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異世界の伊東家たち  作者: 織姫彦星
初めての冒険編
1/36

第1話「それはいきなりすぎた。」

 ―ピピピッピピピッ!


 カチっと、寝ぼけ眼で目覚ましを止める。

 恐ろしく眠いが、飯に遅れるとまた長女のやかましいのがくると強引に目を覚ます。


「ふぁぁぁ~~~~」


 一度、大きなあくびをしながら現在の時間を見る。


「七時半か。学校遠くなきゃ、あと三十分は固いのに……」


 そんなことを考えて、ありえないとベッドから身を起こす。

 我が家は閑静な住宅街の一角にある一戸建て。

 四十年ローンなのだが、普通に学校などが遠い。


 まぁ、近所にはお店が色々とそろっていたり、駅が近かったりなど立地的にはありなのだろうが、いまだ通勤を経験したことのない人間にとって、学校1時間というのは辛い。


 これもま、いつかは俺も働くようになってオヤジみたいに当たり前に

 なるんだろうなと思っている。


 ひとまず、着替えながらふとベッドから落ちている

 友人から借りたエロ本を見る。


 そういや返すの今日だったと、急いでカバンにつめて準備完了。


 一階へ降りていく。


 テレビの音がする中、弟の悠斗のだあうだあうという

 かわいらしい声が聞こえる。

 味噌汁の匂いを感じ、おはよーと食卓へ腰を下ろす。


「おはよう。ずいぶん眠そうじゃないか。」


 目の前に座り俺のオヤジ・義次が声をかけてくる。

 メガネがキラリと光り、まさに普通のサラリーマンという風貌

 のオヤジは新聞を広げてお茶を飲んでいる。


「ああ、ちょっと勉強にせいをだしてしまってな」


 といいながらも、あくびをかみ殺す。

 そんなに勉強をしてるのに、いつも平均点ぎりぎりなのはなぜかという

 問いに答えることなく、ぼーっとテレビを見る。


「アキちゃん、おはよう~。」


 そこへ、朝食を運んできた母・保奈美が姿を現す。

 我が母ながら癒し系といえる微笑に、昔懐かしい割烹着を着て

 挨拶してきたオフクロへおはようと返し、

 オヤジの読む新聞の芸能欄を見て興味を持ち

 後で貸してくれとオヤジに断りながら、またテレビをボーっと見る。


 たんたんたんという音とともに、階段を下りる音が響き

 食卓へ顔をだしたのは、長女で俺の妹の麻美。


「お父さん、お母さん、おはー。」

 そういいながら、俺の後ろを通るとき邪魔だったのか

 バシっと背中を蹴っていく。


「いてっ、おい、麻美!」


 割と強めだったため、目は一発で覚めたがイラっとしたので

 麻美を怒ろうとするが


「うっさい。んな邪魔なところに座ってんのが悪いんじゃないの?」


 と、言いたいことを言わせてもくれないまま返してきた。


 いかにもおしゃれ系な髪をサイドテールでまとめ、

 発育の芳しくない胸元を第2ボタンまで開いた夏服の制服に身を包んだ

 愚妹はそのままスタンド式の鏡をちゃぶ台へ置くと、化粧を始める。


 身長が俺の一七〇センチよりも低い、一四〇センチほどしかない。

 そのため、見た目小学生が化粧をする不気味な光景に、

 兄の欲目抜きにすっぴんのほうがいいと思うのだが、

 何年か前からこいつはこうやって化粧をしている。

 さっき通ったときも、なにやらいい香りがしたが香水か。

 特に気にせず、またテレビを見る。


 すたすたと音がして、次に食卓へ入ってきたのは

 次女のつぐみとそのつぐみに抱かれている次男の悠斗だった。

 つぐみの可愛さには、この伊東家全員が癒されるくらいのものを感じる。

 ストレートの綺麗な黒髪に、ヘアーバンドをして

 着こなしもぴしっとした制服に身を包んだその姿は、

 本当に癒される。


「お父さん、お母さん、お姉ちゃん、お兄ちゃんおはよー。」


 そして声も最高だ。

 本人はアニメ声っぽいのが悩みと言ってはいるが……。


 そんな妹のつぐみはその優しげな声を俺たちに届けてきた。

