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異世界の伊東家たち  作者: 織姫彦星
初めての冒険編
9/36

第9話「そして、憤慨と死の冒険へ(1)」

 村を出発して2日が経過した。

 俺たちは、後もう少しでランドール地方に

 入るというところまでの国境の道を歩いていた。


 ミネローズさんの話を聞くと、

 ランドール地方はまるまる一つが大森林と

 なっているという変わったところらしいが……。


 村や集落などが点在しているが、

 みな一様に月影の村と名乗っている。

 それじゃ見分けがつかないため、一帯を取り締まる大長老により

 北の月影村、南の月影村、南東の月影村などという

 呼ばれ方で取り決めがされている。


 そういう理由もあり、月影草もどこの月影の森の月影草かという

 確認が必要になるため、本来は時間がかかるわけだが……。


 俺は改めて手帳を見てみる。

 そこには、こう書かれている。


 依頼名 :"月影草"とコルド練炭を集めよ

 採取地域:"ランドール地域の"月影の森"らしいぞ?"


「どこだよ!」


 バシっと俺は手帳を地面に叩きつける。


 やつの依頼には、先ほど説明してくれた

 "どこ"の月影村にある森の月影草だという記述は

 一切なく、ただそのように書かれているだけだった……。


 これじゃ何も分からんぞ……。

 まぁ、いい。地域に入って適当な村に許可してもらって、

 そこの月影草でいい。

 マリートには記載不備を理由に納得してもらおう。


 そこまで考え、そんな俺に同情したのか

 二人も苦笑い的な笑みを浮かべる。

 そんな二人に乾いた笑いを浮かべ、改めて歩き出した。


 しばらく歩いていると、

 目の前に馬車のようなものが見えた。

 しかしそれは片輪が外れ、

 横倒しになっているのだった。


 その様子に、賊に襲われたのか?というルクスさんの言葉を受け、

 俺たちは辺りを警戒しながらも、近づいていった。

 馬車に近づくにつれ、血と思える匂いが辺りに漂っていた。

 慎重に近づき、馬車の中を伺うとそこには胸や頭を何かの武器で

 一突きにされたであろう色々な人種の死体が転がっていた。

 ひどいなこれ……。


 そんな様子に少し顔を歪めつつも、何かないかと見てみると

 特に荒らされた様子もないこと、そしてその死体の中には

 見覚えのあるものたちがいることに気づく。


 こいつら……。


 そこにいたのは、村のある森に実験と称して凶暴化する肉や

 凶暴化したバーストタウラスを解き放った黒幕の狐の商人と、

 それらに協力し、一緒に逮捕された人間の男たちがいたからだ。


「アキトちゃぁん!こっちに警備兵の死体がぁん。」


 ……。

 てことはどこかへ護送中に賊にでも襲われたってことか?

 こちらの状況を伝えると、前のほうと辺りを調べていた二人が

 戻ってくる。俺と同じように馬車の中の様子に顔をしかめる。

 そしてある白いものに気づく。

 死体に隠れ、目立たなかったが

 俺は見覚えのあるアクセサリに気づいた。

 あれは……!


