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144 宿屋 9 デウス・エクス・マキナ

「……では、話し合いを始めます。いいですね、メリザさん」

 席に着き、マイルの言葉にこくりと頷くメリザ。

 始めはポーリンが司会役を務めようとしたのであるが、ポーリンが話し掛けるとメリザがビクついてしまうため、司会役を変更することとなったのである。

 大将や女将さんでは、昔からの関係と、ここ数カ月のこじれた関係とがせめぎ合い、メリザが話しにくいだろうと思い、過去のしがらみとは無関係であり中立の立場で話せる『赤き誓い』の残りの3人の中から選ぶこととなったのであるが、メーヴィスはこういう話には明らかに不向きであったし、レーナだと、纏まるものも纏まらない。

 そうポーリンが主張したため、消去法により、人畜無害っぽいマイルが司会・進行役に選ばれたのであった。


「では、メリザさん。現在の『乙女の祈り亭』の営業方針について、どのようにお考えなのですか?」

 あまり腹芸が得意ではないマイルの質問は、いつも直球ド真ん中である。

「は、はい、楽して儲かるので、いい調子……、い、いえ、ちょっと無理があるかな、と……」

 悲しそうな大将夫妻と、不快感と軽蔑に歪んだポーリンの顔を見て、慌てて言い直すメリザ。

 一応、いつまでも続けられるやり方ではない、という自覚はあるようであった。

 しかし、普通の営業形態に戻すタイミングが計れず、また、そうしたところで、同情集めと被害者の振りをやめたのでは、素人料理では『荒熊亭』には太刀打ちできない。姉妹目当ての客以外は、皆『荒熊亭』に取られるであろうし、それではやっていけない。


「では、今後、どうするおつもりですか?」

「…………」

 マイルの問いに、答えに窮するメリザ。良い方法があるなら、とっくにやっている。

 その時、メーヴィスが口を挟んだ。

「問題は、料理なのだろう? 他の、宿屋としての仕事は問題ないはずだ。いや、逆に、若い女の子の方が喜ばれるだろう。

 料理人を雇う。これで解決するんじゃないのかい?」

「…………」

 黙り込むメリザ。

 やはり、大将の説明通り、他人を雇うことにはまだ抵抗があるようであった。


「大将さんから聞いています。やはり、他人を店の一員として迎えるのは、まだ抵抗があるのですか?」

「はい……」

 マイルの問いに、俯いて答えるメリザ。

 やはり、大将が言っていた通り、大人達を信じられなくなっているようであった。

 店の客として、お金を搾り上げるカモとしてなら問題ないが、店のお金を任せたり、泊まり客が出立して店が姉妹だけになる時間帯に他人である大人がひとりいる、というのが、雇われ料理人に襲われかけた姉妹にとっては耐えられないのであろう。それも、無理はない。


「誰か、あんた達が信用できて、一緒に働いて貰うのを許容できるような人はいないの?」

 レーナの言葉に、メリザはしばらく考えた後に答えた。

「え~と、あの、ここの人と、市場のセリラさんと、鍛冶屋のリサフィちゃんなら……」

 大将夫妻は、どちらもこの店を抜けるわけにはいかない。ひとりで宿と食堂を回すことは不可能であり、当然、却下である。

「その、セリラさんとリサフィちゃんというのは……」

「無理だ」

 大将が、マイルの言葉を遮った。


「市場の支配者、セリラ婆さんがこんなところで働いてくれるわけがねぇ。

 それに、そもそも80歳過ぎた婆さんに、何をさせる気だよ……。大体、あの婆さんはメシマズだ。息子のマールーがいつも愚痴ってた。

 そして鍛冶屋のリサフィは、まだ8歳、アリルちゃんの遊び相手だ。そんなのを連れてきて働かせたら、鍛冶屋の夫婦が怒鳴り込んでくるぞ。勿論、料理なんぞ作れるはずがねぇ」

「「「「……」」」」


 行き詰まった。

 皆、頭を絞るが、良い案が浮かばず、『赤き誓い』の4人が黙り込んでいると、今度はメリザが提案してきた。

「あ、あの! 料理ができるらしい、あなたに『乙女の祈り亭』に来て戴けばいいんじゃないですか?」

「「「「「「え?」」」」」」

「いえ、その、『岩トカゲのカラアゲ』とか、お客さんに大好評の料理を作れるらしいあなたにうちの厨房に来て戴いて、料理を作りながら、ラフィアにそれを伝授して戴ければ、全てが丸く収まるのでは、と……。

