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(十六)すれ違ったまま(2)

 他の出演者たちがぞくぞくと局入りをし始めたころ、共演バンドに挨拶をしに行き、着替えの準備をしなければならないのだが、一時間半前から局入りをしているホーサイレイの三人がクローク室に戻ってこない。

 どこをどうほっつき歩いているのか、瑛美は仕方なく三人を探しにクローク室を出ると、廊下の一番端で三人が悠と話をしていた。

 瑛美が悠に挨拶をすると、結莉の夫・修平が率いるバンド「リフィール」もすでに楽屋入りしていると知らされた。

 人気実力共にトップを走っている「リフィール」にまずは挨拶をしないわけにはいかない。


 瑛美は三人を引き連れ「リフィール」のクローク室のドアをノックした。

 ドアを開けてくれたのは結莉であった。

「結莉来てたんだ!」

 瑛美が驚いたように言った。

「うん、今日は仕事なかったし、一緒に来ないと修平くんのご機嫌斜めになるからね。ホーサイレイのみんなも、おひさし」“ぶり”と、結莉が言い終わらないうちに、玲二が自分の目の前にいた瑛美を押しのけ、結莉の顔面30cmに近づき、めちゃくちゃ瞳を輝かせ言った。

「結莉さん! お久しぶりです! 収録見学ですよね、オレ頑張ります!!」


 結莉の名を呼ぶ男の声に、畳で寝転がっていた修平は、ムクッと体を起こし、キッとした目つきでドアの方を見た。

 この男、まれにみる相当の「やきもち体質」である。


「結莉、誰だよ!」

 修平が、ムスッとした声で聞くと、瑛美とホーサイレイが挨拶に来たと言い、中に通した。

 瑛美が、知成、一行、そして最後に玲二を紹介すると、結莉に気があることを直感している修平は、笑みを消し、眉間にしわを寄せ、斜めに顔を構え、玲二を睨んだ。

 初めて会う「リフィール」に緊張の色を隠せないホーサイレイだが、玲二は負けじと修平を睨み返し、数秒睨み合った。

 結莉と修平、有名人同士のこの二人が夫婦だということは百も承知の玲二だが、少々頑張ってみた。

 その様子に気が付いた「リフィール」メンバーは呆れた。

「修平、いい歳こいて、なに若い子にガンたれてんだよ」

「悠の事務所の後輩だよ?」

「大目にみてやれ」

 メンバーに言われた修平だが、「……やだね」と、一言言い、玲二から目を放さなかった。

 修平にとって、結莉に好意を持つ男はみなライバルだ。


「ホーサイレイのみんなも、まだ他の共演者に挨拶済んでないんでしょ? 早く挨拶済ませて、準備しなさ~い」と、結莉が笑顔で言い、四人を部屋から出したあと、修平の方を向いた。

「修平くん! ホーサイレイとはこれから一緒に仕事するの。いちいちそんな態度取ってどうするの!」結莉に言われた。

「あいつ、ぜってー結莉に気がある! ムカつく!」拗ね始めてしまった。

「何考えてんのよ? 誰がこんなおばさんに好意持つわけ? あの子何歳だと思ってんの?」

「人を好きになるのに、年齢なんて関係ねーんだよ。俺の俺による俺の感だ!」

「……アホらし。あ~、私カフェでコーヒーでも飲んでこよ~っと!」

「ぇっ、待てよ! 俺を置いてくなよー」

と、部屋を出て行く結莉を追おうと、修平は立ち上がろうとしたが、メンバーに「「おまえはいいから、早く着替えろ!」と、押さえつけられた。


 完全に拗ねてしまった修平は、畳に寝転がり、畳のワラをムシり始めた。

「だから、いっつも言ってるだろ! 畳をムシるなってーの!」

 メンバーのリーダーに手を叩かれた。

 LTV局のクローク室、リフィールが使う部屋はほとんど決まっている。

 昔からこの部屋の畳は、修平の所為で頻繁に張り替えられている。



 すべての出演者に挨拶を終え、自分たちの部屋に戻る途中、瑛美が玲二に言った。

「玲二……、あなた、そのうち修平さんに…、葬られるわよ…」

 ボソッと言った瑛美の声には、冗談の色が全く見えなかった。



 スタジオで出演者たち全員のトーク録りを行なっている間、各マネージャーや関係者が観られるように、スタジオ裏に設置されているモニター前で瑛美と結莉が収録風景を見ていた。


「ホーサイレイ、緊張丸出しだね~」

 背筋を伸ばし、きっちり座っている三人を見た結莉が言った。

「あんなに緊張してる三人、初めて見た」

 瑛美が笑った。

「でも、収録中でも好き勝手に暴走する男より、ホーサイレイくんたちの方がよっぽど初々しいくてかわいいわ…」

 結莉は、ちょうどモニターにアップになった修平を見ながら言い、瑛美は深くうなずき同意した。


「もうすぐ終わりなんでしょ? マネージャー代理の仕事」結莉が訊いた。

「うん…、あとスケジュール二つ」

「淋しい?」

「ん? べ、つ、に?」

 そう言った瑛美の顔を横目で見た結莉は、そのあと何も訊かなかったが、少し前まで、会えばよく話題にしていた知成のことを持ち出さなくなった瑛美を少し不思議に思っていた。 


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