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異世界の伊東家たち  作者: 織姫彦星
初めての冒険編
4/36

第4話「ギルド活動初日、俺は…」

 ――ピピピッピピピッ!


 頭にふと、テンドンという言葉が聞こえ急いで目覚ましを止めた。

 なんだったんだ、この反射神経……まぁいいか。

 未だぼーっとする頭を振り、早速着替えることにする。

 これから俺は鍛錬を行うからだ。


 そんな俺は、あの後のことを少しだけ思い出していた。

 二日後に神官さんたちがやってきた。

 俺の腕を治してくれた神官さんたちに礼をして、幾ばくかの寄付をした。


 そしてその日のうちに自宅へ帰り、みんながちゃぶ台に座る。

 この異世界で行われる第二回家族会議の開催である。


「まず最初にだが、父さんたち家族はこの世界に住む。

 これはお前たちももう覚悟はできただろう?」


 そう、ここまでくると信じられないなどといった思いはなりを潜め、

 これからどう生活していくかという部分になってきた。

 もうオヤジもオフクロも、そこらへんは覚悟ができているようだ。

 麻美はまだ受け入れ切れてない部分はあるが、概ね合意している様子。

 

 つぐみは、ちゃぶ台でわりとおっさん的な風貌で座り込み、

 お茶を飲む悠斗と遊びながらもきちんと自分が何をするかを

 考えているようでそれを考えればここで生きていくというのは、

 納得している様子だった。

 

