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150 来た! 来た来た!!

「……娘が、何か?」

 何か揉め事かと、厨房の奥から、慌てた様子の男性が出てきた。

 受付の幼女を娘と呼ぶからには、この宿の経営者、つまり大将なのであろう。

 獣人が受付をやっているとなると、絡む者も決して少なくはあるまい。つまり、慣れたこと、というわけであろう。

 しかし、見たところ、大将は普通の人間に見える。

 では、母親が獣人、もしくはその血を引く者なのか?

 確かに、この子の獣人の血は薄そうである。あの、森で出会った獣人達は、もっとケモノケモノした、もふもふできそうな毛皮をしていたのに、この子は殆ど人間である。耳以外は。

 しっぽは? しっぽはあるのか? マイルは、それが気になって仕方なかった。


「あ、いえ、何でもないわよ。ちょっとこの子が、獣人が大好きなもので……」

「じゅ、獣人が大好き?」

 レーナの言葉に、信じられない、という顔をする大将。

 そう、マイルが獣好き(ケモナー)であることは、『赤き誓い』のみんなには周知の事実であった。何度も、いかにケモミミ少女が素晴らしいかの熱弁を聞かされていたので。もう、うんざりするくらい、何度も、何度も。


「あ、あの、ちょっと触っていいですか?」

 そう尋ねるマイルの異様な眼のぎらつきに、思わずカウンターの前に立ち塞がる大将であった。



「……で、宿泊希望、と?」

 危険を感じたのか、娘を背後に隠し、自分で受付をする大将。

「ええ、4人部屋で、期間は未定。発つ時は、前日の夜には伝えるわ。部屋は空いてるかしら?」

 マイルの方をちらりと見て、何となく断りたそうな顔をした大将であるが、数秒の葛藤の末、声を絞り出した。

「あ、空いています。残念ながら……」

「「「「…………」」」」



「マイル、少しは抑えなさいよ、その、ダダ漏れの欲望!

 大恥掻いたじゃないの!」

 部屋にはいってすぐに、マイルに文句を言うレーナ。

「で、でも、猫耳ですよ、猫耳!」

「猫耳なら、遺跡の時にもいたじゃないの」

「ち、違います! むさいおっさんの頭に付いているのは、あれは違います!

 似てはいても、あれは違いますうぅ!!」


 レーナの指摘に、ムキになって必死で反論するマイル。

 そして、何がマイルをそこまで駆り立てるのか理解できず、ぽかんと立ち尽くすメーヴィスとポーリンであった。


「ちょっと、下に行ってきます!」

 まだ2階の自分達の部屋にはいってからほんの数分しか経っていないというのに、なぜか1階に行こうとするマイル。

「「「…………」」」

 止めても無駄である。

 これからのことを話し合うにも、そわそわしっ放しのこの様子では、マイルは使い物になるまい。

 今日はもう、ギルドに行くのは諦めよう。

 そう思い、もう、好きにさせることにしたレーナ達であった。



 わくわくしながら1階に降りたマイルは、厨房の大将に気付かれないように静かに歩き、受付カウンターに一番近いテーブル席に座った。そしてアイテムボックスから取り出した、干し肉と煮干し、ミルク、……及び、『またたび』。

 汚い! さすがマイル、汚い!!


 マイルは、前世において、いつ猫や鳩に出会ってもいいように、常にカバンの中に魚肉ソーセージとベビースターラーメンを入れていた。……ベビースターラーメンは、鳩に大人気なのである。

 そしてこの世界においても、勿論準備に怠りはなかった。

 ちゃんと塩分控え目に作った干し肉と煮干し、猫が分解できない「乳糖」は含まず、栄養分の調整をしたミルク、そして採取依頼の途中で発見した「またたびらしき木」から切り取った小枝。これらを、常にアイテムボックスに保管しているのである。


