2.『ガール?』・ミーツ・ガール 【その5】
「はぁぁぁぁぁ……」
スライムか何かの様にドロドロと。
地面を這って広がっていきそうな、重たい重たい溜息を吐き出しながら。
公園の片隅にあるベンチに腰掛けた僕は、盛大に頭を抱えていた。
──ちょっと想像してみてほしい。
行った事も見た事もない外国の街に、案内もお金も無く、ぽいっとたった一人で放り出されてしまう自分の姿を。
考える間でも無く、かなり詰んでると思う。
いや、すごく詰んでる。
ううん、めちゃめちゃ詰んでる。
他の人がどう思うかは分からないけれど僕はそう思いますよ、ええ。
…………はぁぁぁぁぁぁぁ。
ヴァンセットさんやマキナさん達とはぐれてしまった後。
僕は四番街路の先にあるという大きな公園に向けて歩き出した。
歩き出した──と言うと、まるで僕が確固たる意思を持って自発的に行動し始めたように聞こえるかもしれないけれど。実際のところは人の流れに押されて「はわわ」しながら動きだしただけだ。でも、はぐれる前に僕達はその公園に向けて歩いていたのだから、結果オーライだよね?
ファンタジーな人混みの中、肩身の狭い思いをしながらトボトボと歩く事しばし。
「もしかしたら、その辺りで二人が僕の事を探しているんじゃないかな?」と言う淡い希望にきょろきょろと辺りを見回す行動が毎回徒労に終わり、いよいよ僕の心が真ん中から音を立ててへし折れそうになった時。
急に周りの人口密度が緩やかなものになった事に気づいた。
……なにごと?
さっきまでわりとぎゅうぎゅうした感じで移動していたのに、突然、そのぎゅうぎゅうから解放され。落ち込みモードのままに石畳の石の数を数えていた視線を、慌てて上へと戻す。
──そして、僕の目は点になった。
瑞々しい若草の絨毯に、色とりどりの花が植わる花壇。
陽の光を受けてきらきらと飛沫を上げる巨大な噴水が、八つの石畳の通路が交わるその場所に鎮座ましまし。
そして、その噴水の中央。どっしりと重厚感のある白亜の石で出来た豪奢な台座の上に、まるで僕達……いや、この街の全てを見守るように、少女の像が建っていたのだ。
雪の様に白く滑らかな石で造られたその像は、修道女の様な姿をしていて。
大きな杖を片手に、本当に風になびいているのではないかと錯覚してしまいそうになる程の精緻さで造られたベールの下から、やわらかな表情で下を歩く人々を見つめている。
どうやらここが、目的にしていた『公園』のようだった。
「すご……っ!」
像の大きさとその見事な精緻さに、思わず感嘆の声が漏れる。
これは、アレかな。
エリスティアの『奈良の大仏』みたいなものなんだろうか?
