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白のサクリファイス  作者: のらくも
第2話 『ガール?』・ミーツ・ガール
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2.『ガール?』・ミーツ・ガール 【その4】

──まだ僕が小さい頃の話なのだけれど。


関東にある某巨大テーマパークに家族で旅行に行った帰りの事、ついでとばかりの軽い思い付きで東京の街中を観光していくことにしたマイナー県代表の我が七海(ななつみ)家。


結果から言うと、東京という大都市の人波にもまれ、自宅に帰り着いた時には全員がグロッキー状態になっていたという何とも残念な思い出なのだが。ただ、そのせいもあってか、初めて東京の人混みを目の当たりにした時の衝撃は今でも鮮明に心の中に残っている。

まだ小学校に上がったばかりの僕は両親に手を引かれ、アホの子の様に口をポカンとさせながら、頭上を凄い勢いで流れていく人の波にただただ圧倒されるばかりで……。


四番街路をヴァンセットさん達と行く僕は、正にかつてのそんな姿の見事な再現となっていた。

違うところを上げるとするなら、今の僕は女の子の姿で、手を引いてくれているのが同年代のマキナさんだってことくらいだろうか。……情けない話です、はい。


四番街路の一角。

通りの傍に軒を連ねる小さなお店の前に僕達はいた。

そこは元の世界で言うとクレープに良く似たお菓子を売っているところで、薄くのばして焼いた生地の上にクリームや木の実、切ったばかりの瑞々しい果物をのせて、それを包んだ物をお客さん達に手渡していた。トッピングも豊富らしく、お品書きにはずらりとメニューの名前が並んでいる。

ヴァンセットさんとマキナさんは、どうやら「なにがベストな組み合わせか」について意見が分かれているようで議論を重ねている様子だ。

そして、僕はと言えば。

マキナさんの手を握ったまま、次々と通りすがる人々へ視線を向ける作業に忙しかったのである。


こうして観ているとなんとなくわかるのだけれど。

人の流れが激しい四番街路にもまばらに流れの緩やかな場所というのがある。そして往々にして、そういう場所の付近には今いる場所の様なお店などが多く集まっているようなのである。

ヴァンセットさんやマキナさんは、そういった場所を上手く使って、この人の流れを事も無げに渡っていく。この頼もしい二人の先導があればこそ、僕も通りの流れに目を向ける余裕ができたわけで、これが僕だけであったなら大変な事になっていただろう。ヴァンセットさんの言っていた様に、気がついたら街の外……なんてなことになっていた可能性は、誠に遺憾ながら否定できない。


「──ところで、ナルミさんはどれにする?」

「え? あ、僕は──わっ?!」


人の流れに目を奪われて、ずいぶんボーっとしてしまっていたらしい。

マキナさんの声に不意に我へと戻され慌てた僕は、周りを確認する事もせず、大きな動きで振り向いてしまう。

……我ながらそそっかしいというか、不注意なものである。

案の定というか。

体を動かした途端、僕は通りを歩いていた人へとぶつかってしまった。

しかも、勢いあまって尻餅までついちゃうのだから目も当てられない。

手をつくこともできずダイレクトに地面へと衝突したお尻が、ジンジンと痺れたように痛む。


「うぅ、あたた」

「おっと。失礼、お嬢さん……大丈夫かい?」


強かに打ちつけてしまったお尻をさすっていると、頭上から振ってくる男の人の声。

それで僕はハッとする。

痛いので頭がいっぱいになって、一瞬、自分が人様にぶつかってしまったのだという事を忘れてしまっていた。



「すみません! 僕、よく見てなくて……」

「なに、気にすることはないよ。さ、立てるかい?」


尻餅をついたままぺこぺこと頭を下げていると、朗らかな笑い声と共に目の前へと差し出される手。

傷だらけの鋼の甲に覆われた腕だ……よく見れば足元も同じような足甲に包まれている。


どんな職業の人なんだろ……戦士、冒険者……?


