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215 七つの顔の女だぜ! 4

「マイル、あんたねぇ……」

 部屋にはいった後、呆れ果てた顔でマイルに苦言を呈するレーナ達。

「あんまり男にがっつくんじゃないわよ、みっともないでしょうが!」

「私達まで同類に見られたくないです!」

「あんな幼い子相手では、犯罪だろう、それは……」

 ポーリンとメーヴィスまで加わって、滅多打ちである。

「ち、ちちち、違いますよぉ! 私はただ、小さい男の子をでたいだけで……」

「あ、あんた、やっぱり……」

「変態です!」

「変態だな……」

「違いますよおぉ~!」



「……で、まだ行かないの?」

「え、どこへですか?」

 レーナが何を言っているのか分からないマイル。

「だから、早くあの子を部屋に連れて来なさいよ!」

 うずうずした様子で、そうマイルに催促するレーナ。

 見ると、メーヴィスとポーリンも、期待に満ちた顔でマイルを見つめていた。

「何ですか、それはああああぁ~~っっ!!」


 そう、ひとりっ子だったレーナ、弟が幼い頃を懐かしむポーリン、そして末子であり弟や妹が欲しかったメーヴィスは、マイル以上に「好きに構える、幼い子供」に飢えていた。

「さっきの私への非難は、何だったんですかあぁ!」


 そして、さすがのマイルも、男の子を部屋に連れ込む勇気はなかった。

 相手が女の子ならばともかく、4人の女性が男の子を部屋に連れ込むというのは、さすがに世間体が悪かった……。



 夕食の時にも、4人は明日の予定を大きめの声で話し合っていた。

「じゃ、出発は朝2の鐘で。カルディルの町まで真っ直ぐ進み、そこでこれからの計画を再検討しましょう」

 レーナの良く通る声は、他の客や宿の従業員達には充分聞こえたであろう。

 出発時間と行き先を教えてやれば、盗賊達も襲いやすいであろう。待ち伏せも効率的で、あまり無駄な待ち時間を費やすこともない。大サービスであった。



 そして部屋に戻った後、レーナ達からの「まだ連れて来ないのか」という催促の視線を無視し、さっさとベッドにもぐり込んだマイル。レーナ達も、自分でどうこうする勇気はなく、諦めてベッドにもぐり込むのであった。さすがに、4日間の徒歩移動は少しこたえたらしい。今回は荷物を背負っての移動だったため、尚更である。そのためか、寝息が聞こえるようになったのは、それからすぐのことであった。




「では、出発!」

「「「おお!」」」

 もう、『はい』と言うのはやめた『赤き誓い』の面々。

 子供達がハンターの言い方を真似しており、大人達がそれに合わせてやっている。そう受け取られるだろうから、変に慣れない言い方にするより自然に見えるだろう、との判断であった。


「今回は、普通の速度で歩くわよ」

 レーナの言葉に、こくりと頷く3人。

 今回は、いつ物陰から襲撃されるかも分からないため、お嬢様役のマイル以外の3人は、剣や杖を装備したままである。荷物は、小型の水筒以外はマイルの収納の中。ギルドで収納のことは公開しているから、使わない方がかえって不自然である。

 なので、普通のハンターより速く進むことができるが、それだと襲撃者さんの予定が狂ってしまうだろうから、彼らが想定するであろう「子供を含む、ハンターではない女性達が進む速度」で進むのである。それに、もしかすると待ち伏せではなく、後をつけるという方法かも知れない。それを引き離してしまっては意味がない。



「そろそろかしらね……」

 陽が沈みかけた頃、レーナがそう呟いた。

 ザルバフの町を出発した、町の者ではない旅人のみが襲われる。それはすなわちザルバフの町に盗賊達が潜んでいるか、最低でも情報提供者がいる、ということであろう。そして情報を伝えるためには、あまり町から遠いところに拠点を構えているとは思えない。普段は町に住んでいるなら、尚更である。

