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(十八)瑛美、知成、結莉作戦にハマる(2)

 ルームに入るや結莉は、ホーサイレイの三人の前に立ちはだかった。

 三人は、ビクついた。

「何! その怖いもの見るみたいな目は!」

 結莉は腰に手を当て、言った。

 存在だけで怖い。


「あのさ、瑛美の家、知ってるの誰?」

 結莉が三人に訊いた。

「あっ、オレ…は、行きました…けど…」

 知成が、恐る恐る手を上げた。

「じゃ、知成くんでいいわ」

 と、言ったがたとえ知成が瑛美のアパートを知らなかったとしても、送らせるのは知成と決めている。

「瑛美寝ちゃったから、送ってってあげなさい。知成くんがっ!!」

 命令形だ。


「えっ、寝ちゃったって…? お酒飲んじゃったんですか!?」

 三人は驚いて顔を見合わせた。

 事務所の車で来ていた四人は、みんなお酒を口にしてしまっている。

 結莉は、もう少し瑛美はカウンターで寝かせておき、乗ってきた車は自分がどうにかするから、知成は瑛美を家まで送り、一行と玲二はタクシーで帰るように、勝手に仕切った。

 そう言い終えると、知成の隣に腰を下ろした。

 知成に緊張が走る。

 玲二は、知成、一行を挟み座る結莉の方に、顔を思い切り出し、熱い眼差しを送った…が、結莉に何一つ届いていない。


「ちょっと、そのビクビクするのやめなさいよね、これから一緒に仕事するんだから」

 と、言う結莉にまた知成はビクついた。


 初めは仕事の話をしていた結莉だが、いきなり知成に小さめの声で言った。

「彼女できたんだって? 知成くん」

「え? 彼女?」

「瑛美から聞いたわ。かわいい子らしいじゃない? よく泊まりに来てるらしいし、洗濯も掃除も料理もやってもらってるんだって?」

 瑛美はそんなことは、一言も言っていない。


「ええ!? そんな彼女いないですよ、オレ!」

 びっくりした知成は否定した。

「そうなの? なんか瑛美が淋しそうに話すから、私はてっきり知成くんがその彼女と将来を誓い合った仲な、」

「瑛美が言ったんですか!? そんなこと! オレ、誰とも付き合ってません!」

 結莉の言葉を遮り、知成はきっぱり言ったが、カラオケ屋の前で自分がしたことを思い出し、俯いた。


「あら、そう~? じゃ、瑛美、勘違いしてやけ酒みたいに飲んじゃったのかしらぁ…」

 結莉は人差し指を顎に当て、考えるように呟いた。

「やけ酒?」知成が訊き返した。

「えっ…、うん…なんか、知成くんに彼女ができたことがショックみたいで、どうせ自分はただのマネージャー代理だしぃ、もう一緒に仕事をすることもないぃ、って。鼻啜りながら私に訴えて、私のボトルのお酒ガバガバ飲んじゃって、潰れたのは…知成くんの所為~」

 そう言うと、顎に当てていた自分の人差し指を知成の鼻先にもっていった。

「ぇ、オレのせい…?」

「あら! 私ったら、お口が滑っちゃったわん。内緒だったのにん、瑛美が知成くんを好きなこと。もぉ~私のおしゃべりちゃ~ん。でも本当のことなんだけどっ!」

 と、結莉は自分の口を押さえ、首を横に倒した。

 そんな結莉の仕草を傍から見ていた熟女派・玲二は、うっとりとしている。

 言いたいことだけ言った結莉は、席を立ち、部屋を出てカウンターに行ってしまった。



(瑛美が、オレのことを好き…? 逆だろ? オレがあいつのことを好きで…そうだよ、オレが瑛美を好きなんだよ…。あいつの方こそモデル男がいるのに、不倫相手とは人前でベタベタして、そんな光景みたくねーんだよ、オレは。それなのに、なんでオレのことでやけ酒なんだよ…)


 騒がしい部屋の中で、手を組み、俯いたまま一人考えている知成の元に結莉が、再び現れた。


「知成くん、悪いけど、もうそろそろ瑛美送っていってくれる? ちょっと意識戻ってきたから」

 と、結莉に言われ、席を立った。

「あっ、玲二くんたちは、これからもっと飲みましょうね。あとでまた戻ってくるから私!」

 結莉に言われた玲二は、満面の笑みだ。



 知成がカウンターに行くと、瑛美はまだバーカウンターに顔を伏せている。

「瑛美、起きなさい。帰るわよ? 知成くんに送ってもらいなさい?」

 結莉の声に反応した瑛美は、顔を上げたが、完全に酔っている顔だ。

「眠いぃ~。ここで寝るからいいぃ…」

 と、またカウンターに伏せようとした。

「こらこら、寝るでない。あなたの愛する知成くんが送ってくれるって言ってんだから、起きなさい」

 結莉の言葉に、知成の顔が赤くなる。


「いいのぉ~ここでねるぅ。……知成ぃ…は、彼女がぁ、いるからぁ、ヤバイ…のぉ」

「いないわよ、彼女なんて。知成くんが好きなのは瑛美ちゃんだから、はいはい、起きて」

「ェ…(なんで誰にも言っていないのに、この人はわかるんだ、オレの気持ち)」

 知成の頬はますます紅潮した。


「ほら、なにそんなとこで顔真っ赤にしてないで手伝いなさいよ、おんぶ」

 結莉に言われ、知成は瑛美を背負った。

「重…」

 力の入っていない人間ほど重いものはない。

「なにヨロヨロしてんの、男の子でしょ!」

 結莉にお尻を叩かれながら、店を出てタクシーに乗り込んだ。

「じゃ、知成くん、頼んだわよ。あっ、家に着いて瑛美寝かせたら、悪いけど、スカートのホックとシャツのボタン、外してあげてね」

「ぇえーー」

「女って、たいへんなのよ。一日中、衣類や下着に締め付けられて、寝るときくらいは楽~に、なりたいもんなの」

「ぇええーー、でも…」とまどう知成である。

「知成くん、別に女経験ないわけじゃないでしょ? 服脱がせるくらい慣れてんでしょ?」

「ええっ! 結莉さん、それは、」

「はい! さいなら~」

 動揺する知成にお構いなしに、結莉はタクシーのドアを閉め、手を振った。



 カウンター席に戻った結莉は、

「はぁ、やれやれ…。発情するかなぁ? 知成くん…」

 グラスのテキーラを飲み干し、

「あ~、瑛美も帰っちゃったし、私ももうそろそろ帰ろうっと!」

 と、山崎に言い、ルームの勘定は自分に付けておくように言い、とっとと店を出た。

 事務所の車のことなどすっかり忘れている結莉であった。


 そのころルームの中では、一緒に飲めると思い、結莉が戻ってくるのを、心待ちにしている残念な男・玲二がいる。




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