 俺はもうここで生きる気まんまんだけどな。


 そういうこともあり、みな一同その言葉に頷いた。


「私は、マーガスさんの口利きにより職を見つけ働かせていただくことになった。

 明日からでもそこへ行き、お前たちを支えるつもりで働く。

 それぞれ聞いていこうか。麻美お前はどうする?」


 そういうと、麻美へみんなが視線を向ける。


「あたしもとりあえずは働こうとか思ってる。

 なんせ学校がないみたいだしこの町には。」


 そう、ここには教育機関はなかった。


 ここもそれなりの町ではあるが、教育機関があるところというのは

 ここよりもさらに大きな街になり、今現在はそこへ移住することができない

 ためだ。なら通いは?ということになるが、電車という技術もなく

 一応魔法による輸送はあるが、相場を聞くとバカ高かったため、

 当然却下しておいた。


 そんなわけだが、俺たちの年齢でも働くものは珍しくないので、

 ここでは色々な種類の職を求めることができる。


 あっちの世界のような俗に言うIT系や溶接工やそういう業種はないが、

 街の便利屋的な依頼系クエスト、住人に被害を与えるモンスター討伐や

 街道を渡る際、盗賊やモンスターに襲われても対応ができるものは護衛や

 色々な遺跡調査を行うといった冒険者系のクエストもありそれは、

 冒険者ギルドと呼ばれる部分が統括しているらしい。

 ブレッシング持ち専用の依頼系などもあるため、早々職には困らないはずだ。


 オヤジの質問は俺たち全員まで行き渡ると、


「つまり、麻美、つぐみ、アキトお前たちはそのギルドで

 働くということだな。」


「うん。」


 俺たちはオヤジにそう返す。まぁ、俺の場合は少し違うけど。

 それは家族を守る力を手に入れること、そして、

 そのための俺が考えるプランはこうだ。


 俺は、午前中はトレーニングに勤しむ。

 そして午後からでもできそうな依頼系をこなす。

 ベースはそれとして、まだ読めないここの文字を理解するように夜は

 勉強に割り当てるつもりだ。代読師、代書師といった人たちが

 ギルドにいるので困ることはないが、さすがにいつもいつも頼むのは

 申し訳ないという思いもあり自分でもできなくては

 と、そんなことを考えながらいつの間にか寝ていた気がする。


 そういうことで実質今日から行動となるが、その前に

 大事なことがあったりする。

 よし、とりあえず行動しないとな。

 俺は、そんな思いで下へ出るのと同時に、


「ちょっと武器屋行ってくるわ。」


 と声をかけ、うちを出て行った。

 最初こそ苦い顔をしていた家族たちであるが、

 兵士を護衛につけるという条件で納得してもらった。


 さすがにちょっと兵士さんに悪い気もするが、

 あの玄関前に護衛についていた兵士の偉い人が、

 何か吹き込んだのか妙に協力的に承諾したことにちょっと面食らったが。

 それならと頼んだ。下手なプライドは身を滅ぼすしな。


 そんなわけで護衛をしてくれる別の兵士さんと一緒に武器屋へ。

 中に入ると、カウンターらしきところの周りには武器、防具などが展示

 されていた。見た目は結構ボロい印象であるが、

 武器防具などを見てみると、一つ一つ綺麗に磨き上げているのか

 とても店の雰囲気に見合わない品質に見えた。


「ベーグルさん! ベーグルさん!!」


 そんな風に店をきょろきょろと見ていると、隣にいる兵士さんが

 店主を呼んでくれていた。

 俺は居住まいを正すと、出てくるのを待つ。


「おー!その声は、バースか!!待ってくれー!すぐいくぞー!!」


 で、でけぇ声。

 俺は奥から聞こえてきた声で耳鳴りを煩い、

 頭を振りながらそれを飛ばした。

 鍛冶してる人ってのは、こんなもんなのか?

 そして奥からやってきた髭がもじゃもじゃの耳長で、頭に熊っぽい?

 耳をつけたかのようないでたちのおっさんが出てきた。

 なんだ、このすごい多種族型合成人種は。


「おお!悪かったな!…ん?ルクスか!どうしたんだ!?お前がここに!」


 ち、近くなっても余計うるさかった。

 しかも地味に人を間違えてるし。

 俺は辟易しながらも、この隣の兵士さんがルクスさんというのを知り、

 紹介を待つ。


「ベーグルさん、少し声を抑えてくれ…。まぁ、いい。こちらにいるのは

 先ごろよりこちらへ渡界されたアキト殿だ。武器を探しているということで、

 ここへ連れてきた。」


「どうも、アキト・イトウです。お、お世話になります。」


 外国…外世界か?だし、これでいいよなと思いつつ

 ふさいだ耳を一時的に空けると、自己紹介をしてまた再度塞いだ。

 だって、耳塞いでも聞こえるんだもん。


「おー、悪かったな!おい!!もう耳ふさがなくていいぞ!」


 と、聞こえたので耳を空ける。


「は、はは…。」


「すまんな。彼も悪気がないんだ。」


「は、はぁ…。」


「それで?武器を探しているんだったな。どんな武器がいいんだ?」


 そして本題に入る。

 俺が考えているのは、

 とりあえず鍛錬用で木刀に似たようなものがいいと考えている。

 あくまで鍛錬用であるため、毎日振ることが前提のものだ。


「あの木剣……木で作られた剣とかってないですか?

