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異世界の伊東家たち  作者: 織姫彦星
初めての冒険編
7/36

第7話「そして、はじめての冒険(2)」

「はぁっ!」


 俺は横殴りに、剣を顔に叩きつけた。

 ギャウゥと悲鳴をあげるモンスター相手に、油断をすることなく

 前転で距離を取りながら数を見る。


 門の外に出た俺たちは、それぞれの群に囲まれていた。

 できるかぎりこちらへ向けるようにしたため、ガルルウルフの群たちは

 そのほとんどが、こちらへよってきてくれていた。

 俺はそのことによしっと思いながら、数を確認すると

 群は五匹を中心に行動をし、その数が十二グループあった。


 多いな……。

 ミネローズさんが言っていた群になると恐ろしいこいつらは

 それがまた群同士固まると余計うっとおしそうだと理解ができた。

 だが、ここで引けば村の人たちが食い殺されてしまうだろう。

 その考えのおかげか、ひるむ気持ちは一ミリもなかった。

 そうだ、この感覚はと理解する。

 あの誘拐された時、あの時に似ている気がする。

 妹や弟たちを助けるために発動したあのバカ力の感覚に……。


 俺はその逸る気持ちを制するがごとく、冷静になるため

 一度深呼吸をすると、相手の出方を見守りつつも正眼の構えを取った。

 そして、群が一斉に襲い掛かってきた。


 俺は下を見て落ち葉に気づき、

 咄嗟に剣ですくい上げると横に飛ぶ。

 目をやられたもの、やられてないものとに分かれ

 俺は優先的にやられてないものの頭に一撃を加えていった。


 そして、また距離を取り同じように目くらましをしながら

 その数を減らしいく。だが、それを理解したらしいガルルウルフは

 距離を取り牽制をする。


 他にないかと考えたその時、別方向から歯牙が襲ってきた。

 咄嗟に防御をするが、肩を噛まれたらしくじんじんとした痛みとともに、

 少し防御が下がる。それをよしとしたのか、ガルルウルフは一斉に

 攻撃をした。力が入らない腕を庇うかのように、剣を構える。


 そして、走りだす。自分がブレッシングで成長している自分が

 できる最大の振りを出すために。


 そして手前にきたその瞬間、おもいっきりその群たちに振るった。

 その風圧からか、ガルルウルフたちはそれぞれが斬り傷を受けながら、

 吹っ飛んだ。

 よ、良かった。間に合わせだけどできた。

 俺は、必殺技ができればいいなと考えてた、

 あの日のことを思い出した。


「…………必殺技?」


 その声は、寡黙な男に合う声、

 俺の短い間の師でもあるジルドさんだ。

 俺は、そういうものがあるのかを聞いたのだが、

 彼は理解しかねるという顔で呟いたので、おそらくない。


 なら作るしかないか!


 俺はそんな思いで、マンガで見たことを思い出しながらも、

 何度も剣を振るった。そして、最終日にようやくその形となる

 風を起こすかのようなものができた。

 あとはこれを何度も行って、戦闘を重ねればと練習していた。


 ぶっつけ本番という感じだったが、できてよかった。

 できなかった場合を考えて実はちょっとブルったのは内緒。


 だが、思った以上に疲れるらしいこの技に肩で息をしている俺は、

 再び警戒を強めているやつらにまた正眼の構えで距離を取った。


 あれくらいの威力でもこれだけ疲れるってことは、まだ技としての

 完成度がそれほど高いわけではないと理解できた。

 とにかく、こいつらは俺が倒さないと……。

 そんなことを思い、技のことは一旦頭の隅に追いやる。


 周りを見ると、ミネローズさん、ルクスさんもそれぞれに

 群たちと遣り合っている。特に強いミネローズさんのほうには

 ひっきりなしにガルルウルフが襲い掛かっているため、倒せども倒せども

 襲い掛かってくるやつらに顔が邪魔ねぇという表情をしている。


 さすがに熟練の冒険者でもこの数はしんどいだろうな。

 だが、一匹でも多く倒さないと光明が見出せない。

 とりあえず、俺は再びやつらが襲い掛かってくると同時に剣を振るった。


 何時間経ったのか。

 その場にはかなりの数のガルルウルフの死体が転がっていた。

 むせ返る死臭だろうか、嫌な匂いに顔をしかめつつ、

 近隣から次から次へと集まってくるガルルウルフを相手にしていたが、

 その数は結構減らせたようだ。


 俺はあともう少しと心に鞭をうち、もうすでに限界っすよという体を

 無理やり動かす。ところどころ噛まれた傷を負いながらも、

 いまだ立っている自分は間違いなく、一週間鍛えてよかったと実感している。

 その時、これまでとは異なるような唸り声を上げたものが現れた。


 ――ガルォルガァァ!


