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134 聴取

「えと、先程のお話ですと、皆さんは、普通に正規の護衛依頼を受けられたハンターですよね?」

「ああ、そうだ。昼前に貼り出された依頼で、商談の間のほんの短時間のみの護衛依頼だ。

 相手が4人組のハンターだから、交渉がこじれて実力行使に出られた場合に備えて、合図をしたら姿を現して威嚇いかくして欲しい、という依頼で、新米の女の子4人組だから大したことはない、という話だったし、ごく短時間で今夜は豪勢な食事と酒盛りができるだけの稼ぎになるならと、依頼票を読んで、すぐに依頼ボードから剥ぎ取ったんだが……」

 マイルに、頭を掻きながらそう答える、リーダーと覚しき男性。


「じゃあ、状況は認識して戴けましたよね? この人が私達から香辛料を奪い取り、その入手ルートを我が物とするために虚偽の申し立てをして、あなた達に犯罪行為を行わせようとした、ということを。

 この香辛料と、先程の証言との矛盾。そして、本当に私達を盗賊の一味だと思っていたなら、自費でハンターを雇ったりせず、警吏に届けていますよね、普通。

 それを、ハンターを雇ったり、虚偽の証言をしたり、入手先を喋らせようとしたり。

 これら全てを、ハンターギルドと警吏に証言して戴けますよね?」

「あ、ああ、勿論だ。でないと、依頼失敗とか犯罪行為荷担とかになって、俺達も困ったことになっちまう。

 逆に、俺達の方から頼みたい。俺達に落ち度や違法行為はなかった、ただ騙されただけだということを証言して貰いたい!」

 マイル達がそれを快諾し、ハンター達はほっとした顔をしていた。


「そして、店主さんの方ですけど……」

 店主は、顔色が悪かった。

「この香辛料が盗品ではないと知っていながら、それを奪うために私達を犯罪者に仕立てあげようとしたこと。それも、盗まれた香辛料の持ち主でもないのに。

 そして、ギルドに依頼した護衛を騙し、犯罪行為に荷担させようとしたこと。

 以上2件、ギルド経由で警吏に引き渡される前に、何か言いたいことはありますか?」

 マイルが水を向けると、店主は必死で言い募った。

「わ、悪気があったわけじゃねぇ! ほんのちょっとした……」

「え、悪気がない? 全然悪いことをしたと思っていないのですか? あなたにとって、こういう行為は良心の呵責に耐える必要もない、ごく普通の行為なんですか?」

 レーナ達だけではなく、護衛に雇われたハンター達も、まるで汚物を見るかのような眼で店主を見ていた。


「……え? あ、いや、そういう意味じゃない! これは……」

「でも、悪気がなくて、人を陥れる犯罪行為ができるのでしょう? これで、悪気があったら、いったいどんな凶悪犯罪を起こすつもりなんですか……」

 そう言って、ばっさりと斬って捨てるマイル。

「それに、これって、自分がギルド経由で依頼した者同士を戦わせようとした、ってことですよね?

 これって、ギルド的にはどうなんでしょうか?」

「……稀に見る、ギルドへの悪質な敵対行為だな。以後の一切の依頼の拒否だけでなく、犯罪者として警吏に引き渡す、というのが最低ラインだろうな。

 下手したら、嬢ちゃん達と戦いになって、死人が出ていたかも知れないんだ。軽い処罰で済むわけがないだろう」

 マイルと護衛のハンターとの会話を聞いて、もはや蒼白の店主。

 ガタガタと震える店主を見て、マイルは、もうそろそろいいかな、と思った。


「で、どうしてこんなことをしたのですか?」

 マイルの質問に、店主は震えながら必死で答えた。

「こ、香辛料が欲しかったんだ! 今の、一時的な不足分だけではなく、これから先、継続して安く香辛料を手に入れることができれば、たっぷりと香辛料を使った料理が、安価で提供できるようになると思ったんだ……。

 決してそう質が良いわけではないが、強烈な辛味を持つあの香辛料が近場ちかばで安く入手できるなら、風味や香りの不足分くらい、普通のトウガラシと混ぜるなり、他の素材を加えるなりして、何とかしてみせる!

 あれが定期的に安く手に入りさえすれば、今までうちの料理には手が出なかったあまり裕福ではない多くの客に、いつでもうちの辛味料理が食べて貰えるようになる……。

 お前達は旅のハンターだろう? そんな目立つ若い女の4人組なんか、この街の者なら俺が今まで知らなかったはずがねぇ。ということは、どうせすぐにこの街を出ていくんだろう?