 できればこう、これくらいのやつで…」


 と、手で木刀の大体のサイズを教える。


「そのサイズの木の剣か。

 あるにはあるが……お前さんじゃ振れないだろうな?」


 そうして奥からその剣を持ってきた。

 長さは一般の木刀サイズではあるが、幅が広い。

 1.5のペットボトルをそのまま木刀サイズに伸ばしたくらいのその木剣で、

 持たなくても十分重そうな濃い色をしたものだった。

 その木の剣を試しに持ってみた。


 お、重っ。


 せめて、鉄でできた剣よりはマシかと持ってみたが、

 それでも重かった。これ毎日振ってたら、本当にブレッシングで

 成長して重たくなるのかな?と思いもしている。


 ブレッシングの実感は、うちのつぐみ、悠斗によって実感はしているが

 自分はまだ証明されてない部分があるので、割とまだ懐疑的である。


「はっはっはっは。重いか?だろうな。それは、コンスラ材と呼ばれる

 コンスラ湿地に群生している種の木で、水気を多く含む材質の木でな。

 ワシらからすれば、加工もしやすいがいかんせん重いと

 いうのが難点なやつだ!」


「は、はぁ…」


 普通の木よりは確実に重いよな…。

 どうしようか、俺はそう考えて聞いてみた。


「これって自分で削って自分用に改造できたりとかできるんですか?」


「削るのはわけないが、素人じゃあ加工は難しいだろうな。それなら、

 俺がやってやるぞ?渡界人だろうからこれの手持ちもないだろうからな!」


 そういいながら、右手で円の形をしてくるベーグルさん。

 いい人なんだろうな、お金は取らずに加工してくれるなんて。

 それに、それは異世界共通なのか。


「ああ、心配ないぞ。お前さんにはしっかり鍛錬してもらって

 自信をつけたらここの武器を買ってもらうからな!!」


 と、そう言ってばしばしと肩を叩いてくる。

 いい人だが、ちゃっかりしてるのか。さすがに商売してる人は違う。

 少し悩んだが、これにした。


「ありがとうございます。それじゃまたきますね。」


「おう、今度はこっちに並んでる剣を買ってくれよ!」


 それに曖昧な返事をして、ベーグルさんの武器屋を後にした。

 だってそれ人殺すための武器じゃないか。

 俺が欲しいのはあくまで鍛錬用だってのに。


 そういうわけでルクスさんに礼を言って、家の前で別れ、

 兵士長さんらしい人(この人がバースさんらしい)にも礼を言って、

 早速中庭で振ってみる。


 しかし、5分ともせずに汗だくで腕の感覚がなくなってくる。


「さ、さすがに重いからきついな。これ、10kgくらいはあるんじゃないか?」


 重さがどれくらいあるのかは分からないが、持った感じが

 お米運びのときに持った感覚で、それくらいに感じる。

 それをたった5分振っただけでもうバテるとは…。

 あんときの火事場の○○力というものが欲しくなる。


「だがまぁ、ここで弱音はいちゃだめだよな!」


 ということで、昼までちょいちょい休憩をはさみつつ振っていた。

 そして、オフクロが昼をつげると俺は脇にどいて飯を待った。

 初の試みによる魔法具による焼きそばだ。冷蔵庫を空にする目的で、

 そばも一応これで使い切ったことになる。


 オヤジとオフクロがマーガスさんの話を聞きにいったとき、

 便利な魔法具を貸してもらっていた。


 魔法具というのは、それぞれ加工された水晶のようなガラスに

 その効力の魔法を込めて使う極一般的なものらしい。


 俺たちが貸してもらったものは、


 冷え冷えにさせる魔法具・フリフリと、

 なべなど加熱させる魔法具・グツグツだ。

 ちなみにグツグツは、風呂に水を入れてしばらく入れておくと、

 お湯になるため、現実世界より便利な感じだった。


 電気で動作させるものがこの世界にはないため、

 その魔法具がなかったのは残念だが、照明用の蝋燭を結構頂いたので

 大事に使わないとな。


 俺が武器屋から帰ってきたとき、妹たちは別の兵士さんを伴って、

 早速ギルドへ向かったようだ。少し心配したが、

 万全の体制でと命令されたらしいので、安心してくれと

 バースさんが言ってくれたこともあり、まかせたわけだ。


 俺も午後からはギルドへ行き、登録と同時に依頼系のクエストを受けに

 行くのでもしかしたら会うかもしれない。

 そんなことを思いながら、出来立ての焼きそばをほおばりむしゃむしゃする。

 うん、さすがはオフクロだ。めちゃうまい!


 そうして昼寝も兼ねた休憩を取った俺は、早々にギルドへ向かった。

 またルクスさんにお願いをして。


「さあ、ここが冒険者ギルドだ。」


「おおー。結構人いるんですね~。」


 案内された冒険者ギルドは、結構人がいて

 色々な人が見受けられた。鎧や兜を纏い剣を腰から下げた冒険者っぽい人、

 民族衣装のような格好をした獣人の人や、身なりのいい服の人もいた。

 2階立てのようで、ここから見るとデパートにあるファーストフードの

 店のようなテーブルが並んでいる感じで、酒場を兼ねたようなものなのかなと

 いう印象を受けた。


「2階は依頼達成における証明や手続きに時間がかかったり、

 または依頼までの待ち時間ように設置されているスペースなんだよ。

 主に冒険者の人が使うスペースだから、君は使うことはないだろう。」


 ルクスさんに聞いてみると、そうやって返されたのでなるほどと納得した。

 そして、そのまま受付まで案内してもらった。

 受付係に登録のことを話すと、ああという表情で俺のことを見て、

 少々お待ちくださいといって誰かを呼んでいた。


「い、いらっしゃいませ…。」


 そして出てきたのは、俺の二番目の妹にして良妹のほう、つぐみだった。


「って、つぐみ!…お前、ここで働くのか?」

「う、うん。ここはシフト3日で、他はギルドの依頼で

 ここから北のほうにある孤児院のお手伝いって感じで働くことになったの。」


 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、そう話すつぐみの格好は

 他のギルド職員と同じような格好で、この世界に割と馴染んできた

 と思えるその様子にほっとした。


「そうか。うん、お前が考えてのことなら問題ない!

 ところで、お前が登録してくれるのか?」

「せ、せっかくお兄さんが来たんだったら、

 妹のあなたがまずはなれるためにやってはどうかって…。」


 なるほどー。あちらでこちらをニヤニヤみてる性格悪そうなおばさんね。

 まぁ口にだす勇気はないけど、心でなら何でも言える。

 ほほう、あのばばあか。余計なことしやがって…ばーかばーか。


 と、一通り心の中で小学生を演じた俺は、じゃあ頼むとつぐみに話す。


「はい。それではこちらに名前、年齢を記入していただいて、

 その後右手を出してください。」


 少し緊張したように言うつぐみにわかったといい、名前を…


「って、俺、こっちの文字書けないぞ?」

「あ、それは私が代わりに書いておくから…。」


 代わりに書く?