 そう思うや否や、俺はそれらの死体を乱暴にかき分け、

 そこにいた見覚えのある兎の獣人を見つけた。


「ラビィ!」

「……うっ?そ、その声は……。」


 そこにいたのは、腕に傷を負ったラビィだった。

 それ以外は特に負傷している様子がないことに安堵しつつも、

 俺はミネローズさんたちに声をかけ、ラビィをそこから出した。


 そしてその場を後にし、近くに流れる川まで移動した。

 傷口を俺が持っていた水につけたタオルで拭いていき、

 あの兎の家族からもらった薬草で作られた傷薬で手当てしていった。

 皮でできたサポーターのようなもので覆い、一応の治療が完了する。


「この槍でいいのかい?」

「ああ、助かった。礼をいう。」


 と、ラビィはもう片方の手で、改めてルクスさんが馬車から

 探し出してきたラビィの武器である槍を受け取った。

 俺はまたまた兎の家族にもらった傷にいい飲み物をラビィにすすめた。

 一息ついたのだろう、息を吐いたラビィは改めてこちらを向いた。


「本当に助かった。お前には借りを作ってばかりで……すまないな。」


 申し訳なさそうな様子で、

 ラビィは礼をした俺は、気にするなと言いつつ

 こうなった事情を聞いた。


 そして、ラビィは語りだした。


 彼ら罪人は、ランドール地方を抜けた先にあるガルカニア地方の

 王都・エスタニアへと護送途中だったという。


 その最中、賊らしきものたちに襲われた。

 腕を縛られ武器も携帯していないラビィは、

 咄嗟に自分の低い背を利用して隠れていたが、

 賊にやられたらしい男に圧されて、その男へ改めてとどめらしき

 一突きを男の体ごしで腕に受け、ここはやり過ごすことを考えた。


 そのまま悲鳴や懇願の声を聞きながらも、じっと堪えていた時、

 自分の上に乗っていた死体の上にもどんどん、

 死体を置かれていき、息苦しさのせいか傷によるものなのか

 気を失ってしまう。

 気がつくと、すでに賊らしきものは去ったようで、

 警戒しながらも抜け出そうとするが、

 力がでないところへ俺たちが来た。


 そのように説明していった。


「賊の仕業か……。」


「よくあることだわぁん。そのために護衛などの冒険者や傭兵を雇う

 っていうのが常識なんだけどぉ、それもふいを突かれたのかしらねぇ。

 少し先でその冒険者らしき死体を見かけたわぁ。」


「金目のものだけではなく、捕えられた賊を救い出すという

 仲間意識で襲う場合もあるようだよ。でも、それを考えると今回は……。」


「ですよね。全員亡き者にするなんて……。」


 そう、まるで全員始末して証拠を残さないような……そんな感じだった。

 マフィア映画で見たことのある血の制裁みたいな?

 組織を裏切った男は一族郎党皆殺しされるというものに、

 多少の震えが来たもんだが、今回のそれも似たような感じだった。


「叫び声や懇願の声にはこのような声もあった。

 ……関係あるだろうか?」


 それは、自分をだました狐の男がそいつらに

 何かを懇願した声だったという。


 ―あの粉のことは誰にもばらしてはいない


 それを聞いた俺たちはお互いに顔を見合わせ、

 肉の中にあった白い粉を思い出した。

 粉っていうからにはそれしか思いつかない。

 しかも、狐の男が行っていた実験……。

 つまり、狐の男はただの悪人で黒幕が

 今回狐の男たちを皆殺ししたものたちと考えられる。


「どうにも根が深そうねぇ。」

「これはもう……ギルドそれもB+の調査系級に値する事件だね……。」

「そ、そんなにですか……。」


 よく知りも知らない依頼ランクの概念だが、

 ここまで顔を曇らせるルクスさんを見ればどんだけ難しいのか

 分かる気がする。


 そう考えると、このまま放置して

 収集依頼してのほほんと帰ることはできないということになる。

 はぁ~っと、ため息をつきまたやってきたトラブルに

 内心ついてないなと愚痴りつつ、

 きっと、小説やゲーム、アニメやマンガでよくトラブルに

 巻き込まれる主人公の心情はこんなのだろうなと思った。


「ともかくどうす―」


 これからのことを話そうとしたその時、


「動くなっ!」


 と、その場に張りのある声が届いた。

 気づいていたらしいラビィは槍を手にしていたが、

 無駄だと悟ったのだろう。槍を捨てて、後ろ手に手を回した。


 それがこの世界の白旗の意味か?


