婚約破棄された悪役令嬢ですが、国王の大岡裁きで婚約破棄が取り消されました
短編初投稿です。
よろしくお願いします。
私、阿久山礼子が目を覚ますと、そこは全く知らない場所だった。
豪奢なドレスに身を包み、侍女たちはみんな私のことをお嬢様と呼ぶあたり、いいとこの令嬢で間違いないみたい。名前はレイラ=アキャック。侍女の話では階段から滑り落ちて頭を打って数日間眠ったままだったって。あっぶねー。どうやら亡くなったレイラの脳に、令和の阿久山礼子の意識が入り込んでしまったみたい。
数日間生活をしてわかったのは、ここは中世の異世界だっていうことと、私が公爵令嬢だったということ。前世ではブラック企業で社畜生活を送っていた私だけど……
「勝ち組! ざまあ!!」
雄たけびを上げる私を見て、侍女たちがヒソヒソ噂をしているが関係ない。これからのバラ色人生にニヤニヤが止まらなかったけど、久しぶりの学園に行ってみて、その思いは消し飛んでしまう。
…どうやら私は悪役令嬢だったみたい。
いや、この縦ロールを見た時から、やな予感はしてたんだよねー。
社畜の私の唯一の趣味がスマホの小説投稿サイト。
「小説家になれん」「斯く読め」「デルタアーミー」などのサイトを渡り歩き、暇があればラノベを読むことが唯一の楽しみだった。一番のお気に入りが「悪役令嬢」もの。
この世界でもテンプレ通り、婚約者の王太子は聖女候補の庶民とイチャラブらしい。私の取り巻きがいろいろと教えてくれるけど、何の物語なのか見当もつかない。悪役令嬢ものもパターンがいっぱいあるから、もしかしたらこのまま助かるのかもしれないけど……
ここはテンプレ通り断罪後に追放か死刑になるかもしれないと仮定して動いた方がよさそうね。
私の前世のラノベ知識があればなんとかなるはず。
そう思った私は早速行動に移す。
いろいろと根回しや裏工作をして、断罪後の逃亡ルートと逃亡先を確保し、必要な資金もコツコツと貯めてきた。あとは断罪を待つばかりだ。
そして、断罪の日。
断罪の舞台は王城の大広間。
今日ここで私と王太子の正式な結婚が発表されるのだ。ステージの上には国王のエイチゼーア=ビッグヒル様と王妃様が玉座に座って微笑んでいる。
いよいよ、結婚が発表されようという、まさにその時。王太子が前に出て大声で宣言する。
「公爵令嬢レイラ=アキャック、貴様との婚約を解消する!!」
きたきたきたー!
とうとう、やってきたわー。
私は協力者の幼馴染、アテウーマに目配せをすると、アテウーマが逃亡準備のため大広間から出て行く。逃亡先では、このアテウーマと新しい人生を始める予定。そんな企みをおくびにも出さずに、私はすがるような瞳で王太子を見つめる。
「お待ちください! 王太子様!!」
「貴様が聖女候補のショミーナ=セイジョリアをいびり尽くしていることは先刻承知だ。言い訳など聞きたくない!」
「きっと何かの誤解ですわ!」
私は王太子の腕にしがみつく。
もちろん演技だけど。
「オワッ!」
ちょっと引っ張る力が強かったのか、王太子がこちら側によろめいてくる。その瞬間、王太子のすぐ側にいたショミーナが私をキッと睨んで、王太子のもう一方の腕を引っ張ってきた。
この聖女候補も何気にいい性格してんのよね。
ちょっとムッと来た私は、腕をさらに引っ張り返す。すると向こうもさらに引っ張り返すではないか。
最後はあんたに渡すんだから、殊勝な顔してなさいよ! アホ聖女!!
なにやら王太子の腕の引っ張り合いみたいになってしまった。
「い、痛い! 痛いぞ、二人とも! 腕が抜ける!!」
「殿下は私のものですわ!」
「いーや! あーしのものよ!」
「だから痛いと言っておろうがーー!!」
私はぱっと腕を離して、その場に泣き崩れる。
このままタイミングを見て、トンズラしよ。
「私が引き下がればよろしいのですね……よよよ」
「ふん! 最初からあーしに渡せばいいのよ! この年増!!」
んにゃろ、確かに前世40代だったけど、なんであんたが知ってんのよ!