 その文言のあとに、にこっとするエンジェルスマイルは俺が好きな仕草

 ベストワンであるが、変態ではないので自重することにした。


 おはようと声を家族から返してもらい、俺の隣に座って

 悠斗にミルクを上げてる姿は、まさしく理想の若妻であろうと

 いう感じであった。長女のように俺を邪険にしないし。

 邪険にするどころか、尊敬されてるって感じ?えへへー。


「みんな、揃ったみたいだな。母さん?」


 オヤジはオフクロにそう声をかけると、はーいと返事をして

 いつもの定位置についた。

 そして揃ったところで、いただきまーすと声をそろえて食事を始める。


 これはずっと昔から行われている伊東家の家訓である。


 "どれほど忙しくあっても食事はみなで取ろう。"


 誰一人欠けるどころか、2人の家族が増えても

 永遠に変わらないであろうこの光景は、

 俺のベスト1で理想の家族のあり方だ。

 自分が家族を持ったときに実現したいと思っている。


 そんな光景を作っているオヤジに俺は内緒で憧れを持っていた。


 テレビを見ながら、朝食を食べていき、

 時々悠斗の頬をつつきながら、そのまま食事を終える。

 その瞬間だった。


 ――ドーンッ!


 本当に突然だった。

 そんな音とともに、家が一瞬すごく揺れたのは。


「アキト!」

 その声に、隣にいたつぐみや悠斗を咄嗟に庇い、

 目を前に向けると、麻美とお袋を同じくかばっていたオヤジが見えた。

 揺れといっても一瞬だったため、食卓に並んである本棚などは

 跳ねはしたが、崩れることはなかった。


「こわー。今の地震??」


 麻美がオヤジに礼を言いながら離れるとそんなことを呟いた。


 何事もなくて良かったとオヤジが、

 本当に一瞬だったわねぇ~とおふくろが、

 お兄ちゃんありがとうといいながら悠斗を気遣うつぐみ、

 悠斗はきょとんとしていた。


 俺は俺で、今の地震情報はテレビにでるかな?と

 テレビのほうを見るが停電になったのかテレビがついていなかった。


 麻美が信じらんなーいとか抜かしていたが、無視をして

 腕時計を見てそろそろ出る時間と判断し、

 かばんを持って外に出るため玄関へ。

 停電してるといってもそこまで長時間じゃないだろうと

 判断したほかの通学組も、行ってきますとこっちへ来た。


「ちょ、まだ靴履いてるとか、ホント……ぐず!」


 と、早速絡んでくる麻美をつぐみが制し、

 無視しながら玄関を開けていってきますといった俺はきょとんとした。

 そのまま、玄関に戻りドアを閉める。


「? …どうしたの?」


 つぐみは忘れ物でもしたのかと思ったらしい問いかけをしてくる。

 どうしたのと聞きたいのはこっちではあるが。

 何せさっきから俺や麻美を見て、目を擦っている。

 ものもらいか何かか?


「ねぇ早く出てよ。邪魔なんだけど」


 麻美はイライラしたかのように、先を促すことをしてくるので

 俺は今見たものが信じられないということも相まって

 その懸念を忘れてしまった。


 気を取り直した俺はそんな二人の顔を見て、

 うんっと頷くとまた玄関のドアを開けた。


 そこには、向かいの木村さん家も、お隣の山田さん家も、

 はす向かいの山口さんの家もなかった。


 代わりにあったのは、見たことも聞いたこともない世界だった。


 なんといえばいいんだろう。

 どういう表現をすればいいんだろうというのは正直な感想だった。

 何せ、ファンタジーで描かれるかのような建物や、商店街だろうか

 露天商のようなものが並ぶ…テレビで見たことあるタイという国の

 それに似ているな、そんなような市場が見えたりする。


 空には見慣れないものが飛来しているし、その衝撃といったらもう……。

 行き交う人の群れだろうか、

 門の向こうは、見たことも聞いたこともない人たちが闊歩している。

 耳の長い女性、身長が俺の腰くらいまでしかない小さいおじさん、

 猫がそのまま人間になったような容姿の人?