「お前、いつから書けてたんだ?って……そんなに簡単に覚えれるもんなのか?」


「ううん。お父さんに教えてもらったの。お父さんも、

 仕事で扱うからって結構頑張って昨日勉強したみたい。

 それを教えてもらう感じでまずは自分たちの名前から覚えたみたいなの。

 私はお父さんとここで働いてる間に覚えていこうかなって。」


 ああ、だから俺とかの名前やら簡単なのは覚えたってことか。

 それにしては、すごい早く感じるが。

 やっぱりこれってオヤジのブレッシングなんだろうか。


「オヤジに教わったって、やっぱりあれか?ブレッシング…。」


「うん、そうみたい。お母さんもその場にいたから教わったけど、なんかね

 次から次へと、するする入っていく感じでものすごく理解しやすかったの。」


 そっかー。オヤジのブレッシングは「ティーチマスター」だ。

 知識を相手に教授する伝達力が人の何倍かに増殖した、

 みたいな感じなんだろうな。そういやマーガスさんから聞いた情報を

 オヤジから聞いたとき、たしかに頭に入りやすかったな。


 すごいセンセイ向きの力だ。

 とりあえず俺は納得し、名前、年齢を書いて右手を出した。


 そうすると、つぐみは理解不能な文字を俺が書いた文字の下に

 羽ペンでさらさら書くと、近くの本棚から本を出して、

 俺の右手の甲を下にして、上には水晶の玉をおいた。

 な、何するんだろう。


「これは契約の転写アギュメント・クリスタラと言われてて、

 水晶を通してこの本にお兄ちゃんの証を刻むことになるの。

 それが登録にもなっていて、お兄ちゃんの情報や記録なんかもこの本で

 管理することになる…ってことだよ。」


 つぐみは説明を終えると、

 近くにいる由緒ありそうなローブを着たギルド職員の人を呼び、

 その人が水晶の上に手をかざして、もごもご呪文のようなものを詠唱した。


 すると、水晶が光ってそこから本へと光が移動したかと思うと、

 本がうっすらと光り、次の瞬間コンパクトな手帳サイズの本になった。


 す、すげー、なんだこれが魔法か?


 そんな風に俺が驚いていると、つぐみがその職員に礼を言って、

 慎重に水晶を乗っている右手からどけて、

 下にある手帳サイズの本を持って俺に手渡してきた。


「はい、登録は完了。今後は、依頼を受けるときは、

 あそこの依頼系掲示板に書かれた紙をもって、ここの案内で手帳と

 一緒に持ってきて依頼を受けてね。」


 指を差した先は、先ほど入ってきたときに見た鎧とかを着てる人たちが

 集まっているところとは別に、一般人ぽい人が集まってる場所だった。

 そういえば、なにやら掲示板らしきものが見えるな。


「そっか、了解。」


「うん。あとは依頼を受理するときに、またさっきのように依頼を

 お兄ちゃんの手帳に転写するから、ここへ掲示板に張られた紙を剥がして

 手帳と一緒に提出してね。

 依頼が完了したら依頼者に手を触れてもらえばそれが証明になるの。

 私は今日からだからまだどう色が変わるのか分からないけど、

 とにかく依頼者の手が触れると色が変わって、

 それをこちらの受付で確認すれば、依頼料を支払うって流れだよ。」


「なるほど。」


 そうやって分かりやすく丁寧に説明してくれるつぐみを見ると、

 なんというかここで頑張るんだなという意気込みが伝わるかのようだった。

 一通りのことを聞いて、納得すると俺は仕事の邪魔にならないように

 頑張れよと一声かけて受付から離れた。

 とりあえずは、あそこの掲示板に行ってみよう。


 そして俺は依頼系の掲示板に行く。

 だが、まだ文字を読めないため代読師に銅貨3枚を払い、一通り読んでもらう。


「川魚漁の手伝いに、建築資材の搬入、商家に届く荷物の搬入…か。」


 力仕事中心に読んでもらうと、その3つが該当した。

 報酬はそれぞれ銀貨二枚、四枚、三枚か。

 えと、六千円、一万二千円、九千円か。

 よしっ、とにかく鍛錬だってことで建築資材の搬入を選び、紙を剥がした。

 報酬も一番高いし!

