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222 七つの顔の女だぜ! 11

「朝食、できましたよ~」

 翌朝も、マイルに朝食を振る舞われた商隊の一行。

 昨夜も、マイルにより新鮮な肉や野菜を使った料理をたっぷりと振る舞われた。朝にザルバフの町を出たばかりだろうから、まだ素材が鮮度を保っていたのは分かるし、町に引き返すなら傷む前に振る舞おうと考えたであろうことは理解できるが、その常識外れの容量には驚かされた商隊一行であった。

 特に、商隊の責任者であるセリヴォス以下、3人の商人達からの、マイルに対する熱い視線。いや、ハンター達も、昨夜、オークが丸々出てきたその容量には眼を剥いていたが。


 そして朝食を終えた後、マイルがセリヴォスに頼み事をした。

 それは、マイルが昨夜のうちに書き上げていた手紙を、騎馬のひとりを使ってギルドに急ぎ届けて欲しい、というものであった。

「勿論、構いませんとも! お任せ下さい!」

 セリヴォスは、マイル達が何かを企んでいるという可能性は、考えてもいなかった。たかが護衛の数がひとり減ったところで、大した影響はない。逆に、これだけの実力がある者達が付いてくれているなら、それこそ40人規模の大盗賊団に襲われても平気であろう。

 捕らえられた盗賊達は、怪我の状況も確認したし、馬車に繋ぐ時にそれぞれを縛るロープも確認した。そしてその偏執狂並みの結び方は、到底簡単にほどけるようなものではなかった。

 それに、そもそも、あれだけの容量の収納魔法、治癒魔法、剣技を持った連中が、カネに困って犯罪を犯すわけがない。それだけは、金貨10枚賭けてもいい、と思うセリヴォスであった。



 そして昼過ぎ。

 前方から数騎の騎馬が近付いてきた。そして商隊の少し前で停止。

「ザルバフの、ハンターギルド、ギルドマスターだ!」

 ギルドへ使いを出したのだから、応援が来るのは当然である。ギルドマスターが直々にやってきたのは、少し、いや、かなり驚いたが。

 警戒していた護衛や商人達の表情が緩み、商隊も停止した。

 そして騎馬達が近付き、徒歩のマイル達のところで全員が下馬した。


「君達が、手紙の差出人かね? まぁ、これを見れば、騙されたわけではないのは一目瞭然なのだが……」

 そう言って、馬車に繋がれた盗賊達を、呆れたような眼で見るギルドマスター。

 マイル達が初めて見るザルバフの町のギルドマスターは、お約束に漏れず、中年から初老に差し掛かったくらいの男性であった。ギルドマスターになるための能力を身に着けるには、普通、それくらいの年齢になってしまうのであろう。経験の少ない若造に務まるような役職ではない。


「はい、盗賊3組。本命が1組と雑魚ざこが2組です。手筈は、手紙の通りにお願いします」

「分かった。御苦労だった、後は任せてくれ」

 リーダーのメーヴィスからの報告に、そう言って頷くギルドマスター。

 しかし、そうは言っても、盗賊護送用の馬車は足が遅い。護送馬車と会合するまで、まだしばらくはこのままの状態で進まねばならなかった。

 ギルドマスターは、商人と少し話し合った後、連れのうちふたりと、本命の盗賊達の親分と手下ふたりを連れて、1台の馬車に乗り込んだ。その馬車に乗っていた護衛達は馬車を降り、そしてそのうちの3人がギルドマスター達が乗ってきた馬にまたがる。

 ……うん、そういうことだ。

 そして商隊が再び動き始めた後、1台の馬車から凄まじい悲鳴が響き渡った。

 しかし、それを気にする者など、ひとりもいなかった。……商隊と、ギルドマスターが連れてきた者達の間には。

 そう、その悲鳴は、他の盗賊達と、そして『赤き誓い』の面々の顔を引き攣らせるだけの効果はあった。……充分に。


 そしてその後、護送馬車の一団と会合し、盗賊達を乗せ替えたギルドマスター達は、商隊の皆に厳しい(かん)(こう)(れい)を敷いた後、護送馬車を部下達に任せ、ザルバフの町へと馬を飛ばした。




「これより、ザルバフ近郊における盗賊行為に関する取り調べを行う」

 あれから3日。ここはザルバフ周辺を治める領主の、領地邸である。そのパーティー用の大広間を使っての、裁判のようなもの、であった。いちいち3回もやるのは面倒なので、3組、纏めて行われている。

 そしてそれは、検事、領主の配下。裁判官、領主の配下。裁判長、領主の配下。それらの者達は皆、それの専業というわけではなく、普通の家臣達が臨時に務めているだけである。そして、弁護人、なし。実に公明正大な裁判(のようなもの)であった。


 このような田舎町で、これ程大規模な裁判は珍しい。なので、正規の裁判所などあるわけがなく、普段の小悪党の場合は軍の施設で行うが、今回は領主邸を使うこととなったのである。

 領内でのことに関しては、立法権、行政権、司法権の全てを持つ領主様。そして、事前に実質的な取り調べはおおむね終わっている。なので、これはただの形式的なものであり、結果発表の場に過ぎなかった。……普通であれば。