 さ、さっきまでの実感とやらは取り消し!

 そんなことを思い起こさせるような巨体がこちらに迫っていた。

 頭から二本の角を出し、全体は黒く硬そうな毛皮に覆われてて、

 俺が見上げるくらいの大きさだった。


 こいつらのボスかと思ったが、どうやら違うらしい。

 なんせ、その立派な角にはガルルウルフと

 おぼしき死体が突き刺さっているのである。


 見た目は完全な牛であるが、ある意味バッファローに近い容姿だ。

 そんなことを思っていると、やつは突進してきた。

 は、はやっ……


 ――ザシュ!


 右のわき腹に激痛が走る。

 よ、避けたと思ったがどうやら避け方が甘かったようだ。

 ミネローズさんやルクスさんが心配した声がする。

 俺は無様に転がると、わき腹に走る痛みをこらえながらも立ち上がる。


 そして、少し手を振り問題ないことを二人に知らせた。

 その間にガルルウルフが群で襲い掛かり、その全てを角と突進で

 次々倒していく。


 いきなり現れた自分とは違うあきらかに強いやつに興味を持ったのか、

 幸いにも俺を取り囲んでいたガルルウルフは、牛っぽいモンスターへ

 ターゲットを変えたようだ。

 その間に俺は、できる限り警戒しながらも距離をとり、

 ルクスさんたちの近くまで戻った。


「ル、ルクスさん!あいつなんですか!!」


 めいっぱい声を荒げ、あいつが何者かを聞いた。


「あれはバーストタウラス……この近辺にはいないはずのモンスターだ。

 それに……人を襲うことは滅多にないのに……。」


 そ、そうなのか。

 そのバーストタウラスとガルルウルフを横目にルクスさんのほうを見ると

 そのほとんどが今戦っているバーストタウラスへの援護として向かっていった

 らしく数が少なかった。それはミネローズさんにも言えることだ。

 こちらにかけてくるミネローズさんも意外そうな声でそういっていたからだ。


「どういうことですかね……。」

「わからないわぁん。凶暴化の進んだモンスターの類と呼べるのは

 わかるけれどもねぇ……。」


 俺の傷を見たのだろう、二人はすぐに俺の前に立って、

 バーストタウラスのほうに剣を向けた。


「辛そうねぇ。治療したいけど……今そんなことができる状態じゃないのん。

 ごめんなさいねぇん。」


 ミネローズさんは前を見ながら、申し訳なさそうに言ってくる。


「……いや、それどころじゃないってのはわかりますよ。」


 そう言うと、俺は痛むわき腹を片手で押さえながらも考える。

 どうするか、この分ではいくら強いといっても、

 この二人でも難しいのだろう。


 ミネローズさんは先ほどとはうってかわり、真剣な表情をしている。


 ルクスさんも汗がつーっとしたっているところにこの苦笑いだ。


 さてどうする、そんなことを考えるも方法が……。

 くそ……こんなところでやられたくない。


 そして俺はある方法をおもいついた。


 もはや、ガルルウルフたちの数も少なくなりつつある。


 そんな中、俺たちはあることを頼むためもうすでにガルルウルフのいない

 村の入り口へと向かっていき、話しかけた。


「え!で、でも……。」


 俺が考えた作戦が意外だったのだろうか、戸惑っていた。


「おじさん!この人たちは娘を助けてくれた人たちよ!きっと、うまくいくわ!」

 そうユフィさんは援護してくれた。


「わ、わかった。みんなすまないが手を貸してくれ。」

「私たちも手を貸すから急ぎましょうん?」

「ああ、そうだね。」


 そうして村人とルクスさんミネローズさんたちは作業に取り掛かった。

 獣人族の……しかも脚力があれば容易かなと思ったその作業はわりと早く

 進められた。まぁ、ミネローズさんのその男らしい力も合わさっているが……


 俺は背中からみんなの頑張りを聞きながら、痛むわき腹に大量の汗をかき、

 もはや僅かといったガルルウルフとバーストタウラスの戦いを見守った。


「お兄ちゃん!これもってきた!」


 そしてミフィは、可愛く走ってきてあるものを渡してきた。


「あ、ありがとう……。ミフィは、危ないから下がってて。」


 俺がそう言うとミフィは俺の状態が心配だろうか、

 しばらく見つめていたが頑張ってと声をかけて、

 村のほうへ戻っていった。


 ……その声にあの子たちを守らなきゃという思いで、

 俺は片手にそれを持った。


 そして作業終了と同時に、ガルルウルフが全て倒されたのを見ると

 村の人に声をかけた。


「それじゃ、さっき説明したように……ハァ……俺たちが

 おとりになりますんで、……うまくいったら例の手筈で!」


 息が上がりながらも、そう説明する。

 村人たちはうなづくと、門へと移動した。

 ルクスさんにミフィから受け取ったものを渡し、

 ルクスさんが、めいっぱいのそれを広げて声を張り上げる。


「こっちだこっちだぁ!!!!」


 その声に気づいた、バーストタウラスは次の獲物を見つけたと

 こちらを向き、片足を蹴りながら威嚇してくる。

 牛とは、赤いものを見ると興奮する。


 それに気づいての策だった。

 そして、それに気づいたバーストタウラスは予想通り、

 興奮してこちらへ向かってきた。


 そんな折、俺の体がすとんと力が抜けるが

 立ち上がり、めいっぱいの力を出すためにタイミングを取る。

 この作戦のネックは、あの速さできては策にはまらないことだ。


 あの速さを一瞬だけ怯ませ速度を落とすために俺はただひたすら、

 力を貯める。

 きっと効かないが、一瞬くらいはどうにかなるだろう。

 と俺はそんな思いで、力をますます貯める。

 そしてあっというまにこちらまで来たその迫力に、意地で押し切り

 最後の力だといわんばかりの振りをした。


「うらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 その気持ちにこたえてくれたかのように、一瞬の風とかまいたちが

 バーストタウラスへと襲い掛かる。

 それにひるんだバーストタウラスは絶妙なところで、

 速度を緩めた、頼むという思いに一抹の願いをかける。

 すると、


 ―ズドーンッ!!


