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189 マ抜け 2

 オークを狩った翌日、レーナ達3人は休養を取った。

 いや、元々パーティの休養日である5日間なので、それは問題ないのであるが。

 休みにした理由は、身体が痛くて動けなかった。ただそれだけであった……。


 そして3日目。

「行くわよ。……但し、今回はオークは対象外!」

 こくこくと頷く、メーヴィスとポーリン。

「採取するのは、嵩張かさばらない、高値が付く薬草のみ。狩る獲物は、証明部位を切り取るだけで済む討伐対象のみ。そして、今夜は野営よ。」

 再び、こくこくと頷くメーヴィスとポーリン。


 レーナは、自分達には充分な戦闘能力があると思っていた。そして、それは正しかった。

 もし対人戦闘をするなら、いや、魔物相手であっても、『赤き誓い』は充分な戦闘力を発揮するだろう。たとえマイル抜きであったとしても。

 炎魔法の使い手、レーナ。治癒や補助魔法だけでなく、攻撃魔法、それもかなりえげつないものを使いこなすポーリン。そしてBランクに匹敵する剣技を振るい、ドーピングとはいえ一時的にAランクをも超える力を発揮し、更に今は「気」による攻撃法『ウィンド・エッジ』と魔術師殺し(メイガス・キラー)の『抗魔剣』を身に付けた、最近少し調子に乗っているメーヴィス。

 そのあたりの5~6人編成のCランクパーティには負けそうにない。数匹のオーガに囲まれても問題ないだろう。……もはや、それはBランクを名乗っても差し支えない戦闘力である。


 ギルドでもそれは察していたが、現在の規則では、昇級のためには功績ポイントだけでなく現在のランクにおいて規定の年数が経過している必要があり、まだCランクハンターとしての年数が浅い『赤き誓い』には昇級試験を受ける資格がないのであった。功績ポイントは急速に貯まってきているのであるが……。


 とにかく、今の自分達に必要なのは、戦闘訓練ではなく、「マイル抜き訓練」である。

 そう気付いたレーナであった。




「そろそろ野営の準備を始めた方がいいんじゃないかな?」

「そうね」

 そろそろ陽が落ちかけていたため、メーヴィスの言葉に頷き、本日の狩りは終えることにしたレーナ。

 テントを張るため、3人で適当な場所を探す。

 テントとは言っても、防水処理された厚くてごわついた布や毛皮、充分な強度のある太目の木製ポールや杭等で全てセットになったものを用意したら、重くて嵩張って大変である。そんなものを運んでいたら、他の物が殆ど運べなくなるし、獲物や採取物を持ち帰ることもできなくなってしまう。

 なので、ただの防水布や毛皮を丸めたものを解き、骨組みは現地調達の木の枝とか生えている木をそのまま利用して雨風をしのげるようにするだけである。


 マイルの収納アイテムボックスにはいっているテントは、重さも体積も関係ないし、いちいち分解・組み立てをする必要もないから、かなり手を入れてじっくり作ってあるのだが、そんなものが使える者は他にはいない。


 今回レーナ達が使っているテントや器材は、ギルドで借りたものである。パーティの装備は、まさかレーナ達が休暇中に仕事に出るとは思ってもいなかったマイルが、収納アイテムボックスに入れたまま持って行ってしまっているので、仕方ない。

 ギルドには、お金のない新人に貸し出したり、ギルド発注の緊急依頼の時に提供したりするため、様々な装備品がストックされているのである。それは新しい装備品を買ったハンターが古い物を寄付してくれた物であったり、死んだハンターが残した物であったりと、出自は様々な中古品であったが、タダ同然の安値で貸し出してくれるのはありがたかった。


 そして……。

「もう暗くなってきたわよ!」

「いや、もうちょっと、ここを……」

 安全であり天候の急変にも対応できる場所を探すのに少し時間がかかった上、マイルがテントを張りっぱなしにするようになる前も、必要な木材とかは全て収納に入れて用意してあったため、テント設営を一から準備することはなかった『赤き誓い』の3人は、思ったよりもテント張りに苦戦していた。

 レーナは以前の経験があるが、メーヴィスとポーリンが、あまり「使えなかった」のである。

 そして、なんやかやでようやくテントを張り終えた時は、既に完全に暗くなっていた。

「「「…………」」」


 夕食の準備は、問題なく進んだ。

 念の為にと堅パンや干し肉等も用意していたが、幸いにも角ウサギや鳥が獲れたので、それを中心とした献立である。

 普通のハンターならば現金収入となるそれらの獲物は食べずに持ち帰るが、レーナ達はお金には余裕があり、そしてマイル抜きだと荷物の運搬能力が他のパーティに較べるとかなり低いため、それらの獲物は食べて現地消費することにしたのであった。