 と、俺も同じように手を後ろ手に手を回した。

 そして、ミネローズさん、ルクスさんも。


 騎士だろうか、俺たちを取り囲むその姿は、洗練された白い鎧と

 胸には国章らしき紋章をつけたフルフェイス型の兜をかぶり、

 剣を抜いたものたちがいた。そして、その騎士たちが

 道を開けたかと思うとそこからは、


 赤い装飾を施した国章をその胸につけ、

 他は騎士たちのような白い鎧を着た少女が

 俺たちを見下ろしていた。

 ポニーテールにまとめられた青い髪には宝飾の兜……ってよりも、

 何かのカチューシャみたいなのをつけていた。

 剣を抜き放ち、警戒気味に俺たちを睨みながら問いかけてくる。


「私は、エスタニア国王都守護役にして、

 エスタニア第七騎士団・団長を勤めている

 マリアーネ=ルグレシアだ。

 貴様らに聞きたいことがある。

 そのまま大人しくしていれば、危害は加えない。」


 と、強い口調でいうと周りの騎士たちにアイコンタクトを送り

 剣を突きつけられながらも、その場に腰を降ろしたその子は

 俺たちを一通り見ていった。


 な、なんか性格的に麻美っぽいな……これ。

 俺がきっと苦手だと思うタイプだ。一目見て、気づいた、うん。


 にしても、こんな少女で騎士団長ってことは相当なやり手なのか?


「まずは貴公たちの身分を聞こう。

 どこからきたか、何者か、嘘偽りなく話せ。

 冒険者ならば手帳を提示するのだ。」


 そして、ミネローズさん、ルクスさんは折り目正しく自己紹介をして、

 それぞれ手帳や何かのカードらしきものを提示した。

 少しミネローズさんの物言いに引いていたその団長殿は俺のほうを向く。


「えと、二人と同じでオーブルに住む一般人……

 ていうか冒険者……なのかな……アキト・イトウって言います。」


「なんだそれは?」


 俺の物言いが理解できないのだろう、

 だが俺はあくまで一般人で、ギルドには登録しているが

 今回の依頼が特殊なだけあって冒険者というわけでもない。


「手帳を見せよ。」


 と、言ってきたので俺は手帳を渡した。

 そして、俺の手帳を見た団長さんは、


「なるほど、渡界人か。こちらには最近きたのか?」


「あ、はい。」


「ならば、冒険者ギルド登録したものは、

 みな冒険者所属となるのは理解できていないというわけね。

 依頼もこれで2つ目のようだし。」


 そう言って、手帳を返してくる。

 え、そうだったの?

