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125 懐かしの王都へ

「……というわけで、エクランド学園に入学できたんです!」

 王都のエクランド学園の初級生だというフセリルちゃんは、そう言って、嬉しそうに話してくれた。


 あれから、商隊は少し編成を変えた。

 先頭は、乗合馬車。そこに、盗賊達を全員乗せた。両眼を突かれた盗賊は、ポーリンが治癒魔法で治癒してやり、視力を取り戻している。それが温情なのか、犯罪奴隷として引き渡す時の値段を考えてのことなのかは、定かではない。

 そして2番目は、元の商隊の1番馬車。これに、『赤き誓い』が全員乗っている。万一乗合馬車で何かあった場合、すぐに分かるように、である。

 そして、それだけだと乗合馬車がギュウギュウ詰めになってしまうし、幼い少女に汚物を見せるのは教育上良くないため、若夫婦と娘さんは最後尾の馬車へ、そして10歳の少女フセリルちゃんは、『赤き誓い』と同じ馬車に移動させたのである。

 荷馬車に空間を空けるため、荷物の一部はマイルが収納に入れた。それを見ていた商人達の、何とも言えない表情を見て、マイルは何となく申し訳ない気持ちになったのであるが。


 そしてレーナは、乗客達と報酬の交渉を行った。

 こんなことで儲けたいと思ってはいなかったが、無料ただにすると、そんな前例を作っては他のハンター達に迷惑がかかる。なので、形だけではあっても、報酬は貰わねばならない。

 しかし、交渉とは言っても、レーナがポーリンの不満を押し切って提示したのは格安価格であったため、乗客達は不満がないどころか、大喜びで了承してくれた。そしてついでに、目的地までの同行を要望され、速度が遅い荷馬車に合わせてくれるなら、という条件で、商人達の了承を得て、契約の合意に至った。


 ついさっき、生命や財産を失うところだったのである。絶対無敵の護衛が同行してくれるなら、乗客達にとって、僅かな追加料金など安いものであった。

 現地における緊急指名依頼の扱いになるので、事後処理となるが、審査を通って承認されれば正式なギルド経由扱いとなり、手数料は発生するが、ちゃんと功績ポイントが付く。レーナがあまりにも安い料金で受けたため、手数料の金額が少なくて、渋い顔をされるであろうが……。

 今回は、乗客達があまり裕福そうではないこと、どうせ元々向かう方向なので特に手間は増えないこと、そして弱みに付け込むようなことはポーリン以外はあまりやりたくないこと等から格安価格にしたが、普通は、現地における緊急指名依頼というものは、相手の弱みに付け込んで法外な金額を提示するのが常識なのである。


 そんなわけで、フセリルちゃんから色々と話を聞いていた『赤き誓い』の面々であるが……。

 マイルが、とうとう我慢できずに、気になっていたことを聞いてしまった。

「あの、学園って、猫が居着いていたりしませんか?」

 フセリルちゃんは、少し驚いたような顔をしたが、すぐににこやかに答えてくれた。

「あ、ハイ! そういうことって、よくあるんですか? エクランド学園にも、お住みになっておられますよ、『虫取り器』様が」

「「「む、虫取り器?」」」

「様?」

 レーナ、メーヴィス、ポーリンの3人は、その、あんまりな名前に。

 そしてマイルは、『様』付けと敬語に。それぞれ、驚愕の声を上げた。


「はい、女神様の御使い、『虫取り器』様であらせられます。女神様の御寵愛を賜られた、至高の3姉妹、『ワンダースリー』のお姉様方に寄り添われ、守護をなさっておいでです。

