闇医者と死神
俺は偽りの仮面を被り続ける。
普通の高校生という名の仮面を…
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とある街の隅。忘れ去られたかのように建ち並ぶ廃ビルのすきまを一人の少年が足音もたてずに歩いている。少年は白衣を着ているが高校生のようだ。下に着ている制服がそれをしめしている。
途中、ガラの悪い男達が通ったが少年に気付いた様子はなかった。少年は奥へ、奥へと進んでいく。そしてやがて一つのビルの前で立ち止まった。
ビルの前にはひとりの男、…いや、青年というべきだろうか。少年同様、こういう場所では浮いて見える。真っ黒に塗りつぶされたような髪と瞳が特徴的で女と間違えそうなほどの色白美青年だ。
「やあ、久しぶり」
青年はこの場所には不釣り合いなほどさわやかな声で少年に笑いかけた。
少年はこの人はそういう人だという表情で「お久しぶりです」と無表情でかえした。もう慣れている、という感じだろうか。
「突然呼び出して悪かったね。本当は学校だったんだろ?」
そういう青年の顔は全然悪かったとは思っていない。むしろ楽しそうに笑っている。
「いえ、いつも通り弘輝に任せてきたので大丈夫ですよ。千棘さん」
少年は怒った様子もなく、ただ淡々と青年にこたえた。青年―――千棘は弘輝、という名に一瞬いやそうな顔をみせたがすぐにいつものさわやかな笑顔にもどり「じゃあ安心だ」と思ってもないことをさらり、と言ってみせた。それにたいしても少年は何の反応もみせない。青年はつまらない、とでも言うように肩をすくめてビルに向かって歩き出した。
途中で肩越しに振り返ると「ついてきて」と手招きをする。
「荊君に紹介したい人がいるんだ。」
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少年―――月坂荊は闇医者である。
闇医者とは法外な金で仕事をする裏社会の要たる存在だ。おもに普通の医者にはみせられないような|(弾傷やヤバい人物の整形手術など)ものを担当している。ブラックジャックといえばわかりやすいだろうか。なぜ高校生がそんな危険な仕事をしているのか……それは父親の影響がある。
荊の父親はここらでは有名な闇医者だった。過去形なのは今世界各国を旅行中だからだ。かれこれ三年は帰ってきていない。
そんな彼は荊が五歳のときに死体を解剖させたりと後を継がせる気満々でいままでいろいろと教えてきた。そのため彼が不在の今、荊は立派に代理を務めている。
そんな荊の常連客の一人が目の前の青年―――神谷千棘だ。
千棘は若いながらもその頭脳と手腕で三流マフィアだった『闇薔薇』をいっきに一流マフィアへと変えた恐れるべき人物である。荊を気に入ってるらしく、よくやっかいごとを持ってくる。
――――今日もその類のものだろう
荊はそう考えるとふうとため息を吐いた。
――――この人は何考えてるかわかんないからな……
さながら黒い死神だ。と荊は思っている。自分が役に立たなかったら遠慮なく殺すだろうということも……。