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第六話 欲情


 早朝、チトセは目が覚めると、隣りのベッドで寝ているリディアの姿が目に入った。昨晩は蒸し暑かったから仕方がないことなのかもしれないが、掛布団はベッドの隅に追いやられており、浴衣は乱れに乱れている。


 ぼんやりとする頭で、すーすー、と寝息を立てている彼女の姿を眺める。


 胸元は肌蹴て、白い肌が見える。うっすらと浮かぶ鎖骨のライン。そして二つの膨らみへと続く、なだらかなデコルテ。


 そしてその白さを強調する金の髪。裸体にかかる金糸のごときそれは、芸術的なまでの美しさを醸し出す。


 彼女が呼吸するたびに衣服が小さく揺られて上下する。それはまるで誘っているかのよう。


 チトセはその艶姿から目が離せなくなっていた。幼子のようにきめ細かい肌は、見ているだけで得も言われぬ多幸感をもたらす。


 もう少し彼女が寝返りを打てば、衣服はますます乱れて、見えてはいけないところまで見えてしまうのではないかと期待を抱いてしまう。


 そうして眺めていると、突如アラームが鳴った。チトセは慌ててベッドから飛び上がる。


 リディアは目を擦りながら、ベッドから這い出て、枕元にある時計のアラームを止めた。それから体を起こして、大きく体を伸ばす。


 彼女が仰け反ることで、衣服が後ろへと引かれる。はらり、薄い布はその力に抵抗することなくめくれ上がった。


 結んでいた紐は寝ている間に解けていたのだろう、浴衣はもはや隠す気などないとばかりに、胸元からへそまでを、露出させていた。


 形のよい胸は、その先端もツンと上を向いている。リディアが腕を伸ばしたことで、それはますます生意気にも上を目指そうとする。


 そして腰回りは女性らしいくびれを持ち、美しい流線を描いている。染み一つない肢体は、見事の一言に尽きる。


 そしてリディアが腕を降ろすと、それに合わせて豊満な膨らみはぷるんと揺れる。


(……おお!)


 チトセはもはや我を忘れて、その姿に見入っていた。


 その二つの丘陵は、何もかもを忘れさせてしまうほどに美しく、そして欲望を掻き立てる。いつまでもそれを見ていたいのだと。それを我が物にしたいのだと。


 ごくり、と唾を飲み込む。


「チトセくん、おはようございます」


 ようやく彼に気付いたリディアが、声を掛けてくる。彼女は寝ぼけているのか、自分の状態には気付いていないようだ。


 チトセははっと我に返って、しかしそれでも彼女から目を離さないまま、朝の挨拶をする。


「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」

「そうですねえ。ちょっと寝苦しかったかもしれません。暑かったですし」

「そうですね。もう少し涼しいと良かったのですが。……ところで今日は遺跡に行くんですよね?」


 今日はこの街から少し離れたところにある遺跡に向かうことになっている。そこに生息するモンスターが再召喚の巻物を落とすらしい。


 それは起きてすぐにする話ではなかったかもしれない。しかし少しでも長くこの状況を楽しむための姑息な手段であった。


 だがその意に反して、リディアは寝起きの気怠さはどこにいってしまったのか、目を輝かせずいと身を乗り出してくる。


 ぷるるん。二つの膨らみは彼女の勢いを受けて、揺れ動く。もはや剥き出しになったその二つの行動を妨げる物は存在しない。


「先生はチトセくんがやる気になってくれて、とても嬉しいです! 一緒に召喚しましょうね!」


 にこにこと笑顔のリディア。だがチトセはそれよりも、揺れ動く丸みが気になって仕方がなかった。


 そしてリディアもようやくその視線に気付いたのか、目を下に向ける。そして、露わになっている上半身を見て、沸騰しそうなほどに赤くなった。


 そして慌てて前を隠す。チトセは残念そうにそれを眺めた。


「ち、チトセくん! いつから気付いてたんですか!?」

「えっと、その。先生が起きたときからです」

「うぅ……これまで男性に見られたことはなかったんですよ」


 恥ずかしさからか、リディアは俯いてしまう。それは幼子がむくれているかのようで、可愛らしいとさえ思ってしまう。


 彼女は逃げるように洗面所のところに行って、暫くして帰ってきたときには、立派なローブを纏っていた。


 その姿を見知らぬ人が見れば、さぞ立派な魔法使いだと思うことだろう。


「おほん。チトセくんは今日起きてから何も見ていません。いいですね?」

「はい。そういうことにしておきます」


 チトセは今でもはっきりと彼女の裸体を思い出せるほど、あの光景が脳裏に焼き付いていたが、そういうことにしておいた。




 それから朝食を取り、準備を済ませると、宿をチェックアウトする。

 少し歩いて街の外に出ると、リディアは自家用車をインベントリから取り出す。この世界では基本的に車は街の外で使うもののため、二人で使うには少々大きい。


 リディアが運転席に乗り込むと、チトセは助手席に乗る。


 遺跡は一時間かそこらで着く距離だそうだ。出て来るモンスターはコボルトの亜種、そして本のモンスターなどだ。


 比較的高レベル向けの場所だそうで、ジョブを持たない一般人では攻撃がほとんど通らず、狩場にはできないらしい。しかしその遺跡から外に出て来ることは滅多にないため、狩らずとも遺跡の内部での共食いなどで自己完結しているらしい。


