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Voice 1

その声とも判断がつかないような不思議な声を聞いた日の次の日もそのまた次の日も、あの声は頭に響いてくる。

一日に数回。決まった時間ではないが、必ず毎日聞こえていた。


『………コ、?』

「ん」


まただ。だけど今回はいつもよりもハッキリと聞こえた気がした。


『おい、もう一回言ってくれよ』


口には出さずに頭にそう思い浮かべて声の主に問い返す。


『コ………ド、こ?』

『どこ?っつったのか?ココは研究棟だけど……アンタ今どこにいんだ?』

『………………』

『おい?』


唐突に聞こえなくなった声に思わず舌を鳴らす。

その日はもう聞こえなかったが、それからというもの毎日聞こえてくるあの正体不明の声が気になって仕方なくなっていた。

その声が言っている意味を理解しようと必死だった。


『ここ、ドコ?』

『研究棟。南の大陸のユミトって小せぇ島にある』

『ユミ、と……けんきゅう、とう?』

『アンタもココにいんのか?』

『わか、らない……なにも、なにも……みえない』

『見えない?動けるか?それも出来ねぇの?』

『できない……』


何も見えなくて、動く事もままならない。

自分達も目覚める前はそうだったのではないかと思い当たった。

ではやはりこの声の主はこの研究棟に……施設にいるのだろうか。


その後も毎日この声の主と会話をする。これが日課のようになってしまった。


『アンタずっと起きてる訳じゃねぇのか?』

『ねてる……おおい』


最初は訳が分からず不快だったが、だんだんと会話が成り立つようになってくるとむしろ逆に楽しみですらある。

来る日も来る日も訓練だなんだに追われている中、この声と話す時間は肩の力を抜いて過ごせた。

声の主は目も見えないし手も足も動かせないらしかったが、会話は出来る。

それもどうやら自分とだけのようだった。


『そっか』

『……あの……ダレ?』

『ん?あぁ、俺か?そういやこんだけ話してんのに名前言ってなかったっけ』

『ナ、マエ』


「ダレ」と言われただけではあったが、なんとなく名前の事を聞いているんだろうと思う。

こんな風に、声の主はたどたどしい言葉の断片しか話せないようだった。


『俺はアスカ』

『アス、カ……?』

『あぁ。アンタは?』

『わたし……ナマエ』


声からして女だろうなとは予想していたが、子供かもしれないしそれは分からない。せめて名前だけでも知りたかった。


『わ、たし………』


「うおぉいアスカ!何ボケっとしてんだよ!?早く来いや!」

「!!!」


その時突然マルのデカい声が響き渡り、せっかくの声がかき消された。

何も知らないとはいえ、この無神経極まりない男に睨むような視線をぶつける。


「馬鹿!邪魔すんな!デカい声出しやがって……!」

「あん?邪魔ぁ?何のだよ。お前ただぼやっと突っ立ってただけじゃねぇか。最近多いぜぇ?」

「……別に。何でもねぇよ」

「何でもねぇだぁ?他のヤツらも変に思ってるぜ?ここんトコ、心ここにあらずだってな」


心ここにあらず?

マルにしては難しい言葉をよく知っていたもんだと関心する。

だがそうかもしれない。暇があればあの不思議な声の主の事ばかり考えているのは事実だ。


「んだよ。ちゃんと結果は出してんだろ?」

「まぁなー。お前の戦闘能力はダントツだ。けど俺も負けてばっかじゃねぇぜ?次こそはお前に勝ってみせるかんな!」

「あーそうかよ、楽しみにしてるわ」


その後も延々と喋り続けるマルに適当に相槌を打ちながら、頭の中で声の主に呼びかけてみたがいくら試してもアイツが応えてくれる事は無かった。

こんな事なら最初にとっとと聞いてしまえば良かったと後悔するが、それももう遅い。

しかも。


『おい、聞こえるか?』

『返事してくれよ』

『なぁ、ってば!おい!』


その日を境に、毎日聞こえていたあの声がパタリと止んだ。


なんでだ……?

何かあったのか?

なんでこんなにザワザワした気持ちになるんだよ。

頼むから、アンタの声聞かせてくれよ……

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