 大きな音ともに、バーストタウラスの巨体が目の前から消えた。

 いや、消えたといっても顔は出ているがつっかえている。

 身動きが取れないのを確認した俺は、


「よし今だ!!みんなでボッコボコにしてやんよ!」


 そう門のほうへ向かって叫ぶと、

 門から獣人たち総出で武器を手にして現れた。


 俺たちの策とはつまりは、落とし穴という単純なものだった。

 その策は身動きが取れないことから察するに、見事に成功とわかった。

 ジャンプ力を懸念したが、巨体に似つかわしくない

 馬のように細い足では、飛べないと判断したが、

 これも読みどおりでよかった。

 奴はジャンプもできず、ただただ暴れるしかなかった。


 ミネローズさんとルクスさんも加わり全員で、

 落とし穴にはまったバーストタウラスをたこ殴りにしていく。

 首を振るため、角には気をつけるように指示を出しながら、

 とにかく殴った。

 ミネローズさんでもダメージを与えるのに精一杯なのか、

 斬れるほどに安易ではなく、その肌は鋼鉄のように硬かった。


 カキンカキンという音とともにダメージを与えているのか

 いないのかわかりにくいが、こいつが苦しそうな声を出すからには

 与えていると判断していい。


 俺も攻撃に参加するが、あの技を出したことにより

 満身創痍のその体にはすでに力が入らなくなっており、

 今や獣人の人たちにも劣るそれは確実に

 ダメージを与えていない。


 どれくらい経ったのだろうか、抵抗も減ってきたバーストタウラスに

 止めを刺すため、俺は剣を真下に構え突き刺した。

 そりゃもう自分の全体重をかけた一撃だった。


 そのままバーストタウラスに倒れ、悲鳴のような叫び声のような

 声とともに動かなくなり、やつの体が冷たくなっていったのを

 確認した俺は、ぐるっと仰向けになるなり、


「やったぞーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 と、剣と拳をつきだした。

 そして、周囲の歓声を聞きながらそのまま情けなくも気を失っていった。


 目覚めたのはどれくらい眠ってからだろうか。

 ふと、体を起こすとわき腹に痛みを感じそのまま、

 また倒れてしまった。


「あ、気がつかれた!よかった!」


 そういって、ユフィさんが声をかけてくる。


「あ、あの……ど、どうなりました?あのあと……。」


「はい。あなた方のおかげであのモンスターも倒せました。

 本当になんていっていいのか、ありがとうございます!!」


 ユフィさんは、赤い目の涙をぽろぽろ流しながら感謝してきた。

 う……人妻なのに、この萌えーな顔は……。

 俺は少しだけ危ない道へ進みそうになったその心を振り払うと、


「い、いえ。みなさんがあいつを倒したようなものですよ。

 だからこれはみなさんと俺たちの勝利ってことで……。」


「本当に、本当に……あ、ありがとうございます。」


 それからユフィさんに話を聞いた。

 あのあと気を失った俺を、ミネローズさんとルクスさんに引き上げてもらい

 村のみんなでバーストタウラスを解体、売れる部分を倉庫へ運びながら

 俺はここまで運ばれて、なんと2日も眠っていたようだ。


 そうか、なんかゲームでよくあるような倒した魔物の素材を金に換えるって

 この世界でも適用されるんだなと理解できた。

 彼ら二人は今、村人の手伝いにより荒らされた村の入り口の復興の手伝いと

 死んだ村人たちの供養を手伝いしているらしい。

 そんな二人とミフィが戻ってきた。


「おお、気がついたのねぇん。ホントによかったわぁん♪」

「君や僕たちのおかげだと、村中がすごいよ。

 そんな中で、君はひときわ英雄扱いだったよ?」


 え、英雄?