そんな事を考えながら、鋼と革に覆われたその手をおそるおそる握り返す。と──


ひょい。


そんな擬音が付いちゃいそうな調子で、男の人は僕の体を片手で持ち上げてしまう。まるでぬいぐるみか何かを持ち上げるように、軽々と。

その腕力にちょっと驚きつつも、改めてお礼を言うべく顔を上げる。


「あ、ありがとう、ござい……ます……」


そこで初めてぶつかってしまった相手の顔を見た僕だったのだが……お礼を口にしながら自分の表情がビシビシと固まっていってしまうのが分かった。

……別に相手の顔が『ひと睨みで人間をショック死させそうな程の超強面』だったとかそういうことじゃない。

むしろそうであった方がまだ、リアクションの取りようもあったんじゃないかと思う。


年季の入った鋼の全身鎧に身を包んだ男の人……その顔はどこからどう見ても爬虫網有鱗目蜥蜴科──比喩でも誇張でもなんでもなく、トカゲそのものだった。


「あ、あぅ……」

「……? まぁ、ケガがなかったんならいいんだが。今度からはちゃんと周りに気をつけてな、お嬢さん」


なんだかこの世界に来てからすっかりお馴染みの感覚なのだけど、今回もその例に漏れず。

あまりの衝撃に綺麗すっぱり言葉を失ってしまって、口の端からちっとも意味をなさない呻きを零す。

そんな僕を見てトカゲ男さんは、深い緑色の鱗に覆われた顔で不思議そうに首をかしげた後。先ほどと同じく朗らかな調子で僕の肩にポンと手を置いた。


「本当に、連れが申し訳ありませんでした」

「はは。こんな往来だ、時にはぶつかりもするさ。それじゃ」


僕の様子がちょっと変だという事に気づいたのだろうか。

ビシビシに固まっている僕に代わって、隣で頭を下げてくれるマキナさん。

トカゲ男さんはそんなマキナさんへ爽やかに笑い声を返すと、そのまま振り向くことなく後ろ手に手を振りながら去っていってしまった。


「大丈夫? ナルミさん……ナルミさん?」

「あうあうあう! あうあうあっ!」

「……ん。よければ、私の知ってる言語で話してもらえると助かるんだけど」


すこし心配そうな顔でこちらへと振り向くマキナさんへ、僕は去っていくトカゲ男さんの姿を指差したりジェスチャーを交えたりしながら、自身の受けた衝撃を伝えようと悪戦苦闘する。

しかし、当然ながら『あうあう』だけでは全く会話にならない。

なぜか突然出来てしまった言葉の壁に、顔を見合わせる僕達。

そんな中、助け舟を出してくれたのはやはりあの人だった。


「──彼は『レザール』だよ」

「あぅ……レ、レザール?」


つい今しがた買ったばかりのクレープのようなお菓子を口にしながら、ヴァンセットさんがのんびりと僕達の間に言葉を挟む。

レザール……考えてみるまでもなく聞いた事のない単語だ。

『あうあう言語』を引っ込め、そんな馴染みの無い単語を反芻しながら怪訝な表情を浮かべる僕を見て、ヴァンセットさんはやわらかに微笑み、そして頷く。


「そう。……記憶喪失なナルミちゃんの為に細やかに説明するとだね。彼らレザールは蜥蜴の如き外見を持つ種族にして、我々ルインハイマートの愉快な同胞。……遥か昔、召喚術によってこの世界に喚び出された者達の末裔だよ」


……その『記憶喪失』の言い方が、なんだかとって付けた感がすごくて胡散臭く聞こえるんですけど。もっとも、元々が嘘なんで胡散臭いのは仕方ないのかもだけど、もう少し何か言い方があってもいいんじゃないかと……。