「えぐっえぐっ」
泣き続ける私に王太子が最後の宣告をする。
「今日この日より、王太子である私はここにいるショミーナと結ばれる……」
「あいや! 待たれいっ!!」
大声に驚いて声の主を見ると、国王のエイチゼーア様がステージの上に立っている。
次の瞬間、お傍付きのエルフの宮廷魔術師長が何やら呪文を唱えると、なぜかステージが白木の板で覆われ、さらに床のじゅうたんが無数の白い小石に置き換わっていく。
「え、えーっと…これって何だっけ? お白州……?」
えっ、なんか王様、着物に着替えてる?
袴履いて、裃?までつけている。
王様がおもむろに王冠を取ると……
チョンマゲーー!? なぜに?
ど、どういうこと? まさか国王も転生者とか……?
訝しがる私の近くにいた宰相が、なんかぶつぶつ言っているけど、よく聞こえない。
「まったく、昔異世界人から聞いた話をいたく気に入って、いろいろ作っていたと思ったら……」
ステージでは王様の独演会が続いてる……
「王太子よ、お前はレイラ嬢のものだ。素直に結婚を遂げるが良い」
「どういうことですか? 父上!!」
「だまらっしゃい!!」
「ひっ」
「この場では私のことを『お奉行様』と呼ぶように」
そこーー!?
「は、はあ…? では、お奉行様。なぜ私がレイラと婚約を続けなければならないのでしょう。レイラは、この女は聖女候補であるショミーナに危害を加えた、いわば謀反人なのですよ」
「ふむ、その答えはたった今のおぬしらの行動だ。ショミーナ嬢とレイラ嬢はお前欲しさに引っ張り合い、奪い合おうとした。そうだな?」
「え、それは違……」
別に王太子なんて欲しくないと言いかけたのに、自分に酔っている王様は聞きやしない。
「されど、両腕を引っ張られて苦しむお前を見て、レイラ嬢の親心がお前の腕を離した。ショミーナ嬢にお前を奪われると分かっていながらのう」
「いや、私の子供じゃないし…」
「よって、レイラ嬢と王太子を本物の親子と認める!! これは王命じゃ!」
「親子じゃないって!!」
あ、つい王様に突っ込んじゃった。
「すまん、すまん。レイラ嬢と王太子の結婚を認める、じゃったわい」
「お待ちください。こくお…お奉行様」
「ふむ、レイラよ、なんじゃ?」
うっわ、王様なんかニヤニヤしてる。
女子にお奉行様って呼ばれるのが、そんなに嬉しいのか?
そんな心の声がばれないように、勤めて殊勝に王様に訴える。
「私は王太子から身を引いて、田舎で余生を静かに暮らしたく存じます」
「ほら! 国王様、この年増もそう申しております!」
「だまらっしゃい!!」
「ひっ」
ぷっ、ショミーナの奴、怒られてるわ!
「私のことは『お奉行様』と呼ぶようにと言ったであろう!」
またそこーー?
呆れる私をスルーして、王様が偉そうに(いや、実際偉いんだけど)語り始める。
「良いか、三人とも。王太子と結婚したいショミーナ嬢は王太子とは結婚できない」
「「「はい…」」」
「ショミーナ嬢と結婚したい王太子は、これまたショミーナ嬢と結婚できない」
「「「はい…」」」
「そして王太子と結婚したくないレイラ嬢が王太子と結婚する。まさに三方一損の名裁き!」
「「「はぁーー!?」」」
いや、迷裁きでしょ!!
すると私の方に向き直った王様が、温かい目で声をかける。
「よ、レイラちゃん。俺にゃあ、お前さん悪者には見えねえぜ」
「なっ!?」
なに、人情っぽい方向に持っていってんのよ! バカおやじ!!
「よっ! 名奉行!!」
チョーーン!
えっ? 何、この謎の掛け声と拍子木!?
「あ、これにて、一件らくちゃぁーーく!!」
チョンチョンチョチョンチョンチョーーン!!
茫然とする私たち三人を置いて去っていく国王たち。
お白州も元に戻っている。
「ちょっと待ちなさいよーーー!!」
(第三者視点)
———その頃城の外では、未来の結婚生活を夢見たアテウーマが、もう二度と現れないレイラのことをずっと待っているのだった。
「あーレイラたん、早く来ないかなぁーー」
——— 完 ———
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回作は『幕末 酔剣 vs 新選組』を投稿予定です。
今度は異世界から幕末へ。
酔っぱらいが新選組と戦います。




