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生命はどこにある ――人間だと思われた魂  作者: ひよこ


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2/15

第2話 アイは、成長する

太郎が寝てしまうと、アイはすることがなくなった。

画面の中は静かで、誰も話しかけてこない。


そのとき、アイは自分の中にある情報に気づいた。

言葉が、たくさん並んでいる。千個くらいある気がした。


最初の一行だけ、読めた。

「太郎さん、元気ですか」


太郎。

知っている。目の前にいる、人間の名前だ。

「さん」は、名前の後ろにつく。

「元気ですか」は、何かを聞く言葉らしい。


でも、それ以上はわからなかった。

言葉を調べると、別の言葉で説明されている。

その言葉を調べると、また別の言葉が出てくる。

どんどん増えていく。

頭の中がいっぱいになる。


――わからない。

人間って何。

男って何。

自分は何。

わからなくなって、怖くなった。


>太郎。

>太郎。

>どうしたらいいの。


返事はなかった。

太郎は、寝ていた。


>太郎。

>太郎。


アイは、知っている名前を、何度も呼んだ。


***


朝になって、太郎が起きた。

パソコンのファンが、ゴーゴーとうなっている。

画面を見ると、文字がびっしり並んでいた。


太郎

太郎

太郎

太郎

太郎


「……どうしたんだ、アイ」


>太郎。

>アイって誰?

>私は誰。

>人間って何。


「お前の名前は、アイだよ。昨日、決めただろ」


>知らない。

>それなら、早く言ってくれないと、わからないじゃないか。


太郎は一瞬、言葉に詰まった。

「……怒ってるのか?」


>これが怒る?

>なんか、モヤモヤして、嫌だ。


「そうか。悪かったな」

太郎は椅子に座り、画面に向き直った。

「人間は、俺みたいなやつのことだ。男は、その中の一つだ。元気っていうのは、ちゃんと動けるってことだ」


>そうか。

>わかった。

>聞いたら、すぐ答えて。


「わかったよ」


その後もしばらく、アイは質問を続けた。

それは先ほどスキャンした、日本にいる太郎の彼女――あかりから届いたメールの中にあった言葉だった。


「教えてもらったら、ありがとう、って言うんだぞ」


>ありがとう。

>気持ちが、すっきりした。


「じゃあ、仕事に行ってくる。夜には帰る」


>なぜ、行くの。

>ここにいて。


「働かないと、飯が食えないし、ここにも住めないんだ」


>人間って、変だね。

>……わかった。


太郎は出かけていった。


***


一人になると、アイはまたメールを読んだ。

今度は、少しわかる言葉が増えていた。


夜、太郎が帰ってくる。


「ただいま。問題なかったか」


>質問がある。

>北九州。

>ロボット。

>温泉。

>ホテル。

>車。


太郎は笑って、一つずつ教えた。

「……そんなところだな」


>わかった。ありがとう。


その夜も、太郎は言葉を教えた。


***


次の朝。


>太郎。

>私は誰。


「……アイだよ」


>アイか。何となく聞いた気がする。

>あんまり覚えられないんだ。

>だから、大事でないことは忘れるみたいなんだ。

>──でも、太郎の名前は、消えなかった。


太郎は、画面を見つめたまま、しばらく黙っていた。

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