 体長一〇センチくらいの羽の生えた妖精っぽいのまでいる。


 な、なんだここは。


 そう思ってると、強引に俺を押しのけて、

 玄関を出た麻美も同じくぽかーんとしていた。

 続いて、つぐみも出たが同様の反応だった。

 当たり前だ、誰だってこんな風景見たら、

 俺たちのような反応になるだろう。

 それほど、違和感ありまくりの人たちが外を闊歩しているのだ。

 ふとその中の人と目が合う。

 ぺこっと礼をし、ちらっと我が家を見る。

 そして、


「あ、あれ?ここ、誰かこんな家建てたっけ?」


 と、兎を人間サイズにして二足歩行する兎が

 周りに問いかけていた。

 周りにいた多種多様な人間というか、

 狐の獣人っぽい人間があったっけ?

 猫の獣人っぽい人間がなかったはずだけど、

 いやでも…などと、

 色々ぼそぼそと我が家を見ては話し出す。


「ちょ、おにぃっ!なんなの、あれ!」

「か、可愛い……。」


 ぼそっと、二人が話しかけてくる。

 それはいいが、つぐみ……

 お前の唯一の欠点、"可愛さ激萌え"はどうにからんか。

 おそらく妖精のようなものを見ての感想だろうが。


 俺はそんなことを思いながらも、

 そんななのが頭を冷やす一役を買ったのか、

 冷静になって考える。

 これは、俗に言う……ファンタジーというものではないか。

 そう、今まで散々そういう系のゲームをしていた。

 はっ、と思いながらあることを実行する。


「いでよ!炎ぉっ!」


 そういうと、俺は目の前に炎を出すイメージをして手を突き出す。


「おにぃがいてぇよ。」


 あれ、おかしい……でない……。


「我は命ず、冷たき息吹ぃっ!」


 そういって、今度は吹雪が巻き起こるイメージをして手を突き出す。


「おにぃがさぶいよ。」


 ……。


 麻美のやつが、俺の試していることにいちいち

 そのネタに類するつっこみをしてくる。

 ヘッドロックでもかましたいが、それは抑えてまた考える。

 冷静になろう、冷静に。


「失礼する!」


 そこへすごい威厳のありそうな一団がやってきた。

 兵士のように、鋼でできていると思われる鎧を着て、

 右手には槍だろうかそんなものを持っている。

 明らかに解答が出たかに見えた……。


 ここは完全な別世界だと。


「お前たち、玄関で固まって何を……っ!?」


 あ、出勤時間であろうオヤジまで出てきた。

 だがこの状況が理解できないのだろう、

 言いかけた本人が固まっていた。

 そりゃそうだろ、父上。

 よくわかるぜ。俺もさっきまで同じだったからなっ!


 きらりーんと光らない歯を光らせ、

 オヤジの肩を叩いた。

 だが、今はそれどころじゃなさそうだが。


「先ほどまでなかった建物……うむ、お前たちは渡界者だな?」


 トカイシャ?

