍の行方に頭を捻ったが、心当たりはない。

 さすがに、領都を見捨てて逃亡したとは思えない。


「あ、帝国軍が偵察部隊を出したぞ!」

 メーヴィスが言う通り、帝国軍もあまりの領都の無防備さを不審に思ったのか、30人前後の偵察部隊を出したようである。

 その偵察部隊が領都にはいり、少し進んだところで……。

「「「「あ!」」」」

 建物の窓や屋上から矢や投槍、石やその他様々なものが降り注ぎ、次々と倒れ伏す兵士達。そして、建物から飛び出す、手に手に武器を手にした男達。


「「「「え……」」」」

 『赤き血がイイ!』の4人が驚くのも、無理はない。男達が手にしているのは、剣や槍だけではなく、包丁、くわ、モップの柄らしきもの、その他諸々の、明らかに兵士が持つにはふさわしくない武器の数々であった。

「あの人達の大半は、兵士ではなく、ただの領都民や避難してきた村人達のようですね……」

「あ」

 ポーリンの言葉に、マイルが何やら思い至ったようである。

「市街戦だ……。ジュノーさん、『最終決戦は領都で』っていうのを、領都を死守するためにその前方で戦うんじゃなくて、領都そのものを決戦の場としての市街戦だと思ったんだ……」

「ど、どういうことよ!」

 マイルは、意味が分からないらしいレーナに説明した。


「障害物が何もない平地だと、数が多い方が圧倒的に有利です。いくら、少々弱らせた敵であっても……。なので、ジュノーさんは、数の有利が活かしにくい場所を戦場に選んだんですよ。そう、障害物が多くて見通しが悪く、狭い裏路地とかだと一度に大勢が戦えず、自分達が地形や建物の状況を熟知していて、そして、そして、領都民の全てが戦いに参加できる場所を……」

「ばっ、馬鹿な! 戦いは兵士の役割だ、一般民を敵の兵士と戦わせてどうするというのだ!

 兵士達が敗れれば戦いは終わり、支配する国や領主が変わっても、領民は生きていける。それが戦い、戦争というものだろう! これでは、非戦闘員、女子供や老人、病人や怪我人達もが、みんな戦いに巻き込まれて死んでしまうぞ!」

 メーヴィスが叫ぶが、そう言っても、もはやどうしようもない。


「……戦いとは、総力戦とは、そういうものです。戦争は、一般の国民とは別に、政府と軍隊だけによって行われるものとは限りません。国民全てが、金銭、労働力、その他様々な分野で戦争に貢献することが求められます。勿論、時にはその命も……」

 マイルはそう言うが、この世界では、まだその概念は一般的なものではなかった。

「薬が効き過ぎました……」

「え?」

「マイルちゃんのことを、女神になったお母様だと勘違いしているのを利用したものだから、どんな手を使ってでも絶対に勝たなくちゃ、とか、そのためには何をしても構わない、とか考えたのかも。そして、それを領民達にも布教した……」

「じゃ、私のせいで……」

 ポーリンの言葉に、顔色を変えるマイル。

「いえ、それは違います。原因は、マイルちゃんにそう書くように提案した私です。そして、こうなることを予見できず、それを禁止する文言もんごんを書簡に盛り込まなかった私に責任があります。だから……」

「だから?」

「私が責任を取ります。ホット魔法を全開で周囲に噴き出しながら敵の中心に突っ込めば、多分、大混乱になって……」

 つまり、特攻である。いくら敵に混乱を与えられても、生きては戻れまい。

「却下です!」

 マイルは、切羽詰まったようなポーリンの言葉を斬り捨てた。

「ここはアスカム領で、私のもうひとつの名は、アデル・フォン・アスカム。ここは私の領地であり、彼らは私の領民達です。だから、それは私の役割です! それに……」

 マイルは、にいっ、と悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「最終決戦の場に女神様が現れないと、ジュノーさんが嘘吐き呼ばわりされちゃうかも知れません。それは、ちょっと可哀想ですから……。

 じゃ、ちょっと行ってきますね!」


 ひゅん!

 そして次の瞬間、既にマイルの姿はなかった。

「マイルちゃん……」

「マイル……。よし、では、我らも後に続き……」

「じゃ、逃げ出す準備をしておくわよ!」

「「え?」」

 メーヴィスの言葉を遮った、レーナの暢気のんきな台詞に驚くふたり。

 しかし、レーナはそれを気にも留めず、のほほんとした口調で言った。

「私達が行っても、マイルの邪魔になるだけよ。そして、他に何かやることがある? どうせすぐに、やらかしたマイルが『はわわわわ、やっちゃいました~!』って戻ってくるに決まってるんだから!」

「……それもそうだな」

「そ、そうですよね……」

 そして、メーヴィスが遠くを眺めるような眼をして言った。

「それに、どうやら何も問題はないらしい……」




「格子力、バリアアアアァ!」

 身体の全周に半径1メートルくらいの格子力バリアを張ったマイルは、かなり抑えた速度で帝国軍のど真ん中を突っ切った。

「ぐえっ!」

「ぎゃあ!」

「うわああぁ!」

 そして次々とバリアで帝国軍兵士達を弾き飛ばし、吹き飛ばしながら、その前方、つまり帝国軍と領都との間に飛び出した。

 そこで立ち止まり、くるりと向きを変えたマイルは、アレをやった。そう、アレである。


「変身です! マイル・女神化現象ゴッデス・フェノメノン!!

 光線屈折、散乱! 水分凝結、冷却して結晶化、形成! 重力中和、形成維持……、合体! ファイナル・フュージョン!!」

 マイルの後方に形成された、煌めく氷晶の翼。そして、頭上に形成された、輝くリング。それらがマイルに装着される。

重力遮断ケイバーライト!」

 重力を遮断して、トン、と軽く地面を蹴り、10メートルくらい上空に浮き上がるマイル。そこで上方に向かってふーふーと必死で息を吹き、ブレーキを掛けて停止する。


(どうせもう、メチャクチャだ!

 いくら仮面を着けていたって、身バレする確率はゼロじゃない。もし、万一正体がバレたら。

 こんなことをやっちゃったのが私だとバレたら、もう、のんびりとした普通の人生なんか送れっこない……)

 そう思ったマイルは、もう、ヤケクソであった。

 そしてマイルは、空気を振動させ、帝国軍の隅々にまで声を届かせた。

「オロカモノメ!」

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― 新着の感想 ―
オロカメン……デロリンマンを知ってるとは…… 前から気になってたけど 作者さんってお幾つ? 60台の私らから上しか知らないネタが多過ぎ^^;
[一言] オロカメンwwwwwwww 不意打ち過ぎるwwwww
[一言] 女神降臨はお約束。
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