1話:それは偶然にも・・・
今日から高校生である。俗に言う青春と呼ばれる時期であろう。
俺は、自転車で10分という中々の近場である県立正傳高校という所に進学した。ちなみに俺は正傳という言葉にどういう意味があるのかなんて知らんし興味も無い。
ちなみに選んだ理由は近いのと、学力的にたいして高くなく、とりたて低いわけでもない。まさに俺にぴったりのレベルの高校。という二つの理由から選んだのである。
別に、俺がこの高校を選んだ理由など、全国的に有名なお昼の番組司会をやっているタモさんの髪が地毛かカツラかぐらいどうでもいいことであるが、記憶の片隅にでも保存しておくといい事があるかもしれない。
その県立正傳高校に進学した俺は今まさに入学式を行っている最中である。
・・・まったくもってだるい。別にこの高校の歴史なんて入学式で話す事でもないだろうに。俺はニコニコしながら半永久的に誰かが止めなければ喋っていそうな校長を黙って見ているのも飽きたので、周りを見渡してみた。
俺と同じで飽きたのであろう生徒は明らかに校長の話を聞いてないような感じに上の空な奴らもいるが、大半は期待と不安で入学生特有の顔をしていた。
クラスは1-Bというクラスになった。別に学校名の割りに普通のクラス名でほっとしていた。クラス名を変な名前にする理由などないと思うが。
俺は一年間同じクラスの中で空気を奪い合う仲になるクラスメイト達と一緒に教室の中に入っていった。
担任は神成 巳幸女教師であった。言葉だけ見れば羨ましがるやつもいるだろうが。もう30代後半と思われる雰囲気をだしている。・・・ありゃあ結婚してないな。
担任に対する勝手な評価を下してから周りの席の奴らを観察する。前にいるのは短髪の男。後は特徴がこれといってない感じの女の子。そして左が・・・
「ありゃあ結婚してないね」
俺と同じ分析をして、尚且つそれを口に出して言ってしまうような女である。
担任の女教師が自分が神成 巳幸であること趣味や歳(36歳)であることなど、特に脳にインプットすべき事ではないこともあるが、いちお記憶しておく事にする。ちなみに趣味は裁縫らしい。
担任の神成 巳幸は自分の紹介などを話すのにも限界があったのだろう。少しの沈黙の後に俺たちの自己紹介を要求してきやがった。なんて余計な事をいいやがる。
あまり目立ちたがりの奴以外は自分の自己紹介などめんどうで恥ずかしいだけの行為だろう。だが、担任が言い始めて更に一番の安東とかいう男から始まってるのであれば、俺がここでとやかく言うわけにもいかないので、俺も無事に自己紹介を終えるためになんと言えばいいのか考え始めていた。俺は五十嵐 純也。なんとア行である。こういう時は父親の苗字を恨むのだがそんな余裕も時間もない。
「五十嵐 純也です。一年間という短い期間でありますが、よろしくお願いします」
よし、短時間で考えたには中々の短い文章で無難な文章だ。担任ともう既に自分の番が終った奴以外はおそらく聞いていないであろうが。
40名のクラスメイトの名前を全部覚えられるわような便利な脳みそを持って生まれてきたわけではないので、俺は適当に聞き流していた。
が、俺のとなりの女の自己紹介は嫌でも耳に入るような大声で周りの空気を大きく振動させていた。
「小戸神 朋恵」
だけか?それ以降は口をチャックで締めたかのように口を開かないうえに速攻で席に座ってしまった。
ふぅ、面倒な奴のとなりになっちまった・・・。