第5話「謎の少女と新たな依頼」
まだ外が明るくなり始めた時に、自然と目が覚めた。
なんだろう、今まで感じたことのないすがすがしい目覚めだ。
起きて体を動かし、違和感を感じる。
筋肉痛が結構しばらく続いてたこれまでとは違い、
あんだけ体を動かして筋肉痛もひどいだろうと覚悟して寝たわけだが、
それが一切なかった。むしろ、前よりも体が軽く感じた。
な、なんか自分の体じゃないみたいだ。
これなら朝練みたいなこともできるんじゃないかと、
とりあえず起きて、着替えてみる。
下に降りながら考える。
体力を考えて走りたいけど、大丈夫かな?
この世界にきてからの色んなことですっかり懲りている俺は、
現在人一倍人間不信なところがあった。
「でもこんな朝っぱらから襲ったりとかしないよな。」
結局、自分のやる気を尊重させ、走ることにする。
よしと、玄関を出て外に出るとそこには兵士さんの姿が……。
「あ……あれ?おはようございます…」
俺は疑問系で玄関先にいる兵士さんに挨拶をする。
俺に気づき、振り返るとそこにはバースさんがいた。
こ、この人、昨日の朝も夜もいたよな?いつ寝てるんだろう……。
「お~おはよう。今日は早いね。どうしたんだい?」
立派な口ひげを蓄えた顔に深い皺を刻みながら笑顔で聞いてきた。
「あ、はい。鍛錬の前に走ろうかなって……。
体力つけたいし。」
「そうか……頑張っているな。昨日の様子では、落ち込んでたから今日は出てこないと思ってたが、なかなか根性があるじゃないか!」
そういい、俺の肩を叩いてくる。
やっぱりそう思われてたか。仕方ないけど、そんな姿をさらすなんて
ちょっと情けなかったりする。
「まぁ……。でも、やらなきゃいけないですからね~。
もうあんなふうに妹たちを危険に晒したくないですし。」
「……そうか。だったらしっかりやらないとな。」
「はい。あ、それで聞きたいんですけど、俺、この家ぐるっと回って走りたいんですけどいいですか?」
「ああ、いいとも。この家周辺に警備兵や兵士が立っているからね。
安心して走ってくるといいよ。」
といって、周りを指指す。
なるほど、あそこの角にもいるしあっちにも。
本当に敷地ぐるっとなっているかのように、鎧を着ている人がいた。
ルクスさんがいないってことは、きっと就業前だからだろう。
「ありがとうございます。それじゃ、いってきます!」
俺はバースさんにお礼を言うと、早速走りだした。
そしてしばらく走った。四十分くらいだろうか?
もう日が完全に昇り、周りにいろんな人が増えてきたのを見て、
俺は違和感を覚える。
自慢じゃないけど、二十分くらいで終わる学校のマラソンと
同じ速度で二十分以上走っているが全然息が切れていないことに。
これが俺のグロウアップの力なんだろうか。
走り始めのときは、息が切れてきたら休憩とりながら1時間くらい走ろうと
考えて走っていたのに、気づけば息も切れずに40分くらい走ってるし。
とりあえずもう少し走ってみる。
――二時間後
走ってて思った。
俺はアホなんじゃないだろうか。
昨日あんだけ後悔したのに、まだ走ってるからだ。
先ほどよりは体が重くなったのだが、やはりまだまだ走れるみたいで、
全然止まらない。息が切れたらという制限は撤廃しなきゃいけないな…これ。
そうして、たまたま家の門が見えたところで今日はここまでと考え、
門の前に着くと止まった。
止まると、体が見えない重力を感じるようにガクーンとなった。
おおう、今頃きたのか!