 とはいえ、それは蠱毒にも近い構造であり、ボスが生まれることもしばしばあるそうだ。そうなると、ジョブを持った者たちが派遣されてくることになる。


 もっとも、今はそういった話を聞いてはいないから、高確率で遭遇することにはならないだろう。とはいえ、気を緩める訳にはいかない。


 チトセは隣りのリディアを見る。彼女は朝のことはすっかり忘れているのか、それともこれから出会う未知の召喚獣に期待しすぎているのか、上機嫌だった。


 鼻歌を歌う彼女は、綺麗な声をしていた。


 チトセは暫しそれに傾聴する。すっと耳から入ってきて、頭の中に溶け込んでいくような音色。それは心地好く、心が癒されていく。


 そうしているうちに、目的地が見えてきた。古墳のような形になっているそれは、一見するとただの丘にしか見えない。しかしその麓に見える入り口の奥にはモンスターが蔓延っているのだろう。


 この世界はゲームだったときから、ダンジョン型のエリアはあまりなく、フィールド型がほとんどだった。


 そのためチトセもこれまで、開放的な野外での狩りばかり行ってきたため、こうした穴の中に潜っていくのは、学際のときに坑道に潜って以来である。


 入り口の近くまで来て車から降りると、ますますその大きさが際立つ。内部全てを探検しようとすれば、相当な時間がかかってしまうだろう。


「では最短ルートで最奥を目指しましょうか。それなら今日中にアスガルドに帰ることができます」


 チトセはここに来たのが初めてなので、リディアに従うことにした。彼女はこの遺跡も研究の対象として調べたことがあるらしい。そのため、内部のマップは全て頭に入っているそうだ。


 記憶力の良さは、とても彼女には敵わないなあとチトセは感嘆するしかない。


 入り口から覗けども、奥は暗く良く見えない。リディアはインベントリから一本の杖を取り出し、スキル【ライト】を使用。光球が生み出され、それは辺りを照らしだす。


 それからリディアは杖を仕舞って、手ぶらで歩き始めた。


 スキル【ライト】は魔力を供給し続ける限りその場に存在させ続けることができるが、チトセはそれほど本体の能力が高いわけではなく、魔力の消耗が嫌なので使うことがないスキルだ。


 彼女はそう考えると、かなり能力が高いのだろう。彼女がスキルを使っているのを見たのは、召喚獣であるヴォーパルラビットに向けて放った一発だけである。


 それだけでも相当な威力があったと記憶しているのだが、それだけで全貌を把握するのは無理というものだろう。


 チトセはインベントリから剣を取り出して、軽く警戒しながら進んでいく。


 盗賊のスキル【探知】を入れることで、内部構造は大体把握できるが、入り組んでいるため相対位置が分かりにくい。


 石造りの内部はとても夏であるとは思えないほどひんやりとしており、ときおり吹いてくる隙間風はどこか気味が悪い。


 かび臭くもある遺跡の内部を進んでいくと、向こうからひたひたと歩いてくるモンスターの姿が見えた。


 マミー。全身を包帯で巻いたモンスターである。


 チトセはすかさず剣を構えた。

 だが、次の瞬間には、そのモンスターは爆散していた。


 リディアが属性魔法を使ったのだ。ジョブそのものについており、キャスティングタイム無しで使えるメリットがあるものの、大した威力がでないことから主力としては使っていくのが難しいスキル。


 しかしそれは比較的上位のモンスターを一瞬にして葬り去るほどの威力があった。


 リディアは何事もなかったかのように、進んでいく。


 彼女は何も、その頭脳だけで学園長になったわけではない。この世界での最上位の強さを持つ者。世界最高レベルの魔法使い。


 気高く強い彼女を、人々が憧れと共に認めたからこそ、その立場にあるのだ。


 チトセは思わず、ぶるりと震えた。

 それは彼女の戦いざまを見た者たち誰もが抱くものかもしれない。しかし、少しだけ違っているような気もする。


 そこにあったのは、確かな憧憬。そして少しばかりの入り混じった独占欲と向上心。


 彼女と肩を並べることのできる者になりたいと、チトセは願わずにはいられなかった。


 それからチトセは遅れまいと、駆けていく。そして、リディアと並んで奥を目指すのだ。もはやこの世界に敵などいない、そんなことを思ってしまうほどに、心は打ち震えていた。



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