 つぐみの説明でそんなこと一切言われなかったからそのままだったけど、

 この世界の身分的には俺は冒険者になるのか……。


 そして俺からラビィへ視線を送った。

 ラビィは自分の生まれ故郷、そしてある罪を犯したことで

 護送中だったことを話した。


「ではお前は罪人として、我が都への護送中、

 賊に襲われたとそういうわけね。」


 と、ラビィに問い返した。

 その言葉にラビィは頷いた。


「……そう。」


 そうして返事をした団長さんは俺たちの後ろにいる騎士に視線を向けた。

 ―偽りはありません。

 と、聞こえたと思ったら団長さんは先ほどよりは態度を軟化させてきた。


「申し訳ないけど、真実の魔法をかけさせてもらったわ。

 その結果、あなたたちの証言は偽りではないと証明された。

 これまでの非礼をお詫びします。」


 そういうと、団長さんはすくっと立ち上がり頭を下げた。

 おおー、なんだこの子……。

 麻美より全然いい子じゃないかー。

 そんな調子のいいことを思う俺たちに、団長さんは


「しかし、事件のことで少し話しを聞くため

 このまま同行してくれないかしら?実は私たちはある事件調査のため、

 この地方まで来たのよ。そのため、協力してくれると助かるわ。」


「事件って?」


 俺はめんどくさいことになるなと思いつつも、聞いた。


「オーブルの町から来たということは、

 ランフォード地方からベイオル地方、

 そしてすぐそこの国境を越えて月影草を採取に来たということよね?」


 という質問に頷く。


「その途中の獣たちが暮らす村がありその森で、

 凶暴化したモンスターが暴れたって噂は聞いたことあるかしら?」


 獣たちって……。

 俺はそのことに引っかかるもその言葉に頷く。

 今はまだ内容は黙したほうがいいと一瞬で判断した。


「なら、その森の近くにある町へ行けば

 詳しいことが聞けそうね。」


 そうです。と頷いた。

 すると、その団長さんは近くにいる騎士ニ、三人に指示を出し、

 その町へ行って確認をしてくるように命令していた。


「確認が取れるまで、北の月影村に駐留してもらうわ。

 容疑者としての嫌疑ではないから安心して。

 重要参考人ということなので、

 任意ではなく強制になるけど悪いようにはしないから。」


 そう言って立ち上がり、ラビィを一瞥すると


「そこの罪人は、捕縛して馬に乗せて。

 こちらの方たちは武器などを預かって、馬を貸し与えてあげなさい。」


 といって、立ち去ろうとする団長さんに声をかけた。


「ちょ、ちょっと待ってください。そいつは―。」


 と弁護しようとするが、

 振り返った団長さんは一瞬、侮蔑するかのようにラビィを見ると

 俺のほうを向き、


「……獣は檻に入れなければなりません。

 どういう罪なのかは分かりませんが、

 こればかりは仕方がありませんので悪しからず。」


 そういうと、また姿勢正しく去っていく。

 な、なんだあいつ。

 俺は再度何かを言おうとするが、


「アキト殿、ここは言うとおりにしたほうがいい。

 君は国にケンカを売る気かい?」


「アキトちゃんの気持ちも分かるわぁん。けど、抑えてねぇん?」


 と諌められたことで、結局は自分の中でクソッと毒を吐いた。

 俺はあの獣人を獣呼ばわりするそれに、

 怒り心頭のまま指定された馬を断り、

 歩いていくとせめてもの反抗をした。

 はぁ……ガキだな俺も。


 そして、団長を筆頭に俺たちは国境を超え、

 一路、北の月影村へ向かった。


 着いた早々村の長が団長と何事かを話して、

 そのまま案内され宿のようなところへ通された。

 ラビィとは別に。

 部屋に入り、用があれば申し付けるようにと騎士に言われ、

 扉を閉じた。


 俺はベッドへダイビングすると、なんの罪もない枕に一撃をくれてやる。


「はぁ……、なんですかねあの女。」


 そう愚痴る俺に、ルクスさんは苦笑いを浮かべると、


「相当イラついているみたいだね。でも仕方ないよ。

 ランフォード地方であるオーブルはそんなではないけど、

 王都へ近づくに連れ、獣人に対する差別のようなものは強いからね。」


 まぁまぁとでも言うように説明してくれた。


 王都から離れたランフォード、エルベス、シリアはこの大陸の中では

 比較的に異人種に寛容だが、王都に近づくにつれて

 主に貴族たちから蔑むような差別があるらしい。


 それも獣人族による犯罪ややはりというか見た目が獣なのに、

 人間のように振舞う姿が許せないということらしい。

 また権力においても、見た目が獣のくせに

 金を稼ぐなどあってはならないなど、存在が許せないかのような

 物言いのものまでいるとのこと。


 だからなんだって話だけどな。

 俺からすると……だけど。


 獣人だって生きているし、家族で生活もする。

 そりゃ、あの狐の男みたいに犯罪を犯すやつもいるが、