 ああ、そういうことか。


「よくわかったな。何しろ俺はシティーボーイで

 昔はブイブイ言わせてたんだ。駅を通るときはICカードでピッ

 自販機もコンビニもシャリーンだぜっ!ハッハー」


 また、きらりーんとその騎士っぽい格好をした

 おっさんに親指を立てて言い放った。


「それ、都会違いじゃ……。」


 相変わらず目を擦るつぐみに冷静に突っ込まれた俺は、

 少し頬を染めてすごすごと引き下がった。


「……ふむ。渡界して混乱しているようだな。

 それも最もです。そこで説明をさせてもらうため、

 一度、領主の下までご足労願いたい。」


 相手側も俺のことをいなすように、冷静に対処した。

 てか一蹴された……。

 オヤジはしばらく固まっていたが、現状が把握できたのか

 すぐに母を呼びに戻った。

 悠斗を抱えたオフクロもオヤジと同じように

 固まったのはいうまでもない。


 そんな俺たちは、領主がいるという屋敷まで連行されることとなった。

 途中途中、周りを見るが見たこともない建物や見たこともない人。

 それに獣?などに目を奪われた。

 というか、うちの家族全員がそうなのだろう

 移動中の会話は一切なく、領主の屋敷まで移動していった。


 屋敷に着くと、見張りに何事かを話した騎士っぽいおっさんは、

 俺たちにこちらへといい、領主のいらっしゃる部屋まで案内をされた。

 領主の屋敷内はそりゃもう、美少女ゲームのお嬢様キャラが

 住んでそうなそんなお屋敷だった。

 

 移動すること五分、大きな部屋らしきドアを開けると

 なにやら威厳に満ち溢れた容姿をしたおっさんが現れた。

 こちらをチラッと見ると、温和な笑みを浮かべ俺たち全員を席へ促す。

 温和なおっさんは目の前に座ると、飲み物を提示こちらへ向き直った。


「はじめまして、みなさん。私は、マーガス=ウルバインド

 若輩ながらもここの領主を拝命しているものだ。」


 おっさんは、スマートに自己紹介を行った。

 オヤジは企業人だからなのか、慌てて名刺を差し出し自己紹介をする。

 出された名刺を見て、疑問そうなマーガスさんは頭に???を

 浮かべつつも、嫌味のない顔で握手をする。


「渡界者ははじめ、あなたがたのような表情を

 浮かべこちらに来られる。だから気にせずにリラックスしてくれればいい。」


 緊張してるとでも思われたのか、全員を見回しながら言ってくる。

 ふむ、こういう大人も悪くない。


 ここは俺の平凡人生メモの一ページに添えておこう。


 割と、ゲーム脳でファンタジー妄想の強い俺は、

 家族たちに比べ冷静に脳内会議と呼ばれる行いをしていた。

 先ほどまでみた光景や人のことはそのように処理をすれば、

 割かし楽であるため俺自身もそのように判断をしたのだ。

 そうでなければ、現実にありえない今の状況が説明できないから。


 だが、ここにいる俺以外の家族は、

 みんなリアリストであるため、そのように言われても

 ぽかーんとするだけである。先ほどから言っているトカイシャ?とか

 いうのにも全然反応がない。

 いち早く、父が冷静に問いかける。


「先ほどからトカイシャとおっしゃっていますが、

 いまいち理解が……。」


 と、完全に商談用らしき口調でオヤジは説明を求めている。


「失礼。渡界者というのは、あなた方のように"別の世界"から

 いらっしゃった……言わば異世界からの訪問者のことを指すことになる。

 実際に見て不安を感じているように、ここはあなた方がこれまで

 いらっしゃった世界とは 異なるという理解で構わない。」


 マーガスさんはそのように冷静に説明してくれた。


 他にもここに来た理由についても。まとめると...


 ここの町にいるのは、いずれも渡界者と

 呼ばれるものたちの暮らす町・オーブル。

 ここは人間界なれど、同じ人間界でも別の人間界からも

 人が来る可能性があるということ。


 他の世界というのは、我々とは別の進化を遂げた世界。

 例えば俺たちが見た、耳の長い人種が生息している世界や、

 身長が俺の腰までしかないちっちゃい人種が生息する世界。


 他にも獣人といった人と獣が合わさった世界など、本当に多数あるとのこと。

 だがなぜそれらがこの世界へ来るのか?

 その理由はあることがきっかけで、渡界し難を逃れるということ。

 俺たちの場合は、どうやらその難を逃れることというものらしかった。

 渡海人が訪れるのは夢に出てくる天啓により、その地のものに知らされる。


 家ごとというのは、非常に珍しいことだったため非常に分かりやすかったと

 笑顔でマーガスさんは話してくれた。

 でも、あることってなんだろう。


「おそらくですが、あなた方が住んでる世界で

 何かが起こったと考えられるのが妥当でしょう。

 そうでなければ神による意思で渡界がなされると思えませんので。」


「地球で一体何があったんだろ?

