表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

(十五)すれ違ったまま(1)

 知成に彼女ができたことに、心が痛む自分がいる。

 ずっと前からほんとうは、気づいていた知成への「特別な好き」という気持ち。

 自分自身にとって、知成は吉田プロの大切なアーティストだ。

 マネージャー代理という、仕事上の関係。

 それももうすぐ終わりになる。


 瑛美は、押しつぶされそうな心が、これ以上成長しないように、知成に悟られないように、深い深い呼吸をして、知成のマンションのドアを開け、中に入った。

 いつものようにいつもの笑顔で、二人を起こしに寝室に行こうと思ったが、リビングの方から話し声が聞こえてくる。

「……ぇえ? もう起きてる!?」

 ホーサイレイのマネージャーになって、こんなことは初めてであった。

(いつもこうならいいのに…)

 そう強く願う瑛美である。


 知成、玲二、そして二人を起してから迎えにいくはずの一行までが、ソファに姿勢良く座っている。

 それも、支度が整い、すぐにでも出かけられる状態だ。

「どうしてっ!?」

と、瑛美はものすごく珍しいものを見たような顔をした。


「だってさぁ、今日は「こんばんてん」の収録だぜ! 完璧な体制でテレビ局にお伺いしなきゃな!」

「「だよなー」」

 玲二がいうと、二人も声を揃えた。

「あ…、そう。…じゃぁ、ちょっと早いけど、行こうか!」

と、うれしそうに微笑んだ瑛美が言った。


 どれだけ、『今夜だけBAND天国』に出演することを心待ちにしていたのか、はっきり態度で示してくれる三人に笑いがでてきたが、小野山と小沢に、ホーサイレイの出演を、半ば強引だったが、無理にでもお願いしてよかったと、運転する車の中で、三人の笑い声を聞きながら思っていた。


 テレビ局には、予定の入り時間の1時間半前に着いてしまった。

 時間ギリギリや遅刻よりは余程いいが、これはこれで早すぎだ。

 すでに用意されていたクローク室に一旦は入ったが、一行と玲二が探索に行くと言い、出て行ってしまった。

 残された知成と瑛美は、話すこともなく、お互い黙ったまま、少し距離を置いた場所で雑誌を読んでいた。


 瑛美のプライベート用の携帯の着信音が鳴った。

「あ、耕ちゃん? もう成田? うん、じゃ気をつけて帰ってね? 見送り行けなくてごめんね―――」

 瑛美の携帯が鳴った時点で、見ていた雑誌をめくる手が止まった知成は、相手が耕介であるということがわかり、雑誌を見るフリをしつつ耳だけは瑛美の方に傾けていた。


 電話を切り終えた瑛美は、知成に訊いた。

「ねぇ、その人のファンなの? さっき玲二も見てたけど」

 ボーっとしたまま見開いてあるページを見つめていた知成が、手元の雑誌をちゃんと見直すと、先月離婚した三十代後半の女優のヌード写真が載っている。

「……ぅわっ、ぜんぜん気づかなかった…」

 急いで閉じた雑誌を放り投げたが、玲二はさっきまでそれを穴が開くほど眺めていた。


「今の、電話の人…」

 知成がポツリと訊いた。

「ん? 耕ちゃん? 今日アメリカ帰るの、これから搭乗なんだって」

「アメリカ?」

「うん、時々仕事で日本に来るの。その時は、私の部屋に泊まるんだ。耕ちゃんもアメリカ生まれだから、畳の部屋とかにあこがれてさ、ホテルよりあのアパートの方が好きらしい」

 少し知成と話ができた瑛美は、うれしくなり言った。

「ご自慢の耕ちゃんが、アメリカに帰っちゃって淋しいよな? おまえも。さて、オレも局内散策行って来よう~」

 知成は明るめの声で言ったあと、立ち上がり、部屋のドアノブを回した。

「おまえに、似合ってるよ…あの男。身長もオレよりデケーし」

 瑛美に背を向けたまま、棘のある言い方で、知成は、パタンッ…と閉じ、部屋を出た。


「……耕ちゃんは、そんなんじゃない…」

 一人残された瑛美は、閉められたドアを見つめ、つぶやいた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