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(五)小野山登場

「瑛美。ごめん…、次からは朝早い仕事のときは、ちゃんと起きて瑛美が迎えにくるのまっているよ」

 ラジオ局で見た瑛美の涙に反省をした知成は、あの日、帰りの車の中で瑛美に言った。

……言ったはずであるが…


「ちょっとーーー!! 知成!! 起きなさいっっっ!」

 ベッドに埋もれている知成を瑛美は必死に叩き起してはみるものの、一向に起きる気配は無い。

 午前中の仕事は、音楽雑誌のインタビュー。

 ホテルのロビーラウンジで編集者と約束をしてある。

 時間には少し余裕を持って迎えに来たが、このままではどうにもならない。

 玲二も知成を起そうと何度も試みたが諦め、瑛美に託し、車の中で一行と後部席に並んでバナナを食していた。


 昨晩、ミュージシャン仲間に浴びるように酒を飲まされた知成は、「う~ん、おきる…」と返事はするが目が開かず、その返事も意識ないまま答えているものだった。


「どうしよう…本当に起きない」


 瑛美は、知成の体を揺すった。

「知成…?知成…、林田さんが…林田さんがぁぁぁあああ」

 大声で叫んだ瑛美がそこまで言うと、知成の目がパッと開き、体を起こし声を上げた。

「ぇぇええ!? 林田さんがっ!? 死んだぁ!?」

「……」

「どうしてっ! なんでっ!? いつっ!?」

 知成は瑛美の両腕を力いっぱい掴み揺さぶった。

「…誰も林田さんが死んだなんて一言も言ってないわよ? やーね、勝手に人殺しちゃって。知成ってサイテ~」

 過去に何度か自分も林田を無い人にしている瑛美ではあるが、蔑んだ目で知成を見つめた。

「…なんだよ、まぎらわしいな。おまえが「林田さんがぁぁああ」なんて叫ぶからだろ!」

「はぁ? 私の所為ですか? へーへーそうですか。そんなことより早く起きなさいよね。みんな車で待機してるわよ」

 瑛美はせかすように知成の腕をひっぱり、ベッドから引きずり出した。

「で? 林田さんがどうしたんだよ。林田さんになにかあったら困るよ、俺たち」知成は、少し心配そうな顔で訊いた。

「ん? 別に…? 林田さんは今日も元気に病室のベッドに固定されているはずよ。今朝林田さんの奥さんから「今日も元気に仕事をするように」って代理メールが入ってたよ、って言おうと思ったの。それなのに知成、勝手に…」

 瑛美はクスクス笑い、そう言った。

「…マジに林田さんがいなくなったら、俺たちホーサイレイは、どうしたらいいかわかんなくなっちゃうよ…。ずっと一緒にいて面倒みてくれてて、いなくなったら…困る」

 真顔でそう言った知成に、彼らに慕われている林田を羨ましく思い、口角を少しだけ上げて瑛美は微笑んだ。

 そして、ウソでも今後、林田を仏にするのは止めようと誓った。



 午前中の雑誌インタビューのあと、『歌のリラックス』という数組の歌手と共演、トーク番組収録のためLTV局に入った。


「なんかテレビ局って、ものすごく久しぶりな気がする」玲二がうれしそうに言った。

 地方のローカルテレビには何度か出演しているが、大きなテレビ局のゴールデン番組出演は四年ぶりである。

 楽屋に向う途中、番組プロデューサーの小沢を見つけた瑛美は、彼に駆け寄り「小沢さ~ん。無理言ってごめんなさい」と、両手を合わせ頭を下げた。

「いいよ、大丈夫だよ。小野山のお願いでもあるしな。ホーサイレイが売れたら、今度はこっちから出演依頼しなきゃならないし。そうなることを願ってるよ」

と、小沢は言い、瑛美の頭をポンポンと軽く叩いた。

 瑛美はホーサイレイの三人にも小沢に挨拶をさせ、その場を離れた。


「瑛美って、顔広くね?」

 三人の疑問だった。

 瑛美は、行く先々の仕事場で男女問わず、必ず顔見知りと会い、挨拶をする。

 それは仕事の付き合いとかではなく、プライベートでも仲良くしている雰囲気だった。


 瑛美は三人の疑問に、「前の仕事が同じ業界だったから知り合いも多い」と、軽く答えたあと、早く楽屋に行って支度するように急かした。



「うおー、俺たちの名前だ!」

 クローク室の横に『ホーサイレイ様』と張られている紙を見て玲二は感激し、一行は携帯で写真を撮ったりと無邪気に喜んだ。

 順番に部屋に入り、最後に瑛美が入ろうとすると、廊下の少し先で瑛美の名前を呼ぶ声がし、ドアから顔を出し、声のする方を見た。


「あー、小野山ちゃ~~ん」

 瑛美は、そのまま小野山の所に駆け寄り、抱きついた。

 その様子を知成はドアから頭だけを出して見ていた。

(ええ!? 抱き合って…いる…それもしっかりと!)

 今まで見た事のない瑛美の嬉しそうな笑顔に少しムッとしたことに、知成自身は気が付いていなかった。


「小野山ちゃん、わがまま聞いてくれてありがとう。さっき、小沢さんにもお礼言っといた」

「大切な瑛美のお願いだから聞かないわけにはいかないだろ?」

 小野山は瑛美のおでこにキスをした。

(ぁあ!? おでことは言えキス!? それになんなんだあの密着度、ここはテレビ局だぞ!)

 知成は一人ブツブツとつぶやき、眉間にしわを寄せ、二人を観察した。


「なにやってんだよ、知成。着替えろよ、メークもしなきゃなんないし、出演者の人たちにも挨拶行かなきゃなんねーんだぞ」

「ん、わかってる…」

 玲二に言われ、知成はもう一度二人の様子を見てから部屋の中に入った。

(誰なんだ、あの男…)


 小野山は『歌のリラックス』のディレクター。

「近いうち、出演すれば必ず視聴率を稼げるホーサイレイになるから、今のうちに使っておいたほうが良い!」と、確信はないが大法螺を吹き、ホーサイレイの出演をプロデューサーの小沢に口をきいてほしいと、瑛美が小野山に頼み込んでいた。


 瑛美が部屋に戻ると、知成が瑛美の近くに来てボソッと訊いた。

「あの人…男の人、誰…?」

「男?」

「今、廊下で」

「あぁ、小野山ちゃん? 歌のリラックスのディレクター。知成たちにも紹介しとけばよかったね。まっ、スタジオで会うからその時ね~」


(ディレクターと抱き合って、キス!? どういう関係なんだ)

 知成は頭をかきながら、首を横に倒し、瑛美を見た。



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