 俺たちを誘拐した人間の犯罪者だっているから

 そこは人種に関係性はないだろう。

 獣人にだって規律正しく生きてるあの村の人たちのような

 人たちだっているのに。


「そんなことで、僕たちの住むオーブルには

 色々な人種が数多く住んでいる……というわけだよ。」


「王都……つまりは、国としても

 人間至上主義者が多いのも原因なのよねぇん。」


 だからそれゆえ、弊害もあるという。

 見下す人が多いことから、奴隷として収集したりするものもいるため、

 村を急襲したくさんの獣人を販売したり、

 最悪なのが自身の持っている家畜と交尾をさせて、

 新たな種を作ってそれを売り物にするというものまでいたり。

 倫理観や道徳観の害悪とも呼べる人間も中にはいるということだ。


 むかっぱらの収まらない俺は、汗を流すと外へでようとした。

 入り口には騎士が立っていたが、鍛錬をしたいというと

 監視付で鍛錬をしに外へ出た。

 鍛錬すら監視されるのかよ。


 絶対王都には行きたくないな。

 俺はもうすでに王都側の人間が嫌いになりかけていた。


 その最中、騎士たちがある方向へ向かう姿を見るが、

 特に気にせずにそして怒りを飛ばすかのように、

 ひたすらもっている剣を振るった。

 もうすでに大して重みを感じない剣でも、体的には振り方を

 覚えることも目的であるため、一心不乱に振った。


 そして、あることも試した。

 あの時にはなった未完成の技を、自分の振りやすい

 ある形で振るという訓練。

 この時の俺は、それが後の大騒動で

 全ての解決に繋がるとは知りもしなかった。


 その翌日―

 俺たちは改めて、ある一室へ呼び出された。

 報告が入り、あの町の警備兵が伝えたのだろう。

 今回俺たちが事件に関わり、その上解決に至った経緯を。、


 俺は今だ不信感の拭えぬそんな表情で口を噤み、

 苦笑いを浮かべたミネローズさんとルクスさんが

 代わりに話しをした。


「……なるほど。先ほど確認を終えた騎士の報告の通りですね。

 我々の代わりに解決していただき、感謝いたしますわ。」


 そう言って俺たちに頭を下げた。


「その上でお聞きしたいのですけど、

 その白い粉に心当たりなどはありませんか?」


 そう聞いてきた。

 二人は分からないと伝える。

 団長の視線は俺のほうへ向くが、あらぬほうを見て

 俺が口を噤んでいるため、聞ける状態じゃないと判断し、


「そうですか。あの罪人からも話は聞いていますが、

 ただの護衛ということで何も情報がないみたいなのです。

 その狐の獣の背後に組織があるのは見て取れるのだけれどね。」


 そう言うと、団長は話し出す。

 王都より東に位置する森においても、

 今回のように凶暴化したモンスターが暴れたらしい。


 被害は死者20人、重傷者多数ということで国より派遣された

 調査ということで王都のギルドに調査依頼を出していたが、、

 それを受けた何人かは、何者かに襲われたという被害も出ている。


 あきらかに人為的ものと判断し、

 王の勅命により騎士団が出張ってきたということだった。


 森のあるところという共通点から、月影の森を範囲として

 捜索範囲に入れたが、何も発見されずにいた。

 そしてここから、俺たちが世話になった村のある森へ遠征し、

 調査をしようとした途中に、例の馬車を発見。

 近くを探索した結果、俺たちを見つけたという。


 白い粉はその被害の出た森でも発見されており、

 関連性の報告とともに国の調査機関である研究室に持ち込まれ、

 現在でも調査中であるとのこと。


 その研究所の私見や調査当時の状況などから、

 そこに住まう森の動物などが食べた形跡もあるが、

 それらには影響はなく、モンスターにのみに影響があったことが

 何かの関係になるのではというところまで来ているとのことだった。


 俺は、憤慨もありただただそっぽを向いていたので、

 詳しくは聞いてなかったが。


「もういいでしょう。俺たちはそれ以上何も知らないですし。

 依頼のことがあるのですから、そろそろ開放をしてくださいよ。」


 と言って、立ち上がる。

 無礼者と騎士は槍を俺の肩へ置いて座るようにしてきた。

 ……なんだそれ。


 だが、その騎士がいくら力を込めてもビクともしない俺に

 驚愕をした。

 俺はそんな騎士を睨みながら言う。


「そうか。自分たちに逆らう人間は

 誰でも無礼者と強制的に席に着かせるのが、あんたらの仕事か。

 獣、獣と言って見下しているラビィよりも

 よっぽど下品だぜ。あんたら。」


 その言葉に顔を真っ赤にした騎士は俺を座らせることを諦めたのか、

 俺の首にその槍を突きつけた。

 ミネローズさん、ルクスさんは焦っていたが、

 俺にはもう我慢ができなかった。


「なんだよ?騎士ってのは……

 自分の許せないやつ自分がむかついた相手は殺すのか?