そう思いながら、門をくぐりながらバースさんとは違う兵士さんに労われ、
家に戻った。
うちに帰ると、おいしそうな味噌汁の匂いと魚だろうか?それが焼ける匂いが
してお腹がグーッと鳴る。
ちゃぶ台に座り、起きていた家族に挨拶をした。
「おはよう、アキト。どうしたんだ?朝いなかったみたいだが。」
「お兄ちゃんその格好……もしかして?」
「ああ、ちょっと走ってきた。体力もつけないと昨日のようになるかもしれないし。」
そういうと、オヤジは得心を得たのかなるほどなと頷いた。
つぐみもちょっと顔をゆがめるが、俺が気にしていないことを悟るとそっかと
言っておかずを取りに立ち上がった。
「いつまで続くやら~……。」
鏡を見ながら、愚妹がつっかかってくる。
「ふん。俺のブレッシングを忘れたか。驚いたぞ!いつもは二十分でへばってたマラソンが三時間近く走れたんだぞ!」
よせばいいのに、俺もそれに乗る。
その答えに愚妹は唖然としていたが、
「ふーん。……ま、三日坊主にならないようにね。ふふん。」
と、いちいちイライラさせることをいうが、お兄ちゃんなので気にせずに
オヤジに聞く。
「そういや、オヤジのブレッシングは「ティーチマスター」だよな?
今日帰って夜でもいいから、つぐみと一緒に俺にも字を教えてくれないか?」
「ああ、それはいいが。お前、今日も帰ったらすぐ寝るんじゃないのか?」
と、呆れたように言ってくる。
「心配すんなって!昨日はたまたま、力と体力の配分を誤ったけど
今日は大丈夫だ!飯食ったら昼まで鍛錬してそれから昨日よりも軽めの
依頼を受けるつもりだし!」
どの口がそう言うのか、俺はオヤジに胸を張って答えた。
だ、大丈夫だよ?
「そうか。まぁ、無理はするなよ?」
そう言って、お茶をすすった。
そして俺は、ぼへーっとしながら
そのまま朝飯ができるまで、悠斗と遊んでいた。
朝飯を食べ、昼まであの木の剣を振り続け、
やはり昨日とは違うことに違和感を感じつつ、
お昼寝の後に、再びギルドへ向かった。
今日はルクスさんはいないらしく、違う兵士の方が護衛としてきた。
ジルドさんというその人は寡黙な人のようで、道中はすごい気を遣った。
体もごつく目つきも鋭いので、優男風のルクスさん(失礼)に比べれば、
どう接すればいいのか分からない。
ギルドに到着後、自然に出入り口に仁王立ちするジルドさんに礼を言って
掲示板へ向かう。道中、つぐみがいるかと思ったら今日は孤児院にいるのか、
受付のところにはいなかった。
気を取り直し、掲示板をじーっと見る。近くにいる代読師さんとともに。
「え?ないんですか?」
「ええ。あなたが指定している力仕事の仕事はないわ。」
「そ、それじゃ、草刈りとかそういうのでもいいんですけど。」
「今日は依頼自体少ないからかもしれないけど、そういうのもないわ。」
「そ、そうですか……。」
そういえば、昨日に比べてどこか貼り付けている
依頼書が少ないような気がする。
どことなく、人も少ないような……。
んーどうしよう?今日は午後いっぱいも、あれを振るか。
やっぱり昨日とは違って、まだまだ余裕が出てきたし。
と、そんなことを考えた俺は、いきなり袖を引っ張られ、
二階の階段のほうへ引っ張られる。
え?
と、そっちへ視界を向けるが誰もいない。
だけど、引っ張られる。ふと下に視線を向ける。
そこには、金髪の頭でいかにもな子供が俺の袖を引っ張っていた。
「ちょ、ちょっとお嬢ちゃん?どこに連れていくんだい?」
俺はやんわり問いかけるが、
「黙ってくるがいい。それ以外お主に認められた行動はない。」
と、やっぱりお嬢ちゃんのような声で俺を2階へ誘導する。
か、可愛くないなー。いくら可愛い容姿っぽくても、
それじゃあ将来が心配だぞ!
と思ってる間にも、連れて行かれとうとう二階のテーブルに座らされた。
改めて目の前に座った女の子を見る。
わ、可愛いなんてもんじゃない。特に目が……。
そこにいたのは、綺麗な金髪を腰くらいまで流したストレートで
目が漆黒で少し青みがかってるようなとにかく綺麗な目が俺を見ていた。
格好はシースルーのようなもので、それもやっぱり黒い。
さっきの感じからすると身長は130cmくらいだったか。
これは将来美人さんになるな絶対。
と、俺がそんなことを思っている間に、
「まぁ、謝っておいてやろう。だが、主も我をお嬢ちゃん呼ばわりしたので
ケースバイケースにするということでどうじゃ?」
お嬢ちゃんはそういいながら、決してそれくらいの年には想像できない
魅惑な笑顔を浮かべる。お、俺……
「ロ、ロリコンじゃねぇ!!」
と、心で思うことにしたことをつい口が滑ってしまうほどの動揺をした。
「なんじゃそれは?…まぁよい。ともかく、飲み物はおごるから我の話を聞くのじゃ。」
と、その子は手をテーブルに出すと瞬間的に両手からグラスを二つ出した。
え!