 だから、ルートが! 入手手段が、どうしても知りたかったんだ……」

 くずおれ、両手を床についた店主は、そう言って項垂うなだれた。


 マイル達は、少し困っていた。

 この店主は、初対面の時から少し横柄な態度であったが、それは依頼主として自分の方が立場が上だと思っていたこと、マイル達が若い少女ばかりであったこと、そして職人気質の頑固親父には別に珍しくもないタイプなので、特に不快に思っていたわけではなかった。

 そして、料理と客に関しては、それなりに誠実なようなのである。


 もし、自分達がこの依頼を受けていなければ。

 もし、自分達が『常識的な品質の香辛料』を、『常識的な量』だけ持ってきていれば。

 そうしたら、この店主は、普通に買い取り、普通に料理人として働き続けていたのではないか。

 ……自分達の非常識さが、犯罪行為を誘発して、この店主の人生を狂わせてしまったのではないのか。

 そう思うと、居たたまれないような気持ちになってしまったのである。


「じゃあ、もし私達が護衛の人達を説得できずに戦いになった場合、どうするつもりだったのですか?」

 マイルの問いに、店主は、ぽかんとした顔をして答えた。

「え? そんなの、ハナから勝負にならないだろう。後で申し開きをするために大人しく降参するか、簡単に取り押さえられるだろうから、その後で、盗賊じゃないと言い張るなら入手先を言ってみろ、と言って入手ルートを聞き出すつもりだったんだ……」

「そしてその後、警吏に引き渡して、無実の罪で拷問、処刑させるつもりだったのですか?」

 マイルのその言葉に、驚いたように声を上げる店主。

「ち、違う! そんなことをするつもりはなかった! 儂は仕入れのルートさえ分かればそれで充分だ、それさえ聞き出せれば、その金貨を渡して『勘違いして済まなかった』と言って終わらせるつもりだった!」


 そう弁明する店主に、しかしマイルは更に突っ込んだ。

「もし、仕入れ元を喋らなかったら?」

「……え?」

「いえ、ですから、もし私達が信義を重んじて仕入れ元を喋らなかったら、その時はどうするつもりだったのですか? 盗賊の一味として警吏に引き渡すつもりだったのですか? それとも、拷問でもするつもりだったのですか?」

 店主は、きょとんとした後、本当に素の表情で言った。

「……考えていなかった」

「「「「え?」」」」

「そこまで、考えていなかった……」

 どうやら、本当らしかった。


「ま、どうせ、そんな可能性は無かったんですけどね」

「「「「「「え?」」」」」」

 店主と護衛ハンター達の声が重なった。

「いえ、もし争いになれば、護衛の皆さんを昏倒させて、全員をギルド経由で警吏に引き渡していますから。強盗に襲われた、と言って」

 マイルの言葉に、おいおい冗談は勘弁してくれよ、というような顔で苦笑する護衛ハンター達。

 マイルは、カチンときた。

 一応、店主の意図、というか、どれだけのことを考えていたかを確認したかっただけなので、それを聞いた後は『まぁ、そういう可能性は元々なかったのだから、あんまり気にすんなよ』というような軽いつもりで言っただけの言葉で、あからさまに馬鹿にされたのである。

 舐められては、ハンター稼業はやって行けない。


「レーナさん、ポーリンさん!」

「炎爆!」

「アイス・ニードル!」

 マイルの合図で、一瞬の内に魔法名のみの詠唱省略魔法により頭上に小火球と氷の針の群れを作りだしたレーナとポーリン。

「なっ、詠唱省略魔法だと!」

 眼を剥く護衛のハンター達。

 そしてその間に、懐から出す振りをしてアイテムボックスから銅貨を1枚取り出したマイルは、それをメーヴィスに向けて指で弾き飛ばした。

「メーヴィスさん!」

「おぅ!」


 そして一瞬の内に剣が走り、それに続いて、剣から離されたメーヴィスの左手が空を走る。

 そう、昔マイルがやった技、『銅貨斬り』である。

 あの、マイルがハンター登録をした町。あの町のハンター達からマイルに掛けられた『銅貨斬り』という呼び名。その由来を居酒屋で受付嬢のラウラから聞かされたメーヴィスは、その後マイルに頼み込んで、そのコツを伝授されたのであった。

 但し、コツとは言っても、それを教われば誰にでも真似できるというようなものではない。

 メーヴィスが、マイルが作ったこの剣を使って、初めて可能となる技である。


「「「「「え……」」」」」

 開かれたメーヴィスの掌に乗った、ふたつに分かれた銅貨の欠片を見た護衛ハンター達は、驚愕に眼を見開いた。そして再び、レーナとポーリンの頭上に浮かんだ、待機状態の炎弾と無数の氷の針を凝視した。

「「「「「す、済みませんでしたっっ!」」」」」


 『赤き誓い』の実力を知り、もし本当に戦いになっていたら、と想像して、青くなる護衛ハンター達。

「し、しかし、驚いたな、みんな若いのに……。

 凄腕の剣士に、Bランク並みの魔術師ふたり、そして君は、まだ若いのにパーティの頭脳、司令塔役かい?」

 リーダーらしき男性にそう聞かれたマイルは、首を横に振った。

「いえ、私など、ポーリンさんの腹ぐ……知謀に較べれば、赤子同然ですよ。私は、剣士兼魔術師です」

 そこに、横からレーナが声を掛けた。

「マイルは、この中で一番強いわよ。剣も、魔法もね」

「「「「「え……」」」」」


 ……怖い。コイツら、怖い!

 そう思って、ドン引きのハンター5人であった。



11月2日で、私の「小説家になろう」デビュー一周年となります。

昨年のこの日、『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』第1話投稿。

翌日の11月3日、『ポーション頼みで生き延びます!』第1話投稿。

初投稿から書籍化打診までの経緯を、活動報告に書きました。(^^)/

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[一言] >「でも、悪気がなくて、人を陥れる犯罪行為ができるのでしょう? これで、悪気があったら、いったいどんな凶悪犯罪を起こすつもりなんですか……」 何の罪もないナノちゃん達を、凝縮した肥溜めの如き…
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