表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/716

218 七つの顔の女だぜ! 7

 怪しい。

 勝手に他者の獲物に手を出そうとするなど、余程の悪質なごろつきハンターくらいである。そしてそれも、ギルドに目を付けられれば身の破滅、つまり良くてハンター資格剥奪、悪ければそれに加えて年限犯罪奴隷として数年間の強制労働である。なので、そのようなことはかなり追い詰められた者くらいしかやらないし、このハンター達のような、まだ20代前半くらいと若く、そして余裕のある身なりの者がやるはずがない。そして、先程の盗賊達の不審な行動。


 レーナが男達に背を向けて、素早く視線を、というか、眼球を動かした。

 そう、こんなこともあろうかと、皆で決めていたサインである。そしてレーナが出したサインは、『敵の可能性あり、警戒せよ』というものであった。

 それを見て、レーナと同じように、軽く下向きに視線を動かす3人。『了解』の合図であった。それくらいは、相手に見られても別に不審に思われることはない。


「……何、見てんのよ。さっさと行って頂戴」

 レーナがそう言っても男達は動こうとはせず、マイルとメーヴィスは剣を手にしたまま男達と倒れている盗賊の間に立っていた。男達がまだ抜き身の剣を手にしたままなので、当然の対応である。

 そしてマイルとメーヴィスの視線が自分達の持つ剣に向けられていることに気付いた男達は、少し(ため)()った後、そのうちのひとりが剣を納めたのを合図に、残りの3人も剣を鞘に納めた。

((((だから、どうしてそこで納剣を躊躇うの!))))

 盗賊は4人全員が倒れて意識を失っているのだから、剣を抜いたまま警戒する必要はない。意識を取り戻す兆候があってから抜けば問題ないし、地面に倒れた状態の者が即座に攻撃に移れるわけもない。なのに剣を納めることを躊躇ったということは。

(私達を攻撃するかどうかを考えていたってわけよね……)

 そう、レーナが考えている通りであろう。

 だが、何やら思惑通りに事が運ばずに焦ったものの、力尽くで、というつもりはないらしい。

 まぁ、それをやれば完全に盗賊であるし、登場時の様子からも、そういうつもりだったわけではなさそうである。


「と、とにかく、盗賊達を町へ連れて行こう。カルディルの町まではまだ遠い、素人の君達だけでは4人もの賊達を護送するのは……」

「はァ? まだそんなことを言ってるの? しつこいわねぇ……。『天翔る双龍』とか言ったっけ? これ以上私達の獲物にちょっかいを掛けるって言うなら、獲物の横取り行為としてギルドに訴えるわよ!」

「う……」


 それは、男達にとって非常に都合が悪かった。戦闘に参加していたならまだしも、戦闘が完全に終わった後に現場に到着したのでは、相手がハンターであっても横取り行為として処罰の対象になるというのに、民間人相手では、完全な盗賊行為である。

「それに、どうしてカルディルの町へ向かうのよ。途中には小さな村ばかりで、ここから何日もかかるカルディルの町に着くまで、こいつらを引き渡せるところもないのに。ザルバフの町に引き返すに決まってるでしょ、1日もかからないんだから」

「う……」

 先程から、う、としか言わない男達。

 まぁ、野営をしながら何日もかけて移動していれば、「ついうっかり逃げられてしまいました」とかいう工作をする時間はいくらでもある、とでも考えていたのであろう。しかし、そもそも『赤き誓い』が彼らの同行を了承するはずがなかった。『同行者』としては。

 ……但し『獲物として』なら、話は別である。


 レーナが男達の相手をしている間に、マイルが手早く盗賊達を縛り上げていた。例の、いつもお馴染み、細くて強靱な釣り糸で。メーヴィスとポーリンは、敵からの攻撃に備えて、攻撃魔法のホールドと、それとなく抜刀し易い姿勢を保ち、戦闘体勢を維持している。そう、盗賊達ではなく、怪しいハンター達に対して。

 そしてマイルは、ポケットから出す振りをしてアイテムボックスから取りだした気付け薬を盗賊の親分に嗅がせた。こんなこともあろうかと、アンモニアのような薬を常備しているのである。


「う……、うぅ……っ」

 唸りながら目を覚ました盗賊の親分。

「こ、ここは……」

「ここは街道で、あなた達は捕らえられた盗賊です。これから私達に金貨をもたらし、そして終身犯罪奴隷となって国のために御奉仕される、とてもありがたい方々ですよ」

「え……」

 まだぼんやりとした頭に、ゆっくりとマイルの言葉が染み込んでいった。

「待て! 待ってくれ! 俺たちゃ盗賊なんかじゃねぇ! ただ、頼まれ……」

 そこで、4人のハンター達に気付いた親分が口を閉ざした。


「あれだけはっきりと盗賊行為を行っておきながら、往生際が悪いですねぇ。こちらのハンターの皆さんが強く勧められたように、さっさと殺しておいた方が良かったですかね」

 マイルにそう振られたハンターの男達の顔が蒼褪めた。そして勿論、盗賊の親分も。

「な、ななな、何だとぉっ!」

 親分が、血相を変えて叫んだ。

「お、お前達、裏切りやがったな!」

 どうやら、予想通りのようであった。そして更に、駄目押しのマイルの言葉が掛けられた。

「先程、気を失っておられます皆さんに剣を突き立てようとなさいましたので、私達が必死で防いだんですよ~。いやぁ、危なかったです。ぎりぎりでしたからねぇ、いや、ホント」

「き、貴様ら……」

 殺す、というような視線で睨まれて、思わず数歩後退るハンター達。

「何か、事情がありそうですね。このままだと皆さんは盗賊として終身犯罪奴隷なんですけど、何か言いたいことがあればお聞きしますよ?」

 マイルが水を向けると、親分はせきを切ったように話し始めた。


「俺たちゃ盗賊なんかじゃねぇ、ただのきこりだ!

