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184 復讐者 2

「……悪かったわよ」

 事情を知り、素直に謝るレーナ。

 いや、あれは正々堂々の勝負であり、本当は全く悪かったとは思っていないのであるが、幼い少女相手に正論を説いても仕方ない。ここは、大人の対応を選んだレーナであった。

「謝って済むと思っているのですか!」

「こ、このガキ! 人が下手に出れば……」

「「「どうどうどう……」」」

 そして一瞬で終わった、レーナの「大人の対応」であった。


「し、しかし、お兄さんが帰国されてからメーリルちゃんがここへ来るまで、少し早過ぎませんか?」

 先程聞いたところ、この子はそういう名前らしい。で、レーナが落ち着く時間を稼ぐため、マイルが少し気になっていたことを聞こうとしたのであるが……。

「『メーリルちゃん』などと、子供みたいに言わないで下さい! 私達魔族は、人間よりずっと成長が早いのですから!」

「あ、ごめんなさ……、って、え? いや、それって、見た目より幼い、ってことになるんじゃ?」

「あ……」

 マイルの素朴な疑問に、返答に詰まるメーリルであった。


「……で、何歳なのよ?」

「うう……」

「な、ん、さ、い、な、の、よ!」

「うう、な、ななさい……です……」

 レーナの迫力に負けて、年齢を白状したメーリル。

「なんだ、まだ幼児じゃないの。10歳くらいかと思っていたわよ」

「よ、幼児とは何ですか、幼児とは! 私は、立派な淑女レディですわよっ!」

「あ~、はいはい……」

 メーリルの反論を、軽く受け流すレーナ。さすがに、7歳児を相手にムキになってはみっともない、と思ったようである。


「それで、さっきのマイルの質問に対する返答は? 確かに魔族の国まで往復するには少し早過ぎるわよね……」

 レーナの追及に、メーリルはあっさりと答えた。

「様子を見にやって来たベレデテス様が、早く報告をさせるため、とか言って、あなたたちと戦ったにいさま達5人を乗せて連れ帰って下さったのよ。

 そして私は、話を聞いて興味をお持ちになったシェララ様が乗せてきて下さったのよ。勿論帰りも乗せて下さるので、岩山の方で待機しておられるわ。あなたも一緒に乗せて下さるから、ついて来なさい!」

 そう言って、レーナを指差すメーリル。


「「「「あ~……」」」」

 兄のトラウマを除去するため、元凶であるレーナを連れ帰って何とかしようとしているらしい、メーリル。その気持ちは分かる。だが、分かるからといって、素直に従うかどうかは、また別問題であった。そして、もしレーナを魔族の国に連れ帰って、その兄のカイレルとかいう少年に引き合わせたら……。

 マイル達3人は、絶対の自信を持って断言することができた。


「「「トラウマが悪化して、取り返しのつかないことになる!」」」

「何よそれ!」

 レーナが喚くが皆の判断が変わることはなかった。


「で、でも、にいさまを元に戻すには……。

 あれ以来、ぎゅっとして貰えないし、時々ぼおっとしていて、ふかふか、とか、甘い匂い、とか、焦げる身体と心、とか、わけのわからないことを呟いてるし……」

「「「「え…………」」」」

 マイル達、愕然。

 さすがに、鈍いマイルにも、何となく状況が分かった。勿論、メーヴィスやレーナにも。

 ポーリン? ポーリンが気付かないわけがない。


「そ、そそそ、それって……」

 珍しく、動揺するレーナ。何しろ、子供扱いや危険物扱いされてばかりで、「女性」として見られたことなど、今までに一度もなかったのである。

 ……実は、本人が気付いていなかっただけで、レーナを狙っていた者がいなかったわけではない。いつもレーナが、それと気付かずに片っ端からフラグをへし折っていただけなのであるが。


 しかし、すぐに、相手が12~13歳くらいに見える子供であることを思い出したレーナ。

 メーリルが10歳前後に見えて7歳、ということは……。

「お、お兄さんとやらは、何歳なのよ?」

「え? 16歳ですけど?」

「「「「えええええ!」」」」


 10歳に見えて7歳、12~13歳に見えて16歳。

 いったいどうなっているのか、魔族の成長速度は!

