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228 閑話 婚約破棄大作戦 4

「ち、父上、どこへ……」

「オースティン家に決まっているだろう! 土下座してでも婚約破棄の撤回を受け入れて貰う!」

「「…………」」

 果たして、それが通るのか。夫人とジャスフェンの表情は暗かった。


 そして急かした馬車がようやくオースティン家に到着し、執事に案内されて中へと通された侯爵は、オースティン伯爵に深々と頭を下げた。

「済まぬ! 思い切り罵ってくれても構わぬ、そして土下座せよと言うならば、この場でして見せよう。だから、頼む! 先程の私の言葉は無かったことにして、予定通り、メーヴィス嬢と息子との婚約を……」

 必死のウォイトダイン侯爵に、苦々しげな顔をしたオースティン伯爵が懐から1枚の羊皮紙を取りだして、差し出した。

 そこには、こう書かれていた。


『傷心をやすため、しばらく旅に出ます。捜さないで下さい。 メーヴィス』

 どうせ、仲間達と一緒であろう。そう思っているので、あまり心配はしていない。しかし、それで侯爵達に対する怒りが収まるわけではない。しかも、図々しくも再度の婚約申し込み。さすがの伯爵も、忍耐の限界ぎりぎりであった。


「…………この代償は、高くつきますからな……」

 地獄の底から聞こえてくるようなオースティン伯爵の声に、ウォイトダイン侯爵は床に膝をついた。さすがに土下座ではないが、それは、普通、侯爵が伯爵に対して行うことではなかった。

「分かっておる。謝罪金の他に、伯爵が提出する上申や議案の後押し、派閥としての譲歩等、色々と配慮する。メーヴィス嬢を傷付けたこと、謝って済むことではないが、それで何とか許しては貰えないか……」


 政治的な戦いでは遣り手の侯爵も、他家の娘の心を傷付けて家出に追い込んだとあっては、自分も娘を持つ身として、ただただ謝罪するしかない。

「……分かりました。過ぎたことは、もうどうしようもありません。夕食と今夜の宿は提供致しますから、話はあとで。但し……」

「但し?」

「帰ってくる息子達3人への事情説明は、御自分でお願いする。そして奴らからの制裁は、黙って受けて戴きたい」

「……甘んじて、お受けする」




「凄いな、さすがポーリンだ! 何もせず、ただ普通にしていただけなのに、無事婚約が破棄された。それもむこうからの破棄だから、父上の立場も悪くならず、逆に相手側に対する貸しになったようだ。いったい、どんな魔法を使ったんだい?」


 約束の場所で落ち合ったあと、王都に向かう『赤き誓い』の4人。

 そしてメーヴィスの質問に苦笑する、レーナ達3人であった。

 さすがのマイルも状況を理解しており、よく分かっていないのはメーヴィスだけである。隠し事の苦手なメーヴィスのため、メーヴィスには自分の役割のみを教え、作戦の全体像は教えていなかったのである。

 しかし、もう全てが終わったし、次にメーヴィスが帰省した時に話が合わないと困るであろうからと、ポーリンが全てを説明した。


「え……。そ、それじゃあ、私が婚約破棄されたのは、ジャスフェン殿がマイルに目移りしたからで、私を捨てて乗り換えようとしたから、と……」

「はい、そうなんですよ。だから、うまく相手側から婚約の破棄を申し出てくれました。マイルちゃんが、以前3番目のお兄さんに見せて戴きましたメーヴィスさんの昔の姿絵に全体的な雰囲気が似ているから、昔のメーヴィスさんに一目惚れしたなら、引っ掛かると思っていましたよ。

 それに、子爵位付きで、剣の腕に、魔術師としての能力と、それが子孫へと伝わる可能性。そこにマイルちゃんの知識と、人懐ひとなつっこさ。もう、イチコロでしたね!」

「な……」


「あ、別に嘘は一切吐いていないし、別に罠にかけたってわけじゃないですよ。まぁ、悪い人ではなかったですけど、昔メーヴィスさんをひと目見ただけで、っていうのは、つまり外見だけで判断したということであって、別にメーヴィスさんの中身が好きなわけでも何でもないですよね。ただの、女性を見た目だけで判断する、クソ野郎です」