 ……。


 …………。


 でへへ。


 と、思いながらも、

 二人の言葉に安心をしていると、ミフィが飛び掛ってきた。


「あ、痛っ。」


「あ……ご、ごめんなさい!」


 嬉しかったのだろうその笑顔らしいミフィに全く怒る気もしない。

 そうだ、俺がここまで頑張れたのはこの二人を守るためだ。

 いや、違うか。俺はきっとそれを自分の家族に見立てていたのだろう……。

 ほんと、ファミコンだな俺は。


「ははは、気にするな。よかった本当に……。」


「お兄ちゃん!」


 俺はそういうと、ミフィの頭をゆっくり撫でた。

 ミフィも気持ちよさそうにそれを受け入れている。

 そんな表情を見ながらも、俺はある懸念を思い出す。

 参ったな、この傷の痛みじゃ……治るのに何日かかるかわからん。


 一応ユフィさんは俺が眠っている間も変わらず傷口に薬草をすり込みなど

 治療をしていたようだが……。

 そんな俺にユフィさんが声をかけてきた。


「それにしても驚きました。あなたの傷口は日を追うごとに

 かなり治りもよくて、もうそこまで治っていくんですから。」


 俺はその言葉に、慌てて自分のわき腹をめくり上げた。

 あれ……。

 そこにあったのは、緑色の何かを塗られた中にあった

 傷の跡の様なかさぶただった。

 結構えぐられて相当の激痛だったはずだが……。

 一瞬にして考えに至る。

 自然治癒力も俺のブレッシングに関与してるってことが……。


 成長というのは、何も身体能力や力、体力にのみという制約があるわけでは

 ないらしい。自然治癒力という普通の人が当たり前に持っているそれも


 成長としてカウントされているのか……。


 さっきの痛みはまだ治りきれていない証拠ではあるが、

 この分では今日一日ゆっくりすれば明日には治ってそうだ。


 あくまで想像上だが……。


「アキトさん、今日ゆっくりすれば明日にはもう大丈夫だと思います。

 それに村のみんながあなたに感謝の宴を開きたいといっておりますので。」


 そ、そんな……いやぁ……悪いなぁ……でへへ。


 とだらしなさそうになる顔を抑えると、俺はミネローズさんに改めて聞いた。


「なぁ、ミネローズさん。戦闘中にも聞いたがあの牛モンスターがここらに

 現れるのって珍しいことなんだったよな?」


「……そうねぇん。だから何かないかとルクスくんとぉ、この森を探ったり

 してたんだけどねぇん。こんなものがおちてたのぉん。」


 そういうと、ミネローズさんはふところからある肉をだした。


「その肉が?モンスターの肉とか……そういうのじゃ?」


「私もねぇ、最初はそう考えたけどぉ、でもあきらかに人間か加工したかのような斬れ方の肉もあったのぉん。」


「そ、そうなんですか?」


「それでね、解体したり、嗅覚に鋭い獣人のこの人たちにも手伝ってもらって

 分析したんだよ、そしたら。」


 そう言って、ルクスさんも同じくふところから取り出した。

 なにやら、粉のようなそんなものだ。

 その粉は白くて、さらさらしているがそんなものが肉の中あるのは

 たしかに不自然だ。

 村の人はそんな不審な肉には見向きもしなかったが、

 これを食べたもの……そして、ここはグルルウルフの住処ともなっている辺り

 なためこれを食べた大量のグルルウルフがこの村へ襲ってきたとすると、

 つじつまが合う。それでも、バーストタウラスの件が残るわけだが。


「さっきも言ったけどぉ、バーストタウラスはここらへんにはいなくて

 しかも人を襲うことのない穏やかなモンスターなの。

 だから、何かしらの原因で凶暴と化したら討伐してもいいけど、

 普段は不干渉を貫いているものなのよぉん。」


「……なるほど。」


 ということは、


「人の手が介入されている……そうとも考えられるってことですか?」


 俺の言葉に二人は頷いた。

 誰がこんなことを。

 この村は獣人族の村で、それを排除したいがためにと考えれば自然と

 ここの地域を治めている人間と考えられるが……。