 人間用の干し肉や煮干しは、猫には塩分が多過ぎる。また、人間用の牛乳では猫には栄養が足りず、そして乳糖のため下痢を起こさせ、下手をすると死なせてしまう。そのようなミスをするマイルではないが、またたびは少し危険であった。

 またたびは猫の中枢神経を麻痺させるため、ごく稀にではあるが、呼吸困難で死に至る可能性がある。まぁ、様子を見ながらの少量使用であれば、大きな危険はないが……。


 そして、受付カウンターの幼女に対して、またたびの小枝を持った手でちょいちょい、と手招きするマイル。

 ぴく

 幼女の眼と耳が、マイルの方に向けられた。

 ちょいちょい

 ぴくぴく

 ちょいちょいちょい……

 ぴくぴくぴく……

 ちょ

 がしいっ!

「ぎゃあ!」


「……何してやがる」

 後ろからマイルの頭を掴んだ、憤怒の表情の大将。

「あ、いや、その……」

 焦るマイル。

「ファリルは猫じゃねぇ! またたびは効かんぞ!」

「……試したのですか?」

「う……」

 どうやら、試したらしかった。

 まぁ、またたびは、元々子猫や雌猫にはあまり効果がない場合が結構多いのであるが。



 そして大将との話し合いの結果、何とか悪意がないことを分かって貰えたマイル。

 但し、邪心がないことは信じて貰えなかったし、それはマイル自身も信じてはいなかった。

「……しかし、獣人の血を引いた者を嫌悪するどころか、大好きとは……。

 いったい何を考えているんだ? 馬鹿じゃないのか?」

「あなたが言いますか、それを!」

「あ、いや、その……」

 確かに、マイルが言う通り、『お前が言うな!』である。


 結局、大将との約束として、『3度の食事を食べ残す程の食べ物は与えない』、『またたび等の怪しいものの使用厳禁』、『仕事の邪魔をしない』という条件を守るなら、ファリルちゃんと遊んでも良い、という許可が下りた。

 受付兼食事客の会計としてのカウンターでの仕事は夜2の鐘(21時)までとのことなので、その後、ファリルちゃんが眠くなるまでの間、自分達の部屋に連れて行きたいと言うと、大将が怒鳴った。

「それじゃ、俺はいつファリルと遊べるんだよ!」

 ……尤もな意見であった。



「で、連れてきたわけね……」

 レーナが、呆れたような顔でそう言った。

 大将との話の後、マイルは部屋へ戻り、みんなと今後の話し合いをした。そしてその後1階に降りて食事。今か今かと待ちくたびれた夜2の鐘と共に、ファリルを『お姫様だっこ』で抱えて部屋へと戻ってきたのである。

 大将達は今、厨房の片付けと明日の仕込みをしている。それが終わると、娘を奪回しにやって来るのであった。


 後ろからファリルを抱え、自分の膝の上にちょこんと座らせるマイル。

 そして、耳の裏側の付け根を人差し指でコリコリと掻いてやる。

「ふぁ、くすぐったいですぅ……」

 悶えるファリルちゃん。


「やめんか!」

 ばしっ!

 レーナのチョップが、マイルの頭頂部に炸裂した。

「つ、次は私だ!」

 そして、横から口を挟むメーヴィス。

 末っ子であり、兄達に()でられる一方であったメーヴィスは、勿論、憧れていた。

 ……自分が、弟や妹を愛で、可愛がることに。


「わ、私の番は?」

 そして、弟が幼かった頃に、商売で多忙な両親に代わってずっと面倒を見ていたポーリンも、昔を思い出して、うずうずしていた。

「あんた達ねぇ……」

 そして、呆れた顔のレーナが、ばしっと彼女達を叱りつけた。

「次は、私の番に決まってるでしょうが!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 古竜や古代遺跡発掘以来は、マジどうでもいい、全然面白くないつまんないおっさんギャグみたいなネタばかり。 いつまでこんなふうに続くだろう
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