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167 必殺技 2

 そして王都の近くの森へとやって来た、マイルとメーヴィス。

 さすがに、レーナとポーリンは付いて来てはいなかった。

 もしそんなことをすればパーティの信頼関係がズタズタになることくらい、あのふたりに分からないわけがなかった。


「では、始めます」

「ああ、頼む」

 真剣な表情の、マイルとメーヴィス。


「まず最初に、技の説明から始めます。

 知っての通り、私は剣の技術としてはメーヴィスさんには遥かに及びません。取り柄は、速さと腕力のみです」

 いや、それが『超えがたき壁』なのだが、と思ったが、黙って拝聴するメーヴィス。


「それで、あの技ですが、別に速さと腕力によるものではありません。いや、飛んでくる魔法に当てるためには、速さは必要ですけど……」

 うんうん、と頷くメーヴィス。


「必要なのは、『気』の力です」

「おお!」

 魔力、と言われればどうしようもないが、気の力ならば自分にも使える。

 そう思ったメーヴィスの眼が輝いた。

 そしてマイルの、昨夜ナノマシンから聞いた話をアレンジした、でっち上げの説明が始まった。


「メーヴィスさんは、体内で気の力を使うことができますが、体外ではできませんよね? 『余が、炎の化身である(ファイヤー)』も、体内で形成したものを、体内から直接発射しているわけですから。なので、剣に気の力を纏わせて相手の魔力弾を消したり弾いたり、そして気の刃を飛ばしたりするためには、今のままでは駄目です」

「え……。それじゃあ、私には、使えない、と……」

 愕然とするメーヴィスであるが、マイルの話はまだ終わってはいなかった。

「だから、気の力を体外に出せるよう、物理的に対策を行います。

 とりあえず、メーヴィスさんの血と髪を戴きます」

「え……。

 いや、構わない! こうなったら、悪魔に魂を売ってでも、あの技を会得する!」

 血と髪を貰う、と言われてメーヴィスが連想したのは、『悪魔』であった。まぁ、そう思われても仕方ないであろう。


 そしてメーヴィスから剣を受け取り、鞘から抜いて地面に置くマイル。

「血を」

 マイルの言葉に、メーヴィスは予備武器である短剣を抜き、躊躇うこともなくその刃を左腕に当てた。そして、スッとその刃を引く。

 ぼたぼたと流れる血を地面の剣にたっぷりとかけ、次に、手にしている短剣も剣に並べて置き、そちらにも血をかけた。

「それくらいでいいです」

 マイルはメーヴィスの左腕の傷に治癒魔法を掛け、その傷は綺麗に消え去った。


 次に、マイルはメーヴィスの髪を切り、剣と短剣に振りかけた。

 別にばっさりと切ったわけではなく、毛先を少し切っただけなので、メーヴィスの見た目は殆ど変わっていない。そして、切られたごく短い髪の毛は、血がべったりと付いた剣にくっついた。

(ナノちゃん、お願い!)

『了解致しました!』

 そして、血と髪の毛がそれぞれの剣に吸い込まれるように消え、あくまでも雰囲気を出すためだけの淡い光に包まれたあと、再びその姿を現した。

 以前に較べ、少し赤みがかった金色を帯びた剣身。

 メーヴィスの血と髪を取り込んだ、メーヴィスの身体の延長。そして、アンテナである。


 魔族が、なぜ他のヒト形種族より魔力が強いのか。

『それは、外部アンテナがあるからです』

 ナノマシンは、マイルにそう説明した。

 魔族にあって、他のヒト形種族に無いもの。

 そう、『ツノ』であった。頭蓋から直接生えて、突き出したツノ。それが、効率的な思念波の放射に寄与していた。


 メーヴィスは、外部に思念波を放射する機能が不全であった。

 内蔵アンテナが不調。ならば、外付けの外部アンテナを用意すれば良い。

 メーヴィスの血と髪を取り込んだ剣身は、メーヴィスの身体も同じ。ならば、剣にも思念波が行き渡るのが道理である。


「メーヴィスさん、説明した通り、これでこの2本の剣にはメーヴィスさんの『気』が流せるはずです。これで、あの技の鍛錬をして下さい。

 そして、威力を増す必要がある時は、剣を握る手を濡らして下さい」

「濡らす?」

「はい、剣への『気』の伝達を阻害する抵抗は、掌と剣の接触部分で発生する『接触抵抗』が、その最も大きなものです。その接触部分が濡れると、抵抗が小さくなるんです。

 水でも汗でも構わないんですけど、一番効果的なのは……」

「血、だね」

「……はい」

 予想通りのマイルの返答に、メーヴィスは歯を剥いて笑った。


 そう、いくら電圧が高くても、抵抗値が大きければ大した電流は流れない。

 夏場に感電事故が多いのは、このためである。汗で掌が濡れていれば、接触抵抗が少なくなって大電流が流れる。

 それと同じく、掌が血で濡れていたり、傷口から血を介して剣に直接繋がっていたりすると、思念波が剣に流れやすい。そして思念波が流れた剣は、アンテナとして周囲に思念波を放射し、周辺のナノマシンに働きかける。そう、メーヴィスの体内にある少量のナノマシンだけでなく、体外のナノマシンも使用可能となるのである。


「でも、普段は普通に使って下さいよ。特に、練習の時には……。使いやすい状態で練習したのでは、鍛錬になりませんし。

 それと、手を濡らして、滑って剣がすっぽ抜けたりしないように……」

「マイル、剣士を何だと思っているんだ? 手が汗や血で濡れたとかで、いちいち剣がすっぽ抜けるような剣士が、そうそういて堪るもんか。それに、何のために複雑な巻き方で柄巻してあると思っているんだ……」

「あ、そうなんですか?」

「マイル……。お前も、魔術師と兼業とはいえ、一応は魔法『剣士』なんだから……」

 呆れ果てるメーヴィスであった。



 そしてマイルの「魔力」を「気」と言い換えただけの指導が始まり、メーヴィスの特訓が続いた。

 初日が終わり、暗くなってから宿に戻ったメーヴィスは、身体はふらふらしていたが、その眼はぎらぎらと輝いていた。

「今日の『ファリルちゃんと遊ぼう』は、メーヴィスさんを優先して下さい……」

 マイルのその頼みに、レーナとポーリンは、こくこくと頷いた。

 今のメーヴィスには、『癒やし』が必要である。全員が、そう考えていた。


 2日目。宿に戻ったメーヴィスは、元々スレンダーな体つきであったが、それがますますスマートに、いや、痩せ細り、やつれていた。

 そして、ふらつきながらも、ぎらぎらと輝く眼。


「ちょっとマイル、大丈夫なんでしょうね? 明日は鍛錬は休んで、休養にした方がいいんじゃないの?」

「わ、私も、そう思います……」

 レーナとポーリンがそう言うが。

「私に言っても無駄ですよ、多分……」


「……明日も行く。マイルが来てくれないなら、私ひとりででも行く。

 もう少し、もう少しなんだ……」

 ベッドに倒れ込み、意識を失っているのではないかと思っていたメーヴィスが、うめくような声でそう言った。

「お聞きのとおりです。ひとりで行かせたら、止める者もいない中、どんな無茶をするか……」

 そう言われては、止めようもない。

 レーナとポーリンは、マイルを信じて任せることにした。


 そしてマイルは、悩んでいた。

 メーヴィスは、もうすぐあの技を会得するだろう。

 そして、その時。

(技の名前、何にしよう……)

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