 調理は、レーナの着火魔法、ポーリンの分子振動湯沸かし魔法等、魔法を使うことにより順調に進んだ。このあたりは、マイルがいなくても問題ない。なお、火魔法は木切れに着火するのに使うだけである。直接魔法の炎で炙ると、肉が上手く焼けず、外側は焦げて内側は生焼けになるからであった。


「マイル、香辛料……、あ」

「「…………」」


「あの、私がホット魔法で」

「いや、いい」

「遠慮するわ」



 そして休暇4日目の夕方、王都へと戻ってきた3人。

 少し高値が付く薬草少々、常時討伐依頼のうち食用には向かない魔物の討伐証明部位が割と多めと、獲物はそこそこあり、1泊2日の稼ぎとしては悪くはなかった。……普通のパーティとしては。

 だが、3人は、マイルがいる時の稼ぎに慣れていた。明らかに「普通ではない」稼ぎに。

 ギルドで換金し、報酬を山分けし、掌の上の硬貨を見つめる3人。

「「「…………」」」


 もう少し、頑張らねば。マイルがいなくても、ベテランCランクハンターを名乗れるように。

 そして、マイルをもう少し大事に……、いや、マイルも、いくら最年少で特別な能力を持っているとはいえ、パーティの仲間なのだから、みんなと対等だ。特別扱いなんかすれば、却ってマイルに失礼だろう。

 ただ、自分達がもっと努力して、マイルが不得手な部分、子供であるが故の弱い部分を支えてやれば良いのだ。そしてそのためには、まだまだ頑張らねば。そしていつの日か、マイルと本当に肩を並べられる日を迎えねば。

 そう思う、メーヴィス、レーナ、そしてポーリンの3人であった……。




「戻りました~」

 5日目の夕方、夕食前に戻ってきたマイル。

「お帰り。休暇は楽しめた?」

「はい! 長年の望みが果たせました!」

「良かったわね。あ、あんたがいない間に、ちょっと3人で勉強のために狩りをしたんだけど、その分の稼ぎは3人で分けたわ。それでいいわよね? まぁ、大した金額じゃないけど……」

 隠し事はしたくないし、そのうち誰かがポロリと喋るかも知れない。それならば先にちゃんと言っておいた方がいい。レーナはそう考えたのであるが。


「あ、勿論ですよ! 『赤き誓い』を結成した時に、そのように取り決めましたからね」

 マイルは、当然のことである、という顔でそう言った。

「それに、私の方も、当初の予定が早く終わっちゃったから、ちょっと別件で稼ぎましたから。まぁ、金貨20枚くらいですけど……」

「「「え……」」」


 ぎぎぎ、と首を回して、顔だけマイルの方に向けたポーリン。

 引き攣った顔のレーナ。

 そして、やれやれ、という顔のメーヴィス。

(まだまだ、先は長いか……)




 そして数日後。

「マイル、頼みがあるんだけど……」

「私もです」

「え、何ですか?」

 レーナとポーリンの真剣そうな顔に、マイルが何事かと返事をすると。

「収納魔法を教えて欲しいのよ」

「私もです!」

「え……」


 マイルが収納魔法に見せかけて使っているアイテムボックスは、ナノマシンと意思疎通ができる『権限レベル3』以上でないと使えない。そして普通の人間でも使える収納魔法は、余程の才能がないと使うのは難しい。

 当たり前である。教わって簡単に覚えられるのであれば、こんなに稀少価値があるはずがない。

 一時的に収納するだけならばともかく、他のことに気を取られている時も、寝ている時にも、常に発動したままにしておく必要がある魔法なのである。精神的にも、魔力的にもハードルは高い。あまりにも高かった。


「教えるのは別に構わないですけど、あの、正直言いまして、難しいですよ?」

「「大丈夫、覚えるわ!」」




 そして数日後。

「「どうしてよ!!」」

 そもそも亜空間を開くことすらできなかったレーナ。

 そして、金儲けのためならば、と、常人を超えた力を振り絞ったポーリンは、一応亜空間を開くことはできたのであるが、物を収納し、少し気を抜くと、全てが亜空間から吐き出された。しかも、容量は数十キログラム程度。これでは、「収納魔法が使える」とは言えない。せめて「寝る時だけ、収納から荷物を出して解除する」くらいであれば、一応は収納使いを名乗れるのであるが……。

「これでは、訓練しても、関所を抜ける間()つかどうか、です……」

「抜け荷は駄目ですよ!!」

 そして、やれやれ、という顔のメーヴィス。

(まだまだ、先は長いか……)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ポーリンがギリギリ使えた収納魔法はレベル2になって少しは使えるようになったのだろうか。
[一言]  ポーリンさん、商人としての矜持は何処へ行ったんですか…。
[気になる点] ポーリンの収納魔法どうなった笑
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