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223 七つの顔の女だぜ! 12

「Cランクハンター、『渦巻く炎』。2度の盗賊行為は、出来心ではなく、常習と判断する。

 しかし、実質的な被害者は1回目の盗賊行為のみであり、男も殺さず、全員を違法奴隷として生存させるよう配慮したこと、反省の念が著しいことから、Bランク終身犯罪奴隷とする。

 そして、違法奴隷業者の摘発に協力し、もし被害者が全員無事に戻ってきた場合、Cランク終身犯罪奴隷、もしくは年限犯罪奴隷に刑罰を軽減することを考慮するものとする」

 涙をこぼしながら、深々とお辞儀するCランクハンター、『渦巻く炎』の面々。凶悪犯罪の2本柱、盗賊と人身売買に手を出していながらのこの処罰は、予想外の大温情である。奴隷業者の摘発を重視し、また、安くしか売れない上に面倒事の元となりやすい男性達も殺さず、悪人なりに誠意を示していたことが良い印象を与えたのか……。


 Cランク終身犯罪奴隷だと、その扱いは決してそう悪くはない。死の危険は殆どなく、作業もそれ程耐え難いものではない。たまには酒が振る舞われたり、そして滅多にないことではあるが、運が良ければ、模範囚として一般職に就ける可能性すらある。ましてや、年限犯罪奴隷ともなれば、給金が貰えないのと自由がないだけで、暮らしそのものは決してそう悪くない上、期日が来れば、確実に自由の身になれるのである。

 下手をすれば、Aランク終身犯罪奴隷もあり得たのだ。皆が涙を溢すのも無理はない。


 判決を言い渡された者達は、次々と部屋から連れ出されていった。傍聴しているギルド関係者やハンター達は、その判決に異存はないらしく、うむうむと頷くだけであった。

 そしていよいよ、最後の盗賊達、あの2番目に出てきたきこり4人と、同じく4人組のCランクハンター、『天翔あまがける双龍』の番であった。

 そして、裁判長が判決を読み上げる。


「4人の樵達は、盗賊行為とは無関係とする。但し、利益目的で若い少女達を盗賊に扮して脅したことは、自己の意志に基づく金銭目当ての違法行為として、厳しく罰するものとする」

 自分達は騙されただけだと楽観視していた樵達が蒼褪あおざめた。

「よって、百叩きの刑に処すると共に、次は温情は無いものと心得、本業に精を出すよう、固く申しつける。今回の温情も、被害者達からの上申があったからこそである。本来であれば、盗賊の一味として処罰されてもおかしくはなかったのであるぞ!」

 それを聞き、深々と頭を下げる、樵達。


 百叩きは、決してそう軽いものではない。子供が尻を叩かれるというのとは違うのだ。鞭や、先を細かく割った竹で、剥き出しになった背中や尻を打たれる。骨折させたり内臓を傷付けることのないよう細心の注意を払い、その道のプロ達によって打たれるそれは、耐え難い激痛と、刑が終わった後も長期間続く痛みのために、しばらくは仰向けには寝られないというものであり、軽犯罪を犯した者達には怖れられている。

 しかし、次々と申し渡される死罪や犯罪奴隷の刑罰の後では、それはとんでもない温情に聞こえたのであった。

 そして、いよいよ最後に、あの、善良なパーティの皮を被った連中の番であった。


「Cランクパーティ、『天翔あまがける双龍』。Aランク終身犯罪奴隷を申し渡す」

「なっ! そんな馬鹿な! 俺達は、盗賊に襲われている貴族の一行を助けようとしただけで、褒賞を貰うならともかく、刑罰を受けるわれなどない!」

 そう、彼らは、まだ足掻あがいていた。盗賊となれば、厳罰は免れない。なので、決してその事実は認めず、樵達を盗賊だと言い張り、捕らえられた樵達が自分達に罪をなすり付けようとして嘘を吐いているのだと、この3日間の取り調べでも主張し続けたのであった。


「しかし、樵達はともかく、襲われた被害者がそう言っておる。いくらお前達が否認しても、その事実は変わらぬぞ」

 そう、この世界では、証拠があろうとなかろうと、裁判長の判断で罪が決まる。いくら確実な証拠がなくても、状況証拠や、そう判断するに足るだけのものがあれば、それで済むのである。

 しかし、逆を言うならば、無実だと思わせられれば良いわけである。証拠など無くとも。


「それは、樵達、いや、今は樵ではなく盗賊に堕ちた者達の虚言に惑わされただけのこと。奴らが道を塞いで彼女達を襲い、我らがそこに駆け付けてそれを救った。この事実は変えようがありませんよ!」