 魔法がかかってるかのようで、剥がすとき特に力もなく剥がれた。

 そうしてまた案内のところに持っていく。

 つぐみは別のお客に対応してるようで、俺はその様子に笑顔を送り

 心で頑張れとエールを送って別の案内窓口に向かう。


「どうでした、妹さんの働きは?」


 窓口に顔を向けると、そこにはさっきつぐみに代わって、

 裏でにこにことこちらを見ていた四十代くらいのおばさんだった。


「ま、まぁ。あいつは頭がいいから、すぐに慣れると思いますよ。」


 そうして俺はまた緊張気味のつぐみのほうを見る。

 さっきは結構スムーズだったのに、なんかぎこちないなぁ、なんでだろ?


「おやまぁ、優しいお兄ちゃんの顔しちゃってぇ~♪んふふ。」


 なんだこの馴れ馴れしいおばさんは。

 心でため息をつきながらも、


「…すいませんが、依頼お願いしていいですか?」


「おや、これはごめんなさい。

 それでは、先ほどつぐみちゃんからも説明された通り

 依頼の紙と手帳を提示してください。」


 言われたとおり俺は、職員に二つを提示した。

 台のようなものに手帳、依頼の紙、水晶の順に置くと何かを呟き、

 光ったと思ったらさっきのように光が手帳へ移る。


「はい、これで依頼は受理されました。

 依頼者の場所は手帳に書いてあると思うので、

 参考にして依頼に従事してください。

 終わったら必ず、手帳の依頼部分に触れてもらってくださいね。」


 礼をいい、早々にその場を立ち去った。

 まだ何か言いたいことがあるかのような顔してたし。

 不満顔のおばさんから視線をそらせ、最後につぐみのほうを見ると

 俺に気づいたのか、手を振ってきた。俺も軽く手を振り

 入り口に待機していたルクスさんに声をかけて、ギルドを後にした。


 さて、いよいよ初めての依頼か。

 手帳を開くと、なんだか分からない文字が並んでいるため

 ルクスさんに教えてもらう。

 依頼名、依頼者、報酬と書かれて下側に依頼者がいるであろう簡易的な地図が

 ありそこへ赤い印がついていた。ようするにここへいけばいいんだな。

 よしと気合を入れて、その場所へ向かった。


 依頼は牧場の建築だろうか、馬車で運ばれた柵のような木材を

 指定された場所へ搬入するといった仕事だった。

 俺と同じ依頼の人だろうか、二、三人体格のいい人がいた。

 木材は建築用に切り揃えられており運びやすかったが、

 相当に重く体に堪えた。


「ぐっ、周りの人はすごい気合で持ち上げて、

 俺よりも二倍三倍と持ってるのに。」


 あきらかに俺は同じ依頼に入ってる人よりも、少ない数でかなり体に

 堪える感じだった。これは元々の筋力や体力もそうだけど、

 午前中に鍛錬した筋肉痛が今頃きてることも影響してることもある。

 他の作業者に比べて相当足手まといになっていた。


 依頼者の牧場の人も、なんか白い目で見てるし。


 はぁ……。


 ……失敗だったなこれは。


 途中休憩をはさみ、一通り終わって今日は終了ということになる。


 もう体がガタガタだ…。


 終わった段階で、依頼者もやや不満そうだったが、きちんと手帳に手を

 触れてもらった。


 帰りの道中、俺はルクスさんにまぁ初めてだったわけだしとか慰められて、

 ギルドで依頼達成の報告後、帰宅した。


「た、ただいまー……」


 筋肉痛や体、足などが痛いこともあり変な姿勢で帰ってきた俺を見て、

 家族は唖然としていた。

 つぐみや麻美も帰ってきていて、オヤジやオフクロに仕事のことを

 話していたらしい。…キラキラした目で報告をする二人を負い目に、


「あら、アキちゃん。どうしたの?そんな変な姿勢をして。」

「ギ、ギルドの仕事でちょっと…。悪い、

 疲れて食欲ないから今日はもう寝る…。」


 俺は、情けない自分を隠すかのように自分の部屋へ戻った。

 布団を被ると、はぁ~…と長いため息を吐いた。

 そして考える。今日のこと。


 今日は明らかに失敗だった。あの鍛錬した後にあんだけの力仕事は

 しちゃだめだ。そんな分かりやすいことに気づけなかった自分にヘコむが

 ヘコんでたって仕方ないよな。あくびが出て、相当疲れていると感じた俺は、

 早々に眠りについた。


 明日は絶対今日のようなことがないようにと思いながら。


 因みにトイレで起きて、ドアを開けたときオフクロが握ったらしい

 ラップ入りのおにぎりを見たときはちょっと泣いてしまったことは内緒である。

誤字、字下げによる修正(3/25)

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