 そして時たま、私達初級生や中級生の寮にもお越し下さって、虫やネズミを獲って下さいます」

「「「…………」」」

 レーナが、静かになったマイルの方を見ると、マイルは、白目を剥いて泡を吹いていた。



 野営の時間には、フセリルちゃんは乗合馬車の乗客達と合流していた。

 そして夕食後。

「……マイル。この国なのね?」

「……はい……」

「で、今、王都に向かっているんだけど。商隊と乗合馬車、二重の契約をしちゃってて」

「…………」

 マイルは、レーナの言葉に、返事ができない。

 乗合馬車の方は、制服を見て状況に気付いた後なのにレーナが、と思ったメーヴィスであるが、勿論ここでそんなことを口に出す程の馬鹿ではない。


「マイル、あんたはどうしたいの?」

「……です……」

「え? 何だって?」

「あ、会いたいですぅ! 挨拶も出来ずに別れたお友達に、会いたいですぅ!!」

 ぐしゅぐしゅと泣き出したマイルの頭を、レーナがポンポンと軽く叩いてやった。

「それでいいのよ。あんた、まだ13歳なんだから。もっと我が儘言って、甘えなさいよ。

 養成学校の同期生ではあるけれど、私達はあんたよりずっと年上で、お姉さんなんだから」

「う、うぇ、うええぇぇ~~……」

 レーナにしがみついて泣き出したマイルを見て、優しく微笑むポーリンと、両手をわきわきさせながら、そわそわしているメーヴィス。

 どうやら、レーナに代わって貰いたいらしかった。

 しかし、レーナにそんな気は更々ないらしく、知らぬ振りをされて、メーヴィスは肩を落とした。




 そして数日後。

 商隊と乗合馬車は、無事王都へと到着し、それぞれから依頼完了証明書と、乗合馬車の方からは依頼料を直接貰った。

 商人の方はギルドに常時ある程度のお金を供託しているため、報酬はギルドから渡されるが、乗合馬車の方は、経営側ではなく乗客が勝手に依頼したわけなので、乗客達が自分で払わなければならない。そして、ギルドを通さない仕事にするならば全額が手に入るが、事後処理でギルド扱いにするならば、この中からギルドの取り分を納めなければならない。

 普通は、無事に問題なく終わった仕事をわざわざギルド扱いにして手数料を払う者はあまりいない。しかし『赤き誓い』は功績ポイント重視、Bランク昇格重視であり、お金にはあまり困っていないため、現地指名依頼というポイント的にもパーティの信頼度的にも美味しい仕事は、ギルドを通しておきたかったのである。


 商隊と乗合馬車とは商業ギルドの前で別れ、ギルドへと向かう4人。

 マイルは、街門を通過する前から馬車の中にはいったままであり、商隊から別れるとすぐ、皆を待たせて、一旦裏路地にはいった。そしてすぐに大通りに戻ってきた時、マイルの髪は金髪に、そして眼の色は茶色に変わり、その顔は見慣れぬ顔へと変わっていた。

 髪と眼は、色素変換。そして顔は、光学的な変換処理によるカモフラージュである。それらは、そう極端に造形を変えるものではないが、受ける印象は大きく変わり、とても同一人物とは思えなくなるものであった。

 マイル以外は、そのままである。この国には知り合いはいないし、たとえいたところで、会っても何の問題もない。『アデル』としての正体が露見するとまずいマイル以外の者にとっては、この街は、ただの旅先の街に過ぎなかった。

 なので、マイルが変装した今、4人は安心してギルドへと向かった。

 そしてメーヴィスの手には、ロープが握られており、その先には、6人の男達が繋がっていた。乗合馬車から降ろされた、盗賊達である。

 男達は、両手首は勿論、更に腕自体も身体に縛り付けられて蓑虫みのむし状態、とても全力で走ったりはできないようになっており、そして首が『引っ張れば締まるタイプの結び方』のロープで繋がれていた。

 そう、絶対に逃げられない、偏執狂的なまでに念入りな縛り方であった。

 誰が結んだかは、定かではない。


 1年数カ月振りの、ブランデル王国王都。

 マイルは、この街に1年と2カ月間滞在したけれど、ここのハンターギルドには足を踏み入れたことがない。

 緊張してギルドに足を踏み入れ、ドアベルの音と共に集中する視線。そしてすぐに、新米パーティか、と興味が失われて視線は元に戻る。今まで何度も各地のギルドにおいて繰り返された、お馴染みの光景である。


「すみません、護衛依頼完了と、現地における緊急依頼の事後処理、お願いできますか?」

「あ、はい、こちらにどうぞ!」

 入り口近くでマイルがそう申告すると、緊急依頼の方は少し手続きが煩雑なため、受付嬢がカウンターから出てきて、相談用テーブルの方へと誘導してくれた。

 それに続くマイル、レーナ、ポーリン、メーヴィス、そしてメーヴィスが握ったロープに引っ張られて、ドアを通ってぞろぞろとギルドの中へとはいってくる、6人の盗賊達。

「「「「なっ!」」」」

 テーブル席に座っていたハンター達や、カウンターの向こう側のギルド職員達が、思わず腰を浮かせた。

「あ、すみません、盗賊の引き取りもお願いします」

 マイルが、慌てて処理の追加を申請した。素で、忘れていたようであった。

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