(十九)瑛美、知成、結莉作戦にハマる(3)
タクシーの中で、瑛美に寄りかかられ、結莉に言われるまでもなく発情し始めている知成は、瑛美の肩に手をまわしてみたりする。
アパート近くになり、運転手に左折を頼むと、
「お客さん、この先夜間工事みたいです。ぐるっと周りますか?」
と、言われ、見てみると、アパートの前も工事範囲に入っていた。
ここで降りて、歩いたほうが近い。
「じゃ、ここでいいです」
と、知成は言い、運転手に手伝ってもらい、瑛美をおんぶしてアパートに向かった。
歩き始めると、少し背中が軽くなった。
「ん~、ん? あれ…知成だ…」
瑛美が目を覚ましたが、酔いは覚めていない。
「あ、起きた? 重いから降りろよ」
「んー、知成…? 夢か」
そして、また目を閉じた。
「ハァ? ったく…」
工事現場のおじちゃんたちに冷やかされながら、アパートに着き、キシむ廊下を歩き、階段を上った。
部屋の数歩手前で、メリッ、バキッ、バキバキッと音がし、知成は瑛美をおぶったまま、視界が数十センチ低くなった。
「っ、痛ってぇーー…。なんだよ、これ…」
廊下の板の間が割れ、片足が、めり込んだ。
「足、痛てぇ…、おい、瑛美降りろよ」
「んー、やだ…、夢だもん。知成の背中……」
そう言われた知成は、ボッと顔が熱くなり、しかたなく力を振り絞り、瑛美をおぶったまま左足を板の間から抜き取った。
「はぁぁぁ…。抜けた…」
ようやく部屋の前にたどり着き、首から下げていた瑛美の鞄の中から、カギを出し、フラフラで中に入り、
「もぉオレ、力…入らねぇ」
と、万年寝床のマットレスの上に瑛美を下ろしながら、自分もゼィゼィ言い、倒れた。
少し息が整い、ふと横を向くと、横になっている瑛美が、自分を見ていた。
「……」
「……」
しばし沈黙が続く。
「な、なんだよ、目、覚めたのかよ」
「……水…」
「はぁ?」
「みじゅ…、おみじゅ…water…」
「おまえは、ヘレン・ケラーかよ。ったく、しょうがねーな」
知成は瑛美を起こし、冷蔵庫から取ってきたミネラルウォーターを飲ませ、残りは自分が飲んだ。
「ハァー、やっと一息ついたぜ…」
「…なんで、ここにいんの?」
ボーっとしたままの瑛美に言われた。
「なんで、って、おまえを送ってきたんだろ! オレが!」
「…あはは~、まだ夢かぁ。知成の幻かぁ」
「夢じゃないってーの。オレ、本物の知成だから」
「もぉ~、やーねー。知成がいるわけないじゃない。きゃはは~」
と、知成をバシバシ叩きながら、うつろな目の瑛美は言った。
「痛いって、叩くなよ」
知成が瑛美の手を掴んだ。
瑛美は黙り、ジッと知成を見た。
「瑛美、おまえ…オレのこと、好き、なの?」
知成は、ドキドキしながらも訊いた。
夢の中だと思っている瑛美は、コクンと、うなづき、「スキ…」と、小さい声で言った。
知成は、瑛美に顔を寄せ、軽くキスをした。
瑛美は一瞬、驚き、体を強ばらせたが、知成はもう一度やさしくキスをすると、
「ゆめだから…いいんだよね…?」と、瑛美が言った。
「夢じゃないよ、オレも瑛美のこと好きだから、キスした」
「…うんうん、ゆめだから」
「夢じゃねーってんだろ!」
「ゆめ…」
「夢じゃねーよ!」
そんな会話を繰り返しながら、キスも繰り返し、
“スカートのホックとシャツのボタン外してあげてね”
と言った結莉の言い付け以上の行為、ブラジャーのホックも外してしまった知成である。