177 ライバル登場 1
オーラ家の事件から3日後。
いや、あの日は一応「仕事をした」し、その後の仕事も受注したのである。もう既にほぼ終わっている仕事とはいえ。
だから、その後の2日間は休養に充てた。主に、メーヴィスが完全に復調するのを待つために。
そして今日、新たな仕事を受けるため、ギルドへ顔を出した『赤き誓い』の4人であるが。
「あなた達が、『赤き誓い』とやらね?」
ギルドに入るなり、いきなり絡まれた。
5人組の、女性ハンター達に。
「あ、はい、そうですけど? 何か御用でしょうか?」
さわやかな笑顔でそう答えるメーヴィスに、一瞬言葉を失い、見惚れる女性ハンター達。
(うわぁ、相変わらずの、別の意味での「女性ハンター」振りですねぇ、メーヴィスさん……)
メーヴィスの、いつもと変わらぬ女性ホイホイ振りに呆れるマイル。
「……っ、そうじゃなくて! 私達が遠征でいない間に、よそ者の若いのが調子に乗ってるらしいじゃない!」
一番年上っぽい20歳前後の女性の言葉に、きょとんとした顔をするメーヴィス。
「え、そうなのですか? それはいけませんね。若い者は年配の方を敬うべきですし、経験の浅い者が調子に乗るのは良くないですよね。そういう者達には、年配の者が注意してあげないと……」
ぷっ!
くすくす……
くくくくく……
何やら、他のハンター達が必死で笑いを堪えているような気がするが、勿論メーヴィスは気付いていなかった。
「ね、年配。年配……」
そして、顔を赤くしてぶるぶると震える、年上っぽい女性。
「あれ、どうかされましたか?」
にこやかにそう聞くメーヴィスに、女性が怒鳴った。
「あなた達のことよおおぉっ!」
「「「あ、やっぱり?」」」
ポーリン、レーナ、そしてさすがのマイルも、今回ばかりはそれに気付いていたようであった。
「……え?」
そう、分かっていなかったのは、メーヴィスただひとりであった。
「……というわけで、説明して貰おうじゃない!」
ギルドの飲食コーナーに連れて来られた『赤き誓い』は、5人パーティの彼女達、『女神のしもべ』に問い詰められていた。
「いや、説明も何も、何が問題で、何の弁明を求められているのか、さっぱり分からないのですが……」
相手が年上で先輩であるため、一応敬語を使うメーヴィス。
「それは、あ、あなた達が、私達の不在を良いことに、この支部のアイドルパーティの地位を掠め取ったからでしょうが!」
「「「「………………は?」」」」
『赤き誓い』、呆然。呆然、サラダ油セット。
「ああ、『活動していない』とか、『遊んでいる』という意味ですね。いえ、私達、ちゃんと活動していますよ? 確かに、ここ数日は少し休養が多かったですけど……」
マイルは、どうやらアイドリングの方の「アイドル」だと思ったらしい。
「そっちじゃないわよ! 偶像、憧れ、崇拝の方のアイドル!」
そう言って、必死で訂正する、年齢的に2~3番目くらいと思われる少女。大体、16~17歳くらいであろうか……。
「ええっ、パーティ名が『女神のしもべ』で、崇拝の対象たる偶像だということは、皆さん、女神様の使徒、『御使い様』ですか!」
「い、いや、別にそういうわけじゃあ……」
少し困ったような顔をする、女性パーティの面々。
勿論、分かっていての質問である。マイルも、たまには意地悪くらいはするのであった。
そして、詳しく話を聞く、『赤き誓い』の面々。
飲み物は、「先輩パーティだから」と言って、『女神のしもべ』がパーティ予算で奢ってくれた。
そのあたりは、ちゃんと先輩としての自覚があるらしい。
『女神のしもべ』。ハンターとしては珍しい、女性ばかりの5人パーティ。
剣士テリュシア、19歳。槍士フィリー、17歳。剣士ウィリーヌ、弓士兼短剣使いタシア、共に16歳。そして万能型、と言えば聞こえが良いが、器用貧乏、という名の方が相応しい、魔術師のラセリナ、14歳。ラセリナのみがDランクであり、他はみんなCランクハンターである。まだ昇格したばかりであるが……。
山と田畑しかなく、いい男も碌にいない田舎の農村。
そんなところで一生を過ごすことに耐えられなかった3人の若い少女達が、鉈やひのきの棒を手に、冒険と華やかな人生を求めて、ハンターを目指して村を飛び出した。
……馬鹿である。
そして、様々な苦労や危険に見舞われながらも、奇跡的に生き延び、更にひとりで村を飛び出した似たような少女ふたりを加え、いつの間にかCランクハンターにまで成り上がった。
普通は、そういう無謀な者達はそれまでに全滅するのであるが、余程実力があったのか、それとも運が良かったのか……。
ともかく、養成学校がない国としては異例の若さでのCランクである。しかも、若い女性揃い。当然、男性パーティからちやほやされる。『赤き誓い』がそうであるように。
そして、そこに現れた、『赤き誓い』。
若い美少女4人組。貴重な魔術師ふたり。Bランク並みの剣技。そして、どうやら世間知らずっぽい。
……そう、男性パーティの注目が、『赤き誓い』に移ってしまったのであった。
「大体、よそから来てすぐに『赤い依頼』を受けて完遂、追加報酬まで貰ったり、貴族家から指名依頼を受けるなんて、いったいどんな手を使ったのよ!」
そう言って怒鳴る、17歳、槍士のフィリー。
「靡きかけてた『契約の護り手』のジョーンズが、本気になりそうな娘がいるから、って私の食事の誘いを断ったわよ!」
咆える、そろそろ適齢期の折り返し地点に差し掛かる、パーティ最年長、19歳の剣士テリュシア。
「あの、優しい『白銀の爪』のおじさま達を酷い目に遭わせた、というのは、どういうことですか!」
どうやら、おじさま好きらしい、16歳、弓士のタシア。
まともに話す男性が父親くらいしかいなかったマイルと、物心ついた頃には父親とふたりで行商の旅をしており、その後も『赤き稲妻』と一緒に行動していたレーナも、同じく「おじさま好き」である。互いにそれを知れば、3人、良い友達になれそうであった。
「食事を奢ってくれたり、お菓子をくれる人が減りました!」
ぷんぷん、と怒って頬を膨らませる、14歳、魔術師のラセリナ。
「…………」
そして、言いたいことを全部言われてしまったらしく、黙って睨み付けるだけの、16歳、剣士のウィリーヌ。
「「「「「どうしてくれるのよ!」」」」」
「「「「あ~……」」」」
がっくりと肩を落とす、『赤き誓い』の4人であった。
「で、『契約の護り手』とか、『白銀の爪』って、いったい誰ですか?」
そしてマイルの疑問の声に、メーヴィス、レーナ、ポーリンの3人も首を傾げるのであった……。