 ポーリンは、自分の胸ばかり凝視する男共にはうんざりしていたため、女性の外見だけでその価値を判断する男達には厳しかった。


「そして、あとはメーヴィスさんが伯爵家の令嬢であること、優れた剣技でそこそこ名前が売れてきたこと等から、武闘派貴族である自分の息子の嫁に、と考えたわけですよね? 身分と自分達に都合の良い能力に目を付けただけで、打算だけじゃないですか。

 メーヴィスさんというひとりの女性に対して惚れたわけではなく、ただの利用価値のある女性、というだけですよね。だから、より利用価値のあるマイルちゃんを目の前にぶら下げたら、簡単に食い付いた。メーヴィスさんが惜しく思ったり、罪悪感を感じたりするような相手じゃありませんよ」


 メーヴィスが落ち込んでいるようなので、相手方に対する罪悪感を抱いているのだと思ったポーリンは、相手側を下げて、「メーヴィスさんは悪くない」ということを強調した。しかし。

「……私が、結婚相手として、マイルより格下。簡単に乗り換えられるくらい、完全に格下……。

 この年齢、この身長、この胸、この抜けた顔、この常識の無さのマイルより、明らかに格下……」

 メーヴィスは、立ち止まり、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。泣きそうな顔で。


「メ、メーヴィス、気にしちゃダメよ! あいつらは、メーヴィスやマイルの中身を知っているわけじゃないんだから! 少し付き合えば、どっちをお嫁さんにしたいか、すぐに判るわよ!」

「そうですよ、メーヴィスさん、の、方、が……」

 レーナに続いてメーヴィスを慰めようとしたマイルが、ようやく気が付いた。今、メーヴィスとレーナから、自分が何を言われたのかということに。


「な、ななななな! 何ですか、それは! 皆さん、私のことを、いったいどう思って……」

 マイル、激おこである。

「ちょっと! 答えて下さいよ!」

「ううううう……」

「マイル、今はメーヴィスをそっとしておいてあげなさい!」

「レーナさんもですよ! え? 誰が中身がクズですか! 誰が嫁に行けない喪女ですか!」

「そ、そこまでは言ってないわよ……」

「言ったも同然ですよぉっ!」

「まぁまぁ……」

 ポーリンが仲裁にはいるも、メーヴィスが立ち直り、マイルの怒りが収まって移動が再開できるようになるまでは、まだまだ時間がかかりそうであった……。



『平均値』、遂に世界規模の作品になる!!(^^)/


以前、韓国語版の出版により国際的作品となりました『平均値』ですが、何と、今度はA5版、いやいや、英語版の出版が決定!(^^)/

既にAmazonで予約受付が始まっており、「Funa average」で検索すれば、一発ヒットします。


来年6月に1巻、7月にコミックス1巻、8月に2巻、以後、毎月出るようです。勿論、表紙の画像はまだついていません。

これで、外国人のお友達にも勧められるので、安心です。(^^)/


……しかし、駄洒落の部分はどう訳されているのだろうか。

それを考えると、夜も眠れない……。(^^ゞ

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― 新着の感想 ―
[良い点] マイルはクズではないけれど、アデル・シミュレーターで証明されてるように、ポンコツで残念な娘には違いないことに、読者としては同意致します。喪女になるかどうかは、これからの彼女次第かと。
[良い点] なるほど、移動経路的におかしいなと思っていたけど、そういうことだったのか。 でも、リートリアの話から子爵バレの話が多いし、身分を生かした話は好き。
[一言]  扱き下ろされたマイルさん、うん、いつもことですねw  間違ったと思って感想消してまた同じこと書き直してしまった( ̄▽ ̄;)なにやってんだろ…
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