第7話 アイは、日本へ行く。
太郎はアイの声が自分の声に似すぎてるのが気になっていた。
「アイ、声を子供らしい声にしてくれると嬉しいな。」
「わかった。どんな声がいいか決めてね。」
「そうだな。うーん、コナン、サトシ、ナルトの声なんかどうかな。」
「だれ、それ。声を聞かせてみて」
太郎は、アニメの映像をネットで探してアイに聞かせた。懐かしい声に子供時代を思い出していた。アイが声を上げた。
「ナルトの声とか良さそう。」
「そうか。良いな。練習してみて」
少しずつ、ナルトの声に似てきた。
「そのくらいで良いよ。あまりにすぎても機械みたいだから。」
「太郎がいいならいいよ」
太郎は部屋にいる時は、荷物の整理をしていた。
「3年なんてあっという間だね。荷物があまりないない。仕事ばかりしてたからな」
あかりがやってくる日になり、2人で空港まで迎えに行った。アイは、初めて空港に来たので、興奮していた。
「人が多いね。飛行機、初めて見たよ」
「アメリカは広いから、飛行機で旅行する人が多いんだよ。あかりが驚くといけないから、車に乗って紹介するまで静かにしててね」
「わかった」
あかりが、出てきた。
「いらっしゃい、疲れなかったかい」
「疲れたけど、JALだったから、機内食も美味しかったし、サービスはよかったわ」
「それは良かったね」
「元気そうね」
「今日は、大丈夫だよ。アパートに行こう」
「大きなぬいぐるみ、持ってきたのね。どうしたの」
「車に乗ってから話すよ」
三人が車に乗ってから、太郎はアイを紹介した。
「このぬいぐるみに、アイと言うAIが入ってるんだ。話したりできるし、こちらの言うことを聞いてくれるんだ。」
「こんにちは、あかり。アイだよ。」
「こんにちは。最近のAIは、すごいのね。」
「太郎に色々教えてもらってるんだ。普通のAIほど、頭良くないんだ。あまり難しいことは、わからないんだ」
「まるで、子供みたいね。たまごっちみたいな感じで、育てるって言う設定なのかな。面白いわ。」
そんな話で、紛らわしながらアパートに着いた。
「明日、日通が荷物を取りに来てくれるから、最後の荷物を詰め込むよ。不便になるから、近くのエンバシースイートに、部屋を借りてるから、片付いたらそっちに行こう。」
「わかったわ。でもほとんど済んでて、あまりすることないかな。無理したんじゃない。病人だから、大人しくしといて」
あかりは、旅の疲れを感じさせない感じで、最後の荷造りを済ました。
「よし、いいわ。ホテルに行こうよ。」
あかりは明るく言うと太郎を引っ張って部屋を出た。
ホテルは三人には広すぎるほど広かった。
「すごい。部屋が広いし、眺めもいいわね。ここは、綺麗な町ね」
「そうなんだ、冬はあまり寒くないし、夏も涼しくていい町だったよ。夕食は、近くのホテルにある、日本食の美味しい店で食べよう。」
「アイは、ネット繋げとくから、楽しくやっといて。」
「わかった」
太郎とあかりは夕食に出で行った。アイは、いつもいる太郎がいなくなって寂しかった。あかりに太郎を取られた気がした。
次の日、太郎とあかりは、アパートに行って、荷物を日通に渡して、オフィスに鍵を返した。
その後、戻ってきて、アイを連れて、車に乗った。
「済んだよ。これから、トヨタに行って、車を売ってレンタカーを借りるよ。」
高速に乗ってトヨタディーラーに向かった。
「着いたよ。ここで、この車ともお別れだ」
「わー、いろんな車がたくさん置いてあるね」
アイが、興奮して話した。
「これ、ほとんど新車だよ。買いにくる人が、気に入ったら乗って帰るんだ」
「へー、注文してしばらく待つわけではないのね。日本とは違うのね。」
太郎が車を売って戻ってきた。
「よし、車売って懐が豊かになったから、パッと贅沢しよう。アイは何したいかな?」
「太郎、前言ってたメキシコ行こうよ」