 あんたらはそうやって力で強引にねじ伏せるしか脳がないのか?

 妥協してお互いに冷静に話し合って、

 自分の悪いところ、相手の悪いところ

 そういうのを指摘し合って分かり合い、その上で

 解決策を見つけあうとかそういう平和的なやり方とか

 考えられないほどのバカなのか?ふざけるな!」


 そう怒鳴って、槍を持った。


 初めてだった怒りに我を忘れそうに怒鳴りちらすが、

 意外にも俺は冷静にじっと相手の出方を見ていた。

 なんだろう、この感覚は。

 そうして睨んでいると、フルフェイスの顔の奥がじっと俺を見ていた。

 その目には殺意が宿っていた。


 そしてそんな俺たちを、黙ってみていた団長が止めに入った。


「貴様は、槍を引け。」


 そう言って、団長はその騎士へ視線を向け制した。

 そして俺の事を見て、


「昨日のあのやり取りからね……あなたの態度が変わったの。

 そんなに獣呼ばわりは嫌かしら?あいつらに何か甘いことでも言われたの?」


 そんなことを言う団長にも、睨みつけた。

 まるで当たり前のことを言うかのように。

 それを流すように何も宿さない目で見つめ返す団長。


「ふぅ……分かったわ。もうあなたたちは行っていい。

 これ以上聞いても、何も進展はないだろうし。」


 団長はそういうとため息をつきながら、

 まるで用はないかのように手を扉へ向けた。


 その言葉に二の句もあげず、俺はさっさと立ち去った。

 出入り口にいた騎士を体で強引にどけるかのようにしながら。


「ま、まってぇよん。落ち着いてぇ?アキトちゃぁん~」

「お、落ち着くんだ、アキト殿。」


 そう言って慌てて、二人がついてきた。

 俺は止まり、二人に謝る。


「……すいません。でもやっぱり俺はあいつらとは

 合わないみたいなので、つい……。」


 すると、二人は仕方ないなというような顔で


「仕方ないわよぉ。私も傲慢なの嫌いだものぉん。」

「そうだね。あんな抑圧的な態度は……ありえないよ。」


 そんな風にフォローしてくれた。

 ひとまず俺たちは、長の下へ向かい自分の手帳を見せて、

 依頼による収集と説明後、許可をもらった。

 そして森に入る道中に、小さな小屋で何かを喚きながら

 物が当たる声が聞こえてきた。


 なんだろう?

 そういえばと、ふと思った。

 俺が鍛錬している最中に、こちらのほうへ向かう騎士たちの姿。


 俺たちは様子を見に行くため、その小屋に近づいた。

 そして小屋の扉からそっと中を覗いた。

 そこには……

 真っ白で綺麗な毛並みが、赤く染まり、

 縄に吊るされてゆらゆらと揺れながら、取り囲まれた者たちに

 棒のようなもので殴られていたラビィの姿だった。


 俺は信じられないという思いとともに固まっていた。


「くそっ、くそっ!あの渡界人のクソガキがっ!!

 この世界の常識ってのがわからねぇのか!!クソが!!」


 と、その犯行を行っていた声を聞いたとき、気づいた。

 先ほど俺に槍を突きたてた騎士だと。


「おいおい、やりすぎるなよ?大事な罪人なんだ。あまりやりすぎると、

 ごまかしが効かなくなる。」


 そういいながらへらへら笑っているその仲間であろう同じ格好の騎士。

 その目には侮蔑だろうか見下した視線でラビィを見ていた。


 俺は動こうと、するが

 ルクスさんとミネローズさんが抑えているのか動かない。


「は、離してください!あのままだと、ラビィが!」


「お、落ち着いてぇ。今飛び出してあいつらに暴力振れば、

 こっちが悪くなってしまうわぁん!」


「そうだよ。ここは辛いだろうけど、

 落ち着いてまずはあの団長を連れてくるんだ。」


 しかし俺は我慢ができなかった。

 それは同じ兄としてだろうか?