 それに、そもそも、今までの被害が徒歩で1日か2日の場所であった。あまり町に近いと討伐隊が出やすいので、そのあたりも勘案した距離なのであろう。


 レーナがそう言ってしばらくすると、言霊に招かれたのか、前方の街道脇の岩陰から5人の男達が姿を現した。髪も服装もそう酷くはない、30代半ばから40代後半くらいの男達である。

「どうやら、このあたりに拠点を構えているんじゃなくて、町からのかよい仕事みたいね」

「そのようですね……」

 おそらく、レーナとポーリンが言う通りであろう。このあたりに住み着いているならば、もっと髪や髭、そして衣服の状態等が「盗賊らしい風体ふうてい」であろうから。それに、このあたりには水場がないはずである。

「後ろから3人。定石通りだな」

 そう、メーヴィスが言う通り、後方からも3人の男達が姿を現し、にやにやと笑いながら近付いていた。


「警告する! 貴族家のお嬢様を警護する我らにそれ以上接近するならば、盗賊と看做みなして討伐する! その場合、怪我をしようが死のうが責任は持たない。そして生きたまま捕らえた場合、犯罪者としてギルド経由で衛兵に引き渡す!」

 メーヴィスがそう告知するが、勿論、それを聞いたからといって盗賊達が引き下がるわけがない。これはあくまでも、「遠慮なくやっても構わない」という条件を揃えるための手順に過ぎないのだ。これによって、後で「誤解だ」とか「そんなつもりじゃなかった」とかの言い訳を完全に封じることができるわけである。


「へへへ、おとなしくしな。こっちは8人、そっちは、まともに戦えそうなのはひとりだけだ。下手に逆らっても、余計な怪我をするだけだぜ」

「はい、盗賊行為の自白、加害行為の予告、脅迫行為、戴きました! 正当防衛行動、開始です!」

「……え?」


 相手がビビって萎縮するだろうと思ったのに、平気な様子で何やらよく分からない言葉を並べ立てる獲物達に、怪訝けげんな顔をする盗賊達の親分。

 そして『赤き誓い』は、素早くフォーメーションを組み替えた。

 前方の5人の敵に対して、前衛マイル、後衛ポーリン。後方の3人に対して、前衛メーヴィス、後衛レーナ。ポーリンとレーナは、ほぼ背中合わせの状態である。


「へっ、何の真似だか知らねぇが、お嬢様が素手で、何をやろうって言うんだ?」

 そう言いながら、へらへらと笑う親分。

 しかし。

「素手? 何のことでしょうか?」

「「「「「ええっ?」」」」」

 前方の盗賊達がよく見てみると、ついさっきまで素手、手ぶらであったはずの貴族のお嬢様が、右手に剣を持っていた。


「い、いつの間に……、って、そうか、収納か!」

 ギルド関係、確定である。話す切っ掛けもないのにわざわざ触れてまわるのは明らかに不自然なので、宿屋では、収納のことは話していない。

 そして、貴族のお嬢様を滅多にいない収納持ちと結び付けるには、少々反応が早過ぎた。普通は、そうそう早く思い付くものではない。せいぜい、「どこに隠し持っていやがった!」というところである。


「へっ、所詮は小娘のお遊び剣術、怪我をするだけだぞ!」

 親分はマイルに向かって言ったのであるが、後方の敵に向かって剣を構え、親分には背を向けた状態であるメーヴィスの身体がぴくりと動いた。

「小娘の分際で、いくら剣を構えても無駄だ、何の役にも立つものか! おとなしくお家でお姫様ごっこでもしていれば、こんな目には遭わなかったのにな、ひゃはは!」


 ぶちん!

「何だとぉ……。貴様、今、何を言った……」


「「「切れたああぁ!」」」

 まさかの、メーヴィス、マジ切れであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーあ。お姫様とか、色々被る事言っちゃったから。 メーヴィスさんブチ切れちゃったよ… …自業自得だねっ⭐︎(白眼)
[一言] 日本フカシ話ー。昔の人は言いました。変態と書いて、類友と読む。
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