それはさておき。


ここで、また『召喚術』かぁ。

つまりさっきの人のご先祖様も、元を糺すと僕と同じような境遇だったという事なんだろう。……まぁ、僕の場合はまだ『そうじゃなかろうか?』って域を出ない話ではあるけれど。


「ちなみに。そうしてこのルインハイマートに帰化した種族はレザールだけじゃあないんだな、これが。……ほら、見てごらん」


僕の肩の上に手を置いて、ヴァンセットさんが通りの中を指し示す。


「あの猫によく似た顔をした獣人が『リュンクス』で、あそこの鷲の様な大きな翼をもっているのが『アードラ』だよ。それで、向こうの店の前ににいるのが『ヴォルク』だね……ヴォルクは狼の獣人だからね、間違っても犬の獣人とか言っちゃいけないよ」

「……いつだったか、それで大変な目にあいましたからね。先生」

「いやー。口は災いのもとだよね、ほんと」


マキナさんにじと目で指摘されながらも、相変わらず特に気にした風も無く。頭の後ろに手を当て、カラカラと明るく笑うヴァンセットさん。

いったいどんな大変な目にあったのやら。気になるような、知るのが怖いような。


……ともかく。


そんな二人の会話を耳だけで聞きながら、僕はヴァンセットさんの教えてくれた獣人達の姿を目で追っていた。

恥ずかしながら、あれだけ通りを観察してきたにも関わらず。僕はこうして教えてもらうまでちっとも彼らの存在に気づいていなかったわけで。

ただ、すこし言い訳するなら。

レザールにしろリュンクスにしろアードラにしろヴォルクにしろ、普通の人間に比べてそう数は多くない。こうしてじっくりと見直して、ちらほらと姿を見つけられる程度である。

むしろこの人通りの中から、彼等の姿をポコポコと簡単に見つけ出すヴァンセットさんこそちょっと普通じゃないんじゃないかなって思うくらいだ。それだけ観察力があるってことだろうか?

しかし、それにしても……。


「こんなに色々な種族がいるなんて、昔は召喚術っていっぱい使われてたんですね」

「え? いや、それは──……あぁ、そっか。ナルミさんって『記憶喪失』だったんだっけ……一応」

「え!? ……そ、そうなんです。あは、あはは」


何かおかしい事を言ってしまったんだろうか?

マキナさんは僕の言葉に「何を言ってるの?」とばかりの表情で眉をひそめてしまう。

すぐに僕の『記憶喪失』設定を思い出してくれたお陰で、すぐに納得してはくれたようだけど……『一応』って、思いっきり疑われてるし!

……ぁ、いや。なるべく考えないようにしてたけど。普通には信じがたい話ではあるよね、うん。個人的にはヴァンセットさんの言い方が悪かったってのと、僕の演技力が土に埋まった大根くらいのレベルだったっていうのもかなり影響してると思うけれど。