 そこの奴らに『護衛も雇わず町を出ようとしている危機感のないお嬢様一行がいるから、脅かして護衛を雇うよう仕向けたい。人助けだ』と言われて、雇われたんだよ。まぁ、自分達を護衛として売り込むつもりだったんだろうけど、確かに盗賊が出ている今、それはお嬢さん達のためになると思ったし、俺達も金が稼げて、みんなが利益を得られる良い話だと思ったんだよ……。

 戦力は女の見習い騎士がひとりだけ、って話だったんだ。それがまさか、俺達を一瞬で倒すほどの腕前だなんて、聞いてねぇよ!」

 そう言って向けられた視線に、黙って俯く4人のハンター達。


「今の話は本当ですか? もし本当ならば、盗賊行為を働く意図は全くなく、ただ受けた依頼をこなそうとしただけ、それも、悪意ではなく、良かれと思って、ということになり、この人達は警吏の人にかなり叱られる程度で終わるかも知れませんけど。私達が訴えたりしなければ、ですけどね。

 でも、もし嘘であれば、多分終身犯罪奴隷あたりですよね。

 で、どうなんですか、本当のところは?」

 マイルの言葉に、盗賊行為は勘弁して貰えるかも知れないと知ったハンター達は、眼を輝かせた。そしてリーダーらしき男が慌てて弁明を始めた。


「ほ、本当だ! 君達が護衛も雇わずに盗賊が出没する街道を進むと言うから、安全のために護衛を雇うよう仕向けるつもりだったんだ。誓って、嘘じゃない!」

 おそらく、それは本当なのだろう。現地における緊急依頼扱いで高額の依頼料を巻き上げたり、後で追加依頼をするよう勧誘したり、あわよくば収納持ちのマイルをパーティに引き込めれば、等の企みはあったとしても、それは先の弁明と矛盾するわけではない。原則的に、「脅かして、護衛を雇わせる」ということであり、自分達が盗賊行為を行うつもりはなく、あくまでもギルドの規則を破ったり犯罪行為になったりはしないレベルにとどめるつもりだったのだろう。

 いや、盗賊の振りをして脅したり騙したりする、という時点でアウトのような気がするが、それは、「颯爽と現れたハンター達が追い払う」ということで、グルだということがバレなければ問題ない、ということだったのだろう。


「騙す形になったのは、申し訳ないと思っている。しかし、君達の安全のためならば、少し我々が泥を被っても構わないと思ったんだ。嘘も方便、人命を守るためならば、女神様もお許しになると思ったんだよ。君達も、そうは思わないかい?」

 ドヤ顔で、調子のいいことをまくし立てるリーダー。


「う~ん、それもそうですねぇ。確かに、私達は心配されて当然の陣容ですし……。

 分かりました、じゃあ、盗賊役の人達には私達から口添えして、何とか寛大な処置となるよう配慮します」

「ありがとう、助かるよ。じゃあ、俺達は樵のみんなと一緒にザルバフの町に戻るから、ここでお別れということに……」

「え? 何言ってるんですか? 樵の皆さんは利用されただけですけど、あなた達は犯罪者として捕縛して、ギルド経由で警吏に引き渡しますよ、勿論」

 何を言っているんだ、という口調で、ハンター達にそう宣告するマイル。


「え? いや、騙した事は悪かったが、それは俺達が良かれと思ってやったこと、ということは了解してくれたのだろう? それに、俺達自身は君達に対して脅したり剣を向けたりしたわけじゃない。最初から君達の味方として行動しただけだ。嘘を吐いたことを許してくれたなら、問題はないだろう?」

 焦ってそう弁明するリーダーに対して、マイルがにこやかに告げた。

「はい、確かに、私達に対してはその通りですね。しかし、盗賊役の人達が本当の盗賊ではなく、自分達が雇った者達だと知っていながら、口封じのために殺そうとしましたよね。

 あの剣での突き、私とメーヴィスさんが防がなければ確実に致命傷を与えていましたよね。つまり、殺人未遂です。それも、自分達が雇った者を、自分の保身のために殺そうとした、悪質極まる行為です。……重罪ですよね、それって」

「「「「あ……」」」」


「皆さんはハンターらしいですから、ギルドと警吏、双方からの処罰があると思います。おとなしく……」

「やるぞ!」

「「「おぅ!」」」

 男達は、一斉に剣を抜き放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ~~、唆し・殺人未遂から強盗・殺人未遂になっちゃう(;^ω^)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