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一日の訓練が終了した後、夜もすっかり更けた頃にレンが笛の音を披露してくれた。
他の皆も聴きに来ている。
普段の会話や様子では皆もこの状況に絶望を感じているとかそういう事は見られない。
それでも、やはり頭の片隅のどこかで癒されたいと願っているのかもしれなかった。
勝手に人生を書き換えられ、日々戦闘訓練に追われて。
いざそれが終われば戦場の真っ只中に放り込まれる。
そんな決められたレールに沿って生きていかなければならないこの七人。
現実を受け入れていても、日を追う毎に皆の胸に燻る想いは募っていった。
「……今日も言われたわ」
レンの笛が終わり余韻に浸っていると、この静寂でようやく聞こえる程の声でペルが呟いた。
「あーアレか?」
「そうよ。もっと人間の為を想え、人間の為に働け、人間の為に戦え」
「ペル……」
「人間の為にここまでさせられてるっていうのに、結局扱いは妖魔でしょ。決してアイツらは私達の事を仲間だとか同胞なんて言わないのよ」
ま、仲間だなんてこっちの方から願い下げだけど、と呟くペルの横顔はとても静かだった。
ペルの言わんとしている事は痛い程に理解る。
それは多分、ここにいる皆が気付きながらも口には出さなかった事実。
「全てが終わったら、私達はどうなるの……?」
人族と妖族の争い。
その永く続いてきた戦いが終わったら。もし自分達が戦場に行く事で、戦の流れが人族に向けば。
戦いが人間達の勝利に終わったら?
ここにいる七人は。
「それでも、行くしかねぇ」
「アスカ……」
「どうあがいても俺達はもう人間じゃねぇんだ。こっちじゃ生きられない。だったら連中の思惑通り、素直に従って戦場に行くしかねぇよ」
「でも!」
「勝てる可能性は無いかもな。でも勝てるかもしれない。それに……」
ただココの連中の言いなりになって終わるなんて事にはしない。
「それで勝ったら」
次は―――
「アスカ、お前」
「言いなりになるだけなんて俺はゴメンだぜ?戦いに勝っても、俺達に生きる場所はねぇんだ。待つのは確実に死だけだ」
「通常、妖族は死に焦がれる……そのあまりにも永い時を生きる為に。だけど妖族は同族を殺せない」
リューの言葉は流れるようで自然と脳に染み込んで行く。
「馬鹿げた話だ。それで妖魔の俺達に妖魔を蹴散らせってんだから。俺達じゃ殺せないのは分かってるってのに」
それでも連中は「行け」と言う。妖族に対抗し得るチカラで妖族を弱らせあわよくば混乱に落とし入れ、人族を有利に導け、と。
連中はそれしか言わない。後の事など一言も。そしてそれは同時に、この七人の先は無いと言っているのと同義だ。
「妖族は死に焦がれる、か。でも俺達は元は人間だ。人間の記憶と感情を持ってる。例えこっち側が勝って戻って来ても俺はまだ死にたかねぇよ」
そもそも人間の記憶を持った妖魔を造ったのはココの連中だ。
この七人に妖魔としての『死への願望』が有るとは考えていないだろう。
ただ単に、邪魔になった後のこじつけにすぎない。




