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166 必殺技 1

「や、やめて下さい、メーヴィスさん!」

 マイルは、自分が心から謝罪する時には土下座をすることも厭わないが、それを人にさせる、しかも自分に対して、ということを許容できるような人間ではなかった。

 ……いや、許容できるような人間も何も、そもそも「人間の枠内ではなかった」かも知れないが、それは置いておく。


「で、では!」

「う……」


 マイルも、分かってはいた。メーヴィスが、魔法組に対して引け目を感じている、ということは。

 確かに『EX・真・神速剣』を使えば無双できるとはいえ、それには大きな制約があるし、そもそも薬に頼った力など、騎士が自分の力だと誇れるものではない。

 それに、あの『余が、炎の化身である(ファイヤー)』にしても、薬の力であるし、あの後、メーヴィスに後遺症が出たのである。



 あの時は問題なかったものの、その後、王都への帰路において、メーヴィスが「お腹が焼けるように痛い」、「喉が、喉が……」等と言って苦しみ始め、大慌てで治癒魔法を掛けまくったのである。

 治癒魔法の効果でようやく落ち着いたメーヴィスを休ませるために早めに野営し、皆が寝静まった後、最初の不寝番として起きていたマイルは、ナノマシンに聞いた。……仲間の身体に拘わることである、「あまり頼りたくはない」などと言っている時ではない。


(ナノちゃん、メーヴィスさんの症状は……)

『申し訳ありません。防護措置は取ったらしいのですが、まさかあんなに連発されるとは思っていなかったらしく……。直接の火傷は防いだものの、最後の数発分、少し粒子線を漏らしたそうです』

(ええええええぇ~~っっ!)

 粒子線……。電子線、陽子線、中性子線。

 マイルの脳裏に、『粒子線障害』という言葉が浮かんだ。


(め、メーヴィスさんは大丈夫なの!)

 蒼白になるマイルの鼓膜を、ナノマシンが振動させた。

『御安心下さい。粒子線と言っても、全てが即座に人体に大きな影響をもたらすものばかりではありません。

 今回は、擬似魔法によりエネルギーを生成する段階で副次的に粒子線が発生したものでして、漏らしたのはごく僅かですから、そんなに細胞やDNAを酷く損傷させるものではありません』

(……「そんなに」?)

『あ、いえ、ごく僅かで……。それも、マイル様達の治癒魔法により、完全に修復致しました。

 私からも、治癒魔法でメーヴィス殿の体内に進入したナノマシン達に対して、特に念入りに治癒するよう強く申しておきましたので……』

(……そう。ありがとう……)


 しかし、魔法を使う時には粒子線が発生するのか。それでは、危なくて……。

『例外ですから! 今回は例外ですから!!

 竜種のように体内で火球を生成する者など、普通、おりませんから! 閉鎖空間でエネルギーを発生させるために、次元連結システムを使ったり、色々と特殊な操作が必要だったためですから!

 普通の擬似魔法だとそんな必要はありませんし、竜種ならば強靱なので対処も楽ですし……』


 別にナノマシンに対して話し掛けたわけではない、マイルの独り言のような思考に対して、大慌てで説明するナノマシン。

 どうやら、マイルが魔法に対して不信感を持つのが、とても嫌だったらしい。



 そういうわけで、マイルはメーヴィスに『余が、炎の化身である(ファイヤー)』の使用を禁止した。

 せっかく魔術師に対抗できる技を会得したと思っていたメーヴィスはそれに強く反発したが、マイルが、それは竜種などの強靱な肉体を持つ者にしか使えない技であること、使うとメーヴィスの身体に異状が起こり死の危険を伴うこと等を説明して説得し、自身の身体の異変を自覚していたメーヴィスの抵抗もしだいに弱まっていった。

 最後に、マイルが「人命に拘わる緊急事態であり、他の手段がない場合以外の使用は禁止。もしそれを破ったら、以後、『ミクロス』の提供は一切取りやめる」と強く警告することにより、ようやく首を縦に振ったメーヴィスであった。


 そのメーヴィスの前に、剣技っぽい必殺技をぶら下げたら。

(諦められるわけがないか……)

「わ、私としましては、お教えしてもいいかな、とは思うのですが……」

「ほ、本当か! ありがとう、一生、恩に着る!