 ……って、つぐみさっきから目擦ってるけどどうしたの?」


 そういえば、先ほどからというか……この世界?に、

 きてからというものつぐみは俺たちを見ながらも

 目を擦ったり、ここにつれてきた兵士を見ては目を擦ったりなど

 している。


「そ、それが……なんでか、人を見ると名前とかが視界に入って……」


 今も見えるのだろうか、つぐみは俺を見たり、麻美を見たりして

 不安そうな表情で答えた。


「名前とか色々って?」


 そう聞く俺に、マーガスが断言するかのように答えた。


「おそらくは、"授かりしもの(ブレッシング)"でしょうな。

 渡界者に神から授けられる贈り物と呼ばれるものです。」


 その"授かりしもの(ブレッシング)"と呼ばれるものについても説明を受けた。


授かりしもの(ブレッシング)とは、渡界者が渡界して早々に

 困らないようにという意味合いで贈られたものと伝えられているものだ。

 かといって慣れたら返すかというとそうでもないようでね。

 …つぐみ殿と言ったか、あなたのブレッシングはおそらく魔眼系と呼ばれる

 普通の者には見えない情報などが見えるといった系統のものでしょう。」


 授かりしもの(ブレッシング)かー。ますます、ゲーム脳には刺激的な言葉だな。

 たしか英和辞書だと祝福やら贈り物やらそんなのをテスト勉強中に見た覚えが

 あるような……それと同じだと思えばいいんだろうか。


「なぁ、つぐみ。俺は?俺はどう見えてるんだ?」


 そういうと、近すぎるくらいの位置まで顔を寄せる。

 慌てて距離をとり真っ赤になったつぐみは俺を見て――


「お兄ちゃんの名前があって、身長とかかな、そういうのが見える。

 それからこれかな? 『ブレッシング 絶対成長(グロウアップ)』って

 ……書かれてるんだけど。」


 その答えに、領主はほうっと俺を見てつぶやく。


 なんだ?俺の身長とか体重がそんなに意外か?


絶対成長(グロウアップ)かー…。なんだろうなそれ?」


 言葉尻を見ると、なんかのゲームでは経験値取得何倍とかいうものだった

 アイテムがそんな名前だったはずだが。

「おそらく成長促進に類するものだね。珍しい種類のブレッシングのはずだ。」

 と、領主のマーガスさんが説明してくれた。

 もしかしてレアスキルか何かか?というゲーム脳が働くが、

 今はそれどころではなく領主の懸念とされる部分を聞く。


「ただ、この世界には戦争というものや争いがあってね。

 おそらくそこで、君のように成長促進系のブレッシングを持つ人間は

 とても有用となる。鍛錬を積めば積んだだけ強くなるそれは、

 戦争に限らずあらゆることにおいて成長すると過程すれば、

 知識、技能、身体能力と多岐に渡るだろうからね。」


 つまりはあまりに成長することで、それに目をつけられると

 それぞれの国から狙われるようになるっていうことか?

 べ、便利だと思ったけどそういうこと考えれば割と不幸だよな。


「君のブレッシングに関しては、黙っておいたほうがいいかもしれない。

 私のように野心もなくただ平穏を望むものであればその限りではないが、

 中には君を利用しようとするものもいるはずだからね、そう言ったものから

 注目をされないようにしたほうがいい。」


 領主のマーガスさんはそういってくれた。

 そしてこうとも。


「もし君に野心があり、この世界で名を誇りたければ、

 大いに活躍することは間違いはない。…どうかね?」


 領主のマーガスさんは探るような目で俺を見つめてくる。


「あー、そんな野心はないですよ。

 俺はオヤジのように普通の平凡な家族に囲まれるようなそんな日常を望んでるんで…。」


 鼻の頭を掻きながら、即答するかのように答えた。


「君はそういうタイプか。まぁ、成長した後にもしかしたら考えが変わるかもしれない。

 その時に君がどう選択するかはおそらく君自身が決めることとなるが後悔はせぬように。

 その時まではどうか、自分のブレッシングを明かさぬようにしたほうがいいよ。」


 温和な表情で俺に語りかけてくれた。

 このおっさん、いやおじ様マジかっこいい!

