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103 領都へ

 マイル達と救出した18人は、無事森を抜けて、領都への街道に出ていた。

 街道と言っても、馬車1台通るのがやっとの田舎道であり、馬車同士がすれ違ったり転回したりするためには、所々に設けられた待避スペースを利用するしかない。

 当初の予定通り、例の『森の手前の村』に寄るのはやめた。

 もう獣人の追跡部隊については心配する必要はなかったが、訊問に思ったより多くの時間を費やしてしまったため、村に寄ると、暗くなるまでに領都に着くことが難しくなるからである。そしてそれに文句を言うような者は、ひとりもいなかった。


「捕虜がいれば……。捕虜がいれば、報酬額が……」

「あ~、うるせぇ! 分かったよ、ねーちゃん達が捕虜を取ったのに、俺達の都合で解放させた、って、ちゃんと伝えるから! 情報も少し取れたし、その分、報酬に上乗せするよう掛け合ってやるから! な、ギルドのねーちゃん、それでいいよな!」

「は、はい、私からもお口添えします!」

 ポーリンがあまりにもしつこく愚痴を溢し続けるため、遂に護衛リーダーが根負けして、確証のない約束をしてしまった。そして、もし意見具申が不首尾に終わったらどうしよう、と、嬉々として獣人の足を折るポーリンの姿を思い出したリーダーは、ぶるぶると身体を震わせるのであった。


「……ところで、博士……」

「なぁに?」

 歩きながら突然話しかけたマイルに、クーレレイア博士が振り向いた。

「あの、ハンターギルド王都支部のティリザさん、って、御存じですか?」

「あ~……」

 マイルの質問に、博士は、またか、という顔をした。

「それ聞かれるの、何度目かなぁ……。

 あの子、若く見えるから、エルフ、もしくはハーフエルフじゃないかって思う人が多いみたいなんだけど、両親共に普通の人間なのよねぇ……。まぁ、何世代か前にエルフの血がはいってて、それで先祖返り、って可能性はあるけどね。一応は、純血、普通の人間よ」

「「「「えええええ?」」」」

 マイル達だけでなく、ギルドマスターの娘にしてギルド職員のテフィー、そして護衛のハンター達も驚いていた。どうやらティリザは、その方面では結構有名人らしかった。


「な……。ギルドでは個人的なことを根掘り葉掘り聞こうとするのは御法度だから、あえて誰も聞こうとはしなかったけれど、みんな、彼女はエルフかハーフエルフだと思っていたのに……」

 愕然とするテフィー。

 女性にとって、若さを保つ秘訣には千金の価値がある。相手がエルフであるならば諦めもつくが、同じ人間だというならば、その若さが妬ましい。

「ぎぎぎぎぎ……」

 どうやら、地雷を踏んでしまったらしい。

 王都と、ここ、ヘルモルトの町は、そう遠いというわけではない。片道5日の距離というのは、この世界では「比較的、近く」なのである。しかも、片方は王都。ギルド職員の間に交流があってもおかしくはなかった。

「あの女……」

 俯いてぶつぶつと呟くテフィーが怖くなり、慌てて距離をとるマイルであった。


 そして夕方。

 まだ陽が沈む前に、何とか領都であるヘルモルトの町へ到着した一行は、そのままギルド支部へと向かった。

 途中で、一行を見た数人のハンターが大急ぎでギルド支部へと走っていった。恐らく、テフィーや護衛達、そして一緒に救出したハンター達の顔見知りが、ギルドに知らせるべく走ってくれたのであろう。


 そして、ギルドに着くと。

「て、テフィいいいいい!」

 ギルドの建物の前で待ち構えていたギルドマスターが、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、両腕を広げて全速力で駆け寄ってきた。

「テフィいぃ!」

 抱きつく直前にテフィーにさっと避けられたギルドマスターは、涙で前がよく見えなかったため、そのままテフィーの後ろにいたクーレレイア博士に思い切り抱きついた。

「ぎゃあああああああ~!!」



「……というわけです」

 マイルの報告に、両頬を赤く腫らし、派手な引っ掻き傷を付けたギルドマスターが大きく頷いた。

 ……威厳も何も、あったものではない。

 マイルが報告しているのは、これが『依頼完了報告』だからである。

 『赤き誓い』の中で、今回の事件の全容を一番把握しているらしいマイルが報告役を任されたのは当然のことであった。他の3人は、普段はマイルのことを『少し残念な子』扱いしているが、報告を纏めたり説明したりする能力が自分達より優れていることは自覚していたのである。

 そして、調査隊としての報告は、マイル達の報告が終わり、『赤き誓い』が引き揚げた後にゆっくりと行われる予定であった。


「……この後、調査隊からの報告を受けて、その後すぐに領主様に報告に行く。報酬額については、その時に相談して決定する。明日また、ここに来てくれ。

 この度は、御苦労だった。そして、皆を救ってくれたこと、決して忘れん……」

 本当は、娘を救ってくれたこと、と言いたかったのであろうが、今はギルドマスターとしての発言であるため、こういう言い方が精一杯だったのであろう。

 それを察した『赤き誓い』の4人は、こくりと頷き、会議室を辞去した。


「……終わりましたね」

「終わったわね……」

 恐らくは、依頼主ですら期待していなかったであろう、調査隊全員の生還。更に、行方不明になっていたハンターの半数近くを救出。……他のハンター達は、縄張りを出るハメになって気が立っていた魔物か何かの犠牲にでもなったのであろう。半数が助かっただけでも上出来であった。