 無理を言って済まない。おいえの秘伝だとは思うが、決して他の者に教えたりはしない。その点は、安心してくれ!」

 大喜びのメーヴィス。


「でも、お教えしても、メーヴィスさんに使えるかどうか……」

「大丈夫だ。覚える。私は、必ず会得して見せる!」

「はぁ……」


 あれは、魔法を使った技である。

 剣を振る速さはともかく、相手が撃った魔法を剣で掻き消したり、魔力刃を飛ばしたりするのは、完全に魔法の力なのであるから、体外での魔法が使えないメーヴィスに会得できるはずがない。

 その後ベッドに潜り込んだマイルは、メーヴィスに無駄な鍛錬をさせた挙げ句に、どうしても会得できない絶望と落胆を味わわせることになるかと、ずっしりと重い心で落ち込んでいた。

(ああ、どうしてあんな言い方をしてしまったのだろう……。

 でも、あんなに必死なメーヴィスさんに、理由も説明せずに断ることなんか、できるはずがないよ……)


『お手伝い致しましょうか?』

(うわっ!)

 突然聞こえた声に、ビクッとするマイル。

(突然、何?)

『はい、仲間の不手際でメーヴィス殿には御迷惑をおかけしましたので、少しお手伝いを、と思いまして……。

 尤も、マイル様がお聞き下さいましたら、いつでもお教えしたのですが……』

 暗に、もっと自分達を頼れ、と言われているような気がしたが、あまり何でもかんでもナノマシンに頼る気はないマイルは、それをスルーした。

 しかし、今の悩みを解決してくれるというなら、それにはありがたくすがらせて貰うことにした。

 そう、いつものアレである。

『それはそれ、これはこれ!』

『心に棚を作れ!』




 ひと仕事終えた後なので、翌日からは休養日とした。今回は本気の戦いもあったし実入りも良かったので、3連休である。ギルドには昨日の夕方に顔を出したばかりなので、朝から各自、自由行動とした。


「メーヴィスさん、今日、ちょっと付き合って戴けますか?」

 昨日の今日である。真剣そうなマイルの顔に、メーヴィスはその用件の内容を悟った。

 そして、メーヴィスもまた、真剣な顔で答えた。

「……喜んで、付き合わさせて貰おう」

 その返事に、こくり、と頷くマイル。


「私達も付き合うわよ」

 横から、いつものようにレーナが口を挟んだ。しかし。

「今回は、御遠慮下さい」

「え……」

 まさかの、マイルからのはっきりとした拒絶。

 ぽかんとしたレーナに、メーヴィスからも拒絶の言葉が掛けられた。

「マイルの実家の秘伝の伝授だ。私に伝授して貰うだけでも、マイルにとっては実家の財産を売り渡すが如き行為であり、如何いかほどの決心をしてくれたことか……。

 それを、他の者に見物させるなど、言語道断。いくら仲間といえど、それだけは許されない。

 今回ばかりは、こっそりついて来る、というようなことも、一切自重して貰う」


 マイルだけでなく、いつも人当たりが柔らかいメーヴィスまでもが、硬い声でそう宣言した。

 さすがのレーナも、超えてはならない一線の存在を自覚した。

「わ、分かったわよ、勝手にしなさい!」


 そして、面白くなさそうな顔のレーナと、肩を竦めたポーリンを後に、マイルとメーヴィスは王都の近くの森へと出掛けるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『予が、炎の化身である』……「次元連結システムのちょっとした応用」だったのか……
[一言] 魔法組、と聞くと5年3組と思ってしまう
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