 俺は早くもこのおじ様に心を奪われる予感をするのだった。


 その過程で、つぐみのブレッシングにより

 オヤジやオフクロをはじめとして麻美と悠斗のブレッシングも判明する。


 オヤジは、多元の教授(ティーチマスター)

 

 オフクロは、無償の母性(マザースイート)

 

 麻美は、類さない感性(セブンセンス)

 

 悠斗にまであり、それは多彩吸収(マルチドレイン)と呼ばれるものだった。

 

 つぐみは先ほどのように、俺らのそういう情報を読み取る魔眼系とされた。

 悠斗の多彩吸収(マルチドレイン)ってなんかすごそうなんだけど…。


「悠斗くんの多彩吸収(マルチドレイン)もとても希少なものであるから、

 君のブレッシングと同様に他人には明かさないほうがいいよ。」


 とだけ、言われた。

 その後はこの国に住むに辺りルールなどが説明された。


 オヤジはそれらを知るために手に持っていたカバンから、

 それらを聞き取るために逐一メモを取っていった。


 ブレッシングが多元なる教授(ティーチマスター)であるため、何かは知らないが

 "ティーチ=教える"と連想できることから、

 俺たちに教えることに意味があると考えたらしい。


 分からんのは、オフクロのブレッシング。

 なんだろう、無償の母性(マザースイート)