 傍聴席には、被告の一部がハンターギルドの関係者であるため、ハンターギルドのギルドマスターを始めとしたギルド職員数名、同じく商業ギルドのギルドマスター以下数名、そしてハンター絡みであるため、この町のBランクハンター2パーティ、そしてその他十数名が列席していた。

 いくら領主側の思い通りの判決が下されるとはいえ、あまりの無法には抗議する。その姿勢は崩すわけにはいかない。そしてそれが通せるということは、ここの領主が誠実であるということなのであろう。

 その領主様は、裁判に直接関わることはなく、しかし今回は余程興味があったのか、側方にしつらえられた席に座って様子を見ていた。


 そして、簡単な罪状確認の後、まずは本命の盗賊達への申し渡し。

「全員、Aランク終身犯罪奴隷とする」

 硬い表情のまま、身じろぎもしない盗賊達。

 無理もない。それ以外の判決はあり得なかったし、情状酌量を願ったところで、終身犯罪奴隷が、年限犯罪奴隷800年、とかになるだけであり、何の意味もない。それも、盗賊に情状酌量が認められることなど、まずあり得ない。ここは、死罪でなかっただけありがたいと思うしかなかった。

 死罪の判決は、余程のことがない限り、下されることはない。反抗的で真面目に働く気が全くない者、危険な殺人鬼、逃亡を防ぐのが困難な魔術師、そして貴族や王族を故意に狙った犯罪者等、余程悪質か、危険な者達くらいである。


 魔術師の犯罪者が少ないのは、他の方法で身を立てる方法がいくらでもあることは勿論であるが、この、「捕まったら、死刑になりやすい」というのも、大きな理由である。

 更に、捕らえられた現場において、いくら縛り上げて猿ぐつわを咬ませていても、無詠唱でいきなり攻撃魔法を放たれるかも知れない相手など、怖くてとてもそのままにはしておけない。

 そう、魔術師である犯罪者は、多くの場合、即座にその場で殺されるのである。大した実力もなく、犯した罪も比較的些細(ささい)なものであっても……。


 そして、判決の申し渡しが続く。

「Eランクハンター、イヴィク。死罪。ハンターギルド職員、ダルラム。同じく死罪。

 そしてダルラムの家族は、20年の年限奴隷とする」

「お、お待ち下さい! 私はどうなっても構いませんから、家族は! 妻と娘は! 今回の件は、私ひとりだけのことです!!」

 判決を申し渡した裁判官は、それに返事もせずに完全に無視した。傍聴者達も、同様である。

 ハンターであるイヴィクとやらは、ハンターが盗賊に協力したわけではなく、盗賊の一員がハンター登録したものであった。役目は、情報収集と、ギルド職員であるダルラムからの情報を盗賊達に伝えること。

 ハンターギルドは、信用商売。そして、国を跨いだ大組織である。舐められて、それを放置するような組織ではなかった。判決に直接口出しする権限はないが、領主に圧力を掛けることぐらいは簡単であったし、わざわざそんなことをしなくとも、通例として、この場合は死刑にしてくれるに決まっていた。


 そして、異議を申し出た、ギルド職員のダルラム。

 盗賊達に、家族に危害を加えるとして脅された、ということであり、取り調べの結果、それはどうやら本当であったらしいのであるが……。

 ギルドを裏切った。

 その事実は、くつがえされるものではなかった。

 脅されていることを、ギルドマスターに伝えれば良かったのである。それもせずに言いなりになって情報を流し、多くの旅人達を死や違法奴隷にとし、そして僅かとはいえ報酬を受け取っていたという事実。

 その理由を「妻子のため」と言うならば、二度と同様のことを考える者が現れないよう、「たとえ盗賊の言うことを聞いても、妻子は地獄に堕ちる。正しい選択肢は、すぐに上司に報告する、ということのみ」ということを叩き込み、妻子を言い訳にすることなどできなくする。


 ダルラムは、大量殺人の共犯者であり、その理由だと主張するならば、妻子もまた、同罪。

 日本であれば到底許容されない論理であるが、治安が悪く、そして人権とかの認識が薄い文明においては、自分達の安全のためにはやむを得ない処置なのであろう。

 昔は、地球においても連座制を採用する国があったし、一部の国では、現在もあるという。そして直接の利害関係があり、ダルラムの行為により利益を得ていた形になる妻子にるいが及ぶことは、当然のことらしい。傍聴者達が、ひとりを除いて全員が平然としているのが、その証左であった。



 そう、潜入スパイのイヴィクと、ギルド職員のダルラム。

 盗賊のスパイの正体を町に到着する前に吐かせ、そしてその者達が逃げ出す前に捕らえるために、商隊が町に到着する前にギルドマスターを呼んだのである。馬車の中で、ごうも……事情聴取により共犯者の名を吐かせ、商隊や護送馬車の到着より早く町に戻って、共犯者達を捕縛するために。

 捕らえられたからには、終身犯罪奴隷はほぼ確実、万一の場合、死罪の目も全く無いわけではない盗賊の親分は、少し痛めつけられただけで、簡単に吐いた。最初から吐かなかったのは、一応、部下達の手前、少しポーズを取っただけのことである。


 そして次は、最初に襲ってきた、新人盗賊達の番である。

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