「「「「なっ!」」」」

 樵達が怒りの声を上げるが、『天翔る双龍』のリーダーは気にもかけない。

 旅の貴族の娘が、盗賊のことを気にして、用もない田舎町にわざわざ留まるわけがない。この3日間の取り調べの間も一度も顔を出していないし、とっくにこの町を発ったはず。それを無理に止めることなどできはしなかっただろう。我が儘な貴族の娘を拘束したりすれば、大問題だ。下手をすれば、何人かの首が飛ぶ。……物理的に。

 ならば、全てを馬鹿な樵達に押し付ければ、何とかなる。そう思い、熱弁を振るい続ける『天翔る双龍』のリーダー。


「そこの盗賊共が、不利と悟って、助けに駆け付けた私達に罪を擦り付けた。そして経験不足で世間知らずのお嬢様御一行が簡単に騙されて、私達を盗賊だと思い込んだ。それだけのことですよ。

 ギルドに確認して戴ければ、私達が真面目なハンターであること、そして彼女達が出発した後で町を出たことは、すぐに証言して貰えるはずです!」

 その言葉に、傍聴席のハンター達は微妙な顔。確かに、その言い分はおかしくはない。樵達が少女達を襲い、そこに後ろから駆け付けた地元のハンター達。おかしなところはない。


 いくら反論されようが、裁判官が、権力にものを言わせた鶴の一声で判決を下すことは簡単であった。しかし、大勢のギルド関係者やハンター達が傍聴している以上、できれば皆が納得する形で刑罰を申し渡すに越したことはない。なので、裁判長は困って……、いなかった。

 そう、少し困惑する振りをしていたものの、その口元は、意地悪そうに歪み、吊り上がっていたのである。

 そしてその時、傍聴席の一角から声が上がった。

「異議あり!」

「「「「……え?」」」」


 日本では知らぬ者が殆どいないこのフレーズも、この国では全く知られていなかった。……弁護士という職業も、裁判におけるそういう役割の者も存在しなかったので。

 そして、そう叫んで立ち上がったのは、ゴツいハンター達の後ろに隠れて法廷側からは姿が見えていなかった、4人の少女達であった。


「お、お前達は……」

 そう、『天翔る双龍』のメンバー達が眼を剥いて見つめているのは、勿論、お馴染み『赤き誓い』の4人であった。

 レーナとメーヴィスは、あの時のまま、つまり、いつもの服装。ポーリンは、メイド服ではなく、いつもの服装に着替えて。そしてマイルは、大きなマントを身体に巻き付けて、その全身を隠していた。


「私達は、別に騙されているわけじゃありませんよ。それに、あなた達、あの時にはっきりと自白したじゃありませんか。私達を簡単に捕らえて、遠くへ売り飛ばせると甘く考えて……。

 私達が簡単に騙されるような馬鹿ではないことは、ほら、あなた達の嘘に騙されていないことからも、明白ですよね?」

 飄々(ひょうひょう)とした顔でそう言うマイルを睨み付けるリーダー。

「こ、この……」

 とっくにこの町を発ったはずの連中の、思わぬ登場。そして自分達に不利な証言に、思わず悪態をつきかけたリーダーであるが、ここは論戦、ディベートの場である。言い負かして、裁判官を納得させられれば、逆転の目はある。こちらは信用のある地元のハンター、むこうは通りすがりの小娘達の一行だ。信用度というものが違う。そう考え、そこに全てを賭けるリーダー。


「盗賊達の説明を先に聞いて、それに惑わされたのでしょう。経験のない一般人、特に小さなお嬢さん方には、よくあることです。それに、甘っちょろいことを言って危険を冒そうとしていたお嬢さん方をいさめるために少しキツい言い方をして、おどかすような形になったのは、謝罪します。しかし、だからといって盗賊扱いされるのは心外ですね。

 いや、虚偽の申し立ては、犯罪行為ですよ! もしかして、救助料金を払いたくないがために、わざと私達をおとしいれようとしているのでは? そして更に、私達を犯罪奴隷にして、その褒賞金を得ようとした、とか? 素直に間違いを認めないと、逆にあなた方が犯罪者として処罰されますよ!」


 そう、お嬢様達を言いくるめ、騙すことは不可能である。あれだけはっきりと盗賊行為を口にしたのであるから。

 しかし、別にお嬢様達を納得させる必要はない。納得させるのは、裁判長だけで充分なのである。そのためには、お嬢様達を嘘吐きに仕立て上げればいいだけのことであった。

 事実、傍聴しているハンター達の間にざわめきが広がっている。彼らも、依頼人の勝手な主張や嘘に振り回され、苦い思いをした経験が何度もあるはずであった。


(……行ける!)

 リーダーは、起死回生のチャンスを掴んだことを確信した。

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