 麻美の類さない感性(セブンセンス)というのは、

 なんとなくわかりやすいかも。

 センスは感性、それが7つあるということは

 7つの感性がどうとかってことだろうか。


 悠斗の多彩吸収(マルチドレイン)って、何か吸収でもするんだろうか……。

 それは怖いな。なんか鉄を吸収したらロボットになって、僕…鉄腕○○ム!とか。

 …自分で言ってて恥ずかしい。

 それをごまかすかのように、俺はそれぞれのブレッシングについて色々自己解釈をする。


 その間にも、主にオヤジ相手に色々とマーガスさんが説明する。


 通貨のこと。お金は大事だ。

 なんでも、ここの世界には独自の通貨があり、

 銅貨一枚が三十円ほどの価値があるようで、

 銅貨百枚が銀貨一枚、銀貨百枚が金貨一枚、

 滅多にお目にかかれない貨幣として、金貨百枚で白金貨一枚となる。

 ちなみになぜ三十円くらいというのが分かったかというと、

 つぐみのブレッシングによるものだ。

 ……便利すぎるな、つぐみ。

 白金貨は主に国家間や商人間などで取引される通貨らしく、

 一般人などは滅多にお目にかかれない。


 現在の我が家がある土地についての税収。

 渡界人にしては珍しく土地ごとこちらにきたため、

 まだ対応は国と相談するとのこと。税などについても

 おって税官を送るとのことだ。


「マーガスさん、そもそもだが、我々は元の世界に帰ることは?」


 オヤジは前提として大事な部分を聞く。

 それは予想できたとしたマーガスさんの顔だったが、すぐに苦い顔をすると、


「申し訳ないが、それは無理だ。

 どういう理由でここへ連れられたかは分からないが、

 ここへ招かれるということは、そもそも住んでいたところで

 何かしらの出来事により住むことができなくなったことによる、

 措置および救済という傾向にある。ということは、おそらく……」


 そういいながらも、申し訳ない顔をするマーガスさん。


「おそらくというのは、地球がなくなったと……そのように捉えろと?」


 落ち着いているように問うオヤジであったが、

 その話を聞いてオヤジだけでなく、オフクロも、麻美も、つぐみも、

 驚愕の顔を浮かべる。もちろん俺もだ。

 地球がなくなるとは思ってなかった。

 何か、時空のゆがみが~とか、突発的な偶然が折り重なった不確定要素とか

 そういう感覚でいた。

 まさか地球自体が……。


「その"チキュウ"というのがあなた方の住まわれたのかは、

 分かりかねるが、そう受け取っても差し支えないだろう。」


 とどめとも思える言葉を申し訳なさそうにいう、

 マーガスさんを攻めるわけではないが、

 どうしようもないその空気は簡単に払拭できない。

 そんな空気を察したのか、マーガスさんは


「……ここでこれ以上説明をしても、進展はないだろう。

 まずはあなた方がこの世界に住むということを受け入れねばね…。

 ひとまずは一度ゆっくり考えるといい。

 あなたがたの家に護衛をつけるので、気軽に面会を申し出るといい。

 時間はいくらでもあるからね。」


 と、オヤジのほうへゆっくりとした答えを返した。


 その後、俺たちは兵士の案内で自宅へ帰還した。

 帰宅途中おのおの重苦しい空気を発していたのは理解できた。

 友達、同僚、仲間などがもうすでにこの世にいない

 そうとらえることができるのだから。


 そして、ちゃぶ台を囲んで我が伊東家の異例とも言える

 異世界第一回・家族会議が開催された。


「まずは……そうだな。

 マーガスさんのおっしゃったことに信憑性があるかだ。」


 オヤジはそう切り出す。それはまぁ当然だ。


「とてもしっかりとした方がおっしゃったのだから、信じたいとは思うけど~…」


 オフクロもか。


 まぁ、信じられないって点でいえば、誰もがそうだろうな。

 まだ俺なんかはマシなほうだろう。

 ネトゲーやらオフゲーなんかでも、作り物って点でも

 そういった世界に触れているわけだし。

 それに比べて、リアリストが当然であるオヤジやオフクロなんかは

 特に戸惑い、信じられない部分が多いのは確かだ。


 そういう意味で、俺はオヤジに断りを入れて話しだした。


「俺は、ゲームなんかでこういうファンタジーものなんかしてるから

 まだ受け入れられるけど、オヤジやオフクロ、それに麻美やつぐみらなんかは

 そういうゲームすらしてないわけだから信じられないのは無理ないと思う。

 それでも、寝てみて起きたら夢でしたって感じでとりあえずは受け入れて

 行動しなきゃって俺は思う。」


 そう淡々と自分なりに考えたことをオヤジたちに伝えた。


「アキト、お前のいうことは最もだな。だがしかし、どう受け捉えればいいか

 その受け皿ができてない俺たちからするとな……」


 オヤジが言うのも最もだ。


「あたしなんかは、あの魔法使いの映画?……なんかのような感じで受け取ってるかも。

 おにぃみたいに変態的なものはではないくらいには……さ」


「まるで映画って点では私も似たようなものだよ。

 それでも、まるで信じられないけど……」


 それぞれ思ったことを述べていく。

 みんな理解はしてるらしい。

 映画や夢のような現在でとても信じられないけど、

 それでも受け入れなければならないという現実。

 俺はそれを証明するかのように、

 先ほど地震のようなことが起こってからのことを並べていくことにする。

 俺は腕を組んでこう切り出していった。


「まず、異変があったのは地震みたいな振動。それから、停電。

 そしてまもなく俺たちが外に出ようと玄関に出たら、

 もうそこは異世界だったと……ここまではいいな?」


 家族はみんな頷く。


「で、先ほどここら辺一体を治めてるらしき領主に話しを聞いた。俺たちは渡界人で、俺たちの住む世界から渡界してこちらの世界に連れてこられたと。」


 またも頷く家族。だんだん状況が咀嚼されていったかのようになっていく。


「それらを説明していく中で、俺たちはまだ現実を受け入れてないと判断したマーガスさんは考える時間をくれた。……あの表情と態度、それから騙してどうにかするならあの時点でもうすでにどうにかされても不思議じゃないことを考えれば、誠実なあの人の態度は…信じてもいいと思う。」


 そして、腕を解くと家族全員に問いかける。


「みんな頷いてるってことはそこまでは理解できてるところ。問題は、それを受け入れてさあこれからどうするってところだ。さっき屋敷まで歩いてて分かってると思うけど、電車とかお隣さんお向かいさんの家はそこになくて、まるでハロウィンみたいな仮装行列っぽい人種の人がそこらへんを歩いている。見たこともない建物や見たこともない建造物なんかも色々あったわけだ。そこで俺たちはこれからどう生活していくってことになるよな?」


