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(一)三人と一人(1)

「主人公がボーカリスト」パート3、このストーリーの中に過去作品「恋する男~」「見上げた空~」他の登場人物が出てきます。

が、そちらを読まれていなくても問題なくストーリーは流れる予定です。

楽しく読んでいただければうれしいです。


「じゃ、夏木、今日からよろしくたのんだぞ」


 夏木瑛美・25歳は、芸能プロダクション「吉田プロ」の社長室で、社長の吉田と社長よりしっかりしているまとめ役・加山由佳里を目の前に、深くうなづいた。


 三人が今後のことを話していると、社長室のドアがノックされ、スタッフのデンジャラス佳代が顔を出した。

「ホーサイレイのみなさんが来ましたぁ。応接室で待ってま~す」

にこやかな顔で言うが、彼女の手にはチョコレートが握られている。

「おい、佳代。おまえは甘い物ばっかり食べて…。結婚指輪が指に食い込んでるぞ、ちょっとは健康に気をつけろ。まったく…病気になったらどうするんだ」

 吉田に言われ、佳代は舌をペロッと出しドアを閉め、自分の机に戻り、指輪を抜いてみようと思ったが、抜けず、ガクリと頭をもたげた。



 その頃、応接室では、「あまり売れていない」ではなく「全く売れていない」ビジュアルバンド・「ホーサイレイ」のメンバー三人がソファでくつろいでいた。


「あー、腹減ったよぉ、オレ」そう言いながらお腹を押えたのは、ボーカル兼ギター・難波知成25歳。

「今日はピザにしよぜ、Lサイズ二枚!」ベース・高橋一行24歳が、ガッツポーズをすると、「いいねいいね、フライドチキンも付けてもらおう!」ドラム・谷山玲二25歳は寝転がっていたソファから元気よく身を起こした。

 すでに二時を回っているが、この三人、事務所に来る時はいつもお腹を空かせてやって来ては、経費で何かを頼んで食べて帰って行く。


 デビューから五年、二枚のアルバムとシングル六枚をリリース。

 四人で始めたバンドだが、二年前にもう一人いたギター担当とケンカ別れをし、現在は三人で活動している。

 しかし、後からデビューした後輩バンドにも追い越され、人気俳優・タレント・ミュージシャンを多く抱える吉田プロの中では、ダントツ最下位で売れていない。

 なぜ、吉田プロに所属しながらも売れないのか、業界の七不思議でもあると、関係者の間では、噂になっている。

 吉田は、友人である玲二の伯父に頼まれ三人を引き受けたのだが、デビュー当時からパッとせず、どうにもこうにもお先真っ暗状態が数年続いていた。

 知り合いの甥というだけではなく、吉田自身が「ホーサイレイ」を気にいりデビューさせたのだが、アーティストを見出す目の無さに落ち込んだ時期もあった。

が、2年程前から開き直り、三人を野放しにしている。

 当の本人たち三人は、社長の面子も気にせず、「売れない」事にも全く気にせず、のらりくらりとライブをしたり、レコーディングをしては楽しく過ごしている。



 瑛美は、吉田と加山の後に付き応接室に向かった。

 応接室に近づくにつれ、三人の騒がしい声が徐々に大きく聞こえてくる。

「あらあら、いつも元気がいいわね、あの子たちは」

 加山が笑いながらも呆れた声で言った。

「あいつらにはCDが売れないという悲観さが全くないんだなぁ、これが…」

 吉田のつくため息は重いが、顔は笑っている。


 開けっぱなしの応接室のドアの前で「おい、おまえらドアくらい閉めて騒げ!」と、吉田が三人に声をかけたが、知成は挨拶もせず吉田に甘えるように「社長、腹減った~、腹ぁ~」と、ソファにもたれかかったまま言った。

「なんだおまえら、昼食ってないのか? しょうがないなぁ、あとで何か取ってやるから、その前に」と、言った吉田は、後ろに立っていた瑛美の方に顔を向けた。

 社長に会っても挨拶もなく、いきなりタメ口で社長に食べ物をねだる、そんな三人に呆れたが、それを許している吉田に瑛美の顔は、歪んだ。

「いつものことよ、社長が事務所のタレントや歌手を甘やかしちゃうのは」

 瑛美の隣にいた加山が、こそこそっと瑛美に耳打ちをした。


 吉田は、所属タレントだけではなく、吉田プロのスタッフにも甘くやさしいため、代わりに加山が厳しく、ビシビシとみんなの気を引き締める役をしなくてはならなかった。

 事務所は、タレント部と音楽部に部屋が分かれており、普段音楽部にデスクを置いている加山が、たまにタレント部に顔をだすと、タレント部のスタッフルームは緊張のあまり静まり返るほど、加山は吉田プロの中では怖い存在になっている。

た だ、音楽部のスタッフは加山の本性を知っているため、なぜタレント部スタッフが加山を怖がるのか不思議に思っている。


「今日から林田の代わりに少しの間だが、マネージャー業務をやってもらう夏木だ。おまえら、ちゃんと言うこと聞けよ」

 吉田の言葉に三人の視線が瑛美に集中した。

「えっ、女なの?」

「きれーなお姉ちゃんじゃん」

「襲っちゃおーかなぁ~、なーんてね」

 ホーサイレイの三人はそう言ったあと、大口を開けて笑い合ったが、瑛美は彼らの冗談に乗る素振りもせず、自分の名前を言ったあと、一言添えた。

「林田マネージャーが戻ってくるまで、わたしがビシバシあなたたちの根性を鍛えなおしますので!」

 まっすぐな目をして言った瑛美に、ホーサイレイの三人と、なぜか吉田が引きつった顔で一瞬沈黙したが、加山は手を口に当て、クスッと笑った。


「あっ、うんうん、そうだな、夏木にこいつらの根性を直してもらって、少しでもCDの売り上げアップを、」

「少しの売り上げアップ? 何言ってるんですか、吉田社長! 目標はベストテン内です!」

 吉田の言葉を遮り、瑛美が険しい顔で吉田を睨んだ。


「だよね、だよねー。じゃ、夏木、よろしく頼んだぞ! ハハハ…」

吉田は頭を掻き掻きカラ笑いのあと、しゅん…と下を向いた。

ホーサイレイの三人は、ポカンと口を開け瑛美を見ているだけだ。


「ほらほら、あなたたち、お腹空いてるんでしょ? 何食べたいの? デリバリーしてもらうから、言いなさい」

 一人顔が笑っている加山が、三人に訊いたあと、吉田、加山、瑛美はスタッフルームに戻った。






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