……そんな今にして思えばくだらない事を考えつつ。
像を眺めながら、僕は近くにあったベンチへと向かって歩き出す。
『公園』という言葉のイメージから、もっとこじんまりしたものを想像していたのだけれど、実際のところそんなことは全然なく。広いわ大きいわ綺麗だわで、完全に僕はそのスケールに圧倒されていた。
そんなんだから、近くのベンチと言ってもわりと距離があるわけで。たどり着いた時には、そのままお尻を投げ出すようにしてベンチへと腰掛けてしまっていた。
たぶん、四番街路でヴァンセットさん達とはぐれてこのかた、ずっと歩き通しだったせいもあるのだと思う。
一度、そうやって座ってしまうと、もう立ち上がる気持ちは僕の中からすっかり失せてしまっていた。
「きっとヴァンセットさんやマキナさんもこの公園に来る……はずだし。ここに座って二人を待つことにしよう、そうしよう」
誰にともなく、ちょっと言い訳めいた事を呟きながら。
僕は二人の姿を探して、公園の人通りを眺め始める。
それがいけなかった。
いつの間にかウトウトしてしまった僕が、ハッと目を覚ました時。
辺りは、いつの間にか、うっすらと茜色に染まり始める頃になっていたのである。
覆水、盆に返らず。
僕は自分のあまりの能天気さ加減に絶望し、頭を抱えた。
……そして、スライムみたいな溜息を吐く現在へと至ったわけです、はい。
「──うあぁぁ……どうしよう。はやく二人と合流しなきゃいけないのに、呑気に居眠りとかどういう神経してんだよ僕……うう」
自分が思っていたよりもずいぶんと図太い神経をしていたらしいという事に、内心で「いま知りたくなかった!」と叫びながら、頭をぶんかぶんかと振り回す。
他の人から見れば、ブツブツ言いながら頭を振り回す少女なんて絶対に関わりあいになりたくない部類の人間だろうと思う。
僕だって、そー思う。
ただ、世の中には奇特な人というものが、いるところにはいるものらしい。
「あのぅ……どうかしたんですか?」
頭を抱える僕の上へと振ってくる、おずおずとした声。
顔を上げると、そこには当然ながら見覚えのない、黒髪の女の子が心配そうな表情を浮かべているのが見えた。
……この子みたいな黒髪を『濡れ羽色』というのだろうか。
綺麗に真っ直ぐ切り揃えられたそんな前髪の下では、星が回っているようにキラキラとした金色の瞳が、僕の事を、じっと見つめている。
……まるで、吸い込まれそうな位に深い深い色をした瞳。
「あのぅ……?」
「──ふぇ? ……あ! い、いや、あの、その」
怪訝そうに首をかしげる女の子。
思わず見とれてボーッとしてしまっていた僕は、しどろもどろになって慌てふためいた。
それにしても……マキナさんも美少女さんだったが、この女の子も負けず劣らずの美少女さんである。
もしかしてルインハイマートって、美少女率が高かったりするんだろうか?
「え……えーっと、ちょっと迷子になっちゃって。それで途方に暮れていたというか、なんというかなんだけど」
そんな事を考えながら。
変に怪しまれるのも不本意だったので、正直に自分が迷子であることを苦笑いしながらカミングアウトする。
……情けない事この上ない話だけど、事実なんだからしょうがない。
爆笑されるか、鼻で笑われるか。
我ながらネガティブなリアクションを想像していたのだけれど。
その予想に反して。
女の子は僕の言葉にぱっと明るい笑顔になると、胸の前でぽんと手を合わせる。
……なんだか妙に嬉しそうに見えるのは、僕の気のせいだろうか?
「ああ、それでは私と『同じ』なんですね!」
「へ?」
素っ頓狂な声を上げる僕を他所に。
女の子は僕の手を両手で包み込むようにしてとると、吐息が触れ合いそうなくらいの距離まで笑顔でぐっと顔を近づけてくる──え? え! えーーーっ?!!
「実は私も迷子なんです! 奇遇ですねー、えへへ」
「えーーーー!!! って……えぇ?」
一瞬『ロマンスの予感!?』なんてドギマギしてしまった僕の思いは、女の子の言葉で脆くもがらりらと音を立てて崩れ去る。
完全に肩透かしをくらったように呆けてしまった僕を置いてきぼりに。
女の子はとてもとても嬉しそうに僕の顔を見つめ続けていた。
次回は戦闘があると言ったな?
……あれは、嘘だ(・ω・´コマンドー風に)
・ω・) ……。(・ω・´
( 'д'⊂彡☆))Д´) パーン
というわけで、次回予告詐欺になってしまって大変に申し訳ございません……!
ちょっと更新に間があきすぎるのもアレかと思いまして、本来【その5】で投稿する予定だった内容を途中で分けて投稿することにしました。今のまま書いてると余裕で来週の中頃まで完成しないような気がしたもので……(´ω`;)
お話的には、ようやく『ガール?・ミーツ・ガール』で出会う予定だったもう一人の女の子が出てきてくれました。
いやー……第二話、いつ終わるんだ?(・ω・`;)