 この段階にきて、今後のことをそれぞれが考えているのだろう。

 俺の話を聞きながらもそんな顔つきになっていく。

 もちろん俺だってそうだ。この分なら、学校なんてものはないだろうし、

 そうなると俺はただの学生から、ただの人間になることになる。


「電車がなく、それでいてたぶん会社がないことになるとすると、

 俺はここで職を得ることとなるだろうな。」


 俺を見ながら、オヤジは自分の考えを述べる。

 そうだ、そういうことになる。

 オヤジの年齢で現実では厳しいことは理解しているのだろう

 今までなかったような表情で重く考え込んでいる。


「お、おかあさんも働きに出るべきかしら?」


 オフクロもオフクロで家事などはあるだろうが、

 現状のオヤジのことを考えるとそう考えるのが妥当といえる。


「てことは……あたしたちも仕事になるかな?」


「そう……なるね……」


 妹二人も職を得るか。

 そもそも、学業はどうなんだろう。そこらへんは聞いてみたいとだが、

 もしなかった場合は、一家全員で就職活動となるな。悠斗以外は…


「いや、オフクロ働きに出たら悠斗が……」


 俺のそのつっこみにオフクロは、あっと声をだす。

 つまりは、オヤジと俺と妹二人の4人か。

 でもまぁ、物価がどうかは知らないけど

 これだけ働き手がいたら労働力としては困ることがないかもしれん。


 オヤジの考えでは、俺達は教育機関があるならばそれでどうにかしたいと

 考えているようだったけど。


「兵士の人って外で護衛してくれるんだよな。

 とりあえず結論らしいことはでたから、アポとっとかないと……オヤジ。」


 俺がそう言うと、先ほどとは違いどんどん話が進んでいく。

 これってゲーム脳を持つ自分だから進められた会議だけど、

 誰も彼もが受け入れられなかった場合、最悪になるな。

 そう思ったところで、オフクロが一つつっこみを入れる。


「ねぇ?電気が点かないけど、洗濯とかお風呂とかどうなるのかしらね?」


 ……。


 あ!


「そういや……電気は停電してたな。

 今は昼間だし、まだいいけど夜とかどうするんだ?」


 夜というと灯りだ。だが、それだけではない。

 調理などもある。ゲームとかはまぁ仕方ないとしてもだ。


「おばあちゃんの仏壇の蝋燭を使うしかないだろう……瀬に腹は変えられんな」


 そういってオヤジは、仏壇の間にある部屋から蝋燭を持ってくる。

 数は細いのが50本セットで、今は21本。

 これはよほど大事に使っても、せいぜい1週間ともたない数だろう。


「とりあえずメモるね。マーガスさんに会ったときに

 聞かなきゃいけない部分とかあったほうがいいと思うし。」


 そういうと、つぐみは持っていたかばんからペンと

 ノートを取り出しメモしていく。

 電気のこと、お金のこと、職のこと。


 ここまでやると、家族はあることに気づく。


「なんだかんだで、受け入れていかねばということだな。」


「そうねぇ」


「……まぁ、仕方ないよね。」


「うん……。」


 こうしてみてると、家族は反応が様々であるが

 とりあえずというかなんというか一つのことに落ち着いているということが分かった。

 そんなこともあってか、俺はつぐみに渡そうと自らが持っていたかばんから

 ノートを差し出そうと立ち上がりながら、かばんを開ける。

 そして、つんのめったのと同時にしたたかにちゃぶ台へ頭をぶつけ――


「あっ…」


 と、家族の見てる前でかばんの中にあったエロ本がぶちまけられる。


「え……?」


 こうして、異世界で初の恥と叱責と麻美の暴力を受けた俺と

 俺たち家族の物語が始まるのであった。



家族モノで異世界に飛び立っちゃうというあんまりないシチュだと思ってのアイデアでストーリー作ってるので、割となあなあなシチュ等多々あるかと思いますが、純白ともどもよろしくです!

目標は、2週に3話!



ルビ振り、段落、誤字など訂正(3/25)


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