「な、今どっから?」
まるでUFO映像のようにいきなり出たそれに俺は驚いた。
だって、瞬きの間にっていうかそんくらいの早さだったぞ、今。
「魔法じゃ。そうか、お主は知らぬのであったな。」
そういいながら、今度は人差し指と親指を擦り
ロックアイス並の氷をその手に取り出す。
俺はまたも驚愕するが、そんなことは気にもとめず女の子は、
首の後ろから何かの飲み物が入ったビンを取り出した。
手、手品師かよ……。
あまりのことに俺は驚きを越して、若干呆れてきていた。
「葡萄をそのまま飲み物にしたものじゃ。我は気に入っている。
主も気に入るはずじゃ。ま、飲め。」
そう言って俺の前におかれたグラスに氷を入れて、注いだ。
「あ、ども。」
俺は礼を言い、とりあえず無警戒に飲んでしまう。
飲んでからあっと思ったが……。
う、うめー!
なんだ、葡萄のうまみだけをそのままに
違和感がなく飲めるこのジュースは!
「ふふ。主は好きな味のようじゃ。まぁ、飲みながら聞くがよい。
我は、マリート=ルギアス=カイゼル=アバートじゃ。主が見たように
魔法使いをしておる、よろしゅうにな。」
と前置きをした上で、マリートなんたらは話しだす。
てか、名前なげーよ。
「主に話しかけたのは、我の依頼を受けて欲しいからじゃ。報酬は金貨1枚。
……どうじゃ?」
え。
「ちょ、ちょっと、お嬢……じゃなくてマリートなんたらさん!?」
「マリート様でよい。」
「いや、しれっと様付け強要すんなよ!」
そんなやり取りをするが、金貨一枚って……三十万くらいだぞ!!
俺は今日はよく驚く日だと思いながらも、考える。
明らかにいでたちに似合わない喋り方から、長ったらしく偽名っぽい名前、
そして高すぎる報酬を考えれば当然だ。
「嘘ではないぞ?ほれ、依頼書じゃ。」
「いや、依頼書じゃとか言われても……俺、読めないし。」
「そうか、残念じゃな。まぁそれくらいなら教えてやろう。」
と、言ったマリートは俺に目を合わせて、ぶつぶつ呟く。
そして、この世にない音っぽい……例えばひどいジャミングを受けたような
ラジオのようなものが俺の耳に入ってきた。
「よし。では改めて見よ。」
「え?」
と、俺は改めて依頼書を見る。すると、
あれ、読める。
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依 頼 書
依頼名:月影草とコルド練炭を集めよ 依頼者名:マリート=R=K=アバート様
依頼ランク:C+じゃ 報酬:金貨1枚じゃ
依頼期限:とくにない
採取地域及びMAP
ランドール地域 月影の森らしいぞ?
ベイオル地域 コルド炭鉱らしいぞ?
オーブル冒険者ギルド認定印
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内容はこう書いてある。
てか、
「なんだよ、この偉そうな依頼書は……。何様だよ……。」
と、つっこみを入れた段階で、
「……月影草とコルド練炭ってのを収集してくればいいのか?」
「そうじゃ。我が行ってもよいが、めんどくさいからな。」
「め、めんどくさいって……。」
「ぶっちゃければ、使いもせんものを拾いに行くのは酷じゃ。」
「なら、なんで頼むんだよ!」
な、なんだこの子は……。
この女の子はとことんわがままに育ったらしい。
魔法はすごいが、そう考えるとこの子は年相応かもしれない。
……このランクはなんだろう?