 これ以上はないという、望外の成果であった。メーヴィスとポーリンも、満足そうな顔をしている。

「では、今日の夕食は3倍の代金を払って、特別に豪華な食事を作って貰うわよ。いい?」

「「「おお!」」」

 レーナの案は、満場一致で可決された。



 翌日、『赤き誓い』の4人は、朝イチでハンターギルドに顔を出した。

 勿論、報酬を受け取るためである。

 貰う物を貰ったら、その足で王都へ向かう予定であった。

 受付窓口に行くと、ちゃんと話が通っていたらしく、すぐに報酬を渡された。

「調査隊の救出報酬、魔物の生態圏変動の原因解明、それと、重要人物であるクーレレイア博士の救出に対しての特別報酬。そして一般ハンター9人の救出については、僅かではありますがハンター互助会からの報奨金と、本人達からの謝礼金が支払われます」

「いいわよ、本人からの謝礼金は。武器を失って、大変なんでしょうから……」

 レーナの言葉に、ポーリンも頷いた。

 守銭奴ポーリンのその姿を見たマイルは、愕然とした。

(し、信じられない! テレビ東京が特別番組を組むのは地球が滅亡する時、と言われていたけど、それに匹敵する珍事!!)

 テレビ東京とは、湾岸戦争が起ころうが大災害が起きようが、粛々と通常番組を放映し続ける、驚異のテレビ局である。西のサンテレビ、東のテレビ東京、と言われる、日本が誇る、テレビ界の冒険者、いや、勇者であった。そしてマイルは、前世において、その信奉者であった……。


「いえ、そうは参りません。例外を作ると、それを引き合いに出して謝礼金を出し渋る者が現れないとも限りません。そうなりますと、現場で支払いの意思を確認してからでないと救助しないとか、その確認にかかった時間のために手遅れになるとか、色々と弊害が起きる可能性がありますので……」

 受付嬢の説明に、あ~、という顔をするレーナ。

「それじゃ、仕方ないわね……」


「それと、せっかく捕らえた捕虜を調査隊の指示で解放させたことに対する補償と、情報収集に対する報酬も加え、これが総額になります」

 そう言って、受付嬢は、どん、とカウンター上に革袋を置いた。

「「「「おおおおぉ!」」」」

 予想していたよりかなり多いその金貨の量に、4人は目を見張った。まさか中身が銀貨や銅貨だということはあり得まい。


「ギルドマスターが、お話があるので皆さんに部屋に来て戴きたい、とのことですので、お願い致します」

 受付嬢の言葉に、娘を助けた礼か、報酬の細目説明か何かだろうと思い、軽い気持ちでギルドマスターの部屋へと向かった『赤き誓い』の4人。

 そして彼女達を迎えたのは、ギルドマスターと、そしてクーレレイア博士のふたりであった。


「お前達には、再び、森の獣人達のところへ行って貰いたい。領主様からの指名依頼だ」

「「「「ええぇ?」」」」

 いきなりの宣告に驚く4人に、ギルドマスターは言葉を続けた。

「今朝、王都へ報告の使いを出した。先触れの早馬と、それに続く、報告のための者を乗せた馬車だ。報告には、領主様の配下の者と、クーレレイア博士以外の調査隊の者全員が同行している」

「え、護衛パーティの人達、武器は……」

「ギルドが無料で貸与している。戻ってきたら返却して貰うがな」

「あ、ソウデスカ……」

 質問したマイルは、ギルドマスターの返事に安心した。説明者兼護衛として、更に情報が拡散するのを防ぐことも兼ねて、彼らを連れていくことは理に適っている。

 帰還後は武器を返却しなければならないことを考えると、少し気の毒には思ったが……。


「多くの獣人、それも組織立った動きをしている獣人相手に下手なことをすると、獣人達全体との関係悪化、最悪の場合は、再び表立った敵対関係に戻るかもしれない、ということは理解しているな?」

 こくこく、と頷く4人。

「なので、地方の領主が勝手に軽々しく判断して動くわけにはいかない。国の判断を求めないとな……。

 しかし、見張りもなく放置するわけにも行かん。王都からの使者を連れて行ったらもぬけの殻、というのでは立場がないし、獣人達の目的を知らねば、今後、同様のことが繰り返されるかも知れん。そして……」

「そして?」

「領主様は、発掘されるであろう財宝を御所望だ」

「「「「あ~……」」」」

 納得、という顔の4人であった。

何と、来る夏のコミケットにおいて、『私、能力は平均値でって言ったよね!』のグッズが、地球初の発売決定!

(いや、向こうの世界ではフィギュア売ってたから……。(^^ゞ)


日時:2016年8月12日(金)~13日(土) ※企業ブースにて販売

場所:東京ビッグサイト 1F西1ホール

ブース:No.1525(SMIRALブースにて委託)


ごくごく少量生産なので、売り切れたらごめんなさい。

……って、売れ残る方が心配。(^^ゞ


「てーきゅう」のグッズ等も発売!

詳細は、アース・スター エンターテイメントのwebで!

(『アース・スターノベル』ではなく、『アース・スター エンターテイメント』の方ね。(^^ゞ)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] どこから掘り出す物に「財宝」なんて話が出たのだろう?
[気になる点] 全く動じない国営テレビ局の『放送大学学園』をお忘れなく。東日本大震災の学究番組すらせずに通常授業の放送してたぞ。 NHKはほとんど国費入っていないが、放送大学学園はほとんど国費 国立…
[気になる点] この辺から報酬金額がはっきり出なくなってきた。 後の1000枚獲得する話の前に、すでに1000枚行ってそう。
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