 そうです、名案です! もう、それしかありません!!」

「え……」


 マイルをびしぃっ、と指差して熱弁を振るうメリザに、ぽかんとした顔を向けるマイル。

「「「確かに、名案だ……」」」

 大将夫妻とメーヴィスが、感心したような声を漏らした。

 大人に対しての忌避感が強い姉妹も、12~13歳の少女であるマイルならば、大丈夫であろう。そして、マイルには金銭に関することは何もさせず、料理に専念して貰えば、姉妹の不安感や猜疑心も何とか宥められるであろう。

「もし、マイルと私達の都合を完全に無視できるなら、の話だけどね」

 しかし、それをバッサリと斬って捨てるレーナ。

 当たり前である。2~3週間くらいならば付き合ってやれないでもないが、13歳の少女を一人前の料理人に育て上げるのに、どれだけの年月がかかることか。

 とても、付き合ってはいられない。


 それに、そもそもマイルは魔法を駆使して地球の料理を適当に再現しているだけであり、その、この世界の料理に較べて圧倒的に洗練された調理法により好評を博しているだけである。別に野菜の面取りが上手いわけでもないし、大根の桂剥きができるわけでも、魚の切断面の細胞を潰さないように、包丁のひと引きで見事に切断する技術があるわけでもない。

 また、マイルはアイテムボックスに蓄えた調味料や香辛料を惜しげもなく使う。採算など全く考えずに。しかしそれは、料理人という職業に就く者にとっては、失格事由である。

 つまり、料理人の師匠としては、マイルは無能であった。


「絶対に無理です! 拒否権を発動します!」

 検討するにあたわず、と、即答で断るマイル。自分のことはよく分かっているのだから、当然である。

「そんな……」

 そしてメリザが絶望に包まれた時、店の扉が開けられた。

 そして店にはいってきた、15~16歳くらいのふたりの少年。

「「父さん、戻ったよ~!」」


「「「「…………誰?」」」」

 マイル達の声に、大将が答えた。

「息子達だ。12歳の時に、王都の兄弟子のところに料理人の修業に出した。

 親の店だと、甘えが出て見習い料理人の修業には良くないから、子供を他店に修業に出すのは普通のことだ。15歳になるまで家には戻らず修業に励め、と言っておいたんだが、そうか、もう3年経ったのか……」


ひでぇ! 息子の誕生日どころか、存在そのものすら忘れてたんじゃねぇのか、この熊親父!」

「まぁ、父さんだからなぁ……。

 で、メリザと、そこの4人の可愛い女の子達は、ここで何してるの?」


 どうやら二卵性双生児らしい兄弟は、ふたりとも中々の男前で、身長も高く、がっしりとした体つきをしていた。そう、この世界でモテるタイプである。

 ふとマイル達がメリザの方を見ると、……口を半開きにして、ふたりを凝視していた。


 そして突然、マイルが叫んだ。

「デウス・エクス・マキナですかああぁっ!」


「でうす、えきす、まきな? 何よそれ?」

 また何を言い出すのか、と思うレーナであったが、いつものことなので、あまり気にはしていない。メーヴィスとポーリンも同様であった。


「デウス・エクス・マキナ、です! 演劇とかで、話が行き詰まってどうしようもなくなった時に、天井からロープで吊り下げられた作りものの神様が降りてきて、『神のひと声』で全てを解決する、というやり方ですよ!

 物語は、あくまでも緻密な構成と必然性による因果関係により進められ、登場人物達の意志と努力により解決に導かれていくべきものです。決して、行き詰ったところに伏線もなく突然現れた『便利なモノ』によって解決されちゃ駄目なんですよ!

 そんなの、邪道です! 駄作です! 手塚先生はお許しになりませんよ!!」


 がるるるる、と猛るマイルを必死で宥めるレーナ達であった。


「……で、テヅカセンセイ、って、誰よ?」


危ない!

またまた、『乙女の祈り亭』を、『女神の祈り亭』と書いていた!

最終推敲で、ぎりぎり発見!

いや、3話連続で書き間違えたままアップすると、またまた感想欄で突っ込まれる……。(^^ゞ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後にマンガの神様が出てくる所に爆笑!
[一言] ちょ、おま、怒られるよ、それは…
[一言] >消去法により、人畜無害っぽいマイル 「ぽい」だいじですね。
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