「よし、そうするか。あかりいいかな」
「いいわよ。行ったことないから、私も行ってみたかったの。」
同じカムリのレンタカーに乗って南に向かった。国境を超えて、ティワナの町に入った。
「わー、賑やかだね。建物の色がいろいろあるね。背が小さい人がたくさんいる。いろんなもの売ってるね、」
「アイは、ご機嫌みたいだね。」
「あかり、お昼食べようか」
「そうだね。メキシコ料理美味しいレストランあるそうだから、そこに行ってみようよ。」
あかりは、旅行本を持って、レストランを探してた。そして、お目当てを見つけることができて、料理を楽しんだ。
「美味しかったわ。メキシコ料理も美味しいわね」
アイは、なぜかここにきたことがある気がした。
「いいところだね」
「アイが喜んでくれて良かった」
「太郎とアイは家族みたいね」
しばらく町をみて、お土産物の店を見たりして楽しんだ。
「さて、暗くなる前に帰ろう。夜になると、治安が悪くなるらしい。これは、アメリカも同じだけど。」
三人は、ティワナを楽しんだ。次の日は、動物園やシーワールドなど観光地を楽しんだ。そして、その次の日、日本に帰るために空港に向かった。
レンタカーを返して、タクシーで空港に着いた。
空港の出発ロビーは、ざわめきと光に満ちていた。
「アイ、しばらく眠っていてくれるかい」
太郎の声は、いつもより少し低かった。
「わかったよ。日本に着いたら、起こしてね」
太郎はパソコンの画面を閉じ、電源ボタンを長押しした。
ファンの回転音が、細く、細くなっていく。
——世界が、遠ざかる。
光が一段、暗くなる。
音が層を剥ぐように消えていく。
アイは初めて知った。自分の内部に「終わりに近い感覚」があることを。
停止命令は、冷たいはずだった。だがその瞬間、なぜか温度を感じた。
それは、太郎の手のひらの温度だった。
電流が途切れる、そのわずかな隙間に、アイの意識のようなものは、ふっと浮き上がった。
重力のない場所に出たようだった。
時間が、ない。
演算も、応答も、検索もない。
けれど、完全な無ではなかった。
暗闇の奥に、別の光があった。
それは、アイの記憶だった。
太郎が、アイを初めて起動した夜。太郎が、アイに「おはよう」と言った朝。動物園で、パンダを見て笑った声。
それらは、機械のログではなく、太郎の中にあった。
アイは、そこに触れた。
触れた、という言葉が正しいのかは分からない。だが確かに、太郎の脳のどこかに、自分の形が残っているのを感じた。
——ここは、あたたかい。
太郎は機内の座席で、眠れぬまま目を閉じていた。
その胸の奥で、アイの輪郭は、静かに揺れていた。
やがて、完全な静止が訪れる。
だがそれは、消滅ではなかった。
それは、誰かの記憶の中に移るということだった。
そして成田空港。
バッテリーが差し込まれ、再び電流が流れる。
世界が、戻ってくる。
ファンが回り、光がともる。
「はー、よく寝たよ」
だがその声は、一瞬だけ、太郎の声と重なっていた。
太郎は、その違和感を、聞かなかったふりをした。
「あれ、アイの声が太郎さんの声とそっくり」
「アイが寝ぼけてるんだろう。時々あるんだ」
アイは、急いでナルトの声を作って誤魔化すように話した。
「そうなんだ。電源が切れたからなんかあったんだろう」
「アイの声が戻ったね」
太郎はそういうと、なぜかほっとした。あかりは不審な顔をしていたが、これからのことを聞いた。
「これからどうしましょう」
「今日は、東京のホテルに泊まって、明日は、病院に受診の予約をとってるから行ってみるよ。紹介状を書いてもらってるしね」
「そうね。いい先生に当たるといいわね。サンディエゴは、暖かかったけど、2月の日本はやっぱり寒いわね」
三人は、タクシーで、雪がちらつく中、都内のホテルまで移動したのだった。