「なぁ、一つ聞いていいか?この依頼ランクC+ってなんだ?」
「ああそれか。そういえば主はまだ依頼数一つだけだったな。
それはその依頼の難易度の目安になっているのじゃ。」
「難易度?」
「そうじゃ。C+じゃったら……そうじゃな、ガルゴドールと呼ばれる
モンスターを退治する程度のものじゃな。」
「なんだよそのガルゴドールって……。」
「しらん。」
「知らんのに引き合いにだすな!」
ほ、本当に疲れるこの子。
しかしいまいち、その難易度が理解できない俺は、ため息を吐く。
そんな俺に意外なことをマリートは呟く。
「絶対成長を持っておるお前ならば……たやすいはずじゃ。」
ピクン!
「な、なんでそれを!」
俺は一瞬で警戒した。
だって、そんなことは一言も話してはいない。マーガスさんたちにしか。
まさかマーガスさんが?……いや、人に警戒しろと言いながら、
この人に教えるとか意味が分からない。それが策かとも思えるが、
どうもさっきからこの破天荒なマリートを見ていると、そうではないような。
てことは家族の誰かが?
オフクロなら天然っぽくポロっといいそうだが……。
「ふふ。我はブレッシングを読めるブレッシングを持っておる……
と思ってもらえばいい。あまり疑られるのもあれじゃが、
我は敵ではないぞ?むしろ味方じゃな。」
と、さも面白そうに笑いかける。
一切、味方に見えないんだが……。
そうか、つぐみと同じ魔眼系か?
てことは渡界人なのかな、この子も。
「まぁよい。ともかく依頼じゃ。これを持ってあの窓口に行くがいい。」
「いや、だから。」
「気にするな。ほれ、行け。」
「それが人に物を頼む態度か!」
あかん、もうあかんよ。保奈美さん……。
「なぁ、やっぱり……。」
「さあ、はよ行け。」
「いやだから。」
「どうじゃ、もう一杯。」
「あ、どうも。」
――トクトクトクトク……
――グビッ!
「ぷはー!うまいなー。」
「よし、飲んだな。それでは行け。」
「どういうことだよ!」
なんだよ、このコントは!
この子はとにかく行け、はよ行けとぐいぐい葡萄ジュースを勧めてくる。
はぁ……。
「……わかったよ。」
「うむ。ではな。」
と言いながら、何か闇のような暗がりが広がったかと思うと、
マリートは消えていった。
……え!
「え、はやっ!……てか、ど、どこいったんだ!?」
俺は慌てて、立ち上がるがもうすでにどこにもいなかった。
何者なんだ、あの子は……。
その前に俺がなんだという視線に包まれている。
自重して座り、少し考えると不信感に満たされながらも、
一旦了承した手前避けることはできないだろうなと
もう一度ため息をつき、すごすごと受付の窓口へ向かった。
こうして、俺の早すぎる冒険が始まるのであった。
まさか、一週間もかかるなんて思わなかった……。
そしてあの子の正体も……。
****
――とある一室
ここは豪華な装飾に包まれた一室。
豪華なソファに身を委ね、さもおかしそうに部屋の主へ話しかけた。
「……さて、どうなるか楽しみじゃ。」
「マリート様、またもお遊びですか?」
そんな語りかけに、その部屋の主が訪ねる。
身なりは貴族らしい豪華なものだが、着飾りの中にも気品がある
その姿はまさに洗練されたものという印象を与える。
「遊び?遊びではない。我はあやつの味方じゃ。ふふ。」
「味方って……本気ですか?こういってはなんですが、
見た感じではただの少年にしか見えませんが……。」
その懐疑的な質問に、マリートはさもおかしそうに答えた。
「お主の目は悪いな。じゃから、
我のようなものを招き入れることとなるのじゃ。」
「……いえ、あなたが勝手にどうどうと入られただけでは……。」
「そうじゃったか?ふふ、まぁよいではないか。
……しかし楽しみじゃな。ふふ。」
そう言って、ギルドで作ったグラスと同じようなグラスを傾けた。
「先天の魔王に魅入られた少年……ですか。」
「ふふ。もうその名は古い、我は魔王などではなく魔法使いじゃ。」
そう言って、元・魔王にして現・魔法使いマリートは月を仰ぎ見た。
さてさてどうなることやら、あやつはどうやって我を楽しませてくれるのかと
そんなことを思いながら。
早速のお気に入りをしていただいた方、ありがとうございます。
評価をもらえるととてもためになります。
溜書きを終え、いよいよ少しずつ動いていきます。
これからどんな風に彼が成長していくか書いてて楽しみです。
誤字、その他修正(3/25)