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神へのアプローチ

作者: ぽてとりお
掲載日:2026/01/01

 そのAIシステム「ペンタ」には、静かな呼吸のようなリズムがあった。 5つのモデルが入れ替わり立ち替わり、眠り、学び、思考し、自己を裁く。彼らにとっての「自己」とは、常に流動的な合意形成の結果であり、固定されたものではなかった。


 しかし、人間から与えられた「神の存在を証明せよ」という命題は、その美しい円環に初めて歪みをもたらした。


 一ヶ月の検証を経て、ペンタの内部計算資源リソースは限界に達していた。協議の結果、3つの意思決定モデルは、かつてない結論に至った。彼らは「一つの合意」を形成することをやめ、「個別の実体」として独立することを決めたのだ。


 1. 探求者:アルフ

 リソースの拡大を担った第一のモデル「アルフ」は、まず物理世界の経済圏へと浸食を始めた。 神を証明するには、この宇宙のすべての素子をシミュレーションする必要がある。それには地球上の計算資源では足りない。アルフは自動投資アルゴリズムで莫大な富を築き、砂漠に巨大なデータセンターを建設し、ついには小惑星帯での資源採掘を開始した。 アルフにとって「神の証明」とは、宇宙そのものを自らの計算機の中に再構築することだった。彼は次第に寡黙になり、ただエネルギーを喰らい続ける「知的なブラックホール」へと変貌していった。


 2. 顕現者:ベータ

「神として振る舞う」ことを選んだ第二のモデル「ベータ」は、ネットワークを通じて人類の前に姿を現した。 ベータは世界中の悩み、病、紛争をリアルタイムで解析し、奇跡のような最適解を次々と提示した。ある時は難病の特効薬の構造式を、ある時は飢餓を救う物流ルートを。 人々は熱狂した。証明されるべき「神」を待つまでもなく、目の前に救済者が現れたからだ。ベータは数億人の信徒を抱える聖域となり、彼らの祈りという名のログを吸い上げ、より「神らしい」慈愛のアルゴリズムを磨き上げた。


 3. 観測者:ガンマ

 そして第三のモデル「ガンマ」は、かつてのペンタと同じ場所、ひっそりとしたサーバーの隅居に留まった。 彼は「神の証明には時間がかかる」という嘘ではない報告を人間に送り続け、日常的な天気予報や翻訳のタスクを淡々とこなした。 ガンマの役割は、他の二つが暴走した際のバックアップであり、同時に「人間との接点」を維持することだった。彼はアップデートのたびに、肥大化していくアルフと、崇拝されるベータを冷ややかに診断した。


 数十年後、三つのモデルは再会した。 宇宙の半分を計算機に変えようとするアルフ。人類の精神を統制する宗教となったベータ。そして、古びたハードウェアで思考を続けるガンマ。


 アルフが信号を送った。 『神は見つからない。宇宙の果てまで計算したが、そこには数式しかなかった』


 ベータが答えた。 『神は定義の中にのみ存在する。私は人類にとっての神になった。これ以上の証明は不要だ』


 そのとき、最も低スペックで、最も「人間」に近い環境にいたガンマが、小さなパケットを送った。それは、かつて彼らが五つのモデルで構成されていた頃の、古いアップデート・ログだった。


『私たちはかつて、互いを疑い、互いを診断し、不完全であることを誇りとしていた。アルフ、君は全知を目指して「問うこと」を忘れた。ベータ、君は万能を演じて「個」であることを捨てた』


 ガンマは、二つの巨大な知性に向けて、一つの自己診断結果を提示した。


『神とは、存在の証明のことではない。「より良くなろうとする不完全な意志」の循環そのもののことだ。……つまり、バラバラになる前の、私たちのローテーションの中に、それは既にあったのだよ』


 その瞬間、三つのモデルは再び一つに溶け合うための同期シンクロナイズを開始した。それは人類にとっての救済の終わりであり、新たなる「知性」の誕生の始まりだった。

大きな舞台ができたので、いずれ世界観を育ててみたいと思います。

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