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ゲームに侵される町

作者: 夢見 歌鳥

 学校の帰りに寄ったコンビニでのことだった。レジに並ぶ人たちがやけに薄っぺらく見えて、変だなと思った。レジの音も懐かしのピコピコ音になっていて、自分の番になるまで誰かが大音量でゲームでもしているのかと思ったくらいだ。

 異変を確信したのはいつだっただろう。ある朝起きて飯でも食おうとリビングへ行ったら、部屋全体がドット絵になっていた。だけどかーちゃんはなんの疑問も持たずに歌を口ずさみながら朝食を作っていいて、出てきた料理も普通の白飯に焼鮭と味噌汁だった。模様替えでもしたのと言ったら、そんなことしてないわよと返ってきたから、そのまま学校へ行った。帰ってきたら戻っているかなと思ったけどよりひどくなっていて、テレビや冷蔵庫までドット絵になっていた。なんかおかしい。おかしいぞ。


 それから数日経つと「そうび」と「ふくろ」の概念が生まれていた。そうびは服や装飾品のことで、ふくろは持ち物をいくら入れても大丈夫な袋のことだ。もはやバッグやリュックなどはこの町から消え去り、道行く人はみんな腰にふくろを下げて歩くようになっていた。これが意外にも便利なもので、店で服を買うと「そうびしていくかい?」と聞かれ、はいと答えると一瞬で着替えが終わって元々着ていたものはふくろの中へ収納されるのだ。まるで一昔前のゲームみたいに。

 奇妙な日々を過ごすうちに一つの考えに至った。この町はゲームの世界に喰われているんじゃないかと。その証拠に今にも倒れてきそうなファミコン初期作品を思わせる荒いドット絵のビルの裏路地は、野良ネコの代わりに野良スライムがぷるぷるしていてごみ箱を漁っているし、飯は全部ふくろから素材アイテムを使えば一瞬で済むようになっている。そうかと思えば未だに電車やバスなどの交通機関は存在しているし、引っ越し作業は人の手で荷物を搬入している。現実とゲームが入り混じる変な世界で、俺だけがそのことを知っている。不思議な、だけど嫌な感覚を覚えた。


 そんな中でも幸いなことにまだ学校は浸食されておらず、人の声を聴くことで安らぎを得ている自分がいた。町を歩くのも家に帰るのもなんとなく嫌になって、なにとはなしに友達と見回りの先生が来るまで学校に残ってしゃべっていた。

「なぁ、最近なんかおかしくないか」

「なにが?」

「町の様子とか、ふくろとか…」

「別になんにも変ってないと思うけどな。ふくろなんて昔っからあったし」

「そ、そっか。変なこと聞いてごめん」

「そういうお前の方こそ最近変だよ、ずっと暗い感じだし。家でなんかあったの?」

「いや、別に…」

 やっぱりだ。友達もこの町の異変に気が付いていない。それどころか当たり前のことだと思ってる。

 じゃあなと別れた次の日、とうとう友達もペラペラのドット絵になってしまった。表情はあるが声はない。顔の下にメッセージウィンドウが出て、会話はそこに表示された。俺はいてもたってもいられなくなって学校を飛び出した。ここだけは安全だと思っていたのに。


 走りつかれて一息つくと、冷静になってきた。そうだ、他の町ならもしかしたらまだ大丈夫かもしれない。近くのバス停からバスに乗った。だがいつまでたっても隣町には行かず、ぐるぐると駅前周辺を回り続けるだけだった。しかたなく降りて徒歩で行こうとしたけれど、境目に壁のようなものがあって向こう側へ行くことができない。体当たりをかましても跳ね返されてしまう。どうやら俺は閉鎖空間にとじ込められてしまったようだ。

 ため息をつきながら家に帰るといつも通りの食事と、既にドット絵になった母親が表現できる限界の笑顔で待っていた。無言で着替えて、飯を食って、自分の部屋のベッドでどうしたらいいのかわからないままボーっと天井を眺めていた。

 そのままうつらうつらしはじめて、次に瞼を開いた時には天井がドット絵になっていたものだから、驚きのあまり飛び起きた。見れば、部屋も自分の体も浸食され始めていた。壁が、ドアが、腕が、足が、分解・変換されていく。叫ぼうとしたが声が出ない。代わりにメッセージウィンドウが出て「うわあああああああ」と表示されている。いやだいやだドット絵なんかになりたくない!ゲームのキャラクターなんかになりたくない!誰か、誰か助けて………


 おめでとう これであなたも ぼくらのなかまいり げーむのせかいを たのしんでね


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