ともかく、それでもマキナさんがあれこれと詮索してくれないでいるのは、彼女が気を使ってくれているからだろう。本当に良くできた娘さんです、はい。



「まぁまぁ、お嬢様方。それについては歩きながらお話するとしましょうか。──はい、二人の分。あ、俺のチョイスが悪いからって不満を言うのは無しの方向で、ね?」

「……あ、ありがとうございます」


そう微笑むヴァンセットさんが僕達に差し出してくれたのは、あのクレープで。僕達がそれを手に取ると、鼻歌交じりにテクテクと歩き出してしまう。

ずいっと押し渡されたそれを手にした僕とマキナさんは、そんな彼の背をきょとりと見つめ、顔を見合わせ苦笑するとその後を追って歩き出した。



◇◇◇◇◇

──遠く古の時代。

この中央大陸の北方に全世界に覇を唱えようとする強大な帝国があったという。

極北の地……『現世うつつよの果て』とも言われる『北方大壁山脈』を背にするその巨大な帝都から、いつしかその帝国はこう呼ばれるようになったらしい──


「……北壁ほくへき帝国」

「そう。桁外れの軍事力を背景に世界を席巻した史上最強の大帝国だよ」


店の前を離れ人通りの中へと戻った僕達は、エリスティアの中心部にある大きな公園を目指して歩いていた。

その道すがらヴァンセットさんから、このルインハイマートの歴史についてちょっとした講義を受けているのだけど、すでに僕の頭はかるい頭痛を覚え始めていた。

……もともと歴史の授業とかあんまり得意な方じゃないんです、僕。じゃあ逆に何が得意なんだと聞かれると困っちゃうくらいには、学校の成績もあまりよろしくなかったわけで云々。

ちらりとマキナさんの方を見やる。


「……はむはむ」


彼女にしてみると、当たり前すぎる歴史のおさらいだったらしい。

こちらの即席講義を他所に手にしたクレープを食べるのに忙しい様子だ。なんていうか、もう夢中って感じだ。

そんなわけで。

こうして講義中に注意力が散漫になってしまう出来の悪い生徒達を横にしながら、ヴァンセットさんはさらに言葉を続けていた。


「彼らの軍事力の背景にあったのは、異常とも言える程に発達した魔術群。陸に、海に、エーテルを自在の矛として振るう彼らは他国にとって恐るべき脅威だった。……しかし、帝国はそれだけでは満足しなかったのか、新しい魔術を創始したんだよ」

「もしかして、それが……?」

「うん、当りだよ。……それが、召喚術」


──時折。

道の脇に立ち並ぶお店から、寄って行かないかと元気な声を投げられたり。

「一緒にお茶でも?」なんてちょっとチャラチャラしたお兄さんに声をかけられたり。

それらに微苦笑しながら、僕は小さく手を振り返す。

ナンパ者はマキナさんの一睨みで、カートゥーン・アニメの猫のように血相を変えて逃げていく。

……こういった横から入ってくるやりとりに講義は中断しがちだったが、僕達は特にそれらを気にするわけでもなく、なんとものんびりとしたものであった。


「──それで、さ。召喚術を造りだした帝国は、異世界から次々と色々な人や獣を喚び出しはじめた……戦場で自分達の尖兵にする為に。彼らは体に刻まれた特殊な印によって、自身の意思に関係なく使役させられ、過酷な戦場で戦う事を強要させられたんだよ。いつまでも、いつまでも……ね」


気まぐれに立ち寄ったお店で、飲み物を買う。

おばさんが大きな樽の栓をひねって、紙の様に薄い陶器のコップにオレンジ色のジュースを注いでいく。なんでも色々な果物を搾って作ったモノらしい。


「……『特殊な印』かぁ」


ジュースが注がれるのをぼんやりと眺めながら、今しがたのヴァンセットさんの言葉を思い出す。

それってつまり、多分、ていうかきっと、これの事だよね……?

自分の右手を包む手袋に手をかけ、中にある『召喚印』を改めて確認しようとする。ちなみに、この手袋は部屋を出る時にヴァンセットさんから着けてもらったものだ。「例え確証がない話でも、君が召喚獣かもしれないという話は黙っておいた方がいい」──そんな言葉と共に。

ヴァンセットさん曰く、僕が召喚獣だと疑われたりすると色々と面倒な事が多いらしい。

どう面倒なのかは後で説明してくれるそうだけど……──


「と、まぁ。色々なんやかんやあって帝国は消滅するわけだけどさー」


もうすこしで手袋の中から『召喚印』が露わになる。

そんなところで、上からかぶさるように降りてきた手が、僕の手を手袋ごと握る。そして、くるりと裏返しにされると、そのまま陶器のコップを握らされてしまった。

顔を上げると、そこにはウィンクをして微笑むヴァンセットさんがいた。

不注意だったかな……?