 頭にふと悲しそうな顔のミフィが浮かんだ瞬間―


 俺は、全力で二人を振り払って扉を乱暴に開け放った。


 その姿に驚いたのか、殴っていた騎士もこちらを見て、

 固まっていた。囲んでいた騎士も全員。


「…………。」


 俺はもう何も考えることができなくなっていた。

 目の前にいるのは敵だという思いしか。


「き、貴様……、ふ、ふふ。ちょうどいいこいつはもうすぐ

 くたばりそうだからな!お前が今度は替わりになれ!クソガキがぁ!」


 と、突っかかってきたものを避ける。

 すると、避けるとは思ってなかったのか足を躓いて転んだ。

 周りの騎士も俺を捕えようとして、俺を取り囲む。

 だが俺には、それが脅威という感じが全然しない。

 何も感じずただ静かな怒りのみを表していた俺は、


「……なんだ?なにしてるんだ?なにがしたいんだ?」


 そう、まるでそれは自分の声ではないかのような

 そんな何かの声色で問いかけて、拳を握った。

 そこへ―


「皆のもの、動くなっ!」


 と、扉のほうから声が聞こえた。

 そこにいたのは、あの団長の姿だった。


 団長は俺や囲んだ騎士、そして、血を流しゆらゆら揺れているラビィを見た。


 そして、


「全員、ここから出ろ。」


 と、声をかけると扉から離れた。

 そして、俺たちは一列に並ばされた。


「何があったか、話せ。」


 そう言って、一番手前にいる騎士に話しかけた。


「はっ。我々は、なにやら隠していると思われるあの獣を

 尋問していたところ、非常に敵意剥き出しであったため、

 拷問へと変更。その後、突然この男が

 現れて妨害してきたところを抑えている最中でありました!」


 と、規律正しく嘘を述べ立てていた。

 団長はそれを順々に聞いていった。

 みなが一様に右に同じでありますと答えた。

 そして、最後に俺へ聞いてくるが……。


「……。」


 俺は黙って団長の顔を睨みつけるのみで何も言わなかった。

 それはもう明確な殺意や敵意を押し付けて。


 その目を受け流すかのように、俺をじっと見ると団長は

 ふっと視線を外し一言言った。


「そうか……。」


 そして、一緒に来た騎士に命令し、


「こやつらを捕えよ。」


 と、俺とミネローズさん、ルクスさんに捕縛の命を下した。

 そんな様子に、暴行を働いていた騎士たちは見下すように

 俺たちのほうへ笑いかけていた。

 ……これが正義だとでも言うように。

 俺にはもう何も感じられなかった。


 その時、団長は改めて騎士たちを見渡した。

 ひどく無機質な声で言い放つ。


「……お前たちは、抵触を犯した。

 騎士団規則第4条 "騎士は自らの行いを偽ることなかれ。"」


 いい終えると団長は、剣を抜いた。

 手前にいた暴行をした騎士を、何の断りもなく一刀両断した。

 鮮やかな赤が舞う中、彼女は何も感じないかのように剣を戻す。

 そして次へと見据えると、


「ゆえに、お前たちは斬死刑とする。」


 そう言って、青い顔をしながらも懇願する騎士、

 謝罪をする騎士たちを次から次へと、斬り捨てていった。

 無表情で、なんの怒りも宿さずに。

 逃げ出そうとした騎士はまもなく、団長についてきた

 騎士に捕殺された。


 全てを終わった後、血に塗れた剣を振り払い鞘に収め、

 俺たちの前に改めて来ると―


「ふっ、私にそこまでの殺意を向けたのは貴公が初めてよ。」


 と、言って後ろにいた騎士に連れて行けと命令して去っていった。

 俺はその姿にぽかーんとしつつも、ラビィの囚われている小屋へ

 連れて行かれるのであった。

今回の冒険編も三部作です。


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