 そう思う4人であったが、野生動物が生き延びるため、自立できるまでは急激に成長する、ということは、珍しくもなんともないことであった。魔族は、それが生まれてから10~12歳くらいまでの間、続くのであろう。そしてその後、成長が緩やかになる。そう、エルフと同じパターンである。


「お、同い年……」

 無意識に、そう呟くレーナ。

 レーナ達、地球でいうところの西欧系の人種で12~13歳に見える男子といえば、平均身長が160センチくらいある。なのであの少年は、既に成長が打ち止めっぽいレーナよりかなり大きかった。

 ……見た目としては、充分に釣り合っている。そしてあの少年は、結構礼儀正しく、魔族なので当然魔法も得意で、力も強く、そして凜々しくて男前であったのだ。

「うう……」


 そしてしばらくの間、少し頬を赤くして唸っていたレーナであるが……。

「行かないわよ!」

 ……当たり前であった。

 いくら何でも、レーナは16歳で他種族と国際結婚をするつもりはなかった。これからBランクハンターとなり、輝かしい未来を掴むつもりなのである。

 それに、自分はもっといい男を捕まえられるはず、という、根拠のない自信もあった。

 いや、レーナの外見と魔法の腕があれば、あながちそれも不可能ではなかった。胸のことは……、世の中、そういう需要もあるはずである、多分。オースティン家あたりとかに。


 そして、食い下がるメーリルを何とか説得し、兄に対するアプローチ法を授けたり、カウンセリングの手法を教えたりする『赤き誓い』一同。


「レーナさん、それはマズいでしょう! 兄妹なんですよ!」

「いいのよ、私にとばっちりが来なければ! それに、面白そうじゃない」

「……マイル、それのどこが問題なんだい?」

「め、メーヴィスさん、まさか……」

「え、私も弟のアランと、それくらいのことは……」

「「えええええ?」」

「そうだよねぇ?」

「あ、あんた達……」

 もう、ぐだぐだであった。




「……分かりましたわよ。あなたを連れ帰るのは諦めますわ。色々と参考になるお話を教えて戴けたので、とりあえずそれを試してみますわ」

(……本当に、試すんだ……)

 ちょっと調子に乗りすぎて、無責任なことを色々と吹き込んだレーナは冷や汗を流していた。

 マイルも、少しマズいのでは、と心配していたのであるが、メーヴィスとポーリンは、ごく普通のことをアドバイスしただけのつもりであり、何も気にしていなかった。


「あ、そうですわ、忘れていましたわ。ええと、あなたですわね、金髪で、一番背の高いあなた!」

 そう言って、今度はメーヴィスを指差す、メーリル。

「え、私?」

 今度は何事、と驚くメーヴィス。


「レルトバードさん、あなたと戦った剣士の方ですけど、そのレルトバードさんが、もう一度あなたにお会いしたいと言われており、できればお招きして一緒に連れて来るように、と頼まれまして。

 シェララ様も、あなたを乗せて帰ることを了承して下さっていますわ。面白そう、とか言われて……」

「「「「えええええ!」」」」

 今日も、充分なのどの鍛錬ができた、『赤き誓い』一行であった。




 そして、上空に向けて合図の魔力弾を放ち、呼び寄せたシェララに乗るメーリル。

「今回は、色々と教えて戴いたので、これで引き揚げますわ。でも、教わったことを試して効果が無ければ、また来ますわよ! まだ、責任を取って戴いたわけではありませんからね!」

 そう言って、シェララの首をポンポンと叩いて準備OKの合図をするメーリル。


『また、面白い話があれば、呼んで下さいね!』

 そう言うシェララに、レーナが怒鳴った。

「うるさいわよ! それに、今回も、別に私達が呼んだわけじゃないでしょうが!」

 怒るレーナに、くすくすと笑いながら、メーリルを乗せたシェララは飛び立った。

 ……勿論、メーヴィスを乗せていたりはしない。


「何だったのよ、いったい……」

「疲れたよ……」

 ぐったりした様子の、レーナとメーヴィス。

 そして、ポーリンは不機嫌そうであった。

「どうして私にはお声が掛からないのですか! いえ、別に魔族にモテたいわけじゃありませんよ。でも、レーナとメーヴィスがモテて、どうして私には何もないのですか! 私の対戦相手はどう考えているのですか!」


「「「…………」」」


 ポーリンの対戦相手は、ホット魔法で下半身的に地獄を味わった、あの男性である。

(((無いわ~。絶対に、完璧に、それだけは無いわ~……)))

 そう、ポーリンにお声が掛かることだけは、絶対にあり得なかった。


「帰りましょうか……」

 疲れたようなマイルの言葉に、反論の声は出なかった。

 そして、珍しく獲物ゼロのまま、とぼとぼと王都へと向かう、『赤き誓い』一行であった……。

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[良い点] 異世界、転生、チートとテンプレートではあるが、王道、黄金律、原型(byユング)ともいえる。要は面白ければ良い。時々挟まる、わかる人にはわかる的な小ネタギャグも素適。あずまひでおの不条理日記…
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