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152 余計なお世話

「……え? あの、この依頼をお受けになるのですか?」

 メーヴィスが先程の受付嬢、フェリシアに依頼用紙を提出すると、驚いたような顔で、そう確認された。

「はい、そうですけど?」

「おやめになられた方が……」

((((また、このパターンか……))))

 さすがに3度目ともなると、みんなもうんざりしてきた。


「危険度が不明であることも、空振りになって依頼失敗になる可能性も、赤字になるから受注者がいない『赤い依頼』として残っていた可能性も、全部承知しているわよ。

 未成年者もいるけれど、『赤き誓い』は一人前のCランクハンターなんだから、余計な心配は無用、失敗したら、それは自分達の責任よ」

 横からレーナが口を挟み、そう言われてはどうしようもないフェリシアは、やむなく受注手続きを行った。


 勿論、フェリシアも『赤き誓い』がこの若さでCランクだということの意味くらいはよく分かっている。多くのパーティが狙いをつけていることも。

 しかし、男性パーティが眼をギラつかせているのは、『赤き誓い』が、Cランクの能力を持つ、若くて美女、美少女揃いのパーティだからである。ただCランクの能力を持つだけのパーティならば、そこいら中にごろごろいる。今、ここにいるパーティの大半がそうである。

 そしてこの若さでは、経験が少なく、いくら才能があっても、とても中堅並みの実力はあるまい。

 若くしてCランクになり、順調に進んできたものだから、慢心している。それは、才能のあるハンターが若死にする最大の理由であった。


 つまり、他のパーティが避けるような依頼を、彼女達が無事にこなせる確率は低い。フェリシアは、論理的な演繹により、そう結論付けた。

 ハンターとしては珍しく、礼儀正しくてギルド職員に対して丁寧な言葉遣いをする、可愛い少女達。

 せっかくこの国に来たというのに、初依頼で全滅されては寝覚めが悪い。そう思ったフェリシアは、『赤き誓い』が受けた依頼が依頼であるため及び腰の地元ハンター達にガンを飛ばした。「何とかしろ!」という催促である。

 この王都で、フェリシアに逆らうような命知らずのハンターはいない。早速、ある5人パーティが名乗りをあげた。


「ちょっといいかな? 君達、この国に来たばかりだろう? 不慣れな土地で、いきなり不確定要素の多い危険な依頼を単独で受けるのは感心しないな。

 どうだろう、別の依頼にするか、どうしてもこの依頼を受けたいならば、俺達と合同で受ける気はないかい?」

 そして浮かべた笑顔の、白い歯がキラリと光った。どうやら、そういう魔法を使ったらしい。


 この支部ではイケメンパーティとして名が知られている『契約の護り手』は、美形揃いの若手男性5人のパーティであるが、彼らは決して見た目だけの男達ではなかった。まだ20歳前後の年齢としては充分な実力があり、そして女性関係以外では結構誠実であった。そのパーティ名が示す通り、約束は守る男達なのである。

 よりによってこの連中に先を越され、他のパーティは地団駄を踏んだが、申し出を躊躇った自分達の自業自得である。


 『契約の護り手』の申し出の内容は妥当なものであり、フェリシアは、うんうんと満足そうに頷いていた。『赤き誓い』がそれに返答を返すまでは。


「足手まといは要らないわよ」

「私達の移動には、ついて来れないんじゃないかな……」

「分け前が減ります!」

「あはは……」


「なっ……」

 『赤き誓い』の4人それぞれの返答に、絶句する『契約の護り手』のリーダー。

 受付嬢フェリシアも、ぽかんとしている。

「そ、それは少し、言い過ぎなんじゃないかな?」

 リーダーが、少し頬をヒクヒクさせながら、必死で浮かべた笑顔で、なんとか言葉を絞り出した。


 『赤き誓い』にとって、その申し出は、明らかに「余計なお世話」であった。文字通り、足手まといであるし、知られたくない戦い方もある。

 あまり他のハンターを馬鹿にするような態度は取りたくないが、一度ガツンとやっておかないと、これから先、何度も同じようなちょっかいを掛けられるであろう。なので、やむなく、少しデモンストレーションを行うことにした。

 そして、いつものように、レーナが指示を出した。


「メーヴィス、あれ、お願い」

「分かった。

 すみません、誰か、銅貨を1枚、山なりに投げて戴けませんか」

「おう、俺がやろう」

 周りの者を身振りで遠ざけ、自分の周囲に空間を空けながらのメーヴィスの言葉に、面白がったハンターのひとりが名乗り出てくれた。

 そして、投げられる銅貨。

 きぃん!

 ぱしっ!

 かちゃん


 そして皆の視線は、差し出されたメーヴィスの掌の上に載った、ふたつに分かれた銅貨に集中していた。

 そう、いつものアレ、銅貨斬りである。

 斬って、左手で掴んで、右手で剣を鞘に納める。もう数え切れないほどの回数の練習を重ね、今ではもう鍛錬としての効果が無くなってしまい、デモンストレーション専用になってしまった技であった。


「「「「「な……」」」」」

 驚愕に眼を見開くハンターやギルド職員達であったが、『契約の護り手』のリーダーは、同じく眼を見開きながらも、まだ折れてはいなかった。

「き、君がBランクか……。だが、いくらBランクがひとりいても、魔術師とDランクの未成年者ふたりを抱えていては、充分な働きはできまい。ここはやはり、前衛が充実している我々と組むべきだろう」

 その言葉に、え、という顔をするメーヴィス。


「何を言われているのか、よく分からないのだが……。

 私達は全員がCランクだし、私はこの中で最弱の名を欲しいままにする……、いや、何でもない」

 自分で言っておきながら、へこむメーヴィス。

 そして、レーナからの追加注文が。

「マイル!」

「は、はい!

 すみません、もう一度、銅貨をお願いします」

 マイルの言葉に、先程銅貨を投げてくれた男性が、再び巾着袋を取り出した。


 ききん!

 ぱしっ!

 かちゃん


 先程と同じことが繰り返され、突き出されるマイルの左手。

 先程と唯一違っているのは、銅貨はふたつに分かれたのではなく、4つに分かれていたということだけであった。

「「「「「…………」」」」」

 今度は、リーダーからも声が出なかった。


 前衛組は完全に沈黙していたが、どこからか後衛の魔術師らしき者から声が上がった。

「魔術師の腕は見せてくれないのか?」

 しかし、銅貨斬りは単なるデモンストレーションで済むが、魔術師は、魔法を使って見せると、色々と手の内を晒すことになる。得意魔法、詠唱速度、魔法行使の効率等、いくらフェイクを入れても、見る者が見ればある程度の推察が可能である。戦車のネジ1本から、その戦車の性能をある程度割り出すことが可能である、というのは都市伝説かも知れないが、それは確かに、一抹の真実を含んでいるのである。

 そして、その質問に対して、ポーリンから言葉が返された。


「お見せしても良いのですが、崩壊した建物の復元や、死んだ人達の蘇生はお願いできるのでしょうね? 私達は、破壊はできても、さすがに復元や死者の蘇生はできませんので」

 そんなことができる者など、いるはずがなかった。

「「「…………」」」

 どうやら、魔術師組も沈黙したようであった。

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