「ユフィさん、人間かここを訪ねて何か強要されたり……もしくは、

 ここを治めている領主の使いの人がきたりといったこととかなかったですか?」


「そうですね……。領主の方は私たちに非常に好意的に接してくれていて

 ここの長……もう亡くなってしまったんですが、長とは良心的に

 接していたようです。だから、領主の方がこういうことをするとは思えませんが……。」


 そうか、てことは領主ではないのかな?


「ミフィ……見たよ。お父さんと薪拾ってる時に何かコソコソ

 人間族の人たちがうろうろしてたの……これと関係ある??」


 辛いのであろう、ミフィは悲しそうにそう聞いてきた。


「その人間たちは何をしていたんだ?」

 俺は撫でながらも、そう尋ねた。


「分からないけど、……何かをおいてた。それで、特に気にしなかったけど

 食事をしてたあの狼たちが急に苦しんでその後……」


 そういうと、俺の胸に飛び込んできてぎゅっと可愛い手で握ってきた。

 ……。

 俺は黙って抱き寄せて、頭を撫でた。


「……ミネローズさん、ルクスさん。」


「ええ。私も今の聞いてちょこっと、怒りに沸いたわぁん……。」


「おそらくそいつらだね。喜んで手伝わせてもらうよ。」


 二人は頷いた。

 俺も今はらわたが煮えくり返りそうだった。

 ひとまず俺は一刻も早く、これを治さなきゃいけない。

 そのためには寝るしかないか。


 俺は安静にしつつも、明日から動くことを話す。

 とりあえずはその件の怪しい人たちを見つけること。

 その後、そこから解決に向けて近くにあるという

 町にもこの村の警備を頼みに行くこと。

 残りの肉を食べた可能性のある討伐系の依頼を代わりに登録しようなど、

 そんな感じで話し合いを終えて、翌日を迎えた。


 そして翌日、村の代理長という獣人さんの家に行き、

 今回の探索について説明をした。

 討伐の報酬については、あのバーストタウラスから剥ぎ取った素材を

 売ったお金で出すことになったようだった。

 まだ森が危険なため、それは代わりに俺たちが

 伝えに行くということになった。


 門へと向かう最中、動けるようになった俺たちに宴の提案がなされたが、

 村人たちに事情を説明し、すぐに解決せねば同じことが起こりえると話す

 ことで説得しそのことはまた後日として、急いで村の門へと向かった。

 傷の具合だが、完全に痛みは取れて体力が満ち満ちているのを感じる。

 すごいんだな……このブレッシングって力は。



「今回のことは本当になんとお礼を申し上げてよいのか

 ……本当にどうもありがとうございます。くれぐれも無茶はしないで下さい。」


 計画を話したユフィはそう言って胸元に手を添えて不安そうな顔をする。


 ……も、い、いや……やめておこう。

 思わず言いそうになった言葉を懸命に抑える。

 だって可愛いんだもん……。


「我々、村人一同はあなた方の無事を祈っております。」



 長代理の似合わない威厳に満ちた声で

 俺にそれぞれ送り出しの言葉をかけられた。


 また、最後にミフィが、


「絶対無事でね!お兄ちゃん!」


 そう声をかけてきた。

 心僅か、ホームシックだ。


 今一瞬、無邪気に小さい頃から俺をお兄ちゃん言ってるつぐみの顔が……。

 はぁ~。

 心の中でため息をつき気を取り直して、返す言葉で、


「はい。こちらも長いこと滞在させてもらってありがとうございます。

 この事件の首謀者は必ず捕まえて見せますから安心してください!

 その時はまたきっと来ますので!」


 俺はそういうと、背を向けた。


「では、これでぇん。」


「それじゃあ失礼しますね。」


 思い思いに一旦の別れを告げる。

 最後の最後まで俺たちを見送り、ミフィの可愛い声が聞こえる。

 それを背に誓う。


 絶対に許さないと、心に思いを込めて森を探索するのであった。

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