召喚印の事を知っている人間が偶然にもこの場にいるとは思えないが、いないとも限らない。もしそんな人に印を見られて、変な騒ぎにでもなってしまったら……せっかく面倒ごとに巻き込まれないように気を使ってくれたヴァンセットさんとの約束を破ってしまうところだったかもしれない。

自責の念に囚われていると、ヴァンセットさんの暖かい手が頬に触れ。それからポンポンと頭を叩くように撫でる。


その笑顔と同じであったかくて……やさしい。


「問題は残された、可哀想な召喚獣達さ。戦いが終結した後、彼等は元の世界に還る術も無く、この異界の地で生きていくほかなくなってしまった……色んな迫害受けながらね。それでも人と同じように知性を持つ者達は、長い年月を掛けてこの世界の人々と絆を深めていった。それがあのレザールのような種族達ってわけさ」

「そんなことが、あったんですか……」


エリスティアのこの通りを見ていると、こんなに平和そうな世界なのに。

その昔には暗くて冷たい戦争の時代があったなんて。


「……異種族達の中には、まだ人間の事が信じられないってほとんど交流も無く生きている人達もいるわ。人間達の中にだって、異種族達が元は『召喚獣』──『敵』として呼ばれたからって、意味の無い迫害を行うのもいるし。……きっと『召喚術』が全てをめちゃくちゃにしてしまったのね、世界もヒトの心も」


それまで黙って聞いていたマキナさんが、傾けていたコップから唇を離してポツリと呟く。

……それを聞いて、なんとなくだけれど、ヴァンセットさんがなんで召喚獣である事を「隠しておいた方がいい」と言ったかその理由が分かった気がする。

この世界で『召喚術』は忌むべきモノなのに違いない。僕が召喚獣であるということは、その忌むべき術が行使されたということ……この世界に甦ってきてしまったという事。

そこに人々がどんな思いを抱くか、そこには想像もできないような複雑さを孕んでいるのだろう。


皆でジュースを傾けながら、妙にしんみりとした空気になってしまう。

特に僕とマキナさん二人の若者組がちょっとシュンとなってしまったのが、それに拍車を掛けているようだった。

こんな時に一番に場を和ませてくれそうなヴァンセットさんも、何か思う事があるのか、思案する様な遠い目で青空を見上げていた。

……よ、よし。ここは僕が頑張ってみよう。頑張って空気を変えてみよう……!


「そ、そそ、それにしても。エリスティアって鎧を着ている人とか武器とか持っている人が多いですよね? どこの街でもこんな感じなんでしょうか?」


努めて明るい笑顔と調子で、二人の顔を交互に見る。この容姿の愛くるしさだって利用するぞ、乙女ちっくな無邪気な仕草だって添えてやるんだから! ……うあー、恥ずかしいです!

そんな僕の努力が身を結んだのか、マキナさんとヴァンセットさんはきょとんとした表情を浮かべた後に、くすりと微笑んでくれた。

心なしかさっきまでの、のんびり空気に近づいたような気がする。


「……ん。どこの街にも多少はいるでしょうけど、エリスティアは特別なの。なんたってここは『冒険者の街』だから」

「冒険者の街、ですか?」


首をかしげる動きに合わせて、自分の白色の髪がさらりと音を立てて横に流れた。

そうしてちょっぴり乱れてしまった髪を、後ろに周ったマキナさんが何気ない調子で静かに直してくれる。


「ここは大陸のどこに行くにも便利なところだから。そのせいもあって冒険者ギルドの本部もこの街に置かれているし、有名な冒険者達のクランやパーティの多くがここを拠点にして動いてるのよ?」

「へぇ……そう言えば、マキナさんのお母さんも冒険者だったんですよね。ということは、もしかして……ヴァンセットさんも?」


ライラさんとはずいぶん古いお付き合いがあるように見えたし。

そう思って、ヴァンセットさんの方を見やると、彼は笑顔でゆっくりと頭を横に振ってみせた。


「いやいや、俺もライラと一緒で引退組だよ。今はただの『何でも屋』……ナルミちゃん、現役の冒険者なら君のすぐ傍にいるんだな、これが」

「へ?」


僕のすぐ傍?

と、言っても傍にいるのはヴァンセットさんを除くと、ジュース屋のおばさんとマキナさんくらい……あ、もしかして!


「ジュース屋のおばさんが!?」

「お姉さん!!」


回答した瞬間、おばさんの振るうチョップが頭にズンと落ちた。……どうやら色々な意味で不正解だったらしい。

でも、そうなると残るのは……──


「えと、もしかして……マキナさんが?」

「……ん。まぁ、ね」


そこで、僕の髪をおさげにしたりして遊んでいたマキナさんの顔を見上げる。

その表情はちょっとだけ気恥ずかしそうで。その綺麗な頬がほんのりと桜色に染まっているようにさえ見えた。

……いや、でも、そんな、マキナさんが冒険者だなんて……。

だって冒険者って言ったら、きっと荒事に巻き込まれる事だってあるかもしれないし。そんな時にマキナさんの女の子の腕じゃ──そこまで考えて、ヴァンセットさんを殴り倒すマキナさんの姿が脳内にフラッシュバックする。

……ああ、えーっと、可能かもしれないけど。と、とにかくなかなか信じられるような話じゃない。


「こう見えて、マキナ君は凄いよー! いやー、小さい頃のマキナ君に頼まれて俺が稽古をつけてあげたんだけどさ。見る見る内に強くなっちゃって……いや、強くなりすぎちゃって」


その結果が、あのザマだよ。

と、でも言いたげな表情で苦笑するヴァンセットさん。

ああ……自分で蒔いた種だったんですね。


「……こほん。エリスティアは治安の良いとこだけど、冒険者の街だけあって色んなのが集まってくるから。変なのに絡まれないように、なるべく離れないようにしててね?」


それ以上、ヴァンセットさんの口から「マキナちゃん、チョー強いっす」的な発言が出てくるのを阻むように、ちょっとわざとらしい咳払いと共にマキナさんが僕の顔を覗き込む。

もちろん、そのつもりであります!

ヴァイキングみたいな髭もじゃマッチョに絡まれるのなんて、想像するだけでも絶対にイヤだ。


「それじゃあ、そろそろ行こうか?」


ジュースを飲み終えた僕達はコップを返し、お店のおばさんに手を振って見送られながら公園へと向かって歩き出す。

その時の僕はマキナさんの手をしっかり握り、絶対にこの手を離すものかと確固たる意思を持って歩いていた──つもりだった。


ところが。


「──……あれ? ヴァンセットさん?」


気が付くと目の前を歩いていた筈のヴァンセットさんの姿がない。

もしかして、はぐれた?

そう思って慌てて隣のマキナさんを見上げ……僕は目が点になった。


いない。

誰もいない。


隣にいたはずのマキナさんの姿まで、そこにはなかった。握っていた筈の手も今は、掴む物も無く空虚を握り締めるばかりである。


「えーっと…………これは、もしかして」


嫌な予感に、全身の血の気が音を立てて一斉に引いていくのを感じる。

変な汗が額から頬を伝う。


「僕、迷子?」


その呟きだけが雑踏の中に虚しく消えていった。

思いのほか時間がかかってしまいましたが、ようやく投稿させていただきました!


……いったい、なんでこんなに時間がかかってしまったのか。

もしや新手のスタンド使いの攻撃か!?Σ(・ω・´;)

【結論:第三部のアニメは面白い】


次回から次々回くらいに戦闘シーンが書ければと思っています……というか、早く戦闘シーンを書きたい今日この頃です(^q^)


ご感想やご意見、社会への愚痴等々ありましたらお気軽に書き込んでいただいて。

次回もナルミくんの物語